愛車 菊×旺
更新日: 2011-04-25 (月) 19:46:07
今更感漂うドラマネタですが、時間が経っても妄想と熱が収まらなかったので投下。
数ヶ月前にやってた金曜ドラマ愛車で、菊×旺です。女性関係アリが前提の話なのでご注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
旺次郎が海里を伴い、二年ぶりに日本へと帰ってきたことを正人が知ったのは、その旺次郎の突然の訪問を受けたからだった。
正人は他のメンバーがそれぞれの形で旅立った後にも、高級マンションの28階に相変わらず住んでいた。久しぶりに会った旺次郎は、少し以前より日に焼け、それでもあのニヒルな笑みを失ってはいなかった。
正人はとっておきのワインを出して、旺次郎を歓待した。
「どの辺りに行ってたんだい?貰った絵葉書で、ぼんやりとしたところは知っているけど」
「カンボジア、イラク、その他中東をふらふらとね。写真、見る?」
バッグから取り出された分厚い封筒を受け取り、正人は中の写真を取り出した。ざっと二百枚ほどはあるのではないだろうか。
目を通し、正人はほっと感嘆の息をついた。これは――
「凄いな。旺ちゃんの変化が見えるようだ。女性を中心に捉えていた今までの君のモチーフとは、まるで違っているね」
「こだわりがなくなったわけじゃねーんだけど、死の中に光る生ってのを撮りたくなってね。死と生は表裏一体だってことは、戦場でいやほど見るからさ。俺が選ぶんじゃなくて、撮ったもんに自然と死から生が浮き上がって見える」
「なるほど」
歩哨の間に、他の民間人と談笑する兵士。怪我人を手当てする看護人の、真剣な面差し、美しい横顔。ぼろぼろになった皮膚で、手で、子供の頭を撫でる老婆。配給のビスケットを分け合う幼い兄妹。
「……僕は芸術には詳しいとは言えないけど、実にすばらしい」
「そう?いやー、菊リンに言われると安心するね」
「ウサたんやユッキーは駄目なんだ?」
「あいつらにセンスは期待しちゃいけないと思わない?」
グラスの中のワインを飲み干して、二人で笑った。
「それにしても意外。菊リンは玲子さんと結婚すると思ってたんだけど」
「子供の認知は済んでるし、パートナーとして互助関係は続ける。父親が必要な時はいずれ来るだろうから、そのときは入籍も考えているけどね。それまで……心境整理がついてしまうまでは、
同居はお預けということになったんだ」
玲子の前夫の身辺整理が片付いたら。子供のためにもそのほうがいいだろうと、玲子と二人で相談した結果だ。正人が独りきりに過ごしている今は、それまでの、ささやかなモラトリアムだった。
ふと笑いを収めて、旺次郎が足を組みなおす。
「ここ来る前にアイアイに連絡とって聞いたんだけど。菊リンが、最近様子おかしいって」
「アイアイが?」
「ああ。菊リンは今も、恋人の命日には暗い顔をする。近頃は特に、なんだかつらそうな顔をするって」
正人は驚きに息を呑んだ。
まさか――このところの葛藤を、見抜かれているとは思わなかった。
「ずっと気にしてたみたいだぜ。俺はここんところ海外だったから部外者同然だし、好き勝手なことは言えねーけどさ。……明日なんだろ、恋人の命日」
「……ああ」
「玲子さんはいい女だ。お互いに恋愛感情はなくても、子供っていう絆がある。経済的に精神的に支えあっていくパートナーとして結婚すれば、きっとあんたは幸せになれると思う。
だけど、心の中であんたはその幸福を拒否してる意識がある。なぜか」
正人は黙ったまま、旺次郎の朗々と語る声を聞いていた。旺次郎はエアーカメラで、正人を覗き込むように見る。胸中を見透かすように。
「一家のパパとなったら忙しいだろう。身も心も仕事と家事手伝いに忙殺されちまう。子供は可愛い。奥さんは美人。あったかな家庭。でも、そこに、死んだ恋人は入れない。
もういないその人のことを、毎日の幸せにかまけて、忘れてしまうかもしれない。あんたはそれが怖い。もしかしたら死なせちまったかもしれないかつて愛した人を、忘れてしまうのが怖い……」
戦場への旅の間に、彼特有の心理分析にも磨きがかかったようだと思って、正人は微笑んだ。その台詞はすべて、まったく見事に、正人の心中を言い当てていた。
かつて、正人は呪縛から確かに解き放たれた。旺次郎の労わりの言葉で。
過去繰り返し見ていた夢も見なくなった。前向きに生きていこうと思えた。授かった赤ん坊は、その希望の橋渡しになった。
けれど――すべてがそれで、丸く収まったわけではない。
幸福への後ろめたさ。彼は死んだのに自分が生きていることへの罪悪感。のうのうと、幸福を甘受して生きていて良いのか。
己の愚かな罪深い過去の振る舞いのことも、贖罪すべきことまで、幸福な暮らしのうちに忘れてしまうのではないか。
沈殿した濁った想いは、消えうせてはいなかったのだ。
「菊リンはさ、もっと我儘でいいと思うぜ。欲しいものは欲しいって言うくらいじゃなきゃさ。前ん時だって、突き詰めるところ海里を死なせないために計画したことだろ。一度くらい何から何まで自分のために行動したって、罰は当たらないと俺は思うけどね」
「おーちゃん」
「ま、何でも己が思うままにやってきた俺に言われても、腹立つだけかもしれないけど」
「そんなことはないよ。……ありがとう」
旺次郎はその斜に構えたような言葉選びからは想像もつかないほど、ひどく優しい。ちりりと、胸が痛んだ。
杯を重ねて、夜もとっぷり深けるころになると、酔いも随分と回っていた。近況の交換も済ませ弾んだ話題も、旺次郎が噛み殺した欠伸に途切れる。
「やべ、眠くなってきた」
「そういえば帰ってきてあまり休んでなかったんだっけ。今日は泊まっていくといいよ」
「そうさせてもらおっかな。悪いね、菊リン」
「ただ、海里には連絡を入れておかないと心配するだろう」
「それなら大丈夫。海里は承知済みだから」
初めから泊まる気だったのかと、正人は苦笑した。気の置けない友人として付き合ってもらえるのは、本当に、有り難いことだと思うのだけれど。
来客用の簡易ベッドを出して敷き、大分眠気に侵食されているらしい旺次郎を支えて、寝床まで連れていく。
シーツに埋もれた旺次郎は、それから間もなく、寝息を立て始めた。
正人は顔を綻ばせ、自分はシャワーを浴びに立った。
* * †
旺次郎が眠ってしまってからも、論文の執筆や、読みかけの本を開いたりといった時間つぶしをしていた正人は、深夜に入ろうかという頃合になってようやく眠る気になった。
ガウンを脱ぎ、ベッドに向かう。
眠る前に旺次郎の寝顔をもう一度見ていこうと思ったのは単なる気まぐれだったが、そこで、本当は止めておくべきだったのかもしれない。
旺次郎はさっき見たときと、姿勢は変わらずに行儀よく眠っている。少し跳ねさせた黒髪に、夢に落ちても崩れることのない端正な寝顔。
こんな場面はいつかにもあったなと正人は思った。二年前だ。海里が失踪し、荒れた旺次郎を睡眠薬で眠らせたとき……。
無意識のうちに、手を伸ばしていた。あのときと同じように、彼の髪をそっと撫でつける。
本当は肌に触れたかった。
欲望には気付いていた。今日二年ぶりに面会したときから、否、実際には二年前彼が旅立つ以前に、肩を抱かれたときからだ。「あなたを愛していたから、心から」。
あの言葉にどれだけ救われたか知れず、あの一言に強烈に胸を焦がす想いが生まれたことも事実だった。
二度目の恋をした。顔立ちは似ているけれど、性格はまるで違うその人に。
生きているその人に――
「……まったく」
苦笑し、正人は腕を引っ込めた。このままではどうにかなってしまいそうだ。眠るとしよう。
「おやすみ、旺次郎。……愛してるよ」
囁いて、己の言葉に笑う。己の寝室に行こうと立ち上がりかけた正人だったが、立ち上がる一瞬に素早く手首を掴まれる。
正人は息を詰めた。
「……おーちゃん」
「そういうの止そうよ、菊リン」
ベッドの上で、複雑な面で正人を見上げる旺次郎がいた。正人は血の気が引く思いがした。―――聞かれてしまった。
「起きていたんだね」
「戦場にいたせいかね。最近、眠り浅くてさ。誰かが枕元に近づくとすぐに眼が覚めちまう」
「そう……参ったな。言うつもりはなかったのに」
正人は旺次郎の手に手を重ねる。すまない、と唇を震わせた。
「聞き流してくれていいんだ。僕は君と海里の間を邪魔するつもりはないよ。どうか、気を悪くしないでほしい」
「さすがに驚きはしたけど、前も言ったろ、俺に偏見はないって。想われて嬉しくないわけねぇよ。しかも、菊リンみたいに良い男に」
「おーちゃん」
旺次郎の懐の中身を取り出して見てみたいと正人は思った。彼は寛容に過ぎる。繊細さと強靭さを併せ持った彼の資質は、正人にはあまりに眩しかった。
「俺、モテんのは女相手だけと思ってたけど、男にもモテるってのは。あれかね。人間的魅力に溢れてるってやつ」
「はは。さすが、その自信家ぶりはおーちゃんらしい」
茶化すように笑い、それで誤魔化して終われるのならば御の字だったのだが、旺次郎はそうはしなかった。
腕を急に引かれ、バランスを崩した正人が旺次郎の上に被さるように倒れこむ。これまでにないような至近距離に旺次郎の顔があって、正人は身を硬くした。
「いいぜ、やってみても」
真正面から見据えられ、正人は声を上擦らせた。
「冗談はよしてくれ……」
「ばか、冗談でんなこと言えるかよ」
「冗談じゃないなら、なおさらだ。君は簡単に言うが、男同士というのは想像だけじゃとても実感できない領域だよ。軽はずみに試していいことじゃない。なにより、海里に会わせる顔がない」
旺次郎は首を振る。そうじゃない、というように。
「海里なんだよ。今日、菊リンに会いに行けって言ったの」
「………え?」
「あいつ、何か感じてたんだろうな。前みたいにしょっちゅうタナトスが見えることはないみたいだけど、それでも勘の鋭さは超ど級だから。どうしても今日、先生に会いに行けって。そうじゃなきゃ、きっと後悔するからってさ」
思考が追いつかなかった。あの子が――死にたがりだったあの子が、そんなふうに、正人を気遣って旺次郎を寄越した。そのことが正人には衝撃だった。
「治ったと思ってても、根深いところに傷跡がザックリ、なんてこともある。今日話してみてわかったけど、菊リンはどう見てもまだ治療段階だぜ。時間が経つほど思いつめるタイプ。
その癖、自分ではもう大丈夫だと思い込もうとする。そんなんじゃ、いつか潰れちまうんじゃないかって……」
「――――っ」
唇を噛み締める正人に、旺次郎は、どこまでも優しい。
「忘れるのが嫌なんだろ。幸せになって全部を忘れちまうのが。俺相手なら、忘れなくて済むんじゃねえの」
恋人の顔を、重たく悲しい記憶にしないでおくために。思い出すだけで沈み込んでしまうような、泥舟になるのではなくて。
正人は無心で手を旺次郎の首筋に滑らせた。鎖骨を指でなぞり、きゅっと爪を立てる。
正人は、ほんの一時迷った。ここで、優しい彼に付け込むように手を伸ばし、彼の肌をかき回し、よがらせて、己の熱で穿ってしまおうか。彼はすべて受け入れると言ってくれているのだから。
……そして、そんな一時の迷いをすぐに恥じた。
「……ありがとう。そこまで言ってもらえるだけで、十分だよ」
正人は微笑む。
想いは確かにあった。だが、その想いのままに後先を考えずに突っ走り、結果的に誰かを不幸にするかもしれないことはダメだ。それは子供のすることだ。幼いころならば許されても、いい大人がそうあってはいけない。
大切な友人たちの幸せを願うのならば、尚更に。
「だけど……」
「ふふ、おーちゃんには僕は情けないところを見せっ放しだからね。僕はさぞ頼りない男に映ってるんだろう。でも、誤解だよ。僕はそれほど簡単に世を儚んだりはしないし、刻み込まれた傷もいつかは癒えるものだ」
それ以上正人が決して踏み込みはしないだろうことを見て取って、旺次郎も息をついた。彼は頑固な男だから、そうと決めたならば、翻しはしないだろう。
そう悟った旺次郎は場を和ませるように、茶化すように言う。
「ってことは、渾身の俺の告白は無駄骨か。結構勇気入ったんだけどな、言うの」
「状況が違っていたらお世話になっていたかもしれないけどね。
……ああ、だめだな。飲みなおそう。あんな熱烈な言葉の後では、すぐには寝れそうにもない」
少し火照った体を冷まそうと、こめかみを押して身を起こす正人に、旺次郎も身を浮かせた。
「なら俺も起きるわ。目冴えちまったし。……つまみ作ろうか」
「そうだね、お願いしようかな」
旺次郎がオーケー、と伏し目がちに笑う。その瞬間の彼は、何処までも無防備だった。
正人は不意を狙い打っていた。滑り込ませた手を後頭部に回し、相手の顔を引き寄せて、唇に自分のそれを重ねた。
急のことで、旺次郎が過敏にはねさせた肩を、正人が宥めるように抱く。舌を入れてのキスに「んっ、……ん」とくぐもった声が漏れた。けしかけるような事を言っていたのは旺次郎だというのに、いきなり唇を奪われたのは予想外だったらしい、されるがままになっている。
口付けが終わると、旺次郎はぱっと正人から離れ、半歩後ろへと下がった。正人は苦笑して両手を開いて見せる。
「俺の誘い断っといて不意打ちって、趣味悪ぃな。あんたの真面目ぶりに感動した三十秒前までの俺の気持ちが粉みじんになったんだけど?」
「はは、そっちの実施はしないから、嘘はついてないということにして欲しいな。このキスは人を無闇に誘ってきた罰ってことで」
何の因果か、旺次郎は友人の宇佐美に「キスお裾分け」をやったことがあった。なので男同士のキスは初体験というわけでもなく、それ自体への衝撃はさほどでもない。
旺次郎は触れた後の実感を確かめるように自身の唇を暫くつついていたが、
「……問題です。俺の今の心境はなんでしょう」
肩を落とし、笑った。
正人は暫く考え込むようにしたあと、
「……コテンパンだ?」
ザッツライト、と呟く旺次郎に、それはちょっと苦しいな、という正人の声も何のその。掛け声とともに、旺次郎は正人に逆襲のキスをお見舞いした。
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ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ )
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エロ展開には力量不足で出来なかった
感動の最終回が色々と台無しで今は反省しています、ダケドコノフタリガスキダ!
ありがとうございました
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