Top/51-521

カーテン

・週間じゃんぷ連載/保健室のしにがみ
・新連載の為、捏造を多分に含んだ 藤×明日葉です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

今日もぼくはあの場所へ行く。

この扉の前に立つと否応なしにドキドキする。
だから、開ける前には、深呼吸。

すうはあ すうはあ すうはあ。

「…よし」
覚悟を決めて引き戸に手をかける。
「し」つれいしますという台詞は瞬間飲み込まれ、代わりに悲鳴が飛び出した。
「ぎゃあ!」

僕が開けるはずだった扉は、それより一瞬早く動いて、隙間からは死神がのぞいていた。
「せ、先生…」
いや、正しくは、死神みたいな保健室の先生。
この形相にも幾分慣れたとはいえ、やっぱり突然顔を合わせれば驚く。
僕らの保健室の先生は、存在自体が恐怖の塊みたいなもんだ。
「おやアシタバくん、いらっしゃい」
声をかけられ、まだ少し怯えながら、ようやく答えた。
「ど、どうも。あの、」
「お昼ごはんを食べにきたのかな?藤くんならいつもの場所にいるよ」
ここでの昼食は、もはや日課になりつつある。…藤くんのせいで。
「あ、ありがとうございます。えっと、先生はどちらへ?」
「校長先生に呼ばれてね。少し席を外すから、留守番を頼んでもいいかな?」
「大丈夫です」なにしろここにくる生徒は限られているから。
よろしくね、とおそらくは笑顔で、去っていった背中を少しだけ見送って、
僕はどこかひんやりしたその空間に足を踏み入れた。

「アシタバ?」
藤くんの声がした。あからさまに起き抜けだ。
「もうおひるだよ。藤くん、教室にお弁当おいてったでしょう」
「んー」
重箱のような彼の弁当箱を、いつものテーブルに置きながら、カーテン越しに話をする。
「先生、少し席外すって。お茶どうする?」
「あー…飲む」
僕に入れろってことだ。藤くんはまだカーテンの向こう側。
勝手知ったるとばかりに、僕はお茶の支度を始める。
「お前だけ?」
「うん。今日は美作くんがね、鏑木さん誘って2人でランチだって」
「ふうん」
「邪魔すんなよって、すっごい張り切ってたけど。懲りないよね、だって鏑木さんは…」
「あー」

常より反応が薄い気がした。
「…藤くん?お茶入ったけど、まだ寝るの?」
そもそも今日、彼は2時間目からここにいる。
漫画だお菓子だと持ち込んでいるけど大抵寝ていて、よくそうも眠れるものだと思う。
授業を受けていないわけじゃない。でもこんな風な時は結構ある。
そういう時に、プリントだのなんだの、届けにくるのは決まって僕だ。

保健室に来るのは、抵抗ないって言ったら嘘になる。

ただ、藤くんと居るのは…嫌じゃない。

藤くんはかっこよくて、でもそこには無頓着で無自覚で、不器用だけど優しくて、案外、不真面目。
こうして一緒にいることが増えて、わかったことがたくさんある。

「アシタバ」
「はいっ?」
不意に名前を呼ばれてぎくりとする。自然、身構える。

「カーテン開けてよ」
思いがけない注文で、即座に返事ができなかった。でも、理由はそれだけじゃなくて。
「カーテン。開けて」
藤くんの声が、藤くんじゃないみたいだったんだ。いや、確かに藤くんの声なのに、なんか…

「えっ…と…」
何だろう、心がざわざわする。体中の血が沸騰したみたいに熱くなる。
なぜだか、このカーテンを開けてはいけない気がした。
「…開けてくんないの?」
その声に答えた僕の声は、
「…まだ駄目…」
やっぱり自分の声じゃないみたいだった。

その直後、空気を入れ換えるくらいの勢いでカーテンが開いた。
おあずけかぁなんて寝ぼけたような藤くんの声は、まるきり普段通りだ。
夢でも見たみたいだと思いながら、湯呑みを差し出す。
「はい、お茶」
「おう」
まだドキドキはおさまらなかったけど、できるだけ平静を装う。
先生や美作くんたちがいないのを、こんなに不安に思う時もあるんだな、なんてぼんやり考えながらお茶に口をつけたら、舌先を少し火傷した。

「わ、もうこんな時間!?」
ふと時計を見れば、昼休みはあと5分ほどしかない。
もう、藤くんが変なこと言うから…!
必死で昼食をかき込んでいると、ふと隣から視線を感じた。
二人きりだというのに、いつもの癖でつい隣に座った僕らの距離は、今やたったの3センチ。
「ふ、藤くん!近…」
「今日はこれくらいで勘弁してやる」
僕のほっぺたから、不自然な音をたてて離れたそれは、紛れもなく藤くんの唇。

「…!…!!」
二の句を告げられずにいる僕に、藤くんは言った。
「アシタバ、今後ともよろしく」
「そ」れってどういう意味ですかという言葉は予鈴にかき消されて、藤くんは再びカーテンの向こう側。

「ちょっ、藤くん!5時間目もサボるの!?」
「もー今日はムリ」
「ええー!?」
藤くんの切り替えの早さについていけなくて、食べ終えてないお弁当を前にあたふたしていると、カーテンの間から藤くんが顔を出して言った。
「お前もサボれば?」
そんな度胸があったら、今頃もっと君と仲良しです!
「ていうか何すんのさー!!」
「アシタバ、顔真っ赤だぞ。」
「誰のせいだと思ってんの!?」
「お前って何気鈍いよな。…とりあえずさ、次音楽だし、今から行っても間に合わないって」
「いいい移動教室ぅうう!」
「だからさ、」

その微笑みは。
「一緒に寝てようぜ?」
まさしく病魔とやらなのではと。
「アシタバ、」
薄っぺらな隔たりを越えて伸ばされた手は、今度こそ僕を捕まえる。

そしてカーテンは閉じられた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

設定が出揃うまで待てなかった…。
お目汚し失礼。


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP