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野球 埼玉西武ライオンズ 後輩×先輩

うめがてら、昨日はおめでとうな人たちの中のネタ。
某後輩×先輩、国内の後輩サイド視点で。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ゲームが決まったとき、勿論俺は他の仲間らと一緒に大声を上げて叫んだ。
テレビのアナウンサーの声が聞こえないくらいに、こっちはこっちで大騒ぎ。
(いや、こっちはこっちで、まさに試合の最中だったりしたんだけど、それも含めて)
わあわあと団子になって喜びを分かち合う選手たちの中に、知った顔がいくつも見えた。
「あー、お祝いメールしなきゃなあ」
試合後のロッカ一ルームで、八重歯の先輩がひとしきり騒いだあと、ぱっと顔を輝かせて言った。
背の高い男前の先輩ときたら、俺はもう打ちましたとばかりに、携帯を取り出しにこにこしている。
「久利ー!一緒におめでとう写メすんぞ!」
「え、はは、俺はいいっすよ!」
「写りましょーよ、皆せーので~」
細っこい弟分の後輩がニコニコせがむので、それにはちょっと根負け。
ほら、笑って笑って!と男前さんがカメラを向ける。かしゃん。
「あー!もう返事きた!」
「!」

数分もしないうちに背後から声がして、その時俺は着替えながら背中が引きつるような気がした。
一瞬で思いが鎌首をもたげる。あの人はどうしてる。
ああ、あの人。
あの人はどうしてるんだろうと。
あんなに顔をくしゃくしゃにして笑って、泣いて、誰かと何かを分かち合っていて。
「早いな~枠」
「うわ、でも一言だけっすよ、ありがとだって。素っ気無いな~」
「枠らしいですけどねぇ」
「…」
それがあの人からの連絡でないことに、何だあいつか、だなんて。
あんなに大喜びした後なのに、さっと冷めた反応をした自分に気づいて、俺は少し嫌な気分になった。
大丈夫だ、大丈夫。自分に言い聞かせる。
言い聞かせながらシャツを着る。
あの人のことを、一番わかっているのはこの俺だと。
「ああっ!那化字からも写メきたっ!」
「おー!見せろ見せろ」
「久利山さーん」
「ん?」
「型丘さんから、返事ないですか?」
ずぽっとシャツの襟から頭を出すと、後輩が相変わらず嬉しそうにニコニコ話しかけてくる。
見れば周囲は皆、それぞれの携帯電話を覗き込んだり見せびらかしたりしている。

「…え、何で?」
「あれ、まだなのかなー。中縞さんと一緒に写ってるからいいのかなー」
言って後輩はわいわい盛り上がる、先輩の群れに混じっていく。
未だなのかな。その無邪気な言葉が、存外俺にはぐっさり刺さった。
ゆっくりジーンズのポケットに手を当てる。その中の機械にそろそろと触れ、そして握る。
握り締める。誰にも知られないように、心の中は誰にもわからないように、そっと顔は笑っている。
あんたが遠い。あんたが遠いんだと、こんなに思い知ったことはない。
自分の携帯電話は、じっと握り締めるだけ。
ばらばらになってからずっと、誰にも言っていないけれど、あの人からの連絡はずっと無かった。
「…」
けれどそれが遠いしるしだとは思わなかった。あの人のことを一番わかっているのは俺だと。
そう思っていたし揺るがなかったから、ただ地球の上離れ離れでも、どうってことはなかった。
だから自分からも連絡はしない。あちらからも来ない。
「お、インタビュー始まるぞ!」
備え付けのテレビを抱えるようにしながら、先輩が笑顔で叫ぶ。
「久利っ!どこ行くんだーいいとこ見逃すぞ!」
「あー、ちょっとトイレ!すぐ戻ります!」
「早く早く待ってるから!」

何気ないふりで喧騒に背を向けて、すぐ戻るよとにこにこ笑って、部屋を出る。ぱたん。
「…」
扉を閉めると中の声が、それこそ地球の遠くのどこかくらいの距離からのような気がした。
また握ったままのポケットの、指先に力を込める。連絡なんか無い。自分からもしない。
あの人はテレビの中であんなに笑って、泣いて、誰かと何かを分かち合っていた。
俺の知らない何かを、俺で無い誰かと、あんな遠くでと、思えば思うほど息苦しくなった。
こんな風に、遠いと実感するのはいやだ。
こんな風に思うのは、もういやだ。
テレビ画面の中のあんたを追うのは、実はもう真っ平で。
あーあ、とため息をついた。
もうすぐ逢える。帰ってくる。
それを馬鹿みたいに待ち望んでいるくせに、胸のどこかにねじれた蛇のような感情があった。
遠いのは嫌だ。あんたに逢いたい。
でもあんたが帰ってきたら、帰ってきたらそのときは、もしかしたら。
「…もしかしたら、ひどいこと、してまうかもなあ」
想像する。多分100パーセント信じた目で、俺にただいまと告げるだろうなと。
そして俺は応えるんだろう。けれどただ、喜びだけじゃない。

あんたに、いとおしさだけじゃない。
気づきたくない、でも確実な嫉妬がそこにあった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

嫉妬したりもしつつ、でも絶大な愛と信頼が渦巻く関係でいいと思う。
ちょっとはみ出た、ごめんなさい。


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