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オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
オリジナルの遊郭の番頭さんと化粧師さん話。

廓仕事は日が高く上ってから漸く、ゆるゆると流れに乗り始める。前の晩のお客は夜明け前にとうに去り、
送り出した遊女たちが朝餉の支度とともに起きだしてくる音が、一日の始まりの合図だった。
寝ぼけ眼でもどこか凛としたその姐さん方は、朝餉のあと湯を使いさっぱりすると途端に艶も華もある風情
になる。丁度その頃に顔を出すのが小物売りや髪結いなどの出入りの輩で、台所や帳場の喧騒を横目に、件
の化粧師も例に漏れずぽっくりぽっくり、下駄を鳴らしてやってくる。
朱色の袱紗に漆箱が、化粧師のしるしだ。
廓一の花魁が、髪結い化粧のあと手持ち無沙汰に化粧師を囲碁に誘う。昼見世はとっくに始まっているが、
花魁ともなればそんな下界の(まさに)様相とは無縁で、にいさん一局と言われて化粧師も乗った。
ぱちりぱつりと、さあさあと秋風が冷たくなりかかる中、かたく高く鳴る音が表座敷の一間から響く。
その音の爆ぜる加減が、そろそろ近づく冬を思わせた。
師走になれば煤掃きも餅つきもある。早々に支度もせねばなるまい。

花生けの具合を確かめていると、背後の二人の笑み交じりの声が風に乗ってきた。そろそろ終局か、どちら
が勝ちかと、ふと振り返り盤を見遣る。また花魁は姉女郎らしく、先日の新造の話をしている様子だ。
振袖新造には名がついた。
重花、朝垣、多岐水、様々な案が出されたが、重陽の月に新造になったのだからと菊の花の字がついた。化
粧師もそいつはいいと、菊花をあしらった飾り櫛を、新造へ渡していた。
良い馴染みもつき、次の吉原細見にはどう評されるか噂になろうというところだが、しかし花魁の顔は晴れ
ない。
「あァ、そうだな」
晴れずとも美しいのだが、化粧師もなにやら難しい顔をして、いつものように煙管を回している。勝負事だ
けの話ではない。遣り手、女将、折檻などなどの剣呑たる言葉がぼそぼそと聞こえ、ああと合点がいきこち
らも人知れずため息をついた。ちょっとした騒動になっていたのだ、あの新造は。
それを花魁は心配しているようだ。姉女郎としての気遣いだろう。
「ほい、おしまいだ」
ひょいと、花魁の深刻さなど何事でもないかのように化粧師は黒石を盤へ置いた。途端に花魁が柄にも無く
大声で待ったをかける。

待ったなし、と化粧師は笑った。こういう男なのだ。ひとの隙にもぐりこむのがうまい。
しかし隙をつかれた花魁は、腹の虫がおさまらないらしい。もうひと勝負、と言いかけてふと、ああ次はか
るた遊びなんかどうだえ、と艶然と微笑む。
「かるたは勘弁してくれよ」
それはさっぱりだ、と化粧師。
「花魁、俺に学が無いのは知ってるだろう」
うへえ、と潰れた蛙のような声を上げて、化粧師は真っ平御免とばかりに首をすくめる。その手から花魁が
白い指で自慢の煙管を取り上げて、だからやるのサ、ところころ笑う声が聞こえた。
新造の騒動というのは、こうだ。言ってみれば、良くある廓話のひとつだ。
初めてついた馴染みの客に、我を忘れてすっかりのめりこんでいる、というやつ。これは廓としては、よく
あることだが最も良くない。
かむろ時代から何を見てきた、と女将や親父は怒鳴り狂う。横っ面を張り飛ばして客をとれと強いるが、あ
の方さんでないと嫌でありんすと、まあそんな風に言うわけだ。遊女の癖に馬鹿げている。
新米の新造の心構え云々は、姉女郎のあの花魁にも降りかかる。一世を風靡する花魁でも一皮向けばただの
おんな、妹分の言い分もわからんではない。

ただそこは廓を背負いこの世の蝶よ花よとされる遊女ゆえ、頑としてそれは否であると言い含めている。
女将が、奥の行灯部屋から化粧師を呼んだ。行灯部屋は暗く湿ったそのとおり、折檻だの物置だのに使われ
る部屋で、今日も今日とてあの新造は女将に引っぱたかれているらしい。
しかし、泣きながら声一つあげないのは、見上げた根性とでも言おうか。いつぞやちらりと見た、あの優男
を思い出してため息が出た。おもての掃除もひと段落し、さて夜見世よといそいそと戻ってきてみれば、二
階の座敷からどかどか降りてきた化粧師と顔を鉢合わせた。
さえざえとした夕闇が西の空に忍び寄る。大門からどやどやと、人の波の気配が始まる。
「あのあま、旦那さんが来るまで張見世に出さんでくれとか言いやがる」
格子の間の奥へ降りてきた化粧師は、とことん苛立っているようだった。ぐるっと見回し、こちら以外誰も
いないことにすら腹が立つのか、肌寒いかと引っ張り出してきた火鉢を完全に独占するように抱え込んでわ
めく。
夜前の、昼見世終わりの遊女たちはまた化粧なおしに夕餉に忙しい。油皿の仕度をしながら、半分流すよう
にその声を聞く。
「言って泣きやがる。白粉も紅もはげる」

ああ、それはこの男にとって、もっとも忌むべきことだろうと合点がいった。化粧師は遊女を美しく仕立て
るのが生業だ。女将は無理やりにでも仕度をさせようと呼んだのだろうが、泣き腫らした瞼に流れる白粉では、
どんな酔狂も寄ってくるわけが無い。
それでも、酔狂でも、誰であろうと近寄らせたくない、などと、正気の沙汰ではない。
遊女が見世に出なければ、客がつかぬ、廓がまわらぬ。
しかしどこの廓にも、どうしても染まらぬ女というのはいるものだ。つくづく思う。
旦那さんというのは件の若旦那のことだろうが、いくら金払いの良いあの男でも、早晩遊女のもとに通い続
けるわけにもいくまい。
それを承知の上で泣くというなら、かなりの女だ。もしくは、芯から阿呆なのか。
「畜生が。惚れやがったな」
ただそれが化粧師には我慢ならないらしい。煙管を出したばかりの火鉢に叩きつけては、何度も何度も悔し
がる。聞いてもいないのに訴える。
台所のほうから汁物の匂いがしてきた。あちらへこの声は聞こえているのかいないのか。
しかし化粧師は廓で惚れるなんてのは馬鹿のすることだと、声高に叩きのめしている。固く響く音とそれは
少なからず、胸に痛い。

色街で色恋沙汰はご法度だと、言われずともこちとら百も承知だ。あの新造とて知らぬわけがない。
しかしその上で惚れているのは、俺も同じだ。
叩きのめされるのを見るのは、心苦しい。痛めつけられているのは他人事ではない。ぐいと、ついその手を
掴んで止めてしまった。手首はこちこちに凝り固まっていて、いつもの柔らかさは微塵も無い。
「煙管にあたるのは止してくれ」
油皿がいくつか転がる。転々と弧を描き、それぞれに収まったように首を振るのを止めた。日の色が橙に、
格子窓から差し込んだ残りが畳を走る。
つとめて平然を装おうとして、やや押し殺した声になってしまった。化粧師はぴたり腕を止めて、かすかに
目を上げる。伏せもしない。
握った手首を離す間が難しい。ゆるゆる力を緩めればいいのか、それともさっと引くべきか、逡巡する。
そのためらいに、己を知る。何も出来ない。素気無くは、何も出来ない。
目を合わせて化粧師の口は二言三言、何かをかたどった。しかし声は聞こえない。黙っているともう一度そ
れを繰り返した。
そしてかすかにその、細い目を伏せる。声が死んだのか。
何か言えよ、あんた。何時だって口達者だろう。

声の無い姿を見ていたら、その唇を吸ったことを思い出し背筋がぞくぞくした。逢う魔が刻には、まだ早い
が、だが。一度口付けてしまえば自分のもののように思えて、そしてそれが化粧師の癇にひどく障った。
「遊びなら、他をあたりな」
触れる瞬間その一瞬前に顔を背けて、不意に化粧師は吐き捨てた。そして今、俺は気が立ってんぜ、と言う。
「酔いの一度なら、流してやる」
ぐいと利き手を引かれて、思わずあっさり離してしまった。既に態度も行動も、後手に回っている。
まだ平然を装おうとはしていたが、それでも焦りが体を蝕んだ。阿吽の呼吸で返さなければそれは、圧倒さ
れているということになる。
「何の、話だ」
挙句出た台詞がこれだ。畜生め、と心の中で己に悪態をつく。
惚れてるとか抜かすなよ、と化粧師。途端に熱いものと冷たいものが同時に、こめかみから頬を固く強張ら
せる。
「そっちがいいなら、陰間茶屋にでも行ったらどうだ、あんた」
「喧嘩売ってんのか」
「あんたが売るなら買うぜ」
今度は煙管をくるくる回して、薄くくわえながら言う。半眼で煙を吐く。この狐、とばちりと頭の中で何か
が弾けた。

がっと、強い腕の筋肉がめきめき太って、いとも容易く胸倉を撚りあげる。化粧師は落ちかけた煙管を軽く
手に取り、憮然というか悠然というか、殴り飛ばされそうなその姿勢でさえも黙っている。じじと煙だけが
身悶えて立ち昇る。
しゅるりと帯が、畳をすれる音がする。
「舐めるなよ」
こちらもただ一言、吐き捨てた。相手にされないのは構わない、どこ吹く風と流されるのも慣れている。
けれど後手に回るのも、舐められるのも真っ平だ。
あんたこそと化粧師は言い、とんとんと指で胸倉を掴む手を突付く。
それで充分、こちらが離すと思っている。畜生、この狐、舐めてやがる。
殴りはしなかった。そのまま右手一本で畳に大の字に叩きつける。さすがに堪えたのか化粧師は咽る。
そこで漸く冷静さが蘇ってきた。撚るのは容易いことくらい、この指を潰すことだって出来るくらい、どち
らも重々承知だ。
惚れたんじゃねえよとわめきそうになった。
もぐりこんできたのはそっちじゃねえか。
「てめえお武家の出なんだってな」
一瞬緩んだ何かを狙ったのか、それは知らぬ。化粧師は咽ながら叫ぶ。嘲りが含まれている。
「誰が、さむらいに頭なんぞ下げるかよ」

この色街では誰もが叫ぶ。粋も知らぬ田舎侍、金も持たない貧乏旗本、此方の気風を舐めるなよ。そしてこ
の男はそれが特に顕著だ。何ゆえかは、それこそ知らぬ。
しかし何時知った。俺が来たときこの男はまだ出入りしだして間もなかった。その頃より廓にいるのは女将
と親父、それから一つまみの遣り手や針子の婆さんどもだけだ。何時だ。
がたがたと指が震えた。その太い指を、化粧師の手がいとも容易に掴んで剥がす。
「叶うわけねえだろう」
一発、鳩尾に蹴りを入れられて今度は此方が咽た。
「あんたもあのあまも、舐めてんじゃねえ」
その捨て台詞は、存外堪えた。見上げながらの癖に一字一句、ゆっくり噛み含めるように言われただけ、余
計に。
あの終局の、これでおしまい、という声の高さを覚えている。それと同じだったことが、ひどく堪えた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
地味地味にゆらゆら次いでいきます。


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