オリジナル 元警官と銃
更新日: 2011-01-12 (水) 00:18:14
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
その銃は、男が警官であった10年と、逃亡者となった半年の間
共に死線をくぐり抜けてきた……。
男が警官を辞めた日、銃は己の周囲から見慣れた仲間が消えたことに気付いた。
汗と血、埃と硝煙のこびりついた制服や警棒はどこへ行ったのだろう?
同じ金属で出来ていながら鋭い光を放つマグライトはなぜ側に居ないのか。
そういえば、周囲の景色も違うようだ。いつものざわついたロッカーではない。
同じように薄暗く、冷たい場所ではあるが。
その頃から、銃の中には一発の弾丸だけが収められるようになった。
銃は普段から、弾丸などに意識を傾けたりはしない。射撃場で、現場で
それらは自分の内部をただ通過するだけの部品だ。たまに上手く排出されず
恐怖と憤りを感じさせられることはあったが、小さな鉛玉になど
いちいち気を取られる暇は無かった。そう、これまでは。
弾丸「……あの」
銃「……」
弾丸「なんだか、今日は冷えますね。なんて……」
銃「……」
弾丸「……すみません」
驚いた。ひとつには、こんなにも長い間、同じ弾丸と過ごしていること。
自分はもう、お払い箱なのだろうか。そしてもうひとつは、これまで
ただの消耗品と思っていた弾丸の一つにも、物としての個性があることに。
そういえば、剥き出しのままでこの冷たい場所に横たわって以来
自分の内部には、この弾丸しか居ない。
弾丸「……えっと、銃さんはこの仕事、長いんですか?」
弾丸「結構、待つもんなんですね。その、仕事まで」
弾丸「俺、仲間たちと話してたんですよ。どんな対象に向かって
行くのかなー、って。まあ、俺なんかみたいな大量生産の消耗品は
ほとんどが射撃場の的に当たるとか、威嚇のために地面にめり込むとかで
終わるんでしょうけど、ご主人は警官じゃないですか。警官の弾丸として
配属されたからには、やっぱり危機一髪!って場面で活躍したいよなー
なんて……」
弾丸「あの、俺、喋り過ぎですかね」
銃「……」
弾丸「すみません、怒ってますか……?」
銃「……お前」
弾丸「はい!」
銃「知らないのか……」
銃は、弾丸に語った。こんなにも長い間、整備もされずに放って
置かれるのは初めてであること、そして、おそらく主人は警官という職を
退いたであろうことを。もう二度と、主人と共に戦う日々は訪れないの
だろうかという不安は押し殺し、淡々と、言い聞かせるように。
弾丸「そうですか……はは……道理で、待機が長いと思いました」
銃「まあ、いいんじゃないか。目覚めてすぐに、射撃場に向かわれるよりは」
弾丸「そうですね……いえ、でも……」
銃「なんだ」
弾丸「俺は、何かに向けて飛ぶために産まれてきたんです。俺たちは
目覚めた時から、そういう……抗えない衝動みたいなものに捕われて
いるんだと思います。どこか、遠くへ向かって飛びたいっていう……」
銃「そして、死ぬのか」
弾丸「いや、まあ……そうですけど」
銃「飛び出した先で、何かを殺すこともあるというのに、か?」
弾丸「……」
弾丸は、それきり黙ってしまった。
その夜、銃は長い間、自分の言葉を苦い思いで反芻していた。
殺すこともある。それが、正しいかどうかは自分たちに判断できることでは無い。
しかし……。
これで、良かったのかも知れない。数え切れないほどの弾丸を送り出し
時には生物を傷付けてきた自分だ。この、何処とも知れぬ冷たい闇の中で
錆びた鉄くずとして朽ちるのが、似合いの結末なのだ。
だが、この若い弾丸はどうなる?
遠くへ向かうために産まれてきた、か……。
終わりは、唐突に訪れた。
彼らの置かれた薄暗い場所へ、一条の光が射す。銃に触れた手は
懐かしい主人だった。明るい場所に連れ出され、弾丸が身の内から
取り出される。ゆっくりと分解され、また組み上げられる。
固い指と、ガンオイルに湿ったボロ布の感触。じっと見下ろす顔は
かつての面影を失っていた。伸び放題の髪が深い皺を刻む眉間に落ち
痩せた頬を無精髭が覆っている。だが、目だけは変わらない。己を見つめる
瞳の奥に、銃は主人の強い決意を読み取った。「俺は、できる」
ぽつりと、男が言う。「やり通してみせる……必ず」組み上がった
銃を確かめるように撫でると、男は微かに口の端を歪めた。
「頼んだぞ」
再び装填されたのは、同じ弾丸だった。
銃は、唐突に悟る。主人にとって、残されたのは自分と、たった
一発の弾丸だけなのだと。
銃にとって、そこからの記憶は曖昧だ。長年親しんだ手に握られ
夜の冷たい空気の中をひたすらに走ったように思う。鳴り響く銃声。
他の銃器から発せられる数多の、そして最後に、自分の……。
暖かい手のひらから、唐突に引き離される。硬いコンクリートに
投げ出され、大勢の慌ただしい足音を聞く。体が熱い。熱と硝煙の匂い
だけが残る。自分はどうなったのだ。主人は。彼は……最後の弾丸は
役目を果たしたのだろうか……遠くへ向かうために……。
男は、長い夜を生き延びた。だが、二度と銃を手にすることは無かった。
銃は証拠品として押収され、長い保管期間を経た後に、不良品として
処分された。構造上は全く問題が無いにも関わらず、何故か引き金が
作動しなくなったためである。
その銃は、男が警官であった10年と、逃亡者となった半年の間
共に死線をくぐり抜けてきた。彼には、最後まで忘れられなかった
言葉がふたつある。ふたつながら、同じ言葉が。
長年共にあった主人と、最後の弾丸が、別れ際に口にしたそれは……。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
改行長過ぎって怒られてしまった(´・ω・`)
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