オリジナル 「vampire bat」
更新日: 2011-01-12 (水) 00:30:27
オリジナルでぬるいですが投下します
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
彼はいつもベンチに座っていた。
僕は毎週火曜と木曜にギター教室に通っていて、帰りは近道のために公園を突っ切っている。
その公園のベンチに彼は座っていた。
子供を遊ばせる親や、ジョギングする人達、冗談を飛ばしながら話す休憩中のビジネスマン。そんなのどかな風景の中、
スーツ姿でファイルを開き、忙しそうに電話をしたり、ノートパソコンをいじくる仕事モードの彼は、少し浮いてみえた。
もしかしたら毎日いるのかもしれない。
太くはないけれど、長くくっきりとした眉毛が印象的で、僕は彼のことをこっそり『眉毛スーツ』と命名していた。
ただ、最近は何もしていないことが多い。
パソコンを開くでもなく、ケータイを手にすることもない。コーヒーの入った紙コップを手に、ぼんやりと空を見つめている。
子供の遊ぶ姿を眺めたり、僕みたいな通り過ぎていく人を目で追ったり、俯いて考えごとをしているようなときもあった。
その日は長々と講師に引き止められてたせいで、教室からの帰りが遅れてしまった。
所詮喋ったこともない赤の他人だし、単なる好奇心だってことは分かってるけど、彼のことが何となく気になる。
何というか、植物の観察日記でもつけているような気分なのかもしれない。
いつもより1時間以上遅いからさすがにいないな。あんな感じでずっと座っているわけじゃないだろう。
そんなことを考えながら、いつものように公園に入っていった。
ところが、ベンチに人の影が見える。
いや、まさか、と目を凝らしてみると、まぎれもない『眉毛スーツ』だった。
思わず彼を見つめながら近づいてしまったけれど、向こうもこちらを見ていた。
よく考えれば僕が彼を知ってるように、彼も僕を知っていたとしてもべつに不思議でもなんでもない。
だから、自然に声をかけた。
「まだ座ってたの?」
「今日だけさ、君がなかなか来ないものだから」
「悪かった。コーヒー一杯おごるよ」
まるで友達同士の会話みたいで、お互いに笑ってしまった。
彼の笑顔は、ただでさえたれ気味の目がよけいに下がって、とても幼い表情になった。
近くのコーヒーショップで、彼は自分のことを色々話してくれた。『眉毛スーツ』の本名はジェイク。
半年前に会社が倒産して今は求職中だという。
ニュースに出るくらい大きな会社だったらしく、同じレベルの会社を当たっては、ことごとく拒否されていた。
「結局、大企業に勤めてたってだけで、僕にはキャリアがない。若すぎるんだ。だんだん自分が最低の人間に思えてきて、ここんとこ探す気も失せてきた。公園にいると周りが皆幸せにみえて辛い。でも家にいると外に出る気もなくなりそうになる。それに吸血コウモリ……」
そこで彼は慌てて口を押さえた。
「吸血コウモリって?」
「ハハ、怒らないで聞いてほしいんだけど、君のことをそう名付けて見てたんだ。だって君、口の両端にピアスしてるだろ。おまけにいつも黒いフードをかぶってるから、まるで牙を持ったコウモリみたいでさ」
こっちは君を『眉毛スーツ』と呼んでたけどね、と言いたかったけど、更に落ち込まれたら困るので止めておく。
エドって名前だと教えると、彼は僕の名前を反復した。
「ずっと『吸血コウモリ』って感じで見てたから。間違えないようにしないとね」
ジェイクは僕の目を見つめてエド、エド、といつまでもつぶやいていた。
彼はとても饒舌な人間だった。こんなに喋る人だとは思わなかったと言うと、ごめん、話したかったんだ、と謝られた。
「べつにいいよ。色々溜まってたんじゃん? 仕事決まったら教えてよ。飲みにいこう。今度はあんたのおごりでさ」
ジェイクはその言葉に頷いて、きっと、と約束してくれた。
けれどそれっきり、ジェイクは公園に来なくなってしまった。
それから2ヶ月くらいたった。
僕はいつも通りベンチのそばを通って家に帰ってる。でもジェイクの姿はない。
あの時とても明るい性格に見えたけど、こんなご時世だし、と最悪なことまで考えてしまう。
彼のことを思うと不安で仕方がない。
こんなことなら、ケータイの番号でも交換しておくべきだった。
なんだかんだ言って僕らはお互いのファーストネームしか知らない。
公園に入ると真っ先にベンチを見る癖がついてしまった。
「あ」
誰かが座っている。でもスーツじゃない。スーツじゃないけど、ポロシャツにジーンズの男性だけど、あの眉毛、
「ジェイク!」
まぎれもなく彼だった。たれ目の笑顔が手を振っている。
自分の中でジェイクがかなり大きな存在になってることに驚いてしまう。気がつくと彼に向かって突っ走ってた。
僕が抱きつくと、彼は少しびっくりしつつも、背中を軽く叩いてくれた。
「心配したよ。急にいなくなるなんてさ」
「ごめん。情けない姿を君に見せたくなかったってのもあるし。あれから本気出してね。やっと仕事が決まったんだ」
身体を離さずに、僕は彼の言葉にただ頷いた。またどこかへ行ってしまいそうな気がしたから。
「約束を果たしにきたのさ。今から飲みにいこう。もちろん今度は僕のおごりで」
「当たり前だよ。僕を不安にさせた分も加算させてもらうから」
僕の子供じみた言葉にジェイクは笑うと、耳元で囁いた。
「好きなだけどうぞ。仕事が決まったのも君のおかげみたいなものだからね、吸血コウモ……エド」
まだ、『吸血コウモリ』と僕の名前の切り替えがなってないみたいだ。
心配させた挙げ句名前を間違うものだから、僕はふざけ半分で首に噛みついてやった。
てっきり驚くと思っていたのに、お返しのようにジェイクは僕の耳を軽く噛んだ。
「君に噛まれたから、僕も吸血鬼になってしまったかな」
彼のジョークかもしれない。僕は吸血コウモリでもないし、吸血鬼でもない。
むしろ彼が吸血鬼なのかもね。
ジェイクに耳を噛まれた途端、僕の身体は熱くなって、力が抜けてしまったから。
ありがとうございました!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- うまいなぁ萌えた -- 2009-07-31 (金) 10:37:39
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