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オリジナル オッサン×オッサン

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
残念なオリジナルが長々と失礼するよ!
オッサン×オッサン

 仕事帰りにコンビニに寄って、ケーキを買った。ついでに発泡酒じゃないビールと乾き物、
明日の朝食用のパン。頼まれてた牛乳。あとタバコ。
 安い汚い狭いの三拍子が揃ったボロアパートに帰ったのは午後八時。家には明かりがついて
いて、俺はホッと安心する。ドアを開けようとしたらご丁寧に鍵が掛かっていて、もたもたし
てたら家の中から錠を回す音がした。
「おかえり」
「ただいま」
 目線がそのまま俺の手元に落ちて、眉間に皺が寄る。また無駄遣いしてってお小言はなくなっ
たけど言わなくなっただけで目で語るようになった。まあそういうの感じ取れるようになったの
は良いことだよな。
 寒い廊下を進んで小さい台所の小さい冷蔵庫を開ける。
 奴は俺の後ろに立ってうろうろしている。
「なにそれ」
「ビール」
「違う」
「ケーキ」
「なんで?」
「お祝いだから」
「なんの?」
「……三十年経ちました」
 覚えてないかなって期待しながら奴の目を見ると、うろたえたみたいに彷徨ってた。
 三十年経ちました。
 お前が死ぬ死ぬ詐欺して、俺が殴って引き止めて、病室のベッドで無茶な約束してから、三十
年経ったんです。
 ご近所や会社の変な噂も何度かの死ぬ死ぬ詐欺再発も乗り越えてみれば全部笑い話。

 奴は少し俯いて、白いビニール袋を覗き込みながら言う。
「そっか……お前も老けるはずだよな」
「お前のが年上じゃん、ジジイ」
「まだオッサンだ」
「俺もオッサンだけどオッサンを誇るなよ」
「うるせーな」
 そうやって笑うと目立つ目尻の皺、増えたよなぁ。体力も落ちたし、もう取っ組み合いの喧嘩
とかしなくなって何年経つだろ。諦めたみたいにお前は最近おとなしくて、日曜のドラマとたま
に行くドライブだけが楽しみなんて、ほんとつまんない大人になったもんだ。
 しかしとりあえず腹が減った。奴の老いをシミジミ感じている暇はない。俺は冷蔵庫から目線
を奴に戻して、
「メシは? なんか食った?」
「いやまだ。今日は俺当番だから、なんか作る。ヤキソバでいい?」
「ケーキまで買ってきたのに色気ないよね。いいよ」
「なんで一回文句言うの直んないの?」
「はいはい。野菜なんかあったっけ、もやしある?」
「あるよ。玉ねぎ切るの手伝って」
 ピーマンが苦手だとか、テレビのCMをじっと見ていられないとか、洗濯物を畳むのが下手とか、
部屋の角をいつも掃除し忘れるとか、玉ねぎを切るのが苦手だとか、どうでもいい駄目な部分を
集めて抱えて三十年。
 高校の友達は中小企業で課長になって、奥さんと子供二人と郊外に一戸建て買ったんだって。
 大学の友達は小さい会社起こして、一年中走り回ってるって、大変だけど楽しいって。
 飲み屋の兄ちゃん、今度結婚して家業継ぐんだって。
 俺にもお前にも訪れたかもしれない幸福な人生を、俺もお前も選べなかったけど、周りから
見たら最低の底辺の人生だろうけど、俺の人生は無駄じゃなかったよ。お前はどうだろう。
 不味いヤキソバしか作れないお前。
 玉ねぎ切れないお前。
 腕に傷跡あるお前。
 こんな安アパートで男と二人暮らしのお前。

 ヤキソバを作る後姿をぼんやり見ていたら、見慣れた顔が振り返って、
「ビール用意して、ヤキソバできた」
「あいよ」
 この匂いはまた焦がしてんのね、どうでもいいけど。
 焦げが少ない部分を寄せ集めて、俺に渡してくれるのね、いつもそうだけど。
 ちゃぶ台の定位置に座って、俺はビールをグラスに注ぎ始める。箸とヤキソバを持ってお前は
ちゃぶ台の前に立ち、少し躊躇ってから席に着いた。
 それから目の前に先に置かれた皿を見て、すっと俺の方に押し出してくる。俺は無言でそれを
押し返す。この勝負の勝ち方も三十年やったんで分かってる。
「押すな、こぼれる」
 先に文句言った方が勝ち。
 ほれそっちの焦げ満載の皿を寄越せと手を出すと、渋々渡してきた。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
「いただきまーす」
「こっち食ってくれればいいのに」
「まじー」
「ほらみろ。絶対文句言うと思った……」
「にげー。でも慣れた」
 そう言いながらバクバク食べると、奴もこっちも苦いと言いながらもそもそ完食した。
 ビールの勢いが残ってる内に早いところ済まそうと思ってケーキを持ち出す。我が家には
フォークなんて高尚なものはないので、箸だ。せめてもの心遣いで新しいものを出してやる。
「箸かよ……コンビニでもらったフォーク、使ってないやつなかったっけ」
「ない。てかもう手づかみでいっか」
「せめて皿とかないの?」
 心遣いの箸は却下されて皿を所望されても、皿は焦げ臭いヤキソバで汚れてシンクに転がって
いるあの二枚しかない。
 強引にいただきますと宣言して白いスポンジとクリームに齧り付くと、諦めたように奴も小さ
く口を開けて食べ始めた。やたら甘いだけで美味しいのかどうかも分からないケーキを一口食べ、
奴はぽつりと呟いた。

「甘い」
「うん甘い」
「……三十年、経ったんだ」
「うん経った」
「……じゃあさ、やめる?」
 クリームで手をベトベトにしながら、奴は小さくそう言った。
 病院のベッドで話したことは、もうあんまり覚えていない。ただ俺は罵倒しながら奴の命を三
十年分もらった。引きずり回して連れ回して使い倒して死なせてやろう、そんぐらいにしか思っ
てなかった。
 俺の憧れた人間は死んで、情けなく惨めで無気力な人間が生まれ、俺の手に落ちた瞬間だった。
 残ったケーキを口に放り込み、指に付いたクリームをティッシュで拭きながら俺は奴の顔を見る。
 奴はもたもたとまだケーキを食べていて、俺はティッシュボックスを差し出しながら言った。
「三十年一緒にいたけどさ、お前は使えない奴だったな」
「――最初にそれは確認しただろ。それでもいいってお前が言ったんじゃないか」
「うん、いいよ、もう全部いいよ」
 でも三十年は長かったなぁ。どれだけ昔のお前に焦がれただろう。夢見て、現実に怒って、目
の前のお前に八つ当たりして、喚いて引っ叩いて蹴っ飛ばして、死ぬな死ぬなと泣き縋って。
 お前の人生ってどうだっただろう。俺と過ごした三十年が無けりゃ、まだいい人生だっただろ
うか。あの時終わっていれば、綺麗な人生だっただろうか。
「まだ、死にたい?」
 三十年封印していた質問を投げかけると、奴はちょっと驚いた顔をして小さく首を横に振った。
 振ってから、自分の答えに今さら驚いた様子で俺を見つめてきた。俺も驚いた。その目の奥に、
俺の憧れた人の面影を見た気がした。
「だよな」
 震える声で追い討ちかけるみたいに確認すると、喜んでいいのか悲しめばいいのか分からないっ
て顔で奴は頷いた。憧れた人の面影はもう消えていたけど、俺はなんだか嬉しくなって、続けて
言った。
「なあ、それならさ、もっかい三十年やろうよ、今度のはもっと――」
 もっと、なんだろ。
 平和だとか? 今も充分平和だ。
 幸せだとか? 今も充分幸せだ。

 なんだろう。もう一度、三十年をどう過ごせばいいだろう。お前が頷いてくれるような理由、
今回も見つけないといけない。そうじゃないとほら、ケーキもビールも用意したってのに無駄に
なっちまう。
「もっと、愛のあるやつ」
 言った途端に俺はガチガチに固まって、奴も目を見開いて固まった。
「……愛?」
 聞き返されても恥ずかしすぎて同じ言葉を繰り返すなんて出来ない。
「え……いや……愛って、お前……いや、なに……冗談?」
 冗談だよなって確認するお前が真っ赤になってるから俺も真っ赤になってる。
 おかしいな俺の恋心は、三十年前に相手がいなくなって終わったはずなのに。同じ顔の別人に
なったお前を、好きになるなんて出来ないと思っていたのに。
「……冗談?」
 もう一度、縋り付くような弱弱しい声で尋ねられて、俺は首をギシギシ軋ませながら横に振っ
た。涙が出そう。涙が出そうだ、三十年間こんな風に泣くことはなかったのに、涙が。
 
 殴って蹴って罵って喚いて縋って三十年、これからは平穏な愛の三十年。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
2chでたまに見る「氏んできます」「(いいことホニャララ)というわけで生きとけ」みたいな
やり取りに萌えたんだけど上手く書けぬぁい
枯れたオッサン萌え、年下×年上萌え、とつぶいて逃げる
今は後悔している

  • 最高でした。Gj。 -- 2009-12-17 (木) 20:39:45
  • 身悶えする程萌え上がった・・・! -- 2011-11-11 (金) 21:22:51

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