サマーウォーズ 健二×佳主馬
更新日: 2011-01-12 (水) 00:31:15
お借りします!サマーウォーズのケンカズ小説書いたので投下します。
ネタバレニつきご注意ください。
ではどうぞ。
よく見る夢だ。
誰かわからない無数の人影に取り囲まれている夢。それはあまりに巨大で、見上げれば空にまで届きそうだった。
隙間を縫って逃げ出すとまた後から追ってくる。
僕は息を切らせて必死に逃げる。
すると遠くの方に四角い白い光が見えて僕はそこに飛び込む。
ガラ!
教室の扉が開く音だった。開けたのは僕。
放課後のオレンジ色の教室にまばらに散らばる人影。
僕の席を見た。
「ムカつく」「死ね」「チビ」「弱虫」
机の上に油性マジックで誹謗中傷の数々が書き込まれている。
「………」
あははははは、ふふふふ、とクラスメイトの笑い声が聞こえる。
僕は拳を握り締め側に居た一人に掴みかかった。
「っ!!!」
僕は慌てて跳ね起きた。辺りを見回すと隣には母さんが静かな寝息を立てて眠っている。
僕は母さんの方を見て揺り動かそうとした。けどその時、ふっくらと膨れ上がった母さんのお腹が目に入る。
「………」
僕はスッとその手を引っ込め布団を被って廊下に出た。そうだ、納戸に行こう。
あそこに行けば誰にも迷惑をかけずに済む。
僕は布団をズルズルと引きづりながら真っ暗な陣内の長い廊下を歩いた。
たまに瓦礫に引っかかってふらつく。
そう、今この家は半壊状態。
なんせ昨日小惑星探査機あらわしが近くに落ちて爆風で家が吹っ飛び掛けたんだから。
そうだ、きっと昨日の決戦の疲れで悪い夢を見てしまったんだ。一時的なものだすぐ治る。
しかし僕の足は思った以上に上手く動いてくれなかった。
突然吐き気に襲われその場にしゃがみ込む。口を押さえたまま洗面所に向かう。
ジャー
「おぇ…」
何をしているんだろう僕は。
洗面所を出て、すぐまた廊下に腰を下ろした。もう納戸に行く気力もない。
自然と体が震えだし涙が出そうになった。
辺りは真っ暗。
恐い。
うわ!!」
「!?」
その時、ドン!と何かが僕の脇腹に思い切りヒットした。
痛!
見るとそこには白いぼんやりとした影が浮かび上がっていた。影の主はわたわたと節操なく辺りを見回し何かを探しているのがわかる。
「あった!」
パチン
その声が聞こえると当たりが突然明るくなった。どうやら廊下の電気をつけたようだ。
僕は眩しさに目を細める。
誰?
ぶわぶわの視界の中に映ったのは水色の服を着た髪の短い人。男の人だ。
その人は驚いたのか口を広げ僕に目の位置を合わせようと腰を下ろしてきた。
「佳主馬くん!?」
僕は目を見張った。
え、健二さん…?
「ごごごごめん!!思い切り蹴っちゃった!!!」
蹴られた僕自身より悲痛な顔をして僕の心配をしてくれているのは間違いなく小磯健二さんだった。
夏希姉ちゃんのフィアンセの代役としてこの家にやって来て、運悪くも大事件に巻き込まれてしまった人。
「………何やってるの?」
僕は警戒心を露わにして脇腹をさすりながら聞いた。
すると健二さんは頭を掻きながら「いや、ちょっとトイレに行きたくて」と言って笑う。
そして僕の方に向き直り、笑顔だけど少し冷や汗を垂らしながら
「佳主馬くんは…、何をしているのかな?」
言われてみれば健二さんより明らかに怪しいのは自分の方だということに気がつく。
こんな真夜中に布団を被って廊下の隅で丸まっているなんて。
だんだん顔が火照ってきてその場から逃げ出したくなった。
ぷしゅう、と頭から湯気を出して小さくなる僕を見て健二さんは慌てて「ごめんね!変なこと聞いた?」と謝り出す。
何で悪くないアンタが謝るんだよ…。
僕は布団から目だけ覗けて健二さんの方を見た。
アバターの子リスのようにクイっと首を傾げる。(まぁあのアバターは可愛くなかったけど…)
健二さんは今はこんなだけどやる時は本当にやる人だ。
数学の世界チャンピオンになりかけたとかどうとかで驚異的な計算力を持っていていざって時には結果を出す。
それに意外と度胸があって土壇場でも冷静だ。
普段クールに決めてても何だかんだで取り乱してしまう僕よりよっぽどカッコイイ。
僕はなんだかしゅんとなってすっぽり布団の中に身を隠してしまいたい気分になった。
けれどその時
「さっきからどうしたの?」
ポン、と布団の上から頭を叩かれた。
「佳主馬くんらしくないよ?」
笑顔の健二さんが言う。
僕らしくない…?
じゃあ僕らしいって何?
だって本当の僕は…
突然視界がぼんやりと崩れてきて僕は慌てて布団で顔を覆った。
頭の上から「佳主馬くん!?」と驚く健二さんの声が聞こえる。
けれど堰を切った涙は止まらなかった。僕は感情の波に飲まれ言いたいことを全部吐き出してしまった。
「僕は、僕は、本当は全然強くなんかないよっ!いつまでたってもいじめられてた時のことが忘れられないし、OZの中だってまだちょっと恐いんだっ!」
「佳主馬くん…」
「昨日、あらわしが墜落地球に向かって落ちてきてた時、皆のキングカズマへの…僕への期待が重かった。何で僕がやらなきゃいけないの?って一瞬思ったんだ。恐くて逃げ出したかった。手だって震えてた。」
「………」
「自分が世界チャンピオンになったってことは世界中の人が僕を知っているわけで、僕の一挙一同を皆が見てるんだって思うと、たまにすごく不安になる……」
何で僕は会って間もない健二さんにこんな話をしているんだろう。母さんにだって師匠にだってしたことなかった。
でも不思議と彼に聞いてほしくてたまらないんだ。
そんな僕を黙って見ていた健二さんは突然僕の布団に手を掛け、頭からふんわりとそれを落とした。
廊下にパサリと白い布団が広がる。
「泣いてるの?」
呆気にとられて無防備に頬に涙の粒を零し続けていた僕は慌てて顔を隠そうとする。
すると健二さんが突然僕を抱き寄せた。
「!?」
「こうすれば見えないよ。」
健二さんの胸はふんわりと暖かい。僕はみるみる体温が上昇していくのを感じた。
「大丈夫、大丈夫。佳主馬君は強いよ。」
よしよしと頭を撫でながら健二さんは僕にそう言ってくれた。
僕は「そ…そんなこと…」と否定の言葉を言おうとするが何故か詰まって先が出て来ない。
体も恥ずかしいから離してほしいはずなのに、つっぱろうとする手はピクピクと痙攣して動かなかった。
どうしよう、心臓が飛び出そう。
「佳主馬くんが思ってることは全部普通のことだよ。全然弱虫なんかじゃない。
それに結局あらわしの時だって、佳主馬くんお母さんと妹のこと思って頑張ったじゃない。あれ、僕すごいと思った。」
スッと肩に手を添えられ少し体を離され健二さんがはんなりと微笑む。
僕は涙の筋が一杯伝った情けない顔でぽかんと健二さんを見上げる羽目になった。
ハッと我に返り慌てて僕は布団を被り直す。そしてドキドキとした心臓のまま小声で言った。
「その…、健二さんも…、カッコ、ヨカッタ、よ…」
すると健二さんはしばらく意外そうな顔をして僕を見て、そしてくしゃっと笑った。
「ありがとう」
あ、あれ…?
何でだろう。
ずっと心臓の鼓動が早くて止まんない。
さっきまであんなに恐くて辺りが真っ暗な気がしていたのに今は…。
僕がチラリと健二さんの方を見ると健二さんがちょいちょいと自分の膝の方を指していた。
最初はどういう意味か解せなくてはてなマークを浮かべていたけど僕はわかった瞬間少し物怖じしつつも健二さんの膝に転がった。
「明日誰かに見つかったらきっとビックリされちゃうね」
「……………うん」
そう言って健二さんはまた僕の頭をふわふわと撫でてくれた。
僕はその日、嘘みたいに熟睡出来た。たいていあの夢を見た後はいつも眠れないのに。
「健二さんって、魔法使いか何か?」
「え?」
次の日の朝、僕は朝食を食べている健二さんに真顔で聞いた。
おわり。
以上です。
てか、一箇所佳主馬のセリフでおかしな部分があったのを今思い出しました。
直せば良かった・・・。
お粗末です!
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