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野球 埼玉西武ライオンズ0107

生注意、キャソプ中のお約束バレンタインネタ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

もうすぐバラバラ、になる前に、久しぶりに二人そろってコンビニに行った。
コンビニと言えばコンビニなんだが、あまり長居できなくて夜にはさっさと閉まってしまう、
地方にはよくあるタイプのやつなので、急いで買出しを済ませる。
九里山が、買出しジャンケンで負けたのだ。全くウチの同僚どもは人使いが荒いったらない。
まあ荷物持ちとして引きずられてきた、ブービーだった自分も運がなかったんだが。
「やっさんは何も買わんの?」
「んー」
買出しは後輩に任せて、レジ近くでぱらぱら雑誌をめくっていると、プリンやらジュースやら
ポッキーやらを山と抱えたその男前が、欲しいものは無いのかと聞いてくる。
「俺はパス」
「何で」
「だーって、もう荷物まとめてあんだもん。増やしたくないよ」
「あ、そか」
もうすぐバラバラ。ええと、明後日からは本当にバラバラだ。
もうすぐ片丘は、このキャソプ地から離れる。他の何名かのチ一メイトと一緒に、世界大会へ
向けての合同合宿に移動するのだ。
だからもう自分の荷物はあらかた詰めなおしてある。

使い捨てていいシャツとかタオルが、いくつかその辺りにあるだけだ。九里山が頷く。
「そやねえ、やっさん誕生日もひとりぼっちやねえ」
九里山が肩をそびやかした、ようだった。自分の誕生日のことを覚えていて、そして茶化している。
あと数日あればその日も一緒だったんだろうけど、まあそんなこと仕方がない。どうだっていい。
いつも生意気なこの後輩を顎で使えないのは残念だけれど、どうせシ一ズンが始まったら、嫌でも
いくらでも隣にいるんだから。
「何だよそれ!那かじが祝ってくれるってったぞ」
「あーはいはい」
「流すな!さっさと買えよ、雨降ってんだから早くかえろーぜ」
今日は朝から天気が今ひとつで、ぱたぱた降り出した雨はやっぱりまだまだ冷たくて、春の
訪れには程遠いことを思い知らされた。
人恋しくなるなあ、と片丘はぼんやり思って、目はテレビ雑誌のどうでもいい番組表を追って
いた。人恋しい、もあるけれど、不安もある。緊張もしている。
何も知らない世界に飛び込んでいく、足がすくみそうだ、自分でも笑える。
春が近いとは言え、まだ寒い。まだ足りない。
「やっさん、出よう」
何かが始まるけれどそんな季節だ、二月は。

「…げー、結構降ってんなあ、明日室内か?」
「あー、かもねえ」
店を出た途端湿気た冷たさが鼻をさして、九里山は首筋を差されたのだろう、思わず首をすくめ
ている。だからまだジャージだけじゃ寒いだろうって言ったのに。
忠告を聞かなかったのはこいつのほうなので、片丘は自分だけマフラーを巻きなおしても悪いとも
思わない。そういうもんだ。
広げた傘にぱらぱら、弾ける音がする。
「ほれ、半分よこせ」
「ん、ちょ、待って待って、その前に」
「…何だよ、これ」
濡れるぞ、と差し出してやった傘の下で、はいよと九里山が何かを押し付けてくる。箱の角のような
ものが、マフラー越しに首に当たる。
店を出てしまったのでよく見えない。次の街灯の下までは。
「たんじょび祝い、前倒しで」
「…はあ?」
やっと九里山が自分の傘を広げて、変な格好で抱えていた買出し袋を持ち直して笑った。
ぽつんと立っている街灯が、また大分先にぽつん、ぽつん。車も人ももうこの時間はめったに通らない。
「大丈夫やって、マジでちゃんと今度ええもん送るから!これは一応、の前倒し!」
だってソレお前、と片丘は何ともいえない顔で、少し冷えた指で自分の頬をこすった。

そういえば、さっきのレジ近くで山となっていたそれ。この季節に相応しく、ピンクだの赤だのの
リボンでラッピングされたそれ。
どうせなら可愛いファンからでも手渡されたい、きらきらしたシールもついている、そんなそれ。
「何でチョコ…」
「レジの横にあったし、これでええかなて」
夜の中のぽつぽつ立っている明かりの中で、九里山は言う。
「そんでバレンタイン明日やん?安なってるから得やーんって」
そしてはい、とわざわざペットボトルの入っているほうの、重い袋を押し付けてくる。この後輩め。
にっこり笑って、ああこいつは、こういう風にすると人が断れないのを無意識に知っている。
「バカかお前。安くなるのは明日の晩からだ!」
「…あ、マジで!?」
「あーああ、損したな」
「何でや損はしてへんわ!やっさんにあげるんやし!!」
人通りの少ない、建物もまばらな街灯の下。
九里山の振り回す傘のしずくが飛んでくる。真っ暗な空の下で、それが頬に当たる。
冷たい。足りない。恋しい。
まだニ月。
「…だから荷物増やしたくないってんだろ!何でこんなでかいの買うんだ、何個入ってんだよ」
「一応お祝いやから」
「喰いきれねえ!」

バカ、とそれで頭をはたけば九里山は笑った。普通に笑った。
何一つ変わらない。変わるわけが無い。
もうすぐバラバラ。ちょっとそんな風になったところで。
「半分喰えよ、だから」
別にそんな風に離れるくらい、何だってことはないけれど。
あんたが、お前が隣にいないなんてことくらい、俺は別に大丈夫なんだけど。
「え?せっかくあげたんに意味ないやんか」
「別にいいの、だって持ってけないだろーが!」
振ればその箱は、がさがさとばらばらと、にぎやかな確実な音がした。
まだ雨が降っている。春の雨にしては、まだまだ冷たくて寒くて一人なら寂しくなる。
まだ寒い。まだ足りない。
ちらりと見えた、九里山のジャージの裾はもう濡れていた。それも以前から、よく見慣れていた
ものだった。
もうすぐバラバラ、になる前だ。
「責任とれ、責任」
うん、大丈夫なんだけど。
でもとりあえずこのこれは、二人で山分けにしてから行こうと思うんだ。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ナンバリングミス!


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