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天地人 直江兼続×上杉景勝 「春の来る頃」

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

死にネタになります

年が明けてから、影勝は寝たり起きたりの日が続いたが、3月に入り、とうとう枕が上がらぬ容態になり、米沢の城内は重苦しい空気に包まれていた。江戸屋敷にいる嫡子の定活からも、容態を案じる書状が矢継ぎ早に届いている。
 今日は幾分気分がいいと思いながら、影勝はうとうとしていたが、そうしていると昔のことがやけに思い出された。歳をとるということは、過去を懐かしむ余裕ができるということなのだろうか。それとも、生の終わりが近いから、過去を振り返りたくなるのだろうか。
 あれは怒るだろうか、と考える。先に逝った鐘継は、きっと自分を待っているだろう。そして小言を言うに違いない。一体どうしてあなたという人は、こんなに早くにやってくるのです、と。そう言う鐘継の眉間による皺まで想像できておかしかったが、早くもあるまい、と思う。

五つ年下の鐘継のほうが、よほど早くに逝ったのだ。
お前が逝って、なお三年も生きた。充分ではないか。
 思えば鐘継は、まだ元服もしていない時分から、わたしは秋影さまより先に死にますよ、と言っていたものだ。
わたしより五つも年下ではないか、と言うと、関係ありません、と当たり前のような顔をしていた。
秋影さまを看取るのは耐えられませんし、追い腹を切る度胸もありませんから先に死ぬ方が楽です、と、十かそこらの子供が言っていた。
そして結局そのとおりに先に逝ったのだから、有言実行もいいところだ。まあ、あれは我儘な男だったから、と思ったが、一番我儘だったのは、自分だろうとも思った。

余禄と呼ばれたほんの幼い頃から仕えてきた鐘継は、それこそ子が親を慕うように自分の後をついてきた。
その眼差しに恋うる気持ちが宿り始めたのは、いつからだったろうか。欲しいと眼差しで、態度で、そして言葉で告げてきた時があったが、結局それに応えることはできなかった。
鐘継だからではない。誰に請われても、自分は誰の物になることもできなかった。
人質同然に香須賀山城に入った幼い頃は、この身は植田永尾の為にあったし、長じてからは植杉の為にあり、越後の為にあった。
心も、身体も、己の意思で自由になるものではなく、自由にすべきでもなかった。鐘継も、それは分かっていたのだろう。じっと忍び、ただ側にあることだけを望んだ。
それではせめて出自が低いことを侮られぬようにと、直衛の娘が未亡人になったのをいいことに、早々に婿入りさせたが、特に喜びもせず、ご命令であれば、とだけのそっけない態度だった。

年上の妻には、当主は直衛の姫だといわんばかりの四衣田衆がついていたし、気苦労もあったことだろう。
後に、お千は何よりも植杉が大事で、女子ながらに武士のような心持です、
と朗らかな顔で妻というより同士だと笑っていたが、
果たしてそこで安らげていたのかは分からなかった。
鐘継は歳若い息子にも娘にも先立たれ、跡継ぎもなく、
わたしの死後は直衛の禄はお返しいたしますと早々に直衛家の断絶を決め込んでしまったが、
今思えば、それはささやかな意趣返しだったのかもしれない。
そしてさっさと死んでしまった。

六十歳での死は、短いとは言えないのかもしれないが、
生来頑健だった鐘継が、大方の予想よりも早くにその生を終えたのは、
やはり若い頃からの激務が祟ったのだろうとも思う。
植杉の家中で絶対的な立場を築き、内政にも外交にも八面六臂の活躍ぶりだった。
それでも、と思う。
鐘継が一番腐心したのは、わたしに不満が集まらない仕組みを作ることだった。
家中で実権を握り、その配下を徹底して四衣田衆で固め、傲慢だとまで陰口を叩かれても、
そんなことはどうでもいいと、つらりとした顔をしていたが、
鐘継への不満が集まるのに反して、わたしには敬慕が集まった。
全ての不満や侮蔑をその身に集め、わたしの前に立っていたのだ。
鐘継をあれほど自由にさせて甘すぎる、と幾度となく言われたが、本当に甘いのはわたしではなく、鐘継だった。
だから結局、鐘継は全てを捨て、その身を植杉に、そして越後に、あるいは米沢に捧げた。
そうさせたのは、わたしだ。

 あれは気づいていただろうか。
わたしは誰の物にもならなかった。
そして、鐘継のことも誰の物にもさせなかった。
 気づいていただろう、きっと。わたしに甘い男だったから。
そして、苦笑いしていたに違いない。

春の夜だった。
風が強く吹いていて、せっかくの桜も散ってしまうだろうと惜しんでいた夜。
その夜に鐘継が寝所に入るのを許した。
ただ一度だけの夜だった。
あの夜だけは、わたしの全ては植杉の物でも越後の物でもなく、鐘継だけの物だった。

 この魂が地上から離れたら、
わたしはようやっと誰かの物になることができるのだろうか。

 誰かが手首に触れた。医師かもしれない。
まわりで聞える声は、清乃か、定活か。
いや、定活は江戸屋敷にいるはずだ。
ふわふわと身体が浮くような気がしてひどく眠い。
 御簾を潜る気配がする。

「秋影さま」
 幼い子供の声だった。
「桜が咲いています。一番日当たりのよい場所の木が。
秋影さまは、桜がお好きでしょう。」
「うん。では見に行こう、余禄。」
「はい。」
 香須賀山ののどかな景色の中に、早咲きの桜が見える。
ああ、きれいだ。春が来る。光の溢れる季節が。
光の中で、余禄が笑っていた。桜と共に。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

帰省くらって携帯でやったら大変なことに…
分割も間違えましたorz

  • 凄い。萌えた。 -- 2012-01-17 (火) 03:35:15

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