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ミルク

オリジナル投下させていただきます

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

夏休みでしばらく家に帰ると言ったら、パーティ好きのキースが『しばらくお別れ』飲み会を無理矢理開いた。
何かしら理由をつけて飲むのは別にかまわない。なのにこういう時に限って女の子がひとりも来ないんだ。
何人か誘ったが、都合がつかなかったらしい。野郎ばかりが6人くらいやってきた。
キースは同じ家に住んでいるというだけの、ただの同居人に過ぎない。
人を引きつけるオーラみたいなものがあって、僕も含め、ここに来る人間は皆キースの友人だということが唯一の共通点。
だから、仕事も年齢も性格もバラバラで、何しているのか分からない奴と会社の経営者みたいな奴が普通に楽しそうに飲んでいたりする。
興味深い話も聞けるから女の子がいなくても、まあいいか、という気分にさせてくれる……んだけど、今回は少しばかり居心地が悪い。
彼も来る。
「ダグも呼んだの?」
「そりゃ、もちろん。なんで?」
確かにダグとは、キースの友達の中では一番仲がいい。
酔っぱらって大騒ぎするようなタイプじゃないし、人の話を静かに聞いていてくれるし。
でもこの前二人きりでいた時、少し変な雰囲気になった。向こうが抱きついてきたのだ。
酔っぱらっていたせいだと思うようにしてきた。とはいうものの、彼が酔って変な行動に出るなんてことは今まで一度もなかった。
酒に飲まれるような人間じゃないならば、あれは? あれはどういう意味なんだ?
その後、ダグの方は何もなかったように話しかけてきたが、僕は無理だった。
ぐるぐるいろんな考えが頭を支配してしまって、今までのように喋れなくなった。というか、彼を避けるようになった。
そんな空気を向こうも何となく感じたらしく、こちらを見ていることはあっても、話しかけてはこなくなった。
今回は単なる理由付けとはいえ、僕のための飲み会だから、逃げるわけにもいかない。
気まずい。気が重い。

しかし、飲み会は僕の気持ちを無視して滞りなく始まる。

彼とは少し距離を置いて、ソファの向かいに座った。こういう場合、逆に意識してしまってちらちら見てしまう。
ダグの睫毛は長いから、彼が瞬きするたびについ目がそこにいく。すると向こうも気づいて僕の方を見る、という悪循環。
目を逸らして彼の足元に視線を向けると、カーゴパンツから突き出たふくらはぎに大きな擦り傷があった。
「怪我したの?」
思わず話しかけてしまった自分にびっくりする。ダグもハッとした表情になった。後悔。
「おお、マジすげえ擦り傷。転んだかなんか?」
横からキースが割り込んできてくれて、少しほっとする。
「ハーフパイプで練習してて、てっぺん辺りで転げ落ちたんだ」
僕に説明するように、ダグは顔をこちらに向けて答える。キースが質問したのに。
「ああ、スケボーやってるもんなあ。でもお前らしくもない。どうせ、女のことでも考えてたんだろ」
ダグは少し顔を赤くしたものの、それには答えず、ただ笑っていた。
陽に当たり過ぎてブロンドの髪がバサバサになっている。ずっと外で練習してるのか。
前にボードを教えてもらう約束をしていたのを思い出した。具体的な話はしていないから、忘れてくれてるといい。二人きりにはなりたくない。

ところで、
女がいなきゃいないで、野郎だらけの飲み会はそれなりに盛り上がるものだ。
くり返すけれど、これは一応僕がメインのはずだ。なのに、終始下ネタばかりなのがなんともいえない。
酒も大量に入ってきた深夜になって、皆徐々に脱落してその場でゾンビのように眠り始めた。
リビングの電気を消すと、僕とキースも二階にあるそれぞれの部屋に戻って寝ることにした。
ベッドに入っても何となく目が冴えて眠れない。結局ダグと会話らしき会話はなかった。普通に話せばそれで、万事解決なのに。

考え過ぎて眠れないので、ミルクでも飲もうと一階のキッチンに向かった。
皆が皆適当に眠くなった場所で寝ているせいで、リビングはさながら殺人現場のようだった。
一応静かに死体の隙間を縫ってキッチンにたどり着くと、皆を起こさないように灯りはつけず、テーブルに置かれたでかいローソクに火をつけた。
どうせ熟睡しているだろうけど。
冷蔵庫からミルクを取り出してコップについでいると、背後に人の気配がした。
振り返るとダグが立っている。危うくコップを落としそうになった。
「脅かした? ごめん、物音がしたもんだから」
起きてたんだろうか? 下からのロウソクの火のせいで、背後の大きくなった影も手伝って、よけいに驚いた。
ミルクをね、とよく分からないことを呟きながら、僕はキッチンを出ようとした。
突然で、何を話していいか分からなかったし、前と同じ状況に思えた。
けれど僕よりでかいダグの体が、入り口を塞ぐように立っている。何か言いたげに。
「俺のこと、避けてるよね」
やっぱりきた! その言葉に反射的に満面の笑みを向ける。なんのこと? 的な、すっとぼけたいいかげんな返しだと我ながら思う。
とはいえ、彼の声は絞り出したような寂しい響きを帯びていて、心臓が締め付けられた気がした。
「いやならいやって言ってくれればいい。そしたらもう、ここ来ないからさ。でも無視は勘弁してくれないか」
「しっ、声でかいよ。起きるから、皆」
僕は出るのを諦めて、テーブルに腰掛けた。二人とも少し気持ちが高揚してる気がする。落ち着かないと。
「いやだなんて思ってないよ。好きに決まってるだろ」
言ったそばから失言した気がしてきた。
「いやつまり、ダグは話しやすいし。僕らいい友達だよこれからも」
その後も延々、友達という言葉を繰り返しながら、一人で喋りまくった気がする。
彼はそれを黙って聞いていた。何も言わないからよけいにぼそぼそと喋り続けてしまう。沈黙がいやだった。

「もういいよ」
途中で遮られた。僕は言葉を失って下を向いた。
呆れられたような気がして、不安になる。嫌いではないってことを、分かってくれてたらいいんだけど。
彼はテーブルに近づくと、僕を覗きこんだ。額がくっつく。長い睫毛が目元をくすぐる。目を逸らそうとしても無駄だった。
「ダグ、あんた酔ってる」
「酔ってない。あの時もね」
どういう意味、と言おうをして口を開いた途端に塞がれた。
逃げようと思えば逃げられた。あの時と違って彼は僕を押さえつけてるわけじゃないんだから。でも体が動かなかった。
それどころか、自分でも気づかないうちに彼の舌を求めて、開いた唇を押しつけてる。
唇が離れた途端、体の力が抜けて後ろに倒れそうになる僕を、ダグは慌てて抱きしめて止めた。
「後ろにコップあるから」
そういえばミルクをついだのに一口も飲んでいなかったっけ。
大丈夫だから離してくれ、と言っても彼は僕を抱きしめたまま。
「離したら、部屋に戻っちまうんだろ」
そのまま当分会えないのはいやだ、とダグは呟いた。
「なら、一緒に部屋に来れば」
僕は目をつぶって言った。恥ずかしくて顔を見ることができなかったから。彼はすぐに僕の腕を掴むと二階へ向かっていった。

階段を上っている途中、思い出したように彼が耳元で囁く。
「前にスケボー教えてくれって言ってたよな。こっち戻ってきたら、今度は俺んち来なよ」
やっぱり覚えてたか。今となってはもうどうでもいい。気持ちに素直に、なるようになれ、だ。

そういえば、ミルク置きっぱなしだった。明日キースに怒られるな、きっと。

ドモー

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • このシリーズ大好きです!続きはないのでしょうか? -- 2013-07-19 (金) 00:45:42

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