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RD 潜脳調査室 九嶋AIと派瑠

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「R/D 潜/脳/調/査/室」久/島AIと波/留。
カプになりきれてないけど801板本スレで上がってたネタに乗っかったのでここに投下。

 私はある人間の記憶を元としたAIと言う存在であり、その身体もその人間の義体をそのままに使用している。リアルに生きる事をを捨てたオリジナルの「彼」は、自らの推論を大切な人々に遺すためだけに、私を作り上げていた。
 そして私はその役目をとうの昔に終えていた。最早私に存在意義などないはずだった。
 ――はずなのだが、私は何故か生き永らえている。24時間メタルが全停止しその結果全域が初期化すると言う、AIやアンドロイドには致命傷足り得る事件を経ても、何故か私は全てを失う事無く復帰出来ていた。
 そしてそれは私だけに限った話ではない。確かにあの時何かが起こったのだろう。
 ともかく今の私は、オリジナルの彼の部屋に厄介になっていた。
 私の義体の頭部には、その彼の脳核が収まったままになっている。その脳核は殆ど初期化された状態であるし、彼自身の意識がここに戻ってくる可能性はない。
 しかし確かにここに脳核が存在しているがために、一般的なリアルの人間達は未だに彼を死んだものとは認識していない。そう言う人間のために、自室療養と言う名目を取っている。
 だから私は不用意にこの部屋から外に出歩く事は出来ない。意識不明の状態であるはずのこの身体が歩き回っては、確実に騒動を巻き起こすからである。
 人間達に都合がいい事に、私は電脳操作型の車椅子の身の上である。オリジナルの彼は「推論を遺す」事のみを目的としたために、私は会話機能に特化したAIと設定されている。そのために、会話機能以外の制御系プログラムは殆ど全くインストールされていないのだ。
 結果、私は全身義体を得ているくせに、この身体をまともに動作させる事は出来なかった。バリアフリーのこの企業においては車椅子でも充分に出歩けるのだが、そこまで外出に拘るつもりはない。

 この部屋を訪れる者はごく少数だった。
 当初は、危機に直面した末に「彼」の記憶に縋ろうとする者も居たが、その青年達もそのうちに自らの力で道を切り開く事を選んでいった。
 それは当然だ。私が保持している「彼」の知識とは過去のものであり、彼らの前に横たわるのは未来なのだから。
 だから、たまにやってくるあの男のみと、私は会話する日々を送っている。
「――失礼します」
 部屋の入口の自動扉が開くと共に、そんな言葉が私の耳に届く。若い男の声。
 次いで、扉によって切り取られた空間に、長身の男の姿が見えてくる。この企業らしく白衣こそ纏ってはいるが、その下の衣服は黒のシャツとジーンズだった。それなりに伸ばされた黒い髪は後頭部で纏められている。
 これらを総合するに、どう見ても、人間の常識と照らし合わせるに、研究者としては浮いている。そう言う男だった。
 その男は微笑を浮かべ、私に対して軽く会釈をする。いつも同様の態度だ。そして私の就いているデスクに向かって歩いてくる。
 私は彼を眺めやった。私の視界に展開されるダイアログには、彼の識別信号が表示される。これは無意識のうちに試行される行為だ。私は彼を「friend」――友人、親友と識別している。
 私ではない。私の記憶の元となっているオリジナルの「彼」にとって、そうなのだ。
「また資料を頂いて行きますよ」
 言いながら、その男は無造作に私のデスクに右手を伸ばす。
「好きに検索して持っていくがいい」
「ええ」
 私の無感動な言葉に頷きつつ、口許に微笑を浮かべた彼はデスクに掌を接触させた。途端に彼が触れているデスクの部分がハニカム形状に光を発する。
 このデスク自体が端末であり、この部屋のメタルに保持されている書庫へと接続が可能となっている。検索を試行する彼の命令に従い、デスクの中空に次々と様々なダイアログが表示されてゆく。
 言わば私はこの部屋の司書のようなものなのだが、書庫にある書物は勝手に検索させ勝手に持って行かせているために、特に何もやる事はない。だから私は彼の横顔を眺めていた。
 おそらく現在、彼の電脳では検索結果を処理して目的の書籍があるかどうか探っているのだろう。目星をつけた書物をざっと眺めているのかもしれない。何にせよ、脳が忙しく稼動している事には相違ない。

 その横顔は、酷く美しいと言う訳ではない。それでも一般的な東洋人としては水準以上を保っている。しかし印象に残る顔であるのは、その意志の強そうな瞳の表情のせいだろう。そこに美しさと逞しさを見出す事が出来る。
 ――何故だろう。何時からだろう。
 私は彼のこんな横顔を見ていると、奇妙な感覚を覚えていく。それが、彼の訪問した際の、常だった。
「――資料、頂きましたよ」
 そんな声が私の耳に届く。それに気付き、私は思惟に耽る事を中断した。改めて彼の顔を見やる。親しみの持てる笑顔がそこにあった。
 彼の右手はデスクから離れており、デスクからも光は消えダイアログの類も全て消滅していた。全ての作業は終了しているらしい。
「――君はまた潜るのか?」
 私は彼に質問した。すると彼はきょとんとした表情になる。しかしすぐに微笑を浮かべた。
「それが仕事ですから」
「12月の海は冷たくは無いのか?」
 私の問いに彼は微笑を深めた。――今まで私は「どちらの」ダイブの事を指しているのか、特定はしていなかった。それがこの問いで判った事だろう。
「ここは常夏の海域ですよ?それに水温も環境分子で適度に調整されていますから、平常ですよ」
 彼は右手を挙げ、笑顔でそう答えていた。それは快活な笑みで、人好きのするものだった。それが私に向けられている。
 彼はリアルの海のダイバーでもあり、メタルダイバーでもあった。そのどちらにおいても、誰の追随も許さないレベルの人間である。この人工島だけではなく、おそらく世界を相手にしてもトップクラスだろう。
 彼としてはリアルの海のみに集中したいらしいが、どうやらこの企業の馴染みの人間達を見捨てる事は出来なかったようだ。
 初期化されたメタルのメンテナンスには莫大な労力を必要とするからだ。結果的に現状では彼がメタルの父のひとりとなりつつある。
 しかし、今、ここで話題になっているのは、リアルの海においてのダイブである。
「…まあ、7月末のあれ以来、環境分子も減少されてますけどね」
 苦笑気味に彼はそう付け加えていた。確かにあの事件により甚大な被害が発生していた。それを思うと、私は何処となく不安な感情が沸き上がってくる。
 ――その事実自体に、驚かざるを得ない。
 何だと言うのだこれは。まるで、人間が抱くような感情ではないか。

 ふと、彼は小首を傾げた。口許から微笑が消える。それでも柔和な印象はそのままに、私に言葉を投げ掛けた。
「僕を心配してくれているのですか?」
「…心配?」
 私は訝しく問い返す。彼の言葉尻を捕まえた。これは、心配と言うのだろうか?
「違うんでしょうか?」
 彼もまた私に質問を投げ返してきた。互いに何が何だか良く判っていないらしい。
 ともかく明確な答えがないのに不用意に言葉を並べるべきではない。私のAIに、会話特化型としてのプログラムが優先してきた。だからこれ以上の発言は慎む事とした。一旦沈黙する。
 私から言葉が返ってこないからか、彼は視線を向こうにやった。強化ガラスの向こうに。ここは海底区画であるために、窓ガラス状のガラスの壁面の先にあるのは、深く蒼い海である。空の蒼と似ているようで、違うものだろう。
「――もうすぐ、12月22日ですね」
 ガラスに透過された蒼を横顔に当てつつ、彼はそんな事を言い出した。私は電脳でカレンダーを確認し、首肯した。
「ああ、そうだが」
 しかし私には意味が判らない。その日が一体何だと言うのか。私は只、彼の横顔を眺めている。――不意に、その瞳が何処か遠くを見始める。
「…今まで、その日をどんな気分で迎えていたんでしょうね」
 彼は主語を付与せずに、そんな台詞を口にしていた。
 しかし私には、そこに来るべき人名が誰のものなのか。そして彼が一体どんな気分だったのか。すぐに理解出来た。
 そこに彼の言葉が続く。表情は柔和であり、口許には微笑が浮かんでいる。それでも、瞳の印象は何処か寂しげであり、困ったような笑みであり――。
「だから、僕が歩けるようになった時から、今年からはきちんと無事なダイブを見せてやろうと思っていたのです。なのに、肝心な彼が居なくなってしまった。…まあ、海から見ていてくれればいいんですけど」
 全く、その通りだった。
 それを自覚した途端、私の胸に刺すような痛みが走る。しかしこれは身体的なものではなく、精神的なものであるはずだった。それでも思わず視線を落とし、胸の辺りを見てしまう。

 これは、この不安は、私のオリジナルたる「彼」の記憶にあるものだ。
 彼が50年間抱え続けた後悔の念から発せられ、蓄積されたものだ。
 それが、記憶を受け継いだ私に影響を与えている。私が今抱いている「不安」は、そこから影響を受けているに過ぎない。
 精神的なものとは言え、胸が痛むと息苦しくなる。AIであり義体である私にはそもそも呼吸の必要がないと言うのに。
 私は眉を寄せ、微かに溜息をついた。手が動くならば胸を押さえていた事だろう。しかし私の手は震えるばかりで、車椅子の肘掛けからも上がらない。
「――では、お邪魔しました」
 不意にそんな声がした。私はゆっくりと顔を上げる。彼は、私に笑い掛けていた。そして私の前から立ち去ろうと、踵を返す。
 君は私の表情を見ていないのだろうか。何か――妙な表情を浮かべているとか、思わなかったのだろうか。AIのくせに、感情が篭ったような顔をとか――。
 私は何を思っているのだろう。オリジナルの「彼」の記憶の産物と言え、何を混乱している。
 しかし、その混乱を留める事は出来そうに無かった。
「――待て」
 思わず私の口からそんな短い言葉がついて出て来ていた。
 その声に、彼の足は止められていた。怪訝そうに私を振り返る。
 その表情は一体何のためにそんな事になっているのだろう。私が呼び止めた事か?それとも、私が妙な表情をしている事か?
 ともかく私はそのまま、動いていた。電脳制御の車椅子を用い、デスクから離れる。ゆっくりと切り返し、デスクの脇をすり抜け、部屋の中央付近に立っている彼の元へと進んでゆく。
 彼はそんな私の動きを只見ていた。不思議そうな表情を浮かべている。彼の視点は車椅子の私に合わせ、低くなってゆく。
 私は彼の前で車椅子を止めた。滑らかな動きの車輪がその場にぴたりと静止させる。彼を見上げる。その穏やかな瞳を視界に入れる。私の視界にあるダイアログでの彼の認識は――。
 長い、溜息をついた。少なくとも、私はそうしたつもりだった。
 そして、私は右手に力を込める。車椅子に置かれたその腕を、ゆっくりと持ち上げに掛かった。

 私は全身義体を確保したAIだが、義体制御系プログラムはインストールされていない。だから僅かに同期が可能な義体の回路に接続してコントロールする術しか持ち得ていない。
 結果的にその腕は震え、僅かずつしか動いてくれない。私の視界に、懸命に持ち上がる自らの腕が入ってくる。身に纏っているジャケットやシャツの衣擦れにすら負けてしまいそうな、そんな心境だった。
 私は眉を寄せ、歯噛みする。どうにかその手を広げようとした。5本の指も私の制御下にはなかなか入ってくれない。ぎこちなく、妙に力が入り曲げられた指が、私の視界で震えている。
 その向こうに見える彼の顔には相変わらず不思議そうな表情が浮かんでいた。何をしているのだろうと思っているのだろうか。
 しかし、実は私自身も、それを知りたい。
 私は一体何をやりたいのだろう。彼に対してどうしたいのだろう。
 それも判らないのに、私は必死に彼に向かって、その右手を伸ばしている。まるで、縋るように。
 その時、彼の顔にふっと微笑が浮かんだ。目を細め、優しそうな表情になる。何かに行き当たったような、納得したような顔だった。
 そして彼の顔が下方に動いた。どうやら彼は膝を曲げ、屈み込んできたらしい。私に向かって視線を合わせたまま、その顔を近付ける。
 不意に彼の両手が私の右手に伸びる。優しげに、やんわりと、その両手が私の右手を包み込んだ。その感触が私の手に伝わってくる。
 彼はにっこりと微笑み、私に視線を合わせて頷く。そして彼は、私の右手を、自らの頬に押し当てた。掌を広げるようにして、私が彼の頬を広く感じるように仕向けてくる。
 思わず、私は彼を改めて見上げていた。おそらく表情にも驚きの感情が現れていたのではないだろうか。――驚きか。本当に人間のような感情だ。
 そんな私に、彼は再び頷いた。今度は力強く、訴えかけるように。或いは、安心させるかのように。まるで、自分はここに居るからと言いたげに。

「――…あなたは、こうしたかったのではないのですか?」
 彼は笑い、そんな事を言った。その低い声が、私の耳を、思考を、くすぐる。
 私はそんな彼の顔を視界に捉え――そして、打ち切るように、俯いた。そして、小さな声で答えた。
「…おそらく、君が言う通りだ」
 実の所、私には自分が何をやりたいのか、全く判らなかった。心中の混乱は続いたままだった。
 今の私は一体どんな顔をしているのだろう。せめて彼からはそれを隠したくて、俯いていた。
 しかし、この掌に伝わる感覚が、何処となく私の混乱を沈静化に導いているような気はしていた。
 私の掌に伝わってくるのは触覚のみだった。人間の肌が感じる事が出来るような他の感覚は、私のAIに備わったプログラムでは受容する事が出来ていない。
 だと言うのに、私は確かにその頬の暖かさを感じていた。熱感知など備わっていないのに。その暖かさが、私を着実に安堵させてゆく。
 この感情は、「彼」の記憶からの影響に過ぎないのか。
 私はAIで、プログラムの産物だ。私自身のオリジナル足り得る確固たるものなど持ってはいない。
 しかし、重要なのは、私は今「そう感じている」と言う事実だった。
 私はこの男に――「好意」を抱いている。惹かれている。
 おそらくそれは、オリジナルの「彼」同様の感情だろう。その感情も私の保持している記憶に存在していた。それに影響を受けていないとも言い切れない。
 しかし、私はこの掌に伝わる「暖かさ」を信じてみようと思った。今となってはそれだけが、役目を終えたのにリアルに取り遺された私の拠り所であり存在意義なのだろう。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
すまん、番号増えた。
一方、海の深層では、怒りに震える「彼」の背中を眺めつつ「今晩、海が荒れるのかしら」と至高の話手様がぼやいてますよ。


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