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警官の血 後編

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )遅くなりますた。ジサクジエンガ オオクリシマース!

 ――今まで、安城を同志に加えることを、考えなかったわけではない。
 彼は複数の組織との繋がりがある。海外に出て行った赤軍派とは縁が切れたようだが、
国内の活動家との繋がりは浅いが広い。彼のネットワークは、戦略的にも戦術的にも魅力的だった。
 だが、彼を誘おう、という俺の提案を、”狼”のリーダー、佐木は言下に拒絶した。
『馬鹿か?大菩薩峠で捕まった元赤軍派だぞ?そんな奴を仲間に入れてみろ。
 あっという間に公安に目を付けられる』
『安城は赤軍派じゃない。吉本の頭数合わせに付き合わされただけだ』
『公安に目をつけられるようなことをしたのには間違いないだろ?駄目だ。リスクが大きすぎる』
 そう言って、佐木は俺を疑わしげに見た。
『大体、お前、なんでそんな危ない奴と会ってるんだ?別にそいつに拘る必要はないだろ?』
 確かにそうだ。別に、安城に拘る必要はない。
俺だって、最初はそう思っていたはずだ。なぜ、俺はこんなにも、奴に固執しているのだろう?
 佐木が、俺の肩を叩いて、言い含めるように言った。
『会うなとまでは言わない。下手に避けると、却って疑念を招くかもしれない。だが、距離はとれ。いいな?』  
 
 ――安城を仲間に加えるべきではない。例え、彼自身が望んだとしても。
 俺の破滅を見たくないという彼の言葉が、真実だとしても。
 俺はひとつ息を吐いて、出来るだけ感情を漏らさぬ声で言った。

「ダメだと言ったら?」
「通報します」
 さらに冷え冷えとした回答が返ってきた。
「……させると、思うか?」
 沈黙が落ちた。彼は無言のまま、俺を見上げている。
 俺は、憑かれたように、組み敷いたままの彼の首に手を掛けた。
 タートルネックのセーターに覆われた彼の細い首の、気道を探して指を這わす。
 彼は目を閉じた。

     *        *         *

 気道を捕えた西藤の指に力が込められても、俺は何の低抗もしなかった。
 苦しい。息ができない――逃げなければ、本当に殺されてしまう。
 分かっているのに、何故だか、死の恐怖は湧いてこなかった。
 ――元々、賭けだった。
 やはり駄目だったかと思った時にはもう、俺は、逃げる機会も、意思を失っていた。
 西藤の手は温かいな、などと、呑気な事さえ考えた。

 と、その時だった。ふいに、圧迫が消えた。
 俺は一気に戻ってきた酸素と血流に咽ながら、ぼんやりと――気付かなかったが、
すでに朦朧としていたのだ――西藤を見上げ、驚いた。
 西藤は、泣いていた。

 どのぐらいの間、彼の首を絞めていたのだろう。苦痛に歪む彼の表情が、ふいに、
穏やかになった。彼は、虚ろな目を僅かに開いて、微笑ったのだ。
 
 ――その瞬間、俺は理解した。どうして、俺が彼に執着していたのか。

 手から力が抜けた。解放された安城が、突然の解放に苦しげに咽る。
「……安城、どうして、抵抗しない?」 
 その問いは、するりと俺の口から滑り出た。
 俺は自分が泣いていることに気づいた。涙がとまらない。
「……どうして、ここまでする?」
 彼は、苦しげに喘ぎながら、首を振った。分からないという意味なのか、
答えたくないという意味なのか、そもそも答える余裕がないのか。
「教えてくれ、お前は、今、何の為に死のうとしたんだ?」

     *        *         *

 俺は、ただ黙って、西藤を見上げていた。
 ことさら、演出したわけではない。西藤の言葉に、俺は答えることができなかったのだ。

 俺は、父のような駐在警官になる代償として、潜入捜査という任務を受け入れたに過ぎないはずだ。  
 こんな任務で命を落とすことなど、望むはずがない。
 なのになぜ、俺は死の危機から逃れる努力さえ放棄したのだろうか?――なぜ?――何の為に?
 もしかして、俺は、本当に西藤を救いたいと、そう思っていたのだろうか?命を賭してまで?
 もしかして、俺は彼の友人としての仮面に、俺自身の心まで取り込まれてしまっていたのだろうか?

「初めて会った時から、思ってた――」 
 黙ったままの俺の髪を、西藤が梳く。
「お前は、人形みたいに、何考えてるのか分からないって」
 それはそうだろう、と俺は思った。悟られぬよう、努めて感情を殺してきた。
「俺にも、分からないんです」
 そう、俺自身も、分からなくなりつつある。
 西藤は笑った。
「『戦士が何者か、戦士の胸の内にあるものは何か、誰ぞそれを知らん』か。
 あれにはお前自身も入っているのか」
「……まあ、そんなところです」
 西藤が小さく息を吐く。長い逡巡のあと、彼は言った。
「お前を、俺のグループに加える。佐木にはお前に実績ができてから話す。勝手に会うなよ?面倒なことになる」
「佐木さん?」
「一回飯を一緒に食っただろう?あいつが、"狼"のリーダーだ。佐木は、お前に検挙歴があるのが気に食わない。
 ――だからしばらく時間をおいた方がいい。俺も奴との接触はしばらく控える」
「俺は、佐木さんの反対を無視しても、"牙"のメンバーになって良いってことですか?」
「"牙"のリーダーは俺だ。"狼"には迷惑を掛けない」
 西藤は言いきってから、まだ組み伏せたままの俺を見つめる。
「なあ、安城――」
 声のトーンが微妙に変わっていた。
「――今すぐにとは、言わない。でも俺は……」
 俺は、黙って、続く言葉を待った。
「お前の心が、ほしいんだ」

 それはほどんど衝動に近かった。
 最初に感じたのは煙草の味だった。満たされない思いで、俺はより深く口付ける。
 彼が苦しげに、くぐもった悲鳴を上げた。
 その悲鳴に、俺は彼の唇を解放する。彼は、呆然と俺を見上げていた。俺は言った。 
「――頼む。お前の心が俺を拒むなら、抵抗してくれ」
 
 強引に行為を進めるつもりはなかった。
 けれども、本来男を受け入れるようにはできていない身体を気遣う余裕も、なかった。
 俺は、彼の抵抗が無いのを良いことに、恐怖と緊張に強張ったままの身体に、一息に突き入れたのだ。
「――ぁああッ!……ぅう……ッ」
 甲高い悲鳴を上げて、彼の背が大きく反る。悲鳴は、すぐに不明瞭な呻きに変わった。
 自らの腕を噛み、声を殺して耐える痛々しい姿にさえ、どうしてそこまでして耐えるのかという、
理不尽な怒りを覚えて、俺は、彼の腕を布団に押さえつけた。
 杭を捻じ込むように突き上げ、内臓を引き出す勢いで半ばまで引き抜き、また引き攣った
臓器ごと突き入れる。その度に、彼の身体が強張り、女のように高い悲鳴が彼の喉から零れていく。
「はぁ…ッあぁ!……あぁ…」
 突き上げる度に濡れた音が混ざるのに気づいて見れば、その正体は血だった。
 彼の心にあるものが何にしても、俺がやっていることは彼に対する凌辱以外の何物でもない。
 それに気づいた時にはもう、抑えが効く状態ではなかった。
「安城……安城……」
 俺はうわ言のように彼の名を呼びながら、彼の身体を貪り、血の滲む彼の体内に吐精した。

朝、未明の時間に物音を聞いた気がして目覚めると、彼の姿はなかった。
『協力者に心当たり。日曜13時、五の喫茶店で待つ。』
と書かれた、小さなメモが残っていた。

 身体が重く、芯には鋭い痛みが残っている。
 始発の電車でアパートに戻った俺は、敷きっぱなしの布団に倒れこんだ。

 俺は、賭けに勝ったのだ。
 西藤は、俺を組織の一員にすることを了承した。こんな形になるとは思わなかったが、
 とにかく俺は、賭けに勝ったのだ。
 そう思っても、少しも明るい気分になれないのは、何故だろう?

 胸が苦しかった。首を絞められたせいでも、肉体的な疲労のせいでもない。
 西藤が求めたもの。そして、彼には決して見せても渡してはならぬもの。
 人形に封じ込められていた心が、独りになった途端、解放を求めて荒れ狂い始めている。

 俺は、這うようにして台所に近づいた。
 蛇口に捻って水を飲み、そのまま嘔吐する。飲んでは吐くを3度ほど繰り返すと、その場に座り込んだ。
 気分は最悪だったが、胸に堪った何かも、一緒に洗い出されたような気がした。
 
 俺は、何も感じない。
 死の恐怖も、男同志の性交に対する嫌悪も、苦痛も、西藤に対する正負いかなる感情も。
 西藤は、俺を人形のようだと言った。その通りだ。
 ――俺は、人形だ。そうならなければ、こんな任務は遂行できない。

「……大丈夫です。ちょっと、気分が悪くなっただけですから」
 俺は、この部屋のどこかにあるはずの盗聴器越しに、そう弁明した。

 安城をを仲間に加えてから、佐木の懸念通り、公安らしき人間が、俺と佐木の周りをうろつく様になった。
 だが、実際問題としては、特に活動に支障が出たわけではなかった。
 安城が同志に引き込んだ白河という男は、"蠍"というグループを結成し、すぐに示威的な意味も兼ねて、爆破を決行した。
 無論、死者も負傷者も出していない。安城は、犠牲者を出すべきではないと主張していた。白河はそれに倣ったのだ。
 俺達は、殺戮を目的にしているわけではない――そう言うと、安城は、安堵したように頷いた。

 俺は、安城を信頼し始めていたが、彼の心は、まだ俺には遠いものだった。
 どうして、あんな酷いことをしたのに、俺の元から去らないでいられるのか。
 けれど、ふとした瞬間、彼が本心から、俺を愛してくれているのではないかと感じる機会が、日が立つ程に増えていた。
 俺は、それが錯覚ではないことを、信じ始めていた――いや、信じたかった。 

     *        *         *
 
 1975年4月18日、夜。
「……心配するな、約束通り、誰も人間は傷つけない」
 そう言って、一緒に行かせてほしい、という控えめな俺の申し出を、西藤はいつもどおり拒絶した。
 俺が現場に行くのは他メンバーの反発があるらしく、西藤が俺を実行部隊に投入したことはない。
 アパートを出る前に、西藤は、粉末が入った小さな包みを俺に握らせ、命じた。
「青酸カリだ。無いと思うが、警察が踏み込んできたら使え」
 俺が頷くと、西藤はキスを残して、部屋を出て行った。
 今日の爆破情報は、すでに俺が公安に流している。
 今回は敢えて阻止せず、証拠固めに利用するというのが、公安の方針だった。
 数分後、俺は、西藤のアパート近くで張っていた刑事と接触し、いくつかの情報を交換したが、
その際、西藤や他の幹部が自殺用の青酸カリを所持している事は報告したが、自分にも与えられたことは、
報告しなかった。報告すれば、無毒のものにすり替えられるのは明白だったからだ。
 ――でも、それは、自分と公安に対する、言い訳だったのかもしれない。

  ――そして、1975年、5月19日。

「安城……」
 熱を帯びた声で名を呼ばれ、俺は、応えるように彼の喉に甘く噛みついた。

 布団の上に引き倒される。お返しとばかりに西藤が俺の喉を噛む。
 喉を食いちぎられるのではないかと思うほど強く噛まれ、思わず身体を強張らせた俺を宥めるように、
それはすぐに優しい愛撫に変わる。首から額に、そして唇に。
 彼の愛撫を受けながら、俺は自分でベルトを外した。
 西藤のソコに手を伸ばし、布地越しに形を探るように指を這わす。
 彼はもう、準備ができていた。俺は微笑って言った。
「優しくしなくても、大丈夫ですから」
 愛撫など必要ない。暴力は苦痛だが、乱暴に抱かれる方が気持ちの上では楽だった。
 けれど、西藤は俺の手を掴んで自分の身体から引き剥がす。
「2度とあんなセックスをする気はないって言ったろ?」
 言って西藤は、緩めた着衣の下から緊張で萎えたままの俺の陽根を引き出し、口に含む。
 手での愛撫には慣れていたが、こんなことは初めてだった。
「ッ…!!」
 俺が制止するように手を伸ばしても、彼は意に介さない。本気の制止でないことを、彼は知っている。
「西藤さん、やめ……やめて…ッ!――――出ちゃう……っ」

 羞恥と快楽に、うわ言の様な言葉を吐くことしかできないまま、やがて俺は、彼の口内に射精した。
 口の中のものをぺろりと掌に吐き出した彼が、悪戯っぽく笑う。
「俺ばかり気持ち良いんじゃ、お前もつまらないだろ?」
「それは――」
 言いかけて、口を噤む。
 後ろで達したことこそないが、今の俺は後ろだけでも感じるのだ、とはさすがに言えなかった。
 俺は、西藤の視線を避けるように――その実、彼を受け入れる為に、うつ伏せになる。
 西藤が俺の下肢を覆う衣服を半ばまで剥ぎ取り、掌の中のものを後孔に塗りこんだ。
 ゆっくりと、けれども本来性器ではない箇所を押し開いて、西藤が俺の中に入ってくる。
 互いの荒い息遣いだけが響く闇の中、西藤は忍耐強く、俺の身体を傷つけぬよう、俺の身体の
苦痛と緊張が鎮まるのを待ってくれた。
 彼に密着するように腕を回すと、西藤の温もりに満たされる。その温もりが嬉しくて、だからこそ苦しい。
 仮面越しでなく、直接、その温もりを受けることを許されたなら。
 俺は、彼に心を与えることも、あるいは彼を偽ることなく、一切を拒絶することもできたのに。

 ――今夜が、最後の逢瀬になることを、西藤は知らない。

 あと8時間。8時間後、全部が終わるのだ。
 彼は逮捕され、おそらく無期懲役になり、そして。
 闘争も、革命も、何もかもが全てが過去になった時代に、彼は自由になるだろう。
 その時には彼も、今とは違う、穏やかな人生を選択してくれると信じている。

 彼を愛してはいけないことは、分かっている。それでも。
 全身で、今、感じる。彼の吐息の熱さも、俺自身の、熱の高ぶりも。
 そして、確かに思っている。彼を救いたい――どんな形でも、彼を生かしたいと。
 それさえ、俺には、許されない感情だろうか?
 いつの間にか、涙が零れていた。
「やっと、手に入れた」
 彼が涙を指で拭って、そう呟いた。
 俺は小さく、頷いた。

 この夜、俺は初めて、西藤と同時に達した。

     *        *         *

 一斉逮捕から3日。潜入時に得た情報の全てを、俺は詳細に笠井に報告した。
 けれど、西藤の最期に際し、俺が何を感じたかは、結局思いだすことができなかった。

 なせ、西藤に与えられていた青酸カリを、自らも飲もうとしたのか。
 彼に命じられていたからか、俺は裏切っていないと、示したかったのか。
 あるいは、彼を救えなかった自分に絶望したのか。 

 確かなことがある。俺は、あの時にはもう壊れていた、ということだ。
 1度壊れた俺が、統合された自分自身を取り戻すまで、10年の歳月が必要だった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
連投&長文で手こずりました。>>446さんありがとう。すみません。

書イテテ凹ムクライ、救イノナイ原作ニ、救イノナイ虹ニナリマスタorz 読ンデクレタ方、アリガトウ

  • 最近原作を読んだばかりで悶々としておりました所、こちらの小説に出会いました。もう色んな感情がないまぜになって身体が震えました。作品投稿して下さって本当にありがとうございました…! -- 2011-09-25 (日) 04:59:00

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