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エジプト神話 ホルス×セト4

219-222の続きで埃及神話の甥×叔父。精神的には叔父の兄(甥の父)←叔父も。
エロはないですが露骨に事後です。獣面人身神の擬人化など自分設定多数注意。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 神殿の廊下を一人の男が早足で歩いている。肩を越す長さの白い髪と、知性の光を湛え
た銀色の瞳。姿こそ人間で言えば三十代半ばといったところだが、その物腰にはどこか老
賢者めいた落ち着きと風格がある。それも無理はない。瀬戸が王座につく以前、緒師李栖
が王座にいた頃よりもまだ遙か昔から、この男は――斗々は、神々の書記を務めているの
だ。秩序と癒しを司る斗々の叡智は、神々の誰もが認めるところであった。羅亜や緒師李栖
は勿論、瀬戸もその例外ではない。
 斗々が彫栖と瀬戸の姿を最後に間近で見たのは閉廷の直後、瀬戸が彫栖の腕を掴んで
強引に法廷を連れ出すところだった。嫌な予感がして後を追ったものの、無数に部屋がある
広い神殿の中、何度も廊下を曲がる内に二人の姿を見失ってしまった。斗々は途方に暮れ
て溜息を吐き、乱れた白い髪をかき上げる。もう先刻から大分時間が経っていた。あの気性
の荒い二人に何事も起こっていなければよいが――と、斗々は半ば祈るような心地で再び
長い廊下を歩き出す。
 斗々が歩を進めていると、廊下の向こうから歩いてくる若い男の姿が目に入った。膝を隠す
長さの腰巻に白金の飾り帯を巻いて、若々しい上半身を露わにしている。端整な顔にかかる
つややかな黒髪に、左右で色の違う金銀の瞳の持ち主といえば、この神殿にただ一人――。
「彫栖様!」
 斗々が駆け寄りながら声をかけると、彫栖は足を止めてにっこりと斗々に笑いかけた。
「ああ、斗々か。どうした?」

 その笑顔に、斗々は微かな違和感を覚えた。どこがどう、という程ではない。ただ、法廷で瀬
戸とやり合っていた時の彫栖と比べて、何かがほんの少し抜けたように感じる。
「彫栖様、今までどちらに……?」
 訝しげに斗々は問う。
「別に、叔父貴と少し話をしていただけだ。いくら父の敵とはいえ、事実に反する汚名を着せら
れたままでは瀬戸叔父貴も可哀想だろう」
 優しげな言葉を口にする彫栖の瞳には、それにそぐわない剣呑な輝きがあった。斗々は真
意を汲みかねて眉を顰める。
 ふと、視線を落とした斗々の目に、彫栖の腰巻と飾り帯が映った。法廷で彫栖が着ていたの
は、生前の緒師李栖が好んでいたような白い長衣だった。この昼日中に装束を替えたというこ
とは、何か汚れたのか、汗をかいたのか――。
「……っ!」
 その瞬間、斗々の背筋に戦慄が走った。この状況と、先程の違和感と、彫栖の言葉が繋
がって――ある想像が形を結ぶ。
「……彫栖様、一つお伺いしてもよろしいですか」
 信じたくはなかった。しかし、尋ねずにはいられなかった。
「ああ」
「つい先程は長衣をお召しだったように思いますが……何故お着替えになったのですか?」
 斗々は射るように彫栖の目を見つめる。
 彫栖はちょっと目を見張って沈黙してから、悪戯を見つかった子供のような表情でくすっと笑った。
「流石に斗々は、勘がいいな」
 ぞっとするほど無垢な笑みだった。斗々は確信する。彫栖は事実に反する汚名を濯ごうとしたの
ではなく、汚名自体を事実にしてしまったのだ。「甥に抱かれた王」という、この上ない不名誉を――。
「……瀬戸様は、どちらに」
「さあ、まだ白の間にいらっしゃるんじゃないか?きっとすぐには立てないだろうから」
 語尾がくすくすと笑い声になって消える。斗々は即座に身を翻して、白の間に向かって駆け出した。

 勢いよく白の間の扉を開けて、斗々は思わず息を飲んだ。むせ返るような精の臭い。大理石と
雪花石膏で造られた静謐の部屋に、特有の粘ついた空気が生々しく漂っている。口元を押さえ
ながら素早く視線を巡らせると、床にぐったりと横たわる瀬戸の姿が目に入った。
「瀬戸様――!」
 乱れた黒髪。蝋のように青褪めた肌に、歯形が、紅い痣が点々と咲き、白濁が散っている。王の装
束は無惨に引き裂かれ、露わにされた瀬戸の肢体はまるで打ち捨てられた彫刻のようだった。斗々は
駆け寄って長衣の上から羽織っていた衣を瀬戸の身体にかけ、側に膝をついて瀬戸の肩を揺する。瀬
戸の肌は驚くほど冷え切っていた。
「瀬戸様、瀬戸様……!」
 少し間があって、瀬戸の睫毛が微かに揺れた。緩やかに瞼が開き、現れた赤い瞳はぼうっと天井を
向いて焦点が定まらない。
「瀬戸様……っ」
 斗々が再び名を呼んだ瞬間、瀬戸はびくっと目を見開いた。怯えた獣のような目で、斗々を視界に認
めた途端、ほっと安堵の息を吐く。
「……斗々か……」
「彫栖様はいらっしゃいません。瀬戸様、お体の方は……」
 瀬戸はゆっくりと上体を起こし、顔を顰めて軽く首を振った。
「……生娘でも、あるまいに。この程度でどうにかなるような体ではない」
 そう言った瀬戸の手首にはくっきりと痣が浮いており、近くで見ると肩や二の腕には爪で引っ掻かれ
たような赤い傷もある。血の痕こそ見えないものの、行為の凄惨さは一目で推し量れた。
「しかし、治療は……」
「構うな」

 言いかけた言葉は一蹴された。えぐられた眼でさえも元通りに癒す斗々の力だ、痣や傷を治す程度な
らさほど時間もかからないのに、瀬戸はそれすら拒む。気丈さに半ば呆れて、斗々は溜息を吐いた。
「……では、体を拭うものと替えの装束をお持ちいたします」
「ああ」
 短く答えて、瀬戸は俯いた。前髪がぱらりと落ちて、目元に影をつくる。やはり体が辛いのだろう。もし
も内臓に傷がついているようなら、何と言われようが力を使った方がいいのだろうが――。
「――斗々」
 瀬戸は俯いたまま、片手で己の額を押さえた。
「はい」
 瀬戸は沈黙する。躊躇うように息を吸って、呟く。
「――止めてくれるなよ」
 何を、と問おうとした刹那、瀬戸の上体がぐらりと傾いた。斗々は慌てて倒れかけた体を抱き留め
る。瀬戸は獣のように小さく唸って、それからふっと糸が切れたかのように体重を斗々の腕に預けた。
 意識を手放した――というよりは、眠っているのだろうか。ひんやりとした身体を抱いて、斗々は瀬戸
の貌を見つめる。その膚はいっそ痛々しいほど白く、力の抜けた目元だけが存外に穏やかだった。一国
を支える王とは思えないような頼りない表情に胸を締め付けられて、斗々は静かに瞼を伏せる。

 斗々の穏やかな癒しの光に包まれて――瀬戸は、その細い頸を晒し昏々と眠り続けた。

□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
前作レス感謝!開眼したって書いてくれた人もありがとう! 本当に嬉しいです!


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