仮面ライダーキバ_兄弟
更新日: 2011-01-12 (水) 00:21:21
兄さんは他者の心を掴むのがとんでもなく上手い。
…と、ずっと思ってた。
いやその、それが完全な間違いだとは今でも思ってないけど、
あの…一応。 だってとにかく他人を自分の意の下に置くってことでは
やっぱりすごい、あの一度兄さんを追放したっていう重役達、
会ってみたらなんかもう絶対服従っていうか。すごかったし。
何したんだろう兄さん。
でも、僕に対しての、まるで裸の心の痛むところを全部知られてた
みたいな言葉や視線、『大河くん』と『渉くん』だった頃から不思議と
ゆるい糸みたいなものでつながっているみたいだった、
ああいう感じの全てが、どんな相手に対しても発揮されるようなもの
じゃないということには、わりと最近気づいた。
って次郎さんに言ったらすんごく呆れた目で見られた。
だって。たとえば。僕が、僕のうちに半分ずつ流れる人間と
ファンガイアの血に、世界と関わることを捨てようとしていた時。
僕なんかのために、たくさんの人たちがやってきてくれて、
色んな事をいってくれたけど、本当に必死で追い出さなくちゃ
いけなかったそれは、兄さんのものだった。
優しいひとたちの優しい言葉はほんとうに嬉しかったけど、
あの時の僕にとってそれこそが一番受け入れてはいけない
ものだった。はねのけるしか、なくて。
憑かれたような未央さんの眼差しと言葉は、苦しそうで、
痛々しくて、信じ難かった。僕とどこか似ているのかもと思っていた
未央さんが、まるで知らないいきものに、見えて。
兄さん。兄さんは。
鍵も柵も、張り巡らせた大がかりな仕掛けも、
すべて問題にしないファンガイアの兄さんだったから、
…いや、たぶんぼくの心が兄さんを拒んでいなかったからだ。
兄さんはたびたび僕の前に現れた。
絶対に相容れない価値観なんだって言い合っても、
次は力ずくだと激昂されても、僕は…、僕達は。たぶん、
本能でお互いを許容していた。
時々すごく疲れているように見えた兄さんは、そう言う時には
まるでただ僕に会いに来ただけみたいに話をしてくれた。
「ずっとここにいて退屈しないのか渉」とか、
「早く僕の所にくればいいのに」とか、
本気で説得する気があるんだかないんだか、ぽつぽつ言った。
「お前は食べるの好きなんだな」とか、本当に他愛のない話も。
それから。
「この世界の汚さに絶望することがあったろう」
激するでもなく語りかけるでもなく、ただ知っているというように、
静かにいった。
「たとえ人に囲まれていようが、どうしようもない、
根本的な違和感を感じることがあったろう」
この世界にひとりだと。
ソファの上で膝を抱えて顔を伏せた僕の隣で、
いつの間にか足を組んで、宙を睨んで静かにいった。
「違うか」
違わない。
…でも、それは兄さんのものでもあるよね。大河くんの、痛みだよね?
人間はエサとか無価値とか、言っているきみ自身が、いつだって過剰に、
苦しそうに見えた。
言わないでいてくれる静かな時、僕はただ、君を好きでいられた。
身を切るみたいな苦しみを抑え込んだ目も、ふっと僕を撫でる手も、
ただ好きで。抱きしめられると泣きたくなる身体から伝わってく
るのは良く知ってる痛みだった。そうだ。僕は兄さんの病を知っている。
『この世アレルギー』。世界が、人が、汚く思えて仕方なくて、傷つけられそうで。
傷つけられて。…一人で。苦しい?痛むの?
兄さん。大河くん。兄さん。
「あのころ」
正雄が連れてきたネオファンガイアとのごたごたがどうにか
ひと段落ついて、伸び伸びになっていた兄さんの荷物の運び込みが
やっと終わったところだった。
休憩がてら並んで座りこんだベッドの上、僕は押し倒した兄さんに
囁いた。こめかみからうなじにかけて、好きに這わせてもらってた唇を、
離した合間のことだった。梱包を終えて部屋を見回した兄さんが
あんまり穏やかに笑うから嬉しくて、笑って触れ合ってるうちに、
その…いつの間にか。
兄さんは「いつのことだ、渉」の代わりに少し目を細めたから、
その瞼もそっと唇でなぞった。兄さんも僕の頬を包んで指先で
睫毛のあたりをなぞってくるから目を伏せる。ちょっとくすぐったくて
笑うと軽く口付られた。
「なんだ?言ってみろ、渉」
「ただ僕と来いとだけ兄さんが言ってくれたら、
ついていってたかもしれなかったなあって」
「言っただろう。何度も何度も、我ながらしつこいほど」
「ただ、って言ったんだよ。余計なものがくっつきすぎてた」
「生意気な。誰より優しい渉君はどこに行った」
「…強くてカッコイイ大河君、だって…」
「…本当に生意気だな、渉!」
押し倒されていた体勢から一気に僕の体を持ちあげて、
兄さんが僕を組み伏せた。手袋の左手一本に両手首を絡め取られて、
裸の右手ではシャツをたくしあげられた。緩やかに僕に食べられようと
していた兄さんが、蛇の鋭さで僕を見下ろす。
ぞくぞくする。思い切り闘う時と同じ興奮だ。
「余裕だな、渉。その笑顔が壊れるまでなかせてやろうか」
「兄さん、怖すぎ」
お互いの忍び笑いを身体で響かせながら、噛み付き、舐め合い、
身体に腕を滑らせ這わせ、引っ掻いてまたくっついた。猫みたいだ。
「ねえ兄さん」
「ん」
「今日なに食べたい?」
「は?」
ちょっとだけ兄さんが優勢なところだったのに、ぽかんとした兄さんの
声がおかしくて、結婚式の時の恵さんを真似してキスを送ってみた。
兄さん、口元だけちょっと笑った。かわいい。
「夕食だよ」
「いや、それはわかるが…。知っているだろう、渉。僕はあまり食べることが、」
「大河君は、アイス、好きだったよね。チューチュー半分こしたり、
ガリガリ君。ソーダ味」
「!」
力が緩んだ隙を逃さずに、兄さんの首に腕を回した。
キング相手にどこまで効くのかわからないけど、思いっきり目に力を込める。
「買ってあるんだ。マスターがお勧めっていってたシャーベット。
きっとおいしいよ」
「渉…」
「デザートにしよう」
兄さんが目を伏せた。やっぱり、早かったんだろうか。でも。
「…君と別れた日は」
ためらいがちに言われた言葉の意味は、なんとなくわかった。
僕達が大河くんと渉くんだった頃のことだ。
僕のたった一人の大切な友達がある日突然姿を消した日。
「僕がファンガイアの力に目覚めた日だった。力の制御が効かず、
当時周囲にいた人々を僕はひどく傷つけた。覚えていないが、
ライフエナジーも吸った、そうだ」
淡々と紡ぐ兄さんにどんな風に触れればいいのかわからない。
…情けない。
「僕が我に帰ったとき、僕は両手足を縛られて見たことのない
部屋にいた。そこで僕を止めた島さんが重傷を負って入院したこと、
ファンガイアという存在、そしてファンガイアであるということが
持つ意味を知らされた」
止めた方がいいんだろうか。でも、続ける方がいいようにも思えた。
兄さんは、とろい僕の判断なんか待たずに言葉を重ねる。
「定期的にやってくる白い服の男達が僕の血を抜き、点滴を取り換える
回数が数えきれなくなった頃、世界がぐるぐる回って見えるようになって、
何もわからなくなったしばらく後、その部屋を出された」
(『大河さん、ぐるぐる回る乗り物は嫌いだって』)
…いつか、聞いた。じゃあ。
「部屋を出た僕に、島さんは人間の食事を与えた。何の味もしなかった」
「それ以来…?」
「味覚を感じたことはない」
優しい手が、僕の頬を撫でた。
「渉君に会いたかった。…会いたくなかった。…彼らは僕に、
人間を餌とする生き物の下劣さを教え込んだ。多大な労力をかけて、
僕のうちでファンガイアという存在を徹底的に否定させた。
でも、それは僕だ。その化け物は僕だ。僕はファンガイアだ」
それも完全なる血統を持った王の第一子。事実として知っていようが
いまいが、ファンガイアの誇りと力の在り方を、血は囁く。
僕はその声も、知っている。
「…兄さんは、人としての生き方とファンガイアとしての生き方の間で
引き裂かれた…」
「自分の存在の意味を問い続けた。僕の前にビショップが現れ、
その手を取ることを決めたその時まで」
「その後もだよ。兄さんはずっとずっと苦しんでた」
人の手に兄を残して消えたファンガイアの母。人としての生を
ファンガイアとしての兄を否定することで 強要しようとした…人々。
キングとしての兄を求めた、人間を家畜と見下すファンガイア達。
そのどのものたちも、兄さんを愛していなかったのでは、憎んでいた
のでは、たぶん、なかった。二重三重に重なり散り散りになる否定と
肯定の間で、あいしたいあいされたいと、小さなこどもの兄さんが
きっとずっと泣いていた。あの日、ドラン城の豪華な部屋、たったひとり
残されていた本当に小さな赤ちゃんを抱き上げた重さを、
僕はまだ覚えてる。
「辛かったね、兄さん」
たまらず抱きしめると、あまり甘やかすなと兄さんは笑った。
「すまなかった。こんな話をするつもりではなかったんだが」
「そんなことないよ。聞かせてもらえて、よかった」
「そうか…。ありがとう」
「言ったよね、ずっとそばにいるって。僕が兄さんを愛するよ。
今までの分も、全部」
「…それは僕の台詞だったはずなんだが…」
何かしら呟いてる唇を舐めて塞いだ。首元に噛み付いて
全部齧ってしまいたい衝動はぐっと堪えた。なんとか、言葉を探す。
「…やっぱり夕飯、作るね。何がいいかな」
「渉」
兄さんの溜息。しつこかったかな。…うざいとか。そんな。どうしよう。
「本当に生意気な上にしつこくなったな」
やっぱり。
「ご、ごめん…。だって、あの、せっかく兄さんがうちに引っ越してきた
最初の日なんだから、お祝いしたくて。ケーキも焼いて。…駄目?」
「…駄目、じゃ、ない。だが、保証はできないぞ」
「食べられるか、わからないってことだよね」
「いや、…料理なんてしたことがないんだ」
「え?」
「手伝っても役に立つ保証はない。いや確実に邪魔になるだろう。
それでも良かったら、好きにしろ、渉」
僕から目をそらして少しふてくされたように言う兄さんを、
僕は黙って見つめた。
「…なんだ。何とか言え渉。それとも諦める気になったか」
「兄さん」
「何だ」
手伝ってくれるんだ。かわいい。だいすき。あいしてる。
口にする代わりに力いっぱい抱きしめた。
「兄さん、料理以外も経験なさそうだもんね。大丈夫、
僕が教えてあげるよ。心配しないで」
「わ、渉…」
兄さんの左手の手袋に噛み付いて無理矢理剥いた。
現れた王の印に口付を落とす。手の甲と平と、両方に触れて見上げる。
兄さんは、なんていうか、悩ましげに僕を見下ろしていて、何も言わずに
僕にくちづけた。…この人は僕が守る。
そう祈りを込めていたのは僕のはずなのに、同じ思いが伝わってきて、
嬉しくて、せつなくて、泣きたくなった。
何度でも抱きしめて約束を捧げる。そばにいるよ。
やっと戸惑わずに頷いてくれるようになった兄さんの手が背に回って、
ずっとだ、って囁かれた。もちろん。ずっとだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
あふれた!ごめん!
オマケで、やっぱりやりたいおじさんがママンネタです
アホで薄いですがいちおう妊娠ネタなので苦手な方パスで
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
黒薔薇の聖母とでも呼びたくなる僕の美しい母は、
全てを包み込む慈愛と不思議なあどけなさの双方を漂わせたまま、
いつかのように僕を抱きしめ、「どうでもいいことよ」と微笑んだ。
「男とか、女とか」
「…そ、そう…かな…?」
「ええ。大切なのは魂よ。だからあなたが渉の子を宿したって
何も問題ないわ」
「きょ、兄弟なんだが…」
「強い子が生まれそうね。キングとクイーンとあの人の血を引いて
いるんだもの」
「それは、ありなのか…?」
「今は、ルークもビショップもクイーンも失われ、キバというキングの力を
もつ二人が並び立っているという、とても特殊な状況。元来個体能力は
強いけれど、生殖能力の低いファンガイアにとって、次代を担う子を
持つのは急務。どうなることかと思ったけれど…。
クイーンの力を与奪できるキングがその役目までもを担うことに
なったのね。えらいわぁ、大河」
「い、いや…」
これが数百年を越えて輝ける闇と謳われたクイーンの貫録か。
ほぼ成人まで人間社会の常人教育を受けてきた僕には凄まじく
受け入れ難く乗り越え辛い現象のように聞こえるのだが、それは
僕が未熟だから…なんだろう…。キングとして…。
ならば乗り越えねばなるまい。いいだろう。ああ、僕はいいさ。どんな
覚悟もできている。だが、渉は。恐らくは望まずして兄の子の父に
ならなくてはならない僕の弟は…。
母と話す間、しんと静まり返っていた渉を伺う。
組んだ両手に顎を乗せ、虚空を睨み付けてぴくりともしなかった
渉の顔はひどく白く固い。
そうか、受け入れ難いか。そうだよな。
むしろ一抹の安堵を覚えた僕の前に、渉は突然立ち上がった。
ひしと両手で両手を握りしめられる。
「兄さん」
「あ、ああ。何だ渉」
「ありがとう」
「何ッ」
弟の細い顔にひとはけ刷いたように朱が走っていた。美しい。
いや、でなくて。
「僕、生きてて初めて好きになったひとが未央さんで、
あんな風になって…。この先、誰かを好きになったり、
こ、子供をもったり、できるのかなぁ…って、思ってたんだ。
まさおが僕のこと父さんっていってきてくれたけど
なんか、想像つかない、っていうか…。でもわかったよ。
兄さんだったんだね」
「渉…」
「大好きな大河君が、兄さんが、一緒に生きてくれて、
家族をくれるなんて。本当にありがとう。必ず、幸せにします」
真摯な眼差しと声。渉。すごいな、戸惑いの顔を見るとばかり思ったよ。
君、生まれた時からずっと人間育ちだったよね?これが先代キングから
愛の一文字でクイーンを奪った男譲りの柔軟性と底力なのか。一度
会ってみたかったな…伝説の男。あのまさおが瓜二つだというが、
彼が生まれるのはこの先、あ、産むの俺か。
少しばかり目眩がした。
兄さんつわり!?と叫んだ渉に支えられた視界の先で、母さんが
優しく微笑んでいた。あなたしばらくクイーンだからキングの方は渉と
ちょっと交替ね。マジですか母さん。
まあいい、キングなんてちっぽけなものだ。
兄さん兄さん大丈夫と一瞬前の貫録が嘘のような弟の背中を
ぽんぽんと叩いてやりながら、心底思った。
まあいい。ああ、いいかな。
この先どんなことになろうとも、どうやらもう一人ではないらしい。
□ STOP ヒ゜ッ ◇⊂(・∀・ )イシ゛ョウ、シ゛サクシ゛エンテ゛シタ!
どうしても祝いたかった!色々申し訳ない
おそまつさまでした
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