黎明
更新日: 2011-04-23 (土) 16:23:43
以前神話スレで挙がった洗礼者ヨハネ×イエス様です。
※使徒ヨハネとは別人です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
黎明 †
あの日、天が開き、神の霊が白い鳩となって彼の上に舞い降りて来た。
私はそれを見た。
天から声が聞こえた。「私の愛する子。私の心に適う者・・・・」
私はそれを聞いた。
一年で最も夜の長い季節。だが、ちょうど今時分を境に、太陽は少しずつ、その力を取り戻してゆく。
まだ夜の明けきらぬ冷気の中、清冽な水で顔を洗い、いつもの駱駝の毛衣に着替えて寝室に戻った。もう目を覚ましたかと思いきや、彼はまだ、純白の寝間着を着たまま、寝台の上で寝息を立てていた。
そのあまりに無防備な寝姿に、子供の頃を思い出す。彼に関する最も古い記憶は、ちょうど今のようにすやすやと安らかに眠っている顔だ。母に連れられて、親戚のマリアの家に遊びに行った時のこと。暖かい春の日で、戸外だった。私と六ヶ月違いで生まれたという彼は、母と私が訪れた時、既に遊び疲れていたらしい。黄金の日溜まりの中、マリアの膝の上で安心しきって微睡んでいた。
幼かった当時、母親というものはみんなうちの母のように年老いているものだとばかり思っていた。だから、マリアのような若い母親もいるのだと知って驚いた。あんなに若くて美しくて、ヨセフのようなしっかりとした頼り甲斐のある夫もいる。そして何より、誰からも将来を期待されるほど利発で、誰からも愛されるようなかわいい息子がいるのだ。これ以上は何を望むべくもないほどに幸せだろうと思われた。実際、母も繰り返しそう言っていたし、マリアもその都度、「ええ、本当ね」と微笑んでいた。
それなのに、彼女が時々、ふと寂しそうな顔をするのが子供心にも不思議だった。幼い息子を見つめる彼女の瞳が、慈愛に満ちていながらもどこか哀しげな色を帯びていたのが強く印象に残っている。
「おはよう」
気がつくと、彼が寝台の上に身を起こし、ぱっちりと開いた目で私を見ていた。子狐のようにキラキラ光る円らな瞳は子供の頃からそのままだ。
「何顰め面してるの?」
「私はいつも」
顰め面してるんだ、と言おうとしたが、彼が私を掴んで引っ張り、唇を吸ったので、できなかった。
満足するまで、一頻り唇と舌とを味わった後、彼がつくづくと言う。
「ヨハネのキスってプラムみたいに甘い。不思議だな。普段あんなに厳しく人々を戒めてるのと同じ口なのに」
なんでこういう台詞を照れもせず、子供みたいにあっけらかんと口にできるのか、理解し難い。
私が居心地悪そうにしていると、更に追い討ちをかけてくる。本人は至って天真爛漫なもので、そんな自覚は一切ないのだろうが。
「ヨハネって結構女の人にモテそうな気がするけど、どうなの?」
おまえほどじゃないよ、と言おうと思ったが、やめた。
「さあな。女性には潔癖だから」
男性にはもっと潔癖だったつもりなんだが。
「どうする?こっちには全くその気がないのに、一方的に惚れられたら。しかも、『首を刎ねてでも、思う存分キスを楽しみたい。生首ってポータブルOKだし、死人の唇ってひんやりしてて気持ちいいの~。応えてくれないのはちょっと寂しいけど、もう憎たらしいことも言わないし、断られる心配もないしね♪』とか、そういうちょっとマニアックな趣味のスイーツ(笑)だったりしたら」
軽口を叩きながら、私を寝台に引きこみ、皮帯を解き始めた。折角着たばかりの毛衣をさっさと脱がせにかかる。こんなだらしのないことは、以前の私なら大嫌いだった。いや、今でも大嫌いなのだが、彼相手だとなぜか悪い気持ちはしない。
「・・・・このご時世に、縁起でもないこと言わないでくれ」
「こんな恐ろしげな、ごわごわチクチクしたもん着てないで、もっとこざっぱりした、肌触りのいいもの着ればいいのに。私みたいに。ラビはビジュアルプレゼンテーションも大事なんだぜ」
「おまえの方こそ、その革新的すぎる所がいのち取りにならなきゃいいが」
天使の羽で織ったような、滑らかで柔らかい素材の寝間着の上から、固くなった乳首を指先で探り、キュッと摘まんだ。彼が溜め息をつき、裸の肩に頭を寄りかからせてくる。緩急をつけながら、指の腹を使って二つの乳首を擦り上げてやる。直に触れてほしいのだろう、息を乱し、私の手を掴んで寝間着の中へ導こうとする。だが、私はすげなくその手を拒む。
彼は起き上がり、顔を曇らせて私を見た。
「私はいずれヨハネの所を巣立って行かなくちゃいけないのに、冷たいんだね」
「エッチなら夕べ、あんなにしたろ」
「いや、そういう問題じゃなくてさ」
彼がまじめに話したそうだったので、口調を変えた。
「そう。あなたはもうじき、神の子として、より多くの人々を救う為に旅立たなくてはならない。私などに関わっている暇はない」
私の弟子の中にも、彼こそ預言されたメシアと信じて慕う者たちがいる。その者たちが私の元を離れ、彼に従いたいと言うなら、快く送り出すつもりだ。
確かに、私と彼とは近い血で繋がっている。私は彼に水で洗礼を授けた。そして、何をどう間違ったか、男どうしでありながら、こうして心と体が結ばれる運びにもなった。
しかし、本来ならば、私は屈んで彼の――いや、その方の履物の紐を解くにも値しない存在なのだ。
こちらの胸の内を悟ったかのように、彼は私の頭を抱えて胸に引き寄せた。干した海草のように黒くて強い癖毛を、まるで小さな子供にするように、愛おしそうな手つきで撫でてくれる。
「そんなことない。ヨハネは私にとっても神にとってもみんなにとっても、とても大切な人だよ。ううん、大切じゃない人なんてこの世にはいないよ。でも、私にとってのヨハネは本当に特別な人なんだ。
約束する。私が将来、沢山の人を教え導くようになっても、なかなか訪ねることができなくなっても、もう二度と会えなくても、ヨハネのことはずっと愛してるし、尊敬するし、心に懸ける。弟子にも、他の人にもそうするように言うよ」
それから、私の目を覗きこみ、勢いこんで言った。
「だから、もう一回、しよ」
「それが言いたかったんかい!」
再び彼を寝台に横たえ、寝間着の胸元をそっと開いた。私の愛撫を待っている所に顔を寄せるが、乳首は疎か、乳輪にすら触れないように、周辺をゆっくりと舌でなぞってゆく。 不服そうに身動きするのを見て小さく笑い、上下の唇で柔らかく乳輪を食んでやる。彼が 切なげな声を上げて初めて、そそり立った乳首を舌の上で転がし、舌先で何度も弾き、両の乳首を代わる代わる強く吸い立て、貪った。
清らな顔に苦悶にも似た色を滲ませ、掠れた声で途切れ途切れに私の名を呼ぶ。それを見聞きすると、もう矢も盾もたまらなかった。引き千切るように寝間着を剥ぎ取り、生まれたままの姿にすると、夢中で彼を掻き抱いた。首筋に、胸に、腹に、肩や背中や太腿の内側までも、点々と愛を刻みつけ、呻き声を上げながら、屹立する男根にしゃぶりつく。
いつものことだが、結局何もかも、彼の思い通りだ。思えば子供の頃から、二人で遊ぶ時も、大勢の時も必ずそうだった。ふと我に返って苦笑いする。
彼の頬に軽く口づけ、枕の上に扇のように広がる、しなやかな茶色の髪を指で梳いた。
「おまえはやっぱり預言通りの、ユダヤの王、いや世界の王になるよ」
「何?急に何言ってるの?」
息を弾ませ弾ませ、無邪気に問いかける。曾て私が頭の先から爪先まで洗い清めてやった男。その晩、当然のように私の褥に潜りこんで来た男。
拒まれるなどとは露ほども疑っていなかった。実際拒まなかったのだが。
彼にとって、私は初めての男性だったようだった。私にとっても彼が初めての男性だったのだが。
あの晩、
「ヨハネと会うの久しぶりだけど、思い出すね。子供の頃、よくこうやってくすぐりっこして、転げ回って遊んだり、同じベッドで眠ったりしたじゃない?」
と言った彼に、
「そんなに早熟だった覚えはないが」
と返したものだ。
「・・・・ヨハネ・・・・早く」
彼が私の充血した部分を強く掴む。
「待ちなさい。まだ・・・・」
彼の亀頭から滴る雫で、奥に通じる部分をよく湿してやる。
彼の体をこれっぽっちも傷つけないよう、ゆっくりと慎重に、腰を沈めてゆく。彼だけのものではない、無論私だけのものでもない、全人類の為にある、大事な体だ。
彼を世になど出すことなく、こうしてずっと一緒に過ごせたら、ずっと私の元に留めておけたら、いつまでもこの腕に抱いていられたら、どんなにいいことだろう。
だが、それは神の御計画に反すること、叶わぬ望みだ。
彼を繰り返し突き上げながら、深く唇を合わせ、舌と舌とを絡ませ、握り合わせた手を強く強く、敷布に押しつける。
その代わり、今だけは、この一時だけは、二人だけの世界だ、ナザレのイエス――。
頬に冷たいものが触れ、彼が涙を流しているのに気づいた。
「どうした。痛かったのか」
「・・・・ううん」
彼はかぶりを振って、私の肩に顔を寄せ、尚も静かに声を殺して泣き続けた。
「私には、最後に大きな仕事がある。それが何かはまだはっきりとはわからないけど、その時――私が愛する人たちに裏切られて、天の父さんからも見捨てられて、一人ぼっちでとても苦しい、惨めな思いに耐え忍ばなくちゃいけない時、あなたはもうこの世にいない、そんな気がしたから」
彼の肩を抱き寄せ、やさしく髪を撫でてやった。
「怖いのか。寂しいのか。荒野で悪魔を打ち負かしたおまえが?」
「・・・・うん」
と頷き、洟を啜って、「ちょっとだけ」と付け加えた。
彼を強く抱きしめてから、その顔を覗きこみ、頬の涙を手で拭いてやった。
「大丈夫。おまえなら世界を救える。世界を明るく変えられる。千年、二千年後の人々だって、おまえに励まされ、勇気づけられるさ。だっておまえはその為に来たんだろう?」
私の血族。私の幼馴染み。私の恋人。私の最も輝かしい後輩。
そして、私の最も偉大な師であり、やがて私の罪をも洗い流し、救って下さるお方――。
彼はまだ長い睫を濡らしたまま、無理に微笑んでみせた。その健気な様子に、胸が痛くなる。
「そうだよね」
空元気を出して寝台から滑り降りると、衣服を身に着けに隣の部屋へ行こうとする。
「出かけるのか」
「うん。今日はアンデレが兄さんを紹介したいって言ってたから。漁師って大工と違って早起きなんだよな~、いやんなっちゃう」
「服着たらな、ちょっと台所の戸棚の上見てみろ」
そう声をかけて、彼が驚きの叫びを上げ、私の贈った杖とストールを持ってこっちに戻って来るのを待った。
「ヨハネ、これ、私に?どうして?」
「おまえの誕生日だろ、今日」
彼は今初めて、そのことに気づいたような顔をした。それから、嬉しそうに私に抱きついて来た。
Fin.
†
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
タイトル、「二千年と八年前から愛してる」にしようかと本気で思った。
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