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笑いの大学 検閲官→作家

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                    |  公開中の 藁イの大 學 ネタです。
                   | ネタバレしているので注意
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  検閲官→作家らしいネ
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 | | |> PLAY       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ダイジョブ?
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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直接ではありませんが、死ネタを含みます
ダメな姐さん方はヌルー願います

日に日に戦局は熾烈を極め、配給物資は滞り、人員は徴兵され続けていた。
駅前では毎日、出兵する兵士を見送る万歳の声が上がっていた。
だが兵士にもっとも適合する男たちはすでにおらず、日の丸小旗を振られていたのは、
まだ頬の赤い初等科の学徒や私と同年代の者達であった。
私が前線に送られなかったのはひとえに公職についていたからにほかならない。

ただ銃後といえど戦火の炎は降り注ぎ、五月の空襲で私は家財の全てを失った。
その日、私はたまたま非番で家にいた。十時過ぎの空襲警報がいったん解除され、
次の日に備え布団に入り寝入ったところに、再び警報が鳴り響いたのだ。
飛び起き、軍靴に足を突っ込んだ頃にはすでに焼夷弾の雨が降り注いでいた。
急ぎ署に駆けつけようと道路に飛び出すと、絞め殺される直前の鶏の叫びのような音を
立てながら火の槍が降ってくる。どぉんと一際大きな音とともに自宅の仏壇が火を噴い
たとき、わたしはこの家を諦めた。幸い両親の位牌は妻とともに田舎の実家に疎開させてある。

だが次の瞬間、私は煙の噴出す我が家に突入していた。
土足のまま炎にあぶられた座敷を通り抜け、自分の書斎へと駆け込む。
亡父から譲り受けた文机を乱暴に開け

放つと、引き出しの奥から一つの包みを取り出した。厳重に、幾重にも油紙で包まれたそれを手に、
私は煙の充満する書斎の中で上着の釦を外し始めた。腹にそれを保管し、文字通り肌身離さず護るために。

これを燃やしてしまうわけにはいかなかった。これだけは喪うことはできなかった。
これは私のものではない。あの男からの預かりものなのだ。
いつの日か、あの男が帰ってきたときに、私はこれをあの男に還さなくてはいけないのだ。
炎が襖を舐め、じりっと項が炙られる。熱と煙に耐えながら私はそれを懐深く仕舞いこむと、
すでに炎の海とかしている玄関を諦め、窓を蹴破って庭へと転がり逃げた。
反射的に見上げた空にB29が飛び交う。その禍々しい銀の腹に赤く炎を反射させて。
このまま東京は焦土と化すのだろう。一瞬、諦観が私を襲った。
けれど私は死ぬわけにはいかなかった。
私が炎にまかれ焼け死んでしまえば、この腹に護っているものが。

――あの男への『約束』が。

しゃがみこんでいた脚を叱咤し、私は駆け出した。
どこへ逃げればいい。まわりはすでに火の海だ。炎と煙を

避け、風下へ風下へと走る。時折、逃げ惑う人々と何度も出くわしたが、
彼らもまた避難先を知らず右往左往するばかりであった。
熱風に煽られ炎を纏った木片が頭上を舞う。焼け千切れた電線が鞭のようにあたりをなぎ払う。
落ちてくる瓦をとっさに腕で払いながら、私は逃げた。途中、小さな貯水槽に群がる人々とでくわした。
水を頭から被る彼らに、一瞬、足が向きにかかった。
けれど私は水を被るわけにはいかない。未練を断ち切るように私は再び走り出した。

いくら油紙で包んであるとはいえ、私の懐にあるものは紙なのだ。破れたりそこに書かれたインク

が滲むようなことはできなかった。そうして一晩中炎と煙の中を彷徨い、茅ヶ崎にある叔父の家に
たどり着いたのは夜が明けきり昼にもなろうという時間だった。
一杯の水をもらい、死んだように眠った後、省庁へ出勤するため再び帝都に赴いた私の目の前に
広がったのはみるも無残な焼け野原だった。勤務の後、自宅のあった場所へ向かったが、
残されていたのは煤と土くれだけであった。
途中、あの貯水槽の周りに散らばる焼け焦げた死体に、私は護ろうとしたあの包みに
反対に護られていたのだと知った。あのままこの貯水槽にいれば私もあの一員となっていただろう。

生かされた。

それは確信だった。
私はこれを護り、そしてあの男にこれを返すために生かされているのだと。
あの男に、もう一度会うために。

皇紀2605年8月15日正午。
朝方から繰り返し予告されていた重大発表。天皇陛下御自らが全国民に大詔を
のたらませたもうたのは四年にわたるこの戦いの終結であった。
ただし、勝利、という形ではなく。
一段高く配置されたラヂオに低く頭を垂れ、最敬礼をもって拝聴する同輩達の
間から啜り泣きとも溜息ともとれる息が漏れる。玉音を穢すような行為は、
前日までであったのならば激しく糾弾され処罰されていたに違いない。
だがそれをするべき立場のものたちが、私の隣で密かな嗚咽を堪えきれずに
肩を震わせていた。
けして衝撃的なものではなかった。省内でもまことしやかに降伏の噂は流れていたし、
毎夜のごとく鳴り響く空襲警報や広島や長崎の落とされたという新型爆弾の威力も、
遠くない戦争の終結を予感させるに余りあるものだった。
ただそれでも。一億火の玉となって皇国が焦土と化すまでこの戦争は終わらないのだろう、
もはやこの国には草木の壱本も残らぬのだろうと、そういう思い込みがあった。
少なくとも自分は、まもなく死ぬと。
それは妄信でも、忠誠でもなく。
――ある男の戦死報告を確認した、あのときから。

ラヂオから雑音まみれの抑揚のない声が消えても、しばらくのあいだ私は最敬礼を解かなかった。
五分もそうしていただろうか。ぎしぎしと音を立てる腰を伸ばすと、まわりでは同輩達が
虚脱したように茫然と立ち尽くしていた。
彼らにかける言葉も意思も持たず、私はその場を後にした。
自然、足が向かったのは――長い廊下の先にある、取調室だった。
ひっそりと人気のないそこは時間に置き忘れ去られたかのように以前と変わらぬ静謐を保っていた。
ぽつりと中央に置かれた古びた机。
その上には――なにもない。
調書も万年筆も許可印も。
そう。
検閲するまでもなく、この国は芝居を上映する余力などとうに失っていた。
映画館や芝居小屋で上映されていたのは戦意を煽るための作られた時事通信だけ。
検閲課は縮小され、私も他部署へ配置換えとなった。
この部屋に足を踏み入れることすら久しい。

だが、何度も夢に見た。
この場所を。ここで執り行った仕事を。
何度も何度も夢を見た。
検閲し、意見を戦わせた。この場所で、あの男と。
上意下達が当たり前のこの場所で、ただ一人それに甘んじなかった男。
逆らわず、だが恭順もしなかった。
ただ私の命を逆手にとって、次々と新しい世界を生み出していった。
投げた石が湖面に次々と波紋を描くように、思いもよらない展開を見せ付けた。
あの夢のような七日を。

生まれて初めて心の底から笑った、あの日々。
生まれて初めて楽しいと思った、あの日々。
それを生み出したあの男との一週間。

あの素質を惜しみ、職務を越権した行為もした。
それが間に合わなかったと、あの男自身に示されたあのとき。
その徒足よりも、祝辞を述べる私を見つめたあの男の目に浮かんでいた諦観が、私を打ちのめした。
あんなにも諦めの悪かったあの男が。
どれほど虐げても決して挫けなかったあの男が。
全てを諦めて死地へと向かう。
こみ上げてきたのは怒りだった。
何故、この男が奪われる。
かの世界から。あの才能から。……私から。

男の目の諦観を払拭したくて、秘めておくつもりの事実を話した。
男がどれほどの才能を持っているのか。男がどれだけのことをしでかしたのか。
たった七日間で、私という人間を作り変えたのだと。
その証拠が、ここにある。この傑作を世に出すべきだと。
だから、戻ってこい   ……と。

あのときのあの言葉に嘘も躊躇いもなかった。
警視庁の真中、誰かに聞かれれば身の破滅だということも、どうでもよかった。
微笑んでくれたあの男の目とならば、何を引き換えにしてもよいと、そう思った。

ただあの男の帰還を待って過ごした四年。かいくぐり抜けた炎も煙も、ただひたすらそのために。
そして迎えた終結のとき。

だが、もう、遅い。遅い。遅すぎた。
あの男はもう帰ってはこない。本国へは。私の元には。

あの男の配置された部隊を追い、戦況を調べ。
それがわかる地位にあったことを、私は悲しめば良いのか喜べば良いのか。
私はもう待つ必要がない。私はもう待つことができない。

懐から肌身離さず持ち歩いている包みを取り出す。厳重に油紙に包まれた、私の拠り所だったもの。
私とあの男がつくりあげたもの。
私とあの男の、七日間の証。

「おでこでもほっぺでも、ちゅうさせてやるから……」

帰ってこい。

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長々と失礼しました
途中、途切れちゃったのもゴメンナサイ


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