Top/51-500

聖家族

辛抱堪らなくなって書いてしまった。
映画 難局シェフの話です。半ナマ注意。
まったく801じゃないですが、投下させてください。
一寸だけ医者x料理人風味もあり。おっさん可愛いよおっさん。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

遠距離恋愛のよくある顛末のご他聞に洩れず、新やんが彼女にふられた。
さもありなん、此処は日本までの距離14,000km。
彼女が淋しい思いをしているからとて、直ぐに会いに帰れる距離ではない。
しかも、帰国まで一年半。若い男女には耐えられる物ではないだろう。
此処と違い都会には誘惑も多いのだ。
それにしても…

「こっちも仕事な訳だから、も~少しその娘も我慢してくれないもんかね~?
彼だって、こんな最果てで我慢してがんばってるんだしね~?」
「だ、だいぢょぉぉぉぉ!!!」
今までビールと日本酒の瓶や缶の山に埋もれ、泣き濡れていた新やんが、
隣で飲んでいた隊長の朴訥とした呟きを耳にし、
盛大に鼻水やら涙やらを吹き出しながら、隊長の腹にタックルをかました。
眼鏡のずれたぐだぐだの顔で隊長を見上げ、鼻を啜る。
「おでのだびがだべだっだんでじょうでぇ」(訳:俺の何が駄目だったんでしょうね)
「まぁ、此処、遠いから。」「其れしか無いな。」
一斉にまわりで飲んでた隊員から声が上がった。
「…それ言ったら終わりでしょうがぁ、アンタ達。」
再び彼女の名前を呼びながら、おんおんと泣き声をあげる新やんの頭を
ぽんぽんと撫でつつ、隊長が肴の胡麻豆腐をつまむ。
「おで、ぎっぼんにがえりだいでずぅぅ」(訳:俺、日本に帰りたいです。)
隊長に抱きついたまま、新やんが呟くと、今までピーナッツの殻を剥くのに全神経を使っていた、主任が「わかるわ~その気持ち。」と叫んだ。
「我慢しなさい。も~男の子でしょ!卵焼き食べなさい。元気出しなさい。」
隊長が卵焼きを箸でつまみ、ぐずる新やんの口に押し込んだ。

今、此処、難局の最果てドーム藤基地では
誰が言ったわけでもなく、『失恋記念、新やんを慰める会』が催されている。
切っ掛けはこの一言。

「二士村く~ん、なんか新やんの好きそうな物作ったげて。」

夕飯の準備をしている時、ふらりと厨房にやって来たドクターが
飄々とした笑顔で話しかけて来た。この人は何時も楽しそうだ。
しかし。…何故、半纏の下が下着のみなのだろう。
「はい、…あの、」「なに?」
「なんで、服。来てないんですか?」「ああ、これ?」
ドクターはニカッと笑うと「トライアスロン」と言い手を振って出て行く。
氷点下54度の屋外に。
自転車に股がり暗闇の銀世界に軽快に走り出す背中に
「お夕飯までには帰って来てねぇぇぇ」と声をかけると手を振り答えた。
相変わらず不思議な人だ。恐らく生きて帰ってくだろうが。…医者だし。

此処で料/理/人をしていて大体隊員の好みは把握している。
彼は案外というか予想どおりと言うか、子供っぽい味が好みらしい。
ガーリック醤油で下味を付けた鶏の立田揚げやら、
カレー粉でほんのりスパイシーな味付けにしたマカロニサラダやらを
用意していると、厨房の扉が勢い良く開いた。思わず菜箸を落とす。
其処には全身霜と氷で真っ白になった半纏一枚の下着男が立っていた。
しかもやはり笑顔だ。
「二士村くん。ただいま。」「…おかえりなさい。」
「お腹へったよ。二士村君。皆呼んで来るね。」「…お願いします。」
そして今に至る。

「そんなアホ女なんかコッチから願い下げだって捨てちまえ。みっともない。」
おんおん泣きまくる、新やんを苦々しく見遣りながら、雪/氷/学者の元さん
しかめっ面でがビールを呷る。

「びっどもだいっで、びどい!ぼとざん!」(訳:みっとも無いって、酷い!元さん!)
「そんな、また元さん厳しい事言ってぇ。お父さん厳しいな~」
「そうだぞ!お父さん!息子が恋に破れ泣いてるんだぞ」
唐揚げをご飯の上に山盛りにして貪り喰いながら、凡君が言うと
比良さんが頷き、オニオンリングを刺したフォークをかざしながら同調した。
それを眺めドクターがビールを呷りつつへらへら笑った。
「まあまあ、お父さんは不器用ながら息子の心配をしている訳よ。」
「ツンデレか。」主任がぼそりと呟く。
「え?ツンデレって、何?」隊長が首を傾げ尋ねると、
「そこのお父さんみたいな人の事ですよ~」凡君が唐揚げと格闘しながら答える。
「だから!誰がお父さんだ!そんなでかい子供を持った覚えは…
うわ!抱きつくな!鼻水が付くだろ!これでまず小汚い顔を拭け!」
「ぼどざぁぁぁぁぁん!!!」
一連の騒動を目をしょぼしょぼさせながら隊長が眺め、唐揚げを差し出した。
「ほら、泣いてないで、唐揚げ食べて元気出しなさい。お母さんの手作りだ。」
「…あの、俺も、お母さんではないですよ。」
「お母さん!ご飯おかわり!メガ盛りで!」
「あ、はい。」…しまった普通に答えてしまった。

凡君に差し出された茶碗に、米を山盛りに盛って食堂に戻ると、
新やんを中心に盛大に酒盛りが行なわれていた。
「ちくしょぉぉ!女なんて!女なんて!馬鹿やろぉぉぉ!」
「飲め!そして喰え!お前には此の難局の氷がお似合いだ!」
その騒ぎの中、新やんのコップにビールを注いでやりながら、
元さんが咳払いしつつ顰め面のまま言う。
「あぁ…、なんだ。お前は、あれだ。早く一人前の学者になって、
その女を見返してやれ。そしてお前をふった事を後悔させてやれ。」
「お、お父さん…ううう。」「だから!お父さんじゃないって言ってるだろ!」茶碗を凡君に手渡し、席に座るとにぎやかな食卓を見渡した。
こんな騒がしくて、楽しい食卓は久々だ。妻や子供と囲む食卓も勿論楽しい、それとはまた違う、なんとも愉快な、温かい風景。
疑似家族。とでも言うのだろうか。
「いいよねぇ、此処。俺は好きだねぇ。二士村君は?」
隣に座ったドクターがピーナッツを口に放り込み、ビールを啜りながら呟いた。「はぁ、俺も好きですよ。」
「お、気が合うねぇ、俺なんてずっと此処にいたいぐらいだよねぇ。」
「いや、ずっとは…どうでしょうかね。」
「男ばっかりで毎日気楽なもんだし、愉快な仲間もいるし、
上手い飯も喰えるし。此処はいいよねぇ~」
冷えてしまった唐揚げを頬張り、ドクターがにこにこ笑いながら振り向く。「俺ねぇ、二士村君の作る飯好きだよ。」「あ、どうも。」
「嫁にもらいたいぐらい。」「は?」
へべれけな新やんの頭を、顔を顰めダラし無いとかぶつぶつ文句を言いながらも、
慰める様にぽんぽんと優しく叩く元さんにドクターが話しかける。
「お父さん、お母さんを俺の嫁にちょうだいよ。幸せするから。」
「はぁ!?何だか解らんがお前にはやらん!」
「キビシー、でもあきらめないよ~ん」
げらげら楽しげに笑うドクターの横で温くなってしまったビールを
眉をハの字にして啜る。
明日も明後日もまだまだ続く、愉快で温かくて、むさ苦しい疑似家族の生活。たしかに少しでも長く続くといいなぁとぼんやり願ってしまった。
あ、今、尻をさわられた。前言撤回。
嫁にされる前にお父さんやっぱり早く帰りたいです。美幸、由香。

みんなでキャッキャしてればいいよ!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP