Top/45-130

学校であった怖い話 風間×荒井

SFCソフト『学/校であった怖い話言舌』 風間×荒井
元作品の特性上若干のぬるいグロ表現有りなので
申し訳ございません、少しでも苦手な方はすっ飛ばして
頂けるとありがたいです

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 昼間の喧騒を忘れた真夜中の学校というものは、薄気味が悪いものだ。

 身体の前で組んだ両手に確かな重さを落とす小さな鉄の塊をぎゅっと構え直し、男はきょろきょろと
左右を見回すと周りに誰もいないことを確認してから月明かりが落ちる長い渡り廊下に脚を
踏み出した。
 蒼い月光の下、長い漆黒が足元から映し出される。
 すらりと伸びたその自分自身の綺麗なシルエットに小さく舌打ちを落とした。
 何て事してくれちゃってるの、こう長い影を落とされてしまったら上階にいる奴らに自分の位置が
分かりやすくなってしまうじゃないか、と。

 懐中電灯も持たずわざわざ暗がりを移動しているというのに、月って奴はちっともそこらへんお構い
無しに僕の努力を台無しにしてくれる。まったく嫌になるね、でもそういった綺麗なのに扱いづらいって
所はキライじゃないけれども。
ぶつぶつと呟きながら取り敢えずはさっさと移動してしまおうと月明かりに照らされた長い渡り廊下を
一気に駆け抜けた。
 長身をやや猫背気味に倒して走る男の名前は風間望。3年生の間ではいい意味でも悪い意味
でも有名人の一人だ。甘いルックスとスマートな振舞いは彼の周りの女生徒を悉く虜にして、ナルシスト
且つ電波な発言は彼の周りの男子生徒を例外なくドン引きさせる。
 いつだって飄々とした態度を崩さず適当に面白可笑しく生きているような男の、真夜中の学校で
だけあらわれるもう一つの顔を知っているのは同じ秘密を共有する六人の生徒だけ。

「まぁ、僕は他の奴らみたいに最後に仕留められなくても、適当に得物の怯える顔見られれば満足
なんだけどねぇ・・・」
 止めを刺すのは楽しいけれども、返り血が制服につくのは後々面倒臭いから。独り言のようにぽつり、
と呟き今この瞬間も校内のどこかを逃げ回っている獲物の姿を思い浮かべ舌なめずりをした。
 同じ秘密を共有する者達といっても、己達の間に仲間意識など最初から存在しない。
 むしろ、部活動と称する狩りを楽しむ時には、互いの存在が邪魔に思えることすらあるのだから可笑
しな関係だとつくづく思う。狩場は、広い校内。そして獲物は同じ学校の、生徒。つまり人間。
 殺人クラブという何の捻りもない安易な呼び名で括られた、その歪な集団を束ねる男は今頃どこ
で高見の見物を決め込んでいるのやら。自分にも、他の面子の誰にも腹の内を読ませないその男
を筆頭に今この校内で息を潜め蠢いているのは頭のイカれた奴らばかりだ。

 勿論、認めたくはないけれどおそらくこの僕も。

 人を殺める理由も、それぞれ一様に違っている。
 理解し難い持論で愛する者を殺し永遠に自分の手から逃がさない事を望む女、トモダチ欲しさに
生きているものと死体の境界線すら崩してしまった哀れな男、・・・もっとも殺人よりも獲物と戦うこと
に重きを置いた、命を懸けた真剣勝負そのものに興奮するスポーツ馬鹿も中にはいるけれども。
 金属バットで獲物の脳天を叩き割った後で、生命活動を止めた残骸にはまるっきり興味を失って
しまう同級生の男を思い浮かべ苦笑した。そう、狩を楽しむ為にはこの残酷な仲間達よりも先に獲物
を探しじっくりと甚振らなければならない。有能なハンター達を出し抜き自分が獲物の生殺与奪権を
得ることが大切なのだ。

 ずっと耳を澄ませてはいるけれども、さっきから獲物の悲鳴は一度も聞こえてこない。まだどこかを
ふらふらと彷徨いながら逃げ惑っているか、それとも狭い場所に隠れてがくがくとみっともなく震えて
いるのか。どちらだとしても、すぐにこの天使のような僕が哀れな君に永遠の安らぎを与えてあげる
から安心したまえ、ただその前に少しだけ痛い思いをしてもらうかもしれないけれども。
 でも僕は紳士的で優しい男だからね、同じクラブに所属する一つ年下のあの厄介者に見つかる
よりどれだけ安楽な死に臨めることか。二年生の荒井昭二、あの男はいけない。陰気で糞生意気で
残酷で。何しろ獲物に対して抱いているのは純粋な死に対する知的好奇心を満たしたいという欲求
だけだ。
慈悲の心なんかどこにもありやしないから冷淡に、幾ら獲物が泣いて命乞いをしても少しの手加減
も無しに「実験」を遂行する。この間の実験は、確か「目を刳り貫かれた上に止血を施された人間が
どの程度存命していられるか」、だったかな。まったく綺麗な顔して随分とイイご趣味をお持ちなものだ。
 薄笑いを浮かべながら話していた彼の横顔に、流石の僕もその時は少しばかり背筋が寒くなった。
 他の六人が獲物に残酷な死を与える死神だとするならば、僕だけは獲物に安らかな死を与え
この世の苦痛から開放してあげる事が出来る天使なのだ。だから他の誰よりも先に獲物を見つけて
あげなければならない。

 愛用の銃をしっかりと握り、誰にも見つからず渡り廊下を越した僕はそこで目にしたものに思わず
立ち止まり、ぁ、とも、ぉ、ともつかない上擦った声をあげてしまった。
 階段の影に隠れるように蹲っている小さな黒い塊。はじめは”獲物”かと思ったそれは、自分が
引き摺った黒い血の跡ごと身体を折り畳むように項垂れていた。
しかしそれが今夜の標的などではなく、たった今自分が脳裏に思い浮かべていた人そのもので
あることにひどく驚かされた。
「荒井・・・君?」
 訝しげに名を呼ぶ己に、黒い影は緩慢な動作で頭を擡げそして自分の前に立つのが僕だと
認識すると気丈にも口唇の端で笑って見せた。
「あぁ・・・あなたですか」
 普段と何も変わりない棘を含んだ物言いにこちらも苦笑いを浮かべた。どうしたの君、腹から
そんなに血を流して悠長にしていたら死んじゃうよ?そう暢気に言葉を続ける僕に、彼は鼻で笑うと、
そうかもしれませんねと小さく呟いた。

 さてさて、これは予想外の事態だ。

 狡猾さでは他の追随を許さない彼がこう易々と深手を負わされるような事態に陥るとは。
 誰かを裏切ったのか、それとも誰かに裏切られたのか。
 そもそも自分達の間では裏切りという言葉そのものが相応しくないような気もする。
それぞれが自分自身の欲を満たす為だけに動いているのだから、邪魔になると思えば仲間でも
容赦なく始末する。それが至極当然の事だからだ。
 今時の高校生の標準に満たない華奢な体躯の彼を見下ろしたまま僕はその場に立ち竦んだ。
 このまま放っておけば間違いなく荒井は死ぬだろう、運がよければ失血死、悪ければメンバーの
誰かに見つかり残酷に止めを刺されて。

この腹の傷は鋭利な刃物の類で深く抉りつけられたものだろうか?
獲物を屠る武器に刃物を用いる事を好む奴等の顔が順番に浮かぶ。
厄介だな、と素直に溜息を吐いた。刃物狂といえば一筋縄ではいかない連中のなかでも
とりわけ頭もきれて身体能力も高い数人の顔しか浮かばない、しかも荒井の傍らに転がっている
彼愛用の鎌には一滴の血も付着していない。
手負いは彼だけ、完全に彼の分が悪い。

「荒井君、こりゃ君いよいよゲームオーバーだよ。残念だねぇ、明日から生意気な後輩がいなくなると
思うと僕も寂しくなるなぁ。ま、あの世では精々今より素直になって楽しくやりなさいね」

 動けない標的にそっと照準をあわせて、僕は銃を構えた。
 命の灯火が今にも燃え尽きようとしている男に慈悲を与える為だ。思えばこの後輩とは出会ったその日から
絶望的にうまが合わなかった。こちらのやる事成す事全てに難癖をつけてきて、時には非力な癖に喧嘩を
吹っ掛けてきたこともあった。勿論軽々と返り討ちにしてやったけれども。
「サヨナラ、根暗君」
 そう囁いて引金を引こうとした時、彼は長く伸ばした前髪の間から僕を仰ぎ見、そして笑ったのだ。
 ふつ、と思わず息をする事も忘れてしまいそうな、はじめてみる彼の氷のような冴え冴えとした笑顔に一瞬
頭の中が真っ白になり、慌てて取り落としそうになった銃を持ち直した。参ったな、生を諦めた人間の癖に、
この僕に失う事を惜しいと思わせるなんて君そりゃ反則だよと口の中でぼやき、引き攣る頬を片手で押さえた。

―「・・・なぁ、風間。お前、荒井のことどう思う?」
―「・・・ン?どうしたのいきなり。日野ってああいうの好みだっけ?意外や意外、あ、それともメンバーとして役に
  たっているかって話?それなら・・・」
―「・・・とぼけるなよ、お前」
―目で追ってるの、知ってるんだぜ?そう眼鏡越しの瞳を歪めて笑った男の顔がどうしてこんな時に思い
  出されるのか。
―馬鹿だなぁ、殺人と違って恋愛には先手必勝の法則は成り立たない、むしろ逆なんだよ分かってる
  のかい?先に好きだって認めちゃった方が負けなんだから、僕は負ける勝負なんかしたくないんだよ。

「したく、なかったんだけどね」

 ぼそり、と呟いた僕の言葉に荒井の瞳が薄らと開かれ、なにを愚図愚図しているんだと言いたげに伏せられた。
 そして裏で張られた糸の存在にも気づいてしまった。彼にここまでの深手を負わせた奴はどうして追ってこないの
だろうと、まるで手負いのままわざと逃がして僕と会わせる事を最初から目的としていたような。彼を傷つけた相手
が今僕が思い浮かべている男で間違いないのならば、恐らく彼が仕掛けたゲームの真の標的は

「この僕ってわけかい・・・」
 はは、と乾いた笑いが口唇から零れ落ちた。
 ジジジ、と耳障りなノイズをあげて脳内のスクリーンに表示されている画面が別のものに切り替わる。
 校内に放たれた獲物の命を狩るといういつもどおりの部活ではなく、手負いの想い人を抱えて5人の殺人鬼
が潜む校内から無事脱出する僕だけのゲーム。難易度、急に高くなりすぎじゃない?そう力なく笑う僕を彼は不思議
そうな目で見上げている。日野から今夜の標的は僕だ、と告げられればあの殺人狂達は嬉々として躊躇いもなく
僕も、荒井も始末するだろう。
相手が誰であろうと楽しめれば構わない、そういう奴らだ。
無傷で切り抜けられる確率は悲しいほどに低い、でも。

「クリア後の報酬は恐ろしいぐらいに魅力的。やるしかないでしょ」
 君が僕のものになるのならば、そう心の中で呟き訝しげな顔をしたままの荒井の前で銃を下ろし、その代わりに
制服のシャツを裂いて彼の傷に簡単な止血を施す。呆気に取られたままの痩身を背に担ぎ上げ、自分が愛用して
いる銃を肩越しに彼に手渡した。幾らけが人だといっても後ろからの敵に引金を引くことぐらい出来るだろう?
そういう僕に、彼は呆れたように溜息を吐き「僕がこれであなたの後頭部を撃ち抜くとは考えないんですか?」と
憎まれ口を叩いた。

「悪いけど今日は前方だけで僕も手一杯みたいなんだよね、あ、君の鎌は僕が借りるよ、後ろは荒井君に任せた。精々
僕の弾除けとして奮闘してくれたまえ」
 月光を刃先に集めて鈍く光る鎌を、感覚を確かめるように幾度か振ってみる。慣れない得物だけれどもこの武器のエキスパートが
すぐ後ろにいるわけだし、まぁ何とかなるでしょ。
 心が定まれば、後はこの糞ッ垂れなゲームをハッピーエンド目指してクリアするだけ。
 背に感じる彼の重さがどういうわけか、枷ではなくもっと別なもののように感じられて知らず笑いがこみ上げてきた。
 いいね、ゾクゾクするよ最高だ日野貞夫。自分の命が危ういこんな状況ですら興奮に胸躍るのだから、大概僕もまともじゃない。
 タイム制限有り、残り時間を刻むのは時計の文字盤ではなく守るべき相手の腹から引っ切り無しに滴り落ちる赤い雫、のんびり
している時間はないなと僕は自分の両頬を叩き、再び夜の闇の中を駆け出していった。

=====================================================

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ここまで読んで下さった方どうもありがとうございました

  • とても良かったです!! -- 2018-04-27 (金) 04:53:29

このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP