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笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「Automatic」

前スレでの照と退蔵2008の続きというか、そこから10年前に遡った物です。
なので退蔵から先に好きになった設定のままで。サブタイは当時のEDから。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

7回目のコールで電話に出てくれた。
「…ぅあい。…もしもし」
まだ眠りの中にいるような照の声を聞いて、退蔵は見えないその姿に向かって笑いかけた。
「起こしちゃってすいません。そろそろ時間です」
「…退蔵。…そっか、もうそんな時間か」
名前を言わなくても声でわかってくれる。
「起こしてくれて、ありがと」
けほんと咳をひとつしながら、電話は切れた。
ありがとうという声を聞くだけで、退蔵の気持ちは明るくなっていた。携帯を耳にあてたまま、しばらく余韻にひたった。
「これからおまえらで張り込みか?」
急に声をかけられて我に返る。机ひとつ隔てた向かいの席から、田所が顔を出していた。パソコンに触る時はいつも、細縁の眼鏡をかけている。
「そうです。例のアパートです」
「おまえらも大変だな。昨日完徹なんだろ?オレも昨日からずっとこの作業。もー眼ぇ疲れるわ肩凝るわでさー…」
しかめ面で肩を押さえる田所に、席を立ちながら退蔵は言った。
「オレ、肩もみましょっか?」
「まじで?おまえは気が利くね!ほんっといいヤツだね!」
田所は満面の笑みで調子よく返すと、早速眼鏡を外して机に顔をうつ伏せにした。
「だいぶ凝ってますね」
「ぅおー、もうちょい上、…そこっそこ押して!…はー、うまいねーおまえ」
「オレね、結構コレ褒められるんですよ」
しばらく田所は「うあー」だの「もうちょい左」だの、こもった声で言い続けていたが、突然ごく普通のトーンで聞いてきた。
「照にもこうやって、肩もんだりすんの?」
「え?」
不意を突かれて、一瞬答えに詰まった。
「いや、そういやまだした事ないっすね」
「ふうーん?」
なぜか笑いを含んだように田所は顔を上げたが、またすぐ伏せて聞いてくる。

「おまえらが2人で組むようになって、結構経つよな。もうオレよりも長いんじゃねえの?」
以前は田所と照の2人で組んでいた。
「…そう、ですね…オレ入ってからすぐだったんで…何年経つのかな…」
退蔵が考えだすと、答えを聞かずに田所は起き上った。
「あーだいぶスッキリしたわ。もう行っていいよ。時間ないだろ?」
言いながら眼鏡をかけ直す。退蔵は軽く頭を下げると照のいる仮眠室へ向かった。
歩きながら入署当時の事を思い出していた。
照に自己紹介した後、全然自分のことを思い出してくれなかったのにショックを受けた事。とはいえ、思い出された方が実際にはまずいのに、その時初めて気づいた事。
刑事に就任したばかりの新米が、先輩と初対面の時に万引未遂してたなんて、シャレにもならない。

高校生の頃の自分はつくづくバカだったんだろう、と退蔵は振り返っていた。
言い訳にもならないが、若気の至りというか若さゆえの過ちというか、「誰もオレのことなんて気にしない」「誰にも見向きもされない」という拗ねた気持ちで不貞腐れていた時期があった。
特に目的もなく入ろうとしたCDショップ。いきなり入口で、出てきた男とぶつかりそうになり「すいません」と謝りかけたら、そいつは退蔵を一瞥もせずさっさと去って行った。
心が冷えた。その時急に魔が差した。どうせ誰もオレなんか見ない。そう思ってそのへんの適当なCDを、突発的に自分の鞄に入れてみた。
当然かもしれないが、すぐにバイトらしい店員に腕を掴まれた。
「今、鞄に入れたものを出しなさい」
「……」
パニクり過ぎておかしくなっていたのかもしれない。どうしよう?とか、しまった!とかいう気持ちよりも先に、目の前に現れたその人に、何故かハッとしていた。
心が動いていた。この気持ちがなんなのかは、よくわからない。
だけど、目の前の人の自分に向ける視線もまた、どこか柔らかく揺れている気がしていた。
同じ気持ち?この人も、同じ何かを感じ取っているんだろうか?なんだろう、これ…
そんな場合じゃないのに、心が浮き立ってわくわくする気さえしていた。多分本当にバカだったんだろう。

そのタイミングで、適当に取ったそのCDの曲が、突然店内に流れ出した。
『ラブストーリーは突然に』だった。
驚いて顔を上げた店員の脇をすり抜けて、退蔵はその場を立ち去ったが、店員はそのまま追っては来なかった。

それからずっと、もう一度あの人に会ってみたいと思っていたが、よりによって万引未遂なんてしたんだから、店だと警戒されるに決まっていた。
こっそり陰から見たり尾行したりでほぼストーカーだったが、ずっと気にかかってどうしようもなかった。
その人が刑事になった時、自分も刑事を志した。ゆくゆくは叔父の経営する大原田物産の後継者になる事が決まっていたので、叔父を始め親戚中に猛反対されたが退蔵は曲げなかった。
そうして長い時が経ち、春になって、再び出会うことが出来た。
ところがその日、自己紹介の後、退蔵は椅子に腰をおろした途端急に気が抜けて、天井を仰いでへたり込んでいた。
―全然オレのこと憶えてなかった。その事実で力が抜けていた。
期待し過ぎな自分を自覚もしていたが、それでもせめて「どこかで会った事ある?」程度には思い出してくれるんじゃないかと思っていたのに。
ここまでして、オレは結局何を得たかったんだろう…。この気持ちは何なんだろう…。
ただ、こうして間近で会えるようになって、改めて思った。
やっぱりこの人は、なんだか可愛い。遠くから見てた時も思っていた。年上でしかも男なのに。
目がクリクリしていて、真面目な顔してる時も口の端がキュッと上がってて、いつも少し笑いを含んでいるように見える。
人を寄せ付けないように伏し目がちで、一人で物思いに沈んでいるのかと思えば、声をかけられた途端ふわっと笑う。その一瞬で周りの空気が暖かくなる気がする。
多分、この人が女だったら、なんのためらいもなく恋愛感情だと思えるこの気持ち。
どう表現していいのかわからないこの気持ちを、退蔵は「尊敬」だと思おうとしていた。

椅子にへたりこんでいた退蔵は、一度大きく息を吐くと、立ち上がって廊下に出た。
角を曲がると、木の実を齧るリスみたいな後ろ姿で、うずくまって何かしてる人がいる。と思ったらそれは照だった。
近づいていくと、床いっぱいに広がったゼムピンをせっせと拾い集めているのが見えた。
横に並んで拾い出すと、照は顔を傾けて退蔵を見た。
「落として全部ぶちまけちまったよ」
「オレ手伝いますね」
退蔵はでかい手のひらでザーッと寄せ集めると、照の持っていた箱に入れた。
「悪いな。ありがと。…おまえ、どんくさいとこ見て、今、安心してるだろ」
照はチラッと上目使いになって笑った。つられて退蔵も笑った。
「言っとくけど、これからビシビシしごくからな」
そう言って笑顔のまま、照はゼムピンの箱を持って去って行った。
その後ろ姿を見ながら、あ、オレまたカワイイって思ってる、と退蔵は思った。

かといって「先輩」は可愛いだけの人間ではなかった。
2人で組んで行動するようになった最初の頃、中国マフィアの構成員を追っていた時の事だった。
香港の中国返還に伴って流れてきた、下部組織の構成員のその男は、本国での組織にいるNo.2の実弟だった。
拳銃を持ったまま走り去る男の逃走経路を読み、覆面パトカーで先回りする。
発砲沙汰が初めてな退蔵は、その時正直びびっていた。そんな退蔵に照は静かな口調で言った。
「援護しなくていい。運転に専念していてくれ」
それからはっきりこう言った。
「おれがおまえを守るから」
一瞬息が止まった。前だけを見ていた照は声を上げた。
「ここだ。停めてくれ」
路肩に停めて、角から現れるであろう男を待ち伏せる。照は車から降りた。
防弾衣を着用してるとはいえ、車から降りては危険だと退蔵は思ったが、照の目に不安はなく澄んでいた。

左足の爪先をわずかに外側に移動させただけで、車から降りたときの姿勢のまま、無造作に見えるほど自然な体勢で、照はゆっくりと拳銃を持った右手をまっすぐ伸ばした。
その先に、角から飛び出すように男が現れた。
照の姿に気付き慌てて銃身を構えるが、その腕は大きく揺れている。
パアン。
乾いた爆竹のような音がひとつ。火薬の匂いが立ち込める中、男は肩から血を流して倒れていた。

容疑者の動きがないまま、明かりを消したアパートの一室で張り込んでいると、いろいろな思い出が頭に浮かんで止まらなかった。
思えば長い年月、ずっと一緒にいた。一緒にいるうち、なんとなく照の考えがわかるようになり、細かく世話を焼いて、それを感謝されると嬉しかった。
今では署の誰より、照の事を理解出来ていると思えた。
真夜中だ。照は布団で仮眠をとっていた。夕方にもうとうとしていたが、毛布をかけてあげたら起こしてしまった。今はぐっすり眠っている。
暗がりの中で、窓の隙間から双眼鏡で外を眺めて、退蔵は夕方の照の言葉を思い返していた。
「毎日毎日顔を合わせていたら、考えも一緒になってくるってもんだ」
そうかもしれない。照が何を考えているのか、次に何を望んでいるのか、読み取りながら行動するようになっていた。
先輩も、オレと同じ考えになってくれているんだろうか?
オレが思うように、オレのことを思ってくれてるんだろうか…
夕方、交替で仮眠をとって寝かかっていた時、退蔵は照の顔が近づいてくる気配を感じていた。
あれって…、もしかしてキスしようとしてた?
寝かかった意識の中で少し、それに気づいていた。次に「うわ、オレ歯磨いてない」と気づいた瞬間にはもう飛び起きていた。
…もったいないことしちゃったのかな……まさかな…
退蔵は窓から離れて、照の枕元にしゃがみこんだ。
同じ気持ち。本当にそうだったらいいのに。
退蔵は静かに膝をついて、照の額にそっと唇をおとした。
照の瞼と指がぴくっと動いたので、慌てて離れる。
一瞬2人とも動きが止まった。それからまた寝息が聞こえてきた。
退蔵はそーっと音をたてないように、窓際まで後退りした。そんな自分に急に笑いがこみ上げてきて、つい笑った。
だめだオレ。この人の事が可愛い。
どう考えても「尊敬」だけの気持ちではなくなっていた。

射撃訓練の的の中心を、最後の弾が撃ち抜いた。
なんとか中心に狙いをつける事が出来るようになってきた。退蔵は拳銃を下ろした。
「息の止め方が上手くなったな」
後ろから見ていた照が声をかけてくる。耳栓を外しながら退蔵は振り返った。
「ほんとですか!」
「照準も正確だし、銃口の動きも最小限だ」
笑いかけられて退蔵はめちゃくちゃ嬉しくなった。嬉し過ぎて落ち着かなくなる。
「退蔵。また指噛んでるぞ」
照が退蔵の仕草を真似して、指を口元に持っていって見せた。
「え?あ。」
無意識に指の第二関節を噛んでいた。そわそわしてる時の退蔵の癖だ。
「おまえ、その癖子供っぽいぞ」
言った直後、照は急にクシャッとくしゃみをした。両手を揃えて顔の半分を覆う。
「……」
退蔵は黙ってその姿を眺めた。
「そろそろ捜査会議の時間だな。退蔵、訓練後の点眼とうがい忘れるなよ」
「あ、ハイ」
後片付けしながら退蔵は照の後ろ姿を見た。スーツの袖から指先だけチョコッと出てる。
…スーツ、でか過ぎるんじゃ?心の中で呟いた。
子供っぽいのって…。見送りながら退蔵はまた笑った。

会議室には既に大方が集まっていた。ホワイトボードに田所が被害者の写真を貼り付けていた。
照と退蔵で横並びに座る。始まるのを待っている間、退蔵は横で照の足がカタカタ揺れているのに気付いた。貧乏揺すりしてることに本人は無自覚だ。
退蔵はひょいっと照の太腿に手を伸ばして、ギュッと押さえつけた。
「ぅあっ!?」
照がすっとんきょうな声を上げた。退蔵は大口を開けて笑いかけた。
「貧乏揺すり。悪い癖ですよ、先輩」
「………急に、びっくりするだろ……」
照はぼーっと退蔵の顔を見た後で、少し焦ったように周囲を気にした。
あれ?耳まで真っ赤…。退蔵は笑いを噛み殺しながら前に向き直った。

田所に声をかけられたのは、会議後、退蔵が一人になった時だった。
「これ内密の話だから、絶対誰にも口外しないでほしいんだ」
他に誰もいなくなった会議室に、田所の声がやけに響いた。
「三合会の下部組織に、呉朴龍がいたのを覚えてるか?」
それが昔、照が狙撃した男だった。退蔵は頷いた。
「あいつは本国に送還された後、公開処刑になったらしい」
「…麻薬で摘発されてましたからね。あっちじゃ重罪ですよね」
「それでな、あいつの兄が幹部となって、東京でまたドラッグと不正送金に手を出している。組織も前より拡大して、山根組とも繋がってるようだ」
「強制捜査、行くんですか?」
「いや…、それが難しくてさ…、…あそこは前からなんていうか…人とは思えないような事するだろ?」
残虐なリンチや報復は、それこそ公開処刑同然だと知らされていた。
「裏から証拠を集めて、一斉検挙に繋げたいというのが上の判断だ。その極秘捜査の担当に、照の名前が挙がっている。朴龍を逮捕しているからな」
それを聞いて退蔵の表情が翳った。
「…でも…それは…」
「朴龍の兄が、どれだけ照を恨んでいるか、おまえ知ってるか?」
田所の顔が強張っていた。
「とっ捕まったら、ヤク漬けどころじゃすまないぞ」
「……」
考えたくもないのに、裏切り者として始末された組織の女の死体写真が頭に浮かんで気分が悪くなった。退蔵はかすれた声を絞り出した。
「先輩は外すべきです」
「オレだってそう言いたいよ。ただ、上から任命されて照がどう答えるかだ」
田所は青ざめた顔で、退蔵の顔を真正面から見た。
「あいつは引き受けると思う。自分が一番実情を知っていると言って」
退蔵の額に冷たい汗が滲んできた。
「あいつはこんな時、危険だとどんなに周りが止めても自分から飛び込んで行ってしまう。それが出来ないならいっそ刑事を辞めてしまう。そういう極端なヤツなんだよ」
「……」
その通りだと思った。まるで自分を痛めつけるかのように、自分から進んで危険な現場に飛び込んでしまう。
「……オレだって実情は知っています」
退蔵は乾いた声で言った。やけに喉が渇いていた。
「先輩にはこの件は伏せてもらえませんか。オレが一人でやります」

田所はしばらく黙ってから、少し目を反らして言った。
「ずっと照とコンビを組んでたおまえが、単独行動をとるのか?…照に怪しまれないか?」
「言い訳は後で考えます、とにかくこの件は先輩を外して下さい!」
必死だった。万が一にも照を、危険だとわかりきっている現場に晒したくなかった。
田所は探るように退蔵の目を覗き込んでいたが、ぼそっと呟いた。
「……おまえが、いっそ死んだことにすれば…」
「……え」
退蔵は静かに目を見開いて田所の顔を見た。田所の眼は座っていた。
「照の目の前で殉職するフリをするんだ。その後おまえは現場で別人として潜入捜査をする。そうすれば照があの現場を任されることは無い」
「……」
突飛過ぎる考えに声を失った。
しかし、少し考えるうちに、それはベストかもしれないと思えてきた。
「2、3年。早けりゃ1年ちょいで戻ってこれるんじゃないか?そうすりゃ後で笑い話になるはずだ、そうだろ?」
急に饒舌になった田所の言葉に、退蔵は激しく混乱しながらも、首を縦に振っていた。

翌日、止めていたタバコを吸いたくなって署の外に出た退蔵の目に、自動販売機の前で会話する照と田所の姿が見えた。
田所が何か冗談を言ったらしく、照が田所の背中をはたく。それを退蔵はぼんやりと眺めていた。
やけに楽しげに笑いながら何か言い返した田所が、ふと視線に気づいたらしく、退蔵と目を合わせた。
―その瞬間、田所は何故か激しく動揺した。
それから「しまった」と思った表情を反射的に浮かべ、次の瞬間にはその二つの表情を完全に消し、最後に何の感情もない顔で退蔵を見据えた。
「……」
一連のその変化を見て、退蔵はなんとなく気付いてしまった。田所の本心に。
何もなかったように照の背中を押して去って行く田所の後ろ姿を、退蔵はいつまでも睨みつけていた。

つづく。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ごめんなさい8で終わるつもりが10までかかっちゃった。
何かと設定はムチャした。続きは多分10日くらいかかりますが、この設定で続こうと思ってるんで、よかったら気長にお待ちください。


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