オリジナル ご主人様(少年)とロボット
更新日: 2011-01-12 (水) 00:16:11
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
怪物が、大きな腕を振り下ろす。瞬間、私はご主人様と怪物の間に滑り込んでいた。
「キョウ!」
ご主人様の叫び声が聞こえ、私の体は地面に叩きつけられた。
よかった、ご主人さまは無事か。頭の端でそう思った。
顔を上げれば、銀色の怪物――元々は作業用ロボットだった――が、月光をうけて
ぎらぎらと光り輝いていた。
「……不良品め」
呟きは、いやに掠れたものだった。
作業用ロボット達が人を襲い始めて、もう一か月になる。
この街に残っているのは、狂ったロボットと死体、それから空っぽの街を漁る盗人と、
私のご主人様くらいだ。
ご主人様がこの街に残っていた理由は、彼の両親の墓がこの街にあるからだった。
「キョウ、腕がっ!」
「そこに隠れていて下さい!」
塀の陰から走り寄って来ようとする彼を制し、怪物に向かって右手をかざした。左手は使い物に
ならなくなっている。それは根元からもげて、地面に転がっていた。
あの手の作業用ロボットは、頭部に核がある。成功確率は低いが試すほかない。そう思いながら、
レーザーを放った。
掌からのびた青い光が怪物の頭を射抜き、同時に、怪物は静止した。
「キョウ、キョウッ!」
「ご主人様。お怪我は?」
駆け寄ってきた彼に訊くと、
「それよりキョウが」
とご主人様は泣きそうな顔になった。彼を安心させるために、私は唇の端を上げた。
「大したことはありません。腕が取れただけです」
「頬が」
「……ああ。人工皮膚が剥がれてしまいましたね」
ご主人様は私の頬を撫で、痛々しい表情で唇を噛みしめている。
「ごめん、キョウ……俺がこの街にいたいだなんて我儘を言わなきゃ良かったんだよね……
早いうちに逃げていれば、お前にこんな怪我をさせることもなかったのに」
「怪我ではありません、故障です。痛みも感じませんし、何てことは――――」
瞬間、視界にノイズが雑じった。
「キョウ?」
「申し訳ありません。何か……」
「キョウ、瞳の色が変だよ。凄く暗くて、まるですり硝子みたいだ」
「少々お待ち下さい。故障個所を調べなおし、ます」
調べている間にも私の視界は暗く狭くなっていき、ついには明るさしか判別できなくなって
しまった。
しかも調べ直した結果、視覚だけでなく、非常用の回路やその他多くの箇所が故障している
ことが分かった。
正直、修理不可能な状態だった。
「キョウ」
涙声の彼の声が、耳に届いた。
「キョウ、嫌だ、死なないで」
キョウしかいないんだ。ご主人様はそう言った。
「機械に、死は、ありま、せん。ただの、ごみに、なるの……です」
「違う、違うよ!」
「壊れ……たら、同じ顔の、ロボッ、ト、を作ればいい……んです。そこに、私と同じ……
プロ、グラムを、入れて、やれ、ば、いい」
頬に温かな何かを感じた。何かが光っているのも分かった。
ああ、これは瞳なのか。彼の瞳と、それから、涙だ。
「同じ体でも、そんなのキョウじゃない。同じプログラムをインストールしても、キョウの
記憶は戻らない!」
「ご……しゅじん、さ、ま」
「キョウじゃなきゃ駄目なんだ。生まれた時から一緒で、これからも一緒で……っ」
涙を拭いたくて右手をのばそうとするも、それすらかなわなかった。
彼が初めて歩いた時、学校に入学したとき、家出したとき、彼女ができたとき振られたとき、
家族が死に、一人ぼっちになったとき。
ずっと見つめてきた。なぜだろう、ずっと傍にいられるものだと思っていた。
「もうしわけ、ありません、いっしょう、そばにいると、ちかった……のに」
声にもノイズが雑じり始める。ご主人様が私の体を抱きしめる気配がした。
もう、彼の体温を感じることもできなかった。
「……キョウ、じゃあ……天国で、待っててよ。いつか絶対キョウの傍に行くから、
それまで待っててよ……っ」
天国。
生き物が死ぬとそこに行く、そう聞いたことがある。
私は生き物ではない。きっと、私は天国へ行くことはできない。
それを知りつつ、この人を悲しませたくない一心で、私は「はい」と言った。
「……てんごく、で……まって、います。だから、げんきに、ずっと、げんきに」
終わりが近づいているのを感じた。聴覚も、限界だ。
「ごしゅじん、さま、あなたの、えがお……が、すき、でした……」
「俺も好きだよ――……から……――……」
「……ごしゅじん……さま……」
「笑顔だけじゃなくて、俺は……――……」
ぷつり、何かが切れる音がして、それは私がただの金属の塊になる音だった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ロボットに萌える。
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