卑下
更新日: 2011-04-25 (月) 15:05:11
・邦楽バソド卑下・四弦×唄。ナマモノ注意
・エロ皆無な上、恋人未満にも届かないヘタレSSです
・おんぶの話にあまりにも萌えたのでやっちまいました
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「素塔、わるい」
遠征先である長嵜の地で、その台詞はすでに十回目を数えていた。
三矢革は酔いが回ると、いつもこの「わるい」を小さく繰り返す。
素塔はその度に、何をそんなに謝ることがあるのかと思うのだけれど、まあその分面倒をみてやろうかなという気分にもなる。
役得だ。
それにしても、今日の三矢革の酔い方は酷い。
普段から白い顔がより蒼白だし、店をやっと出たものの、足が縺れて真っ直ぐに歩けないのだ。
気を抜くと倒れ込みそうになる三矢革の腕を、脇を歩いていた彩刀が自分の肩にかけた。
「三矢革くん、平気?」
「…彩刀さん」
同じ目線、同い年の先輩にもたれかかりながら、三矢革は情けない声を出す。
「わるい、」
「大丈夫、俺がついてるから」
「…うん」
素塔は後ろを歩きながらそれを見つめ、呆れたようにぼやいた。
「ほんとにさあ、何でそんなになるまで飲むかね。何なの?そんなに愉しくなっちゃったの?」
幼なじみのしょうもない後ろ姿に、ちょっとだけ刺々しい言葉を投げつける。
「素塔、わるい」
振り返ることもままならない三矢革は、自分の足元に向かって声を絞り出した。
「いや俺に謝られても。支えてるの彩刀くんだし」
「ね。」
彩刀はひょいと首を返して素塔をみやる。
彼はいつだってクールだ。
そんな状態で歩いていたものだから、居酒屋の三軒先のコンビニにたどり着くのに5分もかかった。
ドラムの2人はさっさと仲良く別の店に行ってしまったようだ。
「俺ちょっと水買ってくるわ」
素塔はコンビニに駆け込むと、幾多のミネラルウォーターが並ぶドリンクケースを開けた。
一緒どれにしようかと迷ったものの、すぐにどれでもいいかと思い直し、適当に一本選ぶ。
手早く会計を済ませ外に出ると、三矢革はすっかり地べたに座り込んでしまっていた。
彩刀が横で心配そうに屈み込んでいる。
「三矢革くんほら、水買ってきたよ」
素塔がペットボトルの蓋を開けて差し出すと、三矢革はそれを力無く受けとった。
「わるい」
「ほんとだよ、水まで買ってあげちゃってさ」
「はは」
彩刀が笑いながら立ち上がった。
「三矢革くんどうする?ホテルまで頑張る?タクシー呼ぶ?」
「いやタクシー乗る距離じゃないでしょ。だってほんとすぐそこだよ?」
素塔が指差すその先には、既にホテルの頭が見えている。
「いやでもこれは相当時間かかるよ」
三矢革はペットボトルの水をちびちびと飲みながら、気分が悪いんだか愉しいんだかよく分からない表情を浮かべている。
「じゃあ、アレ?俺がホテルまでおんぶする?」
素塔が屈んで三矢革に背中を差し出した。
意外に逞しい。その背中を三矢革は焦点の合わない目で見つめている。
「素塔、さすがにそれは無理があるんじゃないかな」
「…うん、俺もそう思うよ」
素塔はそう言って腰を上げようとしたのだが、一足遅かった。
三矢革が、ドサリと彼の背中にもたれ掛かったのだ。
「お、え?マジで?」
半ば冗談のつもりだった素塔は、その重みと体温に若干戸惑ったが、顔のすぐ横で漏れる三矢革の息があまりにも酒臭いので、思わず笑ってしまった。
「うわっ酒臭っ!」
「え、素塔ほんと大丈夫?」
彩刀が三矢革の手からペットボトルをとり、素塔から受けとったキャップを閉める。
「どうかな、ちょっと、頑張ってみるけど」
よっ、と腰に力を入れて立ち上がる。
なんとか立ち上がることは出来たが、如何せん三矢革は身長が高い。
もちろんその分、重い。
「重っ!」
「…素塔…わるい」
「ほんとだよ!」
「ははは」
今度は彩刀が一歩下がって、ゆっくりと歩き出した。
「つっかさぁ、三矢革くんでかいんだから俺がおんぶするの無理あると思うんだよね。だってほら、そのうち足とか引きずっちゃうよ。なんかもう、しょってるだけみたいな。引きずるだけみたいな。」
ベラベラと、口からとめどなく言葉が出てくる。
頬の真横に三矢革の顔があるせい、ではない、はずだ。
「多分これ彩刀くんがおんぶした方がいいよね、バランス的に。あでも無理か、彩刀くん細いしね。」
彩刀が後ろでうんうんと頷いている。
「ほんとに相変わらずのていたらくだよね三矢革くんは」
素塔の言葉の合間を縫うように、彩刀が真顔で口を開いた。
「素塔」
「ん?」
「嬉しそうだね」
「…ええ!?」
素塔が、心外だとでも言うように大きく振り返った。
その反動で、三矢革が素塔の背中から少しだけずり落ちた。
「ああああ」
けれど三矢革はしぶとくしがみついている。
結局そのまま、ほぼ地面に足が付いた状態で、三矢革はホテルまで引きずられていったのだった。
その間、彩刀が延々と素塔の愚痴を聞かされていたのは言うまでもない。
ホテルに戻り彩刀と別れると、素塔は三矢革の部屋まで彼を担ぎ込み、ベッドに投げ込んだ。
「ほら三矢革くん、着いたよ」
「素塔、わるい」
もう数えるのも諦めた口癖を発したと思ったら、彼は早々に寝息を立てはじめた。
「…ほんとだよ」
おかしいな、と素塔は考える。
彼との関係でイニシアチブをとってきたのは自分だったはずだ。
友達になり、音楽を教え、バンドを組み、ベースを弾かせ、自分が歌う。
素直で優しい彼のこと、自分がどんなに無茶苦茶なことを言っても、いつだって困ったような笑顔で応えてくれた。
実際困ってるのかもしれないけれど。
その笑顔が自分のイタズラ心をくすぐるものだから、ついつい振り回したくなってしまうのだ。
…けれど今、泥酔した彼を介抱しながら、素塔はまた思う。
結局のところ、踊らされているのは、俺だ。
今日のように、どうしようもない三矢革くんを、何度面倒みてきたことか。
いや、そんな小さな話ではない。
自分の歌を褒めてくれ、音楽の道へと手をひかれ、真面目に就職するはずだった俺は今、こうして彼と音楽を続けている。
三矢革くん。
ぼくの人生、君のおかげでなんだか凄いことになっちゃってるんだよ。
当の犯人は今ベッドに沈み、口をあけたままのマヌケ面で幸せそうに眠っている。
君が幸せそうだと、妙に嬉しい。
いつも無性に沸いて来るイタズラ心。
その捻くれが今はゆっくりとほだされ、ただただ純粋な感情として溢れ出ていた。
ありがとね。
小さく、心の中で呟いた。
その時、三矢革の右手がゆっくりと上がった。
まるで自分の心の声に反応したかのようで、素塔の心臓が小さく跳びはねた。
瞬時に顔が熱くなる。
一瞬前のシリアスな感情が急に気恥ずかしくなって、掻き消すように髪をかき乱した。
三矢革は目を閉じたまま、まるで何かを探すように手をさ迷わせている。
「ああ、水?」
なんだ。ええと、買ったペットボトルはどうしたっけ。
そうだ彩刀くんに、と立ち上がろうとした素塔の腕を、三矢革の白い手が「見つけた」と言わんばかりに強く掴んだ。
またもや心臓が跳ねる。
けれど三矢革はやっぱり、なまっ白いマヌケ面のまま眠っている。
どうやら寝ぼけているらしい。
口元が微かに動いた。
「…素塔、」
寝言でもまだ言うか。
可笑しくて、もうわかったから、と素塔の口元が緩む。
「ありがとう」
「…へ?」
予想外の言葉は地元訛りのアクセントで、柔らかくて懐かしくて、暖かかった。じんわりと、胸の奥が心地好く痺れていく。
「うん」
素塔の返事が聞こえているのかいないのか、三矢革はいつもの困ったような笑顔を浮かべ、また寝息を立て出した。
まいったなあ。どうやら今後も、彼には勝てそうもない。
そんなことを考えながらも、さらに口元が緩んでいることに気付いた。
ついさっき彩刀に言われた言葉を思い出して、また少し、照れ臭くなった。
寄生虫につき、携帯から失礼しました。
慣れない携帯投稿で不備が多々あり恐縮です…。
お付き合いいただきありがとうこざいました!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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