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知恵の実 ぐりむ×りんご

週刊じゃんぷ四・五号読み切りのAPP/LE
6年後ぐりむ19歳さとし23歳
2人で何回も地球の危機を乗り越えたあと、さとしが人間化してその後の話

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

数ヵ月前、僕はアップルとしての能力を無くした。
そういうことは 今まで何回かあったけれど
(というか、能力の復活で僕達は地球の危機を知るのだ)
今回はそれとはわけが違うらしい。
生物学的にも完全に人間になった。というか、「人間に変身したまま」固定されたとか。

といっても、僕の生活が変わったわけじゃない。部屋の監視カメラや、定期的な検査が無くなっただけだ。
住んでるところも、前と変わらない。
ぐりむは、「良かったな!」なんて言いながら涙目になっていたけれど。

むしろ変わったのは、彼の生活の方だった。
APPLEの研究が終了したと知れると、あらゆる方面から新しい研究の依頼が山のように来たのだ。
そういうわけで、彼の毎日は鬼のように忙しい。前は一日中一緒だったのに、今では家にすらたまにしか帰ってこれない。
僕はいつも通り、テレビを見て音楽を聞いて過ごすだけ。

『来週もまた見て下さいねぇー!じゃん!けん!』

「あ、負けた…」

毎週見てるアニメが終わったので、とりあえずテレビを消す。
そして、問題集に手をつける。
なんだかんだあって小さい頃学校に行けてなかったので、
グリムの勧めで勉強を始めたのだ。
初めの方は 僕が九九も言えないのにびっくりされたけれど。

「んー?ここは、なんでこうなるのかな」

グリムを手伝うことが出来れば、と思って始めた勉強だけど、道はまだまだ長いみたいだ。この問題は、あとでグリムに聞こう。

**

しばらくすると、使用人さん達がバタバタし出した。グリムが久しぶりに帰ってきたみたいだ。

「おかえりー」

ぐりむの部屋の扉を開ける。
彼はもうパジャマに着替えていた。

「ただいま」

「あ、植えてたきゅうりの花が咲いたよ。」

「そうか…」

「あとね、メイドの赤城さんがねー」

「ふーん…」

「それでね、あのアイドルが引退するんだって」

「………」

「それから、えっと……
 …あ、そうだ。今日数学でここがどうしても分かんなくてー…」

そう言って差し出されたプリントは、
グリムにとっては説明するのも面倒臭くなるほど簡単な問題だった。

「申し訳ないが今日はもう寝たいんだ。
 そんな下らないことに構ってられるか!」

あ、やばい。
なんか語尾がキツい感じになっちゃった。

グリムは しまったとサトシを振り向いたが、
彼の目線は既に下を向いていた。

「あ、」と口を開いて謝罪の言葉を出す前に、向こうが先に謝ってきた。

「あ…そうだよね、ごめん。おやすみ……」

なんでだよ、今の状況は明らかに僕のほうが悪いだろ。なんで謝るんだよ。

パタン、と閉められたドア。急に静かになる部屋。
追いかけて弁明すべきだと分かっていたが、
そんな気力も体力も、グリムには無かった。もう3日も寝ていないのだ。
ふらふらと、ベッドに落ちるように倒れ込む。
眠りの闇に沈みながら、グリムは反省する。
世界的な難問に向かいあって疲れきったグリムに
サトシの質問はくだらなく思えたのは事実だが、
あまりの疲労のせいで言葉を選べなかったのは失態だった。
やはり睡眠は脳のために必要だ。仮眠くらいは摂らなければ。
それからあいつには、明日の朝 謝って夕食は一緒にする約束をしよう……

目を合わせることなくドアを閉める。
彼は今日機嫌が悪かったみたいだ。
勉強のこといろいろ聞くの、ひょっとして迷惑だったのかな。
そのまま、自室に向かう。
グリムのことは頭から閉め出し、次に見るドラマのことを考えることにした。
いつものように、寝支度を済ませて飲み物を用意して、テレビの前でスタンバイする。
だけど、いつもと違う。楽しくない。ドラマが全然面白くないのだ。
先週はヒロインが幼なじみに告白しかけたところで終わって、続きが待ち遠しかったのに。

『これは、友情だと思ってたの…』

画面で女優が泣いている。
それを無感動に眺めるサトシは、自分がテレビを見ずにグリムのことを考えてるのに気が付いた。
ドラマに集中しようとするけれど、どうしてもできない。
寒色系の感情が、心の中を支配する。
どうして僕は悲しいんだろう。
今は部屋の中のお気に入りの場所にいて、好きなテレビを見て、楽しいはずなのに。

前は、こんなんじゃなかった。
グリムに出会う前は、テレビと音楽さえあれば満足できていたのだ。
今はどうして、こんなに辛いのだろう。

電気を消して真っ暗な部屋の中。
画面の光が、サトシの顔を薄ぼんやりと照らしている。
ドラマは更に展開していく。

『こんなに辛くて、悲しいなら、最初から出会わなければ良かったっ……!』

「…出会わな、ければ……」

心に突き刺さる台詞。まばたきを一つ。
女優がドアを閉めたのと、サトシが立ち上がったのは、ほぼ同時だった。

*

翌朝、サトシは部屋から消えた。

そのことを使用人から告げられると、舌打ちをして大急ぎで支度をする。
久しぶりにぐっすり眠ったから調子がいい。

「坊っちゃま、どこへ行かれるのです!?」

「決まってるだろ!あいつのとこだよ!」

「しかし、今日はご予定が」

「そんなもんお前らでどうにかしろよ!」

バァン!と執事の鼻先でドアが軋むほど盛大に閉めて飛びだす。
正直言うと、今日の仕事を休むと「そんなもん」程度の損害では済まないのだが。
何よりも優先される最重要事項のために、グリムはできるだけ急いだ。

目的地は決まっている。あいつが向かう場所なんて一つしか無いじゃないか。
向かう場所は日本・東京郊外・だだっ広い空き地。
6年前、あいつの家があった場所だ。

案の定、サトシはそこにいた。
初めて他人と共同生活をした、僕にとっても思い出深いその場所は
もともとボロかったせいもあり すっかり崩れて今は外壁のみになっていた。
そして幾多の地球の危機を救ってきたヒーローは
瓦礫の一つに腰かけて どこを見るでもなく ボーッとしながら音楽を聞いている。
丸まった背中とか、擦って真っ赤な目元とか、先が少し傷んだ長い髪の毛とかがみじめで、みじめで。
やっぱり迎えに来て正解だったと思うのだ。

「おい、お前はいつまで経ってもアホタレだな」

「グリム…」

「お前の行動範囲なんか把握済みだ。
 どうして施設を抜けたんだよ」

「…ごめん、自分でもよく分からないんだ……」

「あ?」

「あのさ、どうしてグリムは僕と一緒にいるの?」

「何だよいきなり。
 つか聞くなよそんな事。
 お前は俺の、友だ…いや違う。家ぞ…これも違う」

「?
 じゃあ何なの…」

「うるさい!言語化することが難しいんだ!
とにかく、法律的にもお前の家はここじゃねーよ。帰るぞ…って何で泣くんだよ!」

「僕…もうAPPLEじゃないし。研究対象じゃ、ないし」

その言葉に、グリムはさらに眉を寄せた。

「研究対象だから傍にいたと思ってたのか!このバカ!!
 なんでわかんねーんだよ!!」

「分かんないよ…もうあっち行ってくれないかな…
 僕、またここで暮らすから…」

「ああその通りにしてやるよ分からずや!!」

そう言うと彼は背を向け、振り返らずその場を後に「だぁぁああ!!!んなことできるわけないだろぉぉお!」

…せず、険しい顔でズンズン早足で向かってきた。

荒々しくサトシの腕を掴んで立たせると、くるっと向きを変えてまた早足で歩き出す。
急に引かれてつまずきそうになった。強く掴まれた手首が痛い。

「いたいよ」

「悪い。…悪かったよ。」

そう言いつつも力を緩める気はないらしい。振りほどけそうにない。
痛い。いつの間にこんなに力が強くなったんだろう。
見下ろしていたつむじも今は見えなくなってるし、肩幅だって彼の方が大きいかもしれない。
ピンと伸びた背筋も、つり上がった眉も、僕とは正反対だ。

「あー…。今やってる仕事が、もう少しで一段落しそうなんだ。
 このままじゃ体を壊しそうだし、引き受ける仕事の量も減らすつもりだ。だから…」

彼に引っ張られながら、…不思議と、幸せな気分になっていく。
彼の手が与えてくれる、痛みと暖かさ。
きっとこれからも 色んなことを彼に教えてもらうのだろう。
星座とか、経済のしくみとか。痛みと暖かさの混じった感情なんかも。
今気づいた。僕は寂しかった。
好きな音楽と、好きなテレビと、もう一つ必要だったのは……

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

グリムは自分の気持ちにうっすら気づいてるけど別の名前を付けようとしていて、
さとしはそもそも自分の感情に無頓着(言われないと気づかない)で恋とか言われてもピンとこない感じ


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