ニルスの不思議な旅 グスタ×モルテン
更新日: 2011-01-12 (水) 00:15:35
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ふと思いついて書いてしまったので投下させて下さい。
アニメの29話ぐらい、主人公が群れからはぐれた頃です。
グス夕一人称、18禁描写なし。
ニルスの野郎がいなくなって本当にせいせいしたっていうのに、隊長も他のやつらも、なぜかわざわざ探そうとしている。
仲間だって?
たまたまなんかの弾みで小さくなって、そりゃあちょっとぐらいはキツネを追っ払う役に立っているかもしれないが、しょせんは人間じゃないか。
だいたいあのキツネは、我々ガンを餌にする目論見ももちろんあるのだろうが、今や半分以上はあのチビの人間に対する個人的逆恨みでこの隊をストーキングしているに違いないと、俺は踏んでいる。
だからニルスと縁が切れたらきっとあのキツネの脅威も半減するんだから、この事態は歓迎すべきなんだ。
なのに、腹が立つことに、誰も彼もニルス、ニルスと心配ばかりしている。
隊長は昔っから大ワシなんかを育ててやったりして無闇やたらと人道的なところがあるからしょうがないが、スイリーやイングリッドまで、妙にあの人間に肩入れしてやがる。
――いや。
女なんぞ、どうでもいい。
しなしなして、男にくねくねして取り入って、そのくせいよいよピンチとなったら俺たち男の背中に隠れちまう女なんて、情けなくて仲間なんぞとは呼びたくもない。
誇り高きガンたるもの、ピンチには雄々しく立ち向かうぐらいじゃないといけない。
だから、ダンフィンの厳格な父親を前にして足をガクガク震わせて緊張するあのガチョウの情けなさときたら、見ていて歯がゆくて、みっともなくて、曲がりなりにも同じ群れのメンバーとして情けなすぎて、穴があったら入りたかったぐらいだった。
みっともないやつ。ガチョウのくせに、俺たちガンに張りあおうなんぞと思うから。
おとなしく、人間に飼われて、繋がれて、飛べないことを泣き暮らしていりゃあいいのに。
なのにあいつは、たったひとりでオジロワシに向かって行きやがったんだ。
馬鹿じゃないだろうか。
敵いっこない。分かりきっている。
自分の実力と限界をちゃんと知った上で、無理な相手には立ち向かわないのが利口ってもんなのに、あいつはボロボロになっても、なおもワシに体当たりしようとするのをやめなかった。思えばワシもさぞかし面食らったことだろう。気の毒なことだ。
それにしても馬鹿なやつ。
そこまでして、女に、というか今の場合は女の父親に、いいところを見せたいんだろうか。
きっとそうなんだろう。
しょせんは俺たちのようにかっこいい、誇り高きガンじゃない、単なるガチョウなんだから、そのくらいしないと婚約を認めてもらえやしない。
だが、まあ、婚約がかかっているという特別な事情をどけて考えても、意外に臆病でないことだけは分かった。わざわざ口に出して言ってやるほどのことじゃないが、ちょっとは俺たち群れのお荷物一辺倒の身分からは脱却したと思ってやってもいい。
だからって、あんな人間を探すために旅程を遅らせろという主張を引っ込めないのは許し難い。
この俺様がせっかく、こっそりその勇敢さを見直してやったのに、そんなことは気づきもせずにニルス、キャロットとばかり連呼しているガチョウが忌々しい。
ちょっと意見してやろうと、俺は相棒のラッセにも内緒で、ガチョウを探しに行った。
「おい、ガチョウ」
幸い奴はひとりだった。ダンフィンが一緒にいたらまたぎゃあぎゃあうるさいだろうから、いい機会だ。
「なんだよ、グスタ」
おっ。
ガチョウのくせに、いっちょまえに不機嫌なツラだ。
ニルスが見つからなくて不安なんだろうが、俺様がわざわざ話に来てやっているのに、別のやつのことばかり考えていやがるとは生意気きわまりない。
「あの人間のことだがな」
ガチョウの顔がさらに険悪になった。
頬っぺた膨らませて、変な顔。
生っちろくて、首にロープなんかつけて、実にみっともない奴。
変な、みっともない、ガチョウの分際で案外飛べるし、勇気も、なくはない奴。
普段はこいつなんかをまじまじと見ることなんぞないから、つい観察にふけってしまうと、ガチョウはさらに怒った。
「何をじろじろ見てやがんだよっ」
「お前な、ガチョウ」
なんとしたことか、ひとこと言ってやるつもりだった言葉を、こいつの様子を見ているのがけっこう面白かったので度忘れしてしまい、俺は予定外の発言をしてしまった。
「あんまり心配すんなよ。ニルスは大丈夫だ」
「!?」
面食らったガチョウの鳩豆顔に、心ならずもつい和んじまった。不覚だ。
まあ、しょうがない。友達の安否を心配してやたらカリカリしているこいつを落ち着かせてやるのも、群れの先輩としての役割だ。
「俺たちがラプランドに行くってのは、ニルスだって分かってるんだから」
「そりゃ、そうだが……」
煮え切らない奴。ああウザい。
「ニルスは人間だが、あれでけっこう賢いからな。大丈夫、追いつくさ」
いったい俺は何を喋ってるんだろう?
心にもないことを。俺はニルスたち人間はもちろん、ニルスを気にかけすぎのガチョウ風情なんか、大嫌いなのに。
「ニルスのことなんか、とりあえず忘れとけよな」
俺じゃないぞ俺じゃないぞ。
「そんなこと、言ったって……あいつは俺には友達で……」
ああ鬱陶しい。
聞きたくない。
こいつが、他の奴のことを心配して思い遣ってるセリフなんて、今は聞いていたくない。
俺は、ちょっと周りを見渡した。
誰もいない。
ラッセは巻いてきたし、偉そうな次期隊長候補も、どっかでイングリッドといちゃついているようだ。
ダンフィンはまだニルスを探しに出ている。
誰も見ていない。
「うるさい。ガチョウ」
このグダグダとうるさいガチョウを黙らせてやらなければならない。他に理由はない。ないったらない。
ということで、俺はこいつをびっくりさせないようにそおっと羽を広げて、ガチョウの生っちろい身体を抱きしめてやった。
温かい。
「お、お、お、おい、おい、おいグググググスタ」
「うるせぇんだよガチョウ。黙ってろ。じっとしてろ」
「グスタ、ははは離せ。離れろ」
耳元で、やかましい奴だ。
「……人間のことなんか、忘れてろ」
ガチョウは黙った。俺の気迫に負けたらしい。意外に素直な奴だ。
「大丈夫だから。な?」
俺じゃない誰かが、俺の口ばしを使って、ニルスの無事をガチョウに保証してやっていたが、そのせいでガチョウはちょっと落ち着いたようだった。
「ああ……そ、そうだよな。ニルスなら」
どうやら、自分が必要以上にテンパっていたのを、やっと自覚したらしい。
こわばっていたガチョウの全身から力が抜けて、その体重が俺にそっともたれかかってくる。
ずうずうしい奴だ。ちょっと安心させてやったら、さっそく俺を重い目に合わせようとしやがる。
だがその重みはなんとなく気持ちいい。
「その……ありがとうな、グスタ」
「馬鹿やろ」
ラッセあたりが俺たちを探しに来ないように祈りつつ、誰かに見つかるまでの短いあいだだけでもずっとこいつの温かみを感じ続けていようと、俺はガチョウの胴体に回した羽に、また少し力を込めた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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