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カフェのギャルソンと客の有名作家 「ゴシックホラーの帝王」

ぬるいけどいいですか?
カフェのギャルソンと客の有名作家

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

とうとう表紙になってしまった。
作家が文芸誌とはいえ前面に出るというのはどうだろう? 
しかも、『グレッグ・ビショップの50年史』などと自分の年表を作られた日にはもう、裸で町中を歩くのとどこが違うのか。
インタビューは受けたが、人生を表にするなんて聞いていない。
秘書のベルーカに電話すると、あなたは承諾しています、間違いなく、と怒鳴られた。
かつ、10頁の大特集をしてくれるこの雑誌に感謝すべきだ、と更に怒鳴られた。
その通りだ。いや違うね君! 顔をさらしたくないから作家を目指したようなものなのに。
学生の頃はサッカーに夢中な仲間を横目にベンチでどうしようもないホラー小説を書いていたものだ。
クラス一のスポーツマンでモテ男の主人公が美女に誘われて森の中に入り、変な宗教の生け贄になるとか、これまたハンサムな男が、ハンサム故に女の恨みを買って呪い殺されるとか、なんともひどかった。よっぽど自分の見た目に自信がなかったのだろう。
それが今やゴシック・ホラー界の王と言われ、思春期の妄想をうまく作り直して出したものは映画化されてしまった。
人前ではなんとか大物らしく振る舞うことができるようになったが、やっぱりそれは自分ではない。
私は未だに妄想から逃れられない14歳なのかもしれない。

こうしてカフェのテラスに座っていると、時々ファンです、サインしてもらえますか、と声をかけられることがある。
勘弁してくれプライベートだぞと心の中で悪態を吐きつつ、微笑んで手帳にサインする。
「あの、To スティーブって書いてくれますか?」
もう、慣れてしまった。こういう人生に。

「めんどくさそうな顔してましたね、先生」
ハートマークが泡に書かれたカプチーノを持ってギャルソンのセスがやってくる。
いつも通り。
11時ごろに家の近くのこのカフェの、いつもと同じテラスの席に座る。
すると他のギャルソンではなく常にセスが、注文をとりにくる。
私が注文するものは決まっている。けれどセスは必ずいかがいたしますか? と聞くのだ。
私も馴れ合いは好きではないから、メニューをしばらく眺め、
「じゃあ、カプチーノを頼むよ」
と敢えて言うのだ。馬鹿馬鹿しいくらいにいつもと同じやり取りだが、お互いにそれを楽しんでいた。
少なくとも私には毎日の儀式のようで何か安心するのだ。
その繰り返しのせいで毎日会っているというのに、しばらくの間は彼の名前さえ知らなかった。
長身で横に流したブロンドの髪、俯くと目元が影になってしまう彫りの深い顔立ちは、カフェの女性客を増やし続けている。
私の席に必ずセスが来ると読んだ女性客が、私より先にその席に座っていて、思わず学生の頃と似たような気分に陥ったこともあった。
しかし次の日からその席には予約席のカードが置かれていて、うろたえる私をその席に導いてくれたのが彼だった。
「先生の席ですから」
先生と言われたことで、彼が私が誰か知っていることも初めて分かった。
こちらも名前を知っておかなければ失礼かもしれない。さりげなく聞くと、彼は見たこともないような、子供っぽい表情になった。
「セスといいます」
いつものクールな態度はどうした? とはいえ、それ以来何とはなしに一言二言話すようになっていった。

「カプチーノくらいゆっくり飲ませてほしいものだよ。ファンってのは大切だけれど」
セスは目を細める。笑っているらしい。そしてなぜか、立ちつくしている。いつもなら、すぐに去っていくのに。
なにか言いたそうだったので、こちらから聞いた。
「いや、大丈夫、なにか話があるならいってごらん。めんどくさいなんて思わないから」
するとセスは思い切ったように顔を上げた。気のせいか、顔が赤い。
「僕は、今日でここを辞めるんです」
「……へえ」
「先生の給仕ができるのも最後なので」
それは残念だ、といいかげんなことを言ったと思う。サインが欲しいのだろうか? 先ほどのファンのせいで言い出しにくくなったのかもしれない。
「手を…」
ああ、握手ね。と私は立ち上がって右手を差し出した。背の高い若者だ。私の頭より上に顎がある。
 彼のひょろ長い体は静かに折れ曲がり、金髪の髪が静かに私の右手に降りてきた。そして、手の甲に生温かく柔らかいものが触れた。
「えっ……」
かなり突拍子もない声が口から飛び出てしまった。セスは何事もなかったように頭を上げる。私にもう一度笑顔を見せると、いつも通り背筋を正して去っていく。

これはどういう意味だろう?
しかしときめく時期はとおに過ぎてしまった。
いや、ときめく時期なんてやつは、私に一生来ることはない。
ほら、こんなふうに、私の目の前で素通りしていく。

私は少年みたいな心を押し隠して、不敵に笑みを浮かべる。
なぜならゴシックホラーの帝王なのだから。

ありがとうございました!

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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