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生 「酩酊の赤」

なまもの。完全捏造です。ダメな方はスルーしてください。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ねえ、きいてますかああ、ねえねえ」

甘えた声をだして呼ぶなって。だから、いちばん最初に飲み過ぎるなって言ったんだよ。
酔っ払って甘えられるなら、可愛い女の子がいい。
おまえみたいな自分よりも図体のでかいやつに、腕を取られて膝に手を置かれても嬉しくない。
むしろ困るんだ、このあとの展開を想像したくない。ああまたはじまった。

「またあ、そーやっておれのことてきとうにあしらうんだからあ、ぐれますよー」

おまえみたいな育ち方をしたやつは絶対にグレないよ。どうやってグレるつもりだ、髪でも染めるのか。

彼には以前から「酒癖が悪いです」と言われ続けてきたが、どう考えても自分より彼の方が質が悪い。
脈絡なく笑いひたすら話し続ける、疲れると勝手に眠る。暴れたり吐いたりするわけではなく、被害は少ないけれども、
毎回毎回、酔い潰れてしまうわけにはいかないだろう。上手な酔い方を誰かが教えてやる必要がある。
そういうものは仲間内で自然と覚えていくものだが、こんな環境にいれば、それもきっと難しい。

つい十数分前まで気分よく笑い続けていた彼は、完全に力が抜けきった状態で眠りについている。
開いた口からはよだれがたれてきそうな、幼い顔。しあわせそうだ。
疲れているんだろう。責任も期待もすべて抱え込んで、それでも結果を残しているのだから立派だが、
やはりどこかでその代償が顔を出す。彼も生身の人間で、神様ではない。
ただ、そう思わせてしまうなにかを持っていることは事実で、彼には誰もを巻き込む魅力がある。
それに応えようと頑張りすぎなければいいと、どこか家族のような立場で見守っている、そんな気分だった。

「だからって飲み過ぎだろ…」

彼ひとりで、ふたりの合計以上の量を飲み干している。明日以降の予定が違うから、と言ってしまえばそこまでだが、
翌日に持ち越すような夕食というものは、あまり好ましくない。

「さびしいんじゃないすか」

彼のジャケットを投げるようにかけてやり、皿に残った揚げ物を手に取り男が言う。
ひとりごとか、それとも聞かせたいのか。判断できないものを放置できないのは自分の欠点かもしれない。
「なにが?」紛らわすようにグラスを手に取って、たいして残ってもいない液体を飲み干した。
あたためられた室温で、氷はとうに溶けている。ぬるい。

「いなくなっちゃったから、さびしいんじゃないですか」

…ああ。

ぼやけた味がのどを通り過ぎてゆくのと同時に、もうはるか昔の出来事のような現実を思い出し納得する。
人見知りの激しい彼が、とてもよく懐いていたひとが、いなくなった。その事実を唐突に突き付けられたのだから、無理はない。
いつなにがあるかわからない。それは常識だが、いくらなんでも、誰も予想していなかった。覚悟はしていなかったはずだ。
あのあと連絡は取っただろうか。ちゃんと挨拶はしたのだろうか。
彼の中で、消化した、過去のことにすることができただろうか。
指先ひとつの操作でいつでも話ができるけれど、距離ができてしまったことは確かなことだから、
それをうけとめるには時間がかかるかもしれない。

「でも、また会えるからさ」

「自分のこと、棚にあげてますよね」

予期せぬ言葉に、反射的に顔をあげる。正面に、男の瞳。
控え目で、それでもしっかりとした視線が至近距離から刺さる。斜めにした口元。
覚悟を決めたときみたいに、確固たる自信を持って投げ込まれる直球。

おれ、あなたたちのことも指してるんですけど。

まだふわふわとした頭が、外気の風でゆっくりと醒めていく。
会計を終えて店の外に出ると、もう既に男はタクシーを捕まえていて、
自分よりふたまわりほど大きな彼を無理矢理後部座席に詰め込んでいるところだった。
だいじょうぶ。声をかけると、ちらりと振り向いた男が笑う。男は頷いて、それから帽子を取る仕種と同時に頭を下げた。

「いつもごちそうさまです」
「いいよ」

成人男性の標準を悠々と上回る体格の彼を連れて帰るのは一苦労だが、それはもう自分の仕事ではない。
面倒なことだと思っていたけれども、ひとつ負担が減るのと同時に、なにかが消えてしまったようだった。
なにも背負うものがなくなると、逆に不安になる。とばされそうだ。

べろべろになっている彼に手際よくシートベルトまでつけさせた男は、運転手に声をかけ助手席へまわった。
乗り込みながらちょっと頭をさげて、いつもの斜に構えた笑顔をみせる。

「じゃあ、こいつ連れて帰ります」
「タクシー代いる?」
「いくら優しーセンパイにもそこまでたかりません」

にやにやと悪ガキみたいな表情を見せて、シートに座る男。一歩後退して、またあした、と手を振りかえす。

「ちゃんと帰ってくださいね」

季節は春だが、夜はまだまだ冷え込む。もうすこし厚い上着を着てくればよかった。

ちゃんと、かえって、くださいね。

去り際の男の台詞を反芻しながら、空のタクシーを一台、また一台と見送った。
ちゃんと帰る、当たり前だ。早く帰って、シャワーではなくバスタブに熱いお湯をためてゆっくりと疲れを取る。
明日だって朝は早い、起きたときに眠り足りないと思いたくないから、いますぐにでも帰らなくては。
どういう意味だろう。寄り道なんてしないし、タクシーですぐだし、ちゃんと帰らない方法は、思い付かないし。
そう思いながら、動けなかった。

いまここにいるのは自分ひとりだ。帰る場所には誰もいない。暗い冷たい部屋には誰もいない。

さみしいのは、おまえだけじゃ、ないよ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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