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相棒 伊丹と亀山

半生注意。

Wツンデレで妄想
季節感ガン無視ですよ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 今日は朝から上天気だった。気温はぐんぐん上昇し続け、コートを着て帰るのがバカバカしく思えてくる。
こんな陽気だというのに競澤は、デスクの横に巨大なゴミ箱をでんと置き、しかめ面で始終鼻を噛み続けていた。
「朝からズルズルうるせえなテメエは」
「…僕は先輩と違って繊細に出来てるんです。フツー体に異物が入ったら、追い出そうって反応するでしょ?
 あ~あ、先輩ってばついに自分の体からも見放されちゃったんですね」
「うるせえ!つーか何とでも言え。俺は花粉ごとき屁でもねえんだよ。羨ましいかこの野郎!」
「くっ…!」
 箱ティッシュに手を伸ばしながら充血した目でぎっと睨み付ける競澤の視線を、軽やかにスルーする。
実にいい気分だ!
 ちょうど昼休みだった。上機嫌ついでに庁舎の外に出てみる。
お堀の周囲にぐるりと植えられている柳は新芽を吹き始め、風に揺れている。
空の色は薄く霞んでいて、冬のそれとは明らかに違う。
こんな気持ちいい季節が憂鬱だなんて可哀相な奴だぜ。ざまーみろ。空を見上げてうーん、と伸びをした。

 その時、青を二つに割るように、旅客機が濃い飛行機雲を従えて飛んで来るのが見えた。
『俺、飛行機雲って好きなんだよなー』
 瞬間、あいつのふと呟いた言葉が、声の記憶と一緒に鮮やかに蘇った。
 茫然とした。
 どんなに思っても叶うことはもう二度とない。それならいっそ記憶の底に沈めてやる。
そう心に決めたはずだったのに、ふと思い出したたった一言が、あっという間に思考の全てを
塗り替え支配してしまった。
 飛行機雲はぐんぐん伸びて、もうすでに狭い空の三分の二ほどを切り取っている。
 気が付くと足は向きを変え、庁舎のエレベーターの最上階ボタンを押していた。

 屋上に続く重い扉を開ける。昼休みはそろそろ終わりだから、人影はほとんどない。
空を見上げると、さっきの飛行機雲がくっきりと見える。
 思わず、はあ、と深く息を付いた。
 何やってんだろ俺。そしてまた深く息を吸う。
 鼻の奥に、煙草の臭い。
 はっとして見回す。あいつの吸っていた煙草の臭いだ。何でこんなタイミングで?一体誰が?
巨大な排気ファンの柵にもたれる人影があった。…あの影は、よく知っている。
 影がこちらを向いた。

「おや、板身刑事。珍しいですね」
「うっ!」
 気付かれない内に退散しようと思ったのに、先に話し掛けられたら逃げられないじゃないか。
「携部殿こそ何やってんですか。なんか事件でも転がってましたかー?」
 殊更嫌味を込めて言う。この人に弱みなんて見せられるか。
「いいえ」
 この人は真っ直ぐに他人を見る。だから今日のように気持ちが乱れた日は、特に居心地が悪い。
負けたような気がしながら視線をさ迷わせると、吸いかけの煙草を挟む指が目に止まった。
「雲を見ていました。あなたもそうですか?」
 ぎくりとした。
「ひっ飛行機雲なんて珍しくもないもの、何で俺がわざわざ見に来なきゃなんないんですか!」
「僕は単に、『雲』と言っただけですが」
 ああ…。やられた。がっくりと肩が落ちる。
 そんな事は気にしない様子で、携部は吸いかけの煙草をまたくわえると、軽く眉をしかめて深く吸い込んだ。
そして静かに吐き出す。
 沈黙が落ち着かなくて、つい話し掛けた。
「煙草」
「はい?」
「止めたんじゃありませんでしたっけ?」
 なんでこんな事知っているんだ俺は。
「たまに吸いたくなります。…こんな雲を見たり」
 二人空を見上げた。さっきの飛行機雲はまだくっきりと残っていた。

数年前、ひどく後味の悪い事件を扱った直後、誰が言い出した訳でもないけれど、
何となく皆でここに立って、空を眺めた事がある。
 事件は解決したのに、問題は何も解決しない。やるせなさに誰もが押し黙っていた。
あの携部さえ言葉を探しあぐねた様子で、じっと空を見ていた。
 そんな時、あいつが口を開いた。
『でも、黙って見過ごして、何も無かった事にしたら、一歩も進まないじゃないですか。
 俺信じたいんです。犯人のことも、この携察って組織のことも』
 どんだけ甘い奴なんだと思った。その甘さが、お前自身の首を絞めている事に気付いているのか?
今回だけじゃない。あいつのスタンスは、初めて出会った時から何一つ変わっていない。
呆れるほどバカ正直で真っ直ぐで、この世界は善意で成り立っていると信じて疑わない。
 一課でコンビを組んでいた頃は正直心配だった。このままじゃ間違いなくあいつは潰れてしまう。
この組織がどれほど深い闇に侵され、それを浄化する事などもう誰にも不可能なのだと、
ある程度ここに身を置けば誰だって気付くはずだ。
 なのにあいつは無邪気に信じ続けている。
 あいつが現実に直面し、打ちのめされ深く傷つく姿なんか見たくない。
あいつが傷ついても、自分にはなにもできない。
 ただ空を見上げ、唇をぐっと噛み締めた。悔しかった。

『……きみに、その覚悟があるなら』
 沈黙を破るように静かな声が響いた。
『もう一度、真実を洗い直してみますか?どんなに残酷な結末が待っているとしても』
(!!)
 思わず声の主を見る。あんた、たった一人の部下によくそんなこと。
『……はい!』
 真っ直ぐに携部を見ながら、バカ正直な、力強い返事をあいつは返す。
 そうか。
 こういうのを、天の采配って言うのか。
 この腐った組織の中にも、あいつの居場所はちゃんとあったのか。
『バアーーーカ!』
 嬉しくて緩みそうになる口元を引き締めながら、ついつい出てくるのはいつもの悪態。
『超窓際のおまえら匿名に、何ができるってんだよ』
 知っている。こいつらは組織の中で存在を殺され、何もできない。
 だからこそ何もかもできるのだ。
『うるせえな!テメエと遊んでる暇はねえよ』
『暇なのはそっちだろーが!』
 がんばれよ。
 おまえなら、何かを変えられるかも知れない。

『何をぐずぐずしているんですか。行きますよ』
 さっさと歩き出す携部の後を慌ててあいつは追い掛ける。
『待ってくださいよ~、……あ』
 ぴたりと足を止め、空を見上げた。
 つられて見上げた空に、真っ直ぐな飛行機雲が白く伸びていた。
『俺、飛行機雲って好きなんだよなー』
 誰に言うでもなく呟いたのだろうあいつの言葉が、なぜか水のようにするりと心に浸みていった。

「…バーカ」
 自分ひとり、先に行っちまいやがって。
 鼻の奥がつうんと痛い。まぶたの裏側が湿っているのがわかる。隣の携部に感づかれただろうか。
うつむくこともできずに、ただ空を見上げ続ける。
 す、と目の前に紫煙が揺れた。
「どうぞ」
 声に顔を向けると、火のついた新しい煙草を差し出された。
「…どうも」
 受け取って、互いになにも言わず、並んで煙草を吹かす。
肺いっぱいに煙を吸い込んだ。あいつの匂いに胸が塗りつぶされる。
 吐き出した煙が風に吹かれて高く流れていく。それを追って再び見上げると、
飛行機雲はいくつかに千切れて、西の方角へと流れていた。
「この季節の風は、大陸を渡ってアラビア半島、ヨーロッパを越え、さらに大西洋、アメリカ大陸、
太平洋を経由し再び日本へと帰ってきます。
…ですからあの国にも、同じ風が吹いているのでしょうね」
 携部がふっと視線を飛ばした。
「……」 
 そうだ。あいつはこの空の下にいる。姿は見えないけれど。
 ここには確かにあいつの居場所があって、俺たちは何物にも替えがたい時間を共有していた。
そして日差しの中で同じ風に吹かれているあいつもたぶん、同じことを思っているはずだ。

 おまえなんかなあ、馬鹿だし要領は悪いしすぐトラブルに巻き込まれるし、どこに行ったって迷惑なんだよ。
 だからたまには帰ってこい。仕方ねえから待っててやるよ。
 おまえの場所はちゃんとあるんだからよ。

「あーっ!こんなところでサボってたんですか先輩。とっくに休み時間終わってますよ」
 扉が音を立てて開き、競澤が大またで近づいてくる。いっぺんに空気が騒がしくなった。
「ああ?分かってんだよんな事は。テメエこそ鼻栓詰めたのかよ!」
 慌てて煙草をもみ消した。携部は知らん顔で携帯灰皿に自分の吸殻を押し込んでいる。
「鼻栓て。あっ、先輩似合いそうですよ、鼻栓とか鼻メガネとかそういうベタなお笑いグッズ」
「ハア?小学生じゃねえんだ俺は」
「言い出したの先輩じゃないっすか」
 こつこつ、と爪先に携部の靴が当たる。何なんですか!?と横目で見ると、
そっと後ろ手に灰皿を差し出してくれた。

「それでは僕は失礼」
「あっ、どうも~。 
 ……先輩、携部となに話してたんですか?なんか鼻声だし、目が赤くて涙目だし」
「うっうるせえ!これはな、…花粉だ花粉!花粉のせいだ!」
 競澤はニヤニヤ笑って、へえ~、とか言いながら顔を覗き込んでくる。
「…なんか用があったんじゃねえのかよ」
「あ、別件逮捕の容疑者の指紋が、御徒町の殺人現場の指紋と一致したみたいです」
「そういう事は早く言えー!!」
 すぱかーん、と競澤の頭をはたきつつ小走りで階段を駆け下りる。

 飛行機雲はまだ薄く消え残っていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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