超自然
更新日: 2011-05-04 (水) 11:45:19
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! 兄の一人語り
人間の記憶は不思議だ。
忘れたと思っていたものほど、ふとした瞬間によみがえる。
それは、忘れようとした記憶だからなのか、それとも実際には忘れようがないと
いうことなのか、俺にはわからない。
買い出しに行っていたサムが、戦利品をテーブルに並べていたとき、
「それ」は起きた。
サムが手に持っているのは何の変哲もない缶詰、それだけだ。
しかし、俺はそれを見て目を見開いた。
「ディーン?どうかしたのか?」
サムに声をかけられて、俺は息を止めていたことに気づいた。
俺は咄嗟にいつもの軽口でごまかした。
「何も。ただ、昔からその缶詰食ってるのによく飽きないと思っただけだ」
「それは他に選択の余地がなかったからだろ」
そうだ、その通り。俺たちにはいつだってそうだった、特に幼少の頃は。
だけど、その一言で俺の脳裏には当時の記憶がフラッシュバックした。
記憶の引き出しはいったん開けると、連鎖的に反応して収集がつかなくなる。
俺はなるべくそうならないよう、コントロールしていたつもりだった、
この時までは。
父親は狩りで不在の、サムと俺だけの食卓。ちびのサムが空腹に耐えかね、
ぐずっていたあの頃と今と、何か変わったんだろうか?
あの時だって余裕はいつだってなくて、サムが、サムが泣くから俺は…
「なんだディーン。食べないの?」
「俺はそれはいい。おまえが食べろ」
サムの声に目を上げると、奴は珍しそうな顔をして、缶詰の中身を開けた。
俺はそれから目をそらして、サムに気づかれないようにため息をつき、
なんとか食事を続けた。
その場ではうまくごまかしたつもりだったが、深層心理はそううまく言うことを聞いてくれないものだ。
俺は、その時自分が夢を見ていると夢の中で自覚していた。
見ている場所にも見覚えはあった。俺がジュニア・ハイに上がりたての頃、
短期間住んでいた町。他に住んでいた町と同じように、郊外の、名もない町だった。
その時、親父はやはり狩りにかかりきりで、家を空けることもしばしばだった。
タイミングの悪いことに、親父が留守の間渡される生活費を、
俺が使い切ってしまったことがあった。俺も幼く、
何か衝動買いをしてしまったのだと思う。
親父はそれまでは定期的に帰ってきていたので、
その時だってすぐ帰るだろうから大丈夫とタカをくくっていたのだ。
それが、アダになった。
2,3日を過ぎても親父は一向に帰ってこず、手持ちの金は
ほとんどなくなった。このときほど俺は自分の間抜けさを呪ったことはない。
今までは留守番でこんな失敗をしたことはなかったので、
親父もきっと少し安心していたのだと思う。事実、その時親父は狩りで
手が放せない状態だったのだ。
俺はリビングで絶望的な気持ちで立ち尽くしていた。俺はなんとか
飲み物でしのげても、サムは?
いつまでもサプリメントバーではごまかせないことは、俺が一番
よく知っていた。
「ディーン、おなかすいた」
俺のシリアルを与えても、サムは物足りなさそうだ。迷った末、
俺は外に行こうとした。
(なんとか食料を)と思った次の瞬間、俺はグローサリーにいた。
これから何が起きるのか俺は知っていた。夢の中だから、違う道も
選べたはずなのに、やはり俺はあの時と同じ行動をとろうとしていた。
グローサリーの中で、俺は追い詰められた気分でいた。
周りの風景はどこか輪郭を失い、ソフトフォーカスがかかって見える。
薄暗い、と俺は感じた。ポケットの中を探っても、ダイムがちゃらちゃら
鳴るだけだ。あの時もそうだった、と俺は夢であることをまた意識した。
しかし、俺はまだ、目が覚ませないこともどこかでわかっていた。なぜなら、
これは一度起こった事実をなぞっているだけに過ぎないから。その証拠に、
次の瞬間、目の前にはあの缶詰があったのだ。
(俺はこれを手に取った)
ほとんど無意識にサムの好物を選んだことは覚えている。
ラベルは原色のはずだったが、今はモノクロだった。そして俺は身を翻す、
出口へ、出口へ。しかし、その瞬間から歩いていたはずの地面は沼地のように
なり、走ってもそれがスローモーションのように感じるのだ。
俺は焦った。焦って焦って…そして次の瞬間、巨大な影に捕まった。
場面は切り替わり、俺は小部屋にいる。正面には中年の、この店の店長
なんだろう、だが顔はなぜか見えない。奴はもはや喋っていない、だが
俺はやつの言っていることがわかる。いや、正確には「思い出せた」。
『俺のような年頃の奴が食料品をとるなんて珍しい』
(普通は度胸試しにプレイボーイを盗むくらいだ)
『親には黙っていてやることもできる』
(その代わり、交換条件だ)
その後の事は、もはや忘れていたはずだった。現実味がない手が、
これほどの嫌悪感を引き起こしてくれるとはいっそ不思議だった。
あの時は俺はなんとか意識をそらそうと、バックヤードの剥げかかった
ポスターをただ見ていた。体を撫で回されている間思ったのは、
サムのことだった。ごめん。サム、おまえを一人にする。
俺は今度こそ身をよじって逃れようとした、その時、初めて相手の顔が
目に映った。その目は真っ黒だった、そう、奴らのように。
「ディーン!」
目を見開いたとき、俺は一瞬自分がどこにいるのか、今はいつなのか、
久々に混乱した。自分の動悸が耳元でうるさい。しばし呆然としている俺に、
サム―すっかり一人前の顔をした―が眉を寄せてのぞきこんできた。
「悪夢は見ないんじゃなかったのか?」
「…まあな」
俺は今更誤魔化すこともできず、短く礼を言った。夢の中で
とり殺されるなんてごめんだ。
「なんか、さっきから様子がおかしいと思ったら、案の定で驚いたよ。
すごい顔で寝てるから」
「悪かったな。さっきって?」
「食事のときから変だった」
こういう時、エスパーは伊達じゃないなと思う。小さい頃のサムは
あんまりだまされてくれなかったな、とディーンはふと子供の頃を
懐かしく思い出した。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! ナンバリングミススマソ
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