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恋煩い

ウ.ッ.ド.ハ.ウ.スのジ.ー.ヴ.スシーリズで
ジ.ー.ヴ.ス(執事)×バ.ー.ト.ラ.ム・ウ.ー.ス.タ.ー(主人)です

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ところでジ.ー.ヴ.ス、褒美は何が良い?」
麗らかな午後。僕は自室のソファで寛ぎ、機嫌よく紅茶を啜りながら、横に立っている執事のジ.ー.ヴ.スに問い掛けた。
ジ.ー.ヴ.スは本当に出来た執事だ。馬鹿な若主人には勿体無いと言われたら、僕も同意せざるおえない。
今日も僕が悪友から押し付けられた無理難題に頭を悩ませている最中、手を差し伸べてくれたのは
ジ.ー.ヴ.スだった。どんな騒動も彼の知略にかかれば、暗闇に光が灯り物語は終焉を迎えるだろう。
しかし、今日はいつもと勝手が違った点がある。
そういった騒動に巻き込まれる直前、どういう訳か僕とジ.ー.ヴ.スは険悪な雰囲気であることが多いのだ。
別に、ジ.ー.ヴ.スが時間通りに食事を運んでこなかった(そんなことは絶対に有り得ない!)とか
ジ.ー.ヴ.スが愚鈍な僕に腹を立てていたりという事ではない。いや、ジ.ー.ヴ.スが腹を立てているのは
事実かもしれない。しかし大抵は僕の履く靴下の紫色をジ.ー.ヴ.スが睨むだとか、
僕が選んだネクタイとスーツの相性を見て、ジ.ー.ヴ.スが悲しげな表情になるとかそういったことだ。
だが、ジ.ー.ヴ.スが気に入らないからといって、彼の言う通りの装いにするのは、僕の思想に反する。
紳士たるものが、執事に飼育される立場になって良いのかと。英国紳士なら誰もが頷いてくれる筈だ。
ただそれと同時に、そんな嗜好や思想の対立なんて、ジ.ー.ヴ.スが解決してくれた事件や、
与えてくれた安息の前では小さいことだとも僕は思う。その度、僕は己が信条を折り、
お気に入りの靴下やスーツ・ネクタイの処分を彼に命じる。
それが僕達の間でのみ通じる暗黙の了解であり、お詫びであり、褒美でもあるのだ。

話は逸れたが、今回はそういった対立もケジメも無かった。そこがいつもと違う点だ。今着ている、
黒の縦縞が入ったグレーのスーツと、それに合わせた濃紺のネクタイは彼の見立てによるものだし、
この前独断で購入した帽子も「僭越ながら、フォーマルな装いには不向きではありますが、
海辺の行楽にはよくお似合いかと」と、珍しく褒められた。
だから、服の処分に代わる褒美をジ.ー.ヴ.スに与えなければならない。
問題解決も仕事のうちだと言えばそれまでだけれども、僕はそこまでセコくないし
「ありがとう」の言葉だけでは居心地が悪い。その場その場で、貸し借りなしにしたいというのが本音だ。
「褒美、でございますか」
ジ.ー.ヴ.スは言い淀んだ。イエスであれ、ノーであれ、光の速さで質問に答える彼にしては珍しい反応だ。
およそ悩みとは無縁であろう頭脳を持つ、この男も悩むのか。低い声と無表情こそ平時と変わらないものの、
ジ.ー.ヴ.スの人間らしさに僕は嬉しくなった。チラリとこちらの様子を伺うような顔。僕は気が大きくなった。
さぁ、何とでも言い給え!金でも何でも―――金?
そうだ、この思い切りの悪さや考えている姿。大金に違いない。
「給金を倍にして頂きたいのです」とか「実はお暇させて頂きたいと思っておりました」と言われたらどうしよう。
最悪な事態を想像してしまい、一瞬で間逆の心境へと陥ってしまった。
前者は僕の資産では若干厳しいが問題はない。しかし「もっと良い条件のところへ参ります」という後者だったら困る。
実際、彼をもっと良い条件で雇いたいという人は大勢いるのだ。
ジ.ー.ヴ.ス無しの生活なんて考えられない。僕が爽やかに目覚めると同時に朝食を運び、
僕の靴を文句無く綺麗に磨き揃え、スーツに丁度良い着心地のアイロン掛け出来るのは、彼だけだ。
相談役としてだけでなく、歩き方から料理まで執事として完璧なジ.ー.ヴ.スがいなくなったら
僕の生活に朝は来ないだろう。

まだ答えないのか。早く答えろ!
オ.ッ.ク.ス.フ.ォ.ー.ド時代、多大な迷惑を掛けたであろう教授達の気持ちが、
ほんの少し理解出来たような気がした。それ程この沈黙が長く苦痛に思えたのだ。
「ご主人様」
「何だ?」
動揺を悟られないように気を配り過ぎて、尊大になってしまったことを
ほんの少し反省しながら「決まったか?」と言った。
「はい。ご主人様に触れても宜しいでしょうか?」

僕は今とんでもない聞き間違いをしたので、聞き直した。
「……今、何て言った?」
「触れても宜しいでしょうかと申し上げました」
聞き間違えではなかったらしい。金銭面のことしか考えていなかった僕は、予想外の返答に驚いた。
「それが褒美か?遠慮しなくて良いんだぞ」
帽子だってスーツだって僕のサイズを直接測らなくてもピッタリのものを用意する男が、今になって直接
触って調べるとは到底思えない。ジ.ー.ヴ.スなりのジョーク、という事だろうか。
あまりの無欲さに「それでしたら給金を倍に」という条件を出されても、今なら二つ返事で快諾してしまいそうだ。
「遠慮等しておりません」
些か拍子抜けしたものの、僕は「いいぞ」と言った。
ジ.ー.ヴ.スが少し安心したような、それでいて緊張しているように見えるのは気のせいだろう。
「失礼致します」
そう言ってジ.ー.ヴ.スは中世の騎士のように屈むと、僕の頬に右手を添えた。
僕は居心地が悪くなり、窓へと視線を移した。それがまるで開始の合図だったかのように、
ジ.ー.ヴ.スはそっと撫で始めた。特に会話がある訳でなく、時計の針の音だけがいやに響く。
僕はされるがまま、じっとしていた。

しかしどんな時でも、ウ.ー.ス.タ.ー家の人間は好奇心を忘れないらしい。
ジ.ー.ヴ.スはどんな顔をしながら撫でているのか、気になりだした僕は、逸らしていた目を
こっそり戻してみた。意外というか予想通りというか、ジ.ー.ヴ.スはいつもと変わらない無表情だった。
しかし、端正な顔は改めてよく見ると心臓に悪い。しかもこんな至近距離だ。
ジ.ー.ヴ.スが瞬きをしたので、僕は慌てて頭ごと視線を逸らした。
その時ようやく、僕はとても緊張している事に気付いた。そういば、ネクタイを締めるときや
髭を剃るときに触れられる事があっても、触ることを目的として、触れられたことは
今まで一度だって無かった気がする。

何だ、何が目的だ?しかし、あまりにも遅過ぎた。それを今更尋ねるのは、馬鹿らしいことのように思える。
別に困る事でもないし、ジ.ー.ヴ.スがそう言うのなら、何かの得になるか、きっと正しいことなのだろう。
僕は考えることを止めて、流れに身を委ねる事にした。そうだ、彼が間違ったことなど今の今まで、
一度でもあっただろうか。そう自分を納得させると、急に力が抜けてきた。
時折耳や首筋に指が触れるのは、くすぐったいので止めて欲しいが
ゆっくりと撫でられるのは気持ちが良い。緩慢な反復作業は人を眠りへと誘う。
何が面白いのかジ.ー.ヴ.スから「ふっ」と、吐息に近い笑い声が漏れる。
「どうした?」閉じかけた瞼を無理矢理開けて、ジ.ー.ヴ.スを見た。さっきから聞いてばかりだ。
ジ.ー.ヴ.スは質問に答えず「ありがとうございました」と言うと、ゆっくりと手を離し立ち上がった。
「もういいのか?」
「ご主人様?」
ジ.ー.ヴ.スはお辞儀をしている最中だったので顔は見えなかったが、
言葉には「今何と仰いましたか?」というようなニュアンスが含まれていた。
驚くのも無理はない。これじゃあ、ねだっているみたいじゃないか!
急に恥ずかしくなった僕は、ジ.ー.ヴ.スが答える前に「眠くなったから夕寝する」と宣言した。
ベッドという緊急避難場所へ潜り込み、会話を強制的に終わらせたのだ。

これ程、雨というものを恨んだことはない。
最近あの褒美をよくよく思い出すのは、散歩にも出掛けられず暇なせいだ。
それ以来、ジ.ー.ヴ.スが僕に仕事以外で触れることはなかった。
褒美という形式だったのだし、当たり前のことかもしれない。
そもそもあれは褒美だったのか。あのとき、その意図を尋ねなかった事に
僕はとてつもなく後悔していた。今更「どういうつもりだったんだ?」とは言い辛い。
なんせ一ヶ月は経っている。返答が返って来るなら、まだ良い。
「何のことでしょうか?」と忘れら去られている可能性もあるのだ。
気持ち悪がられることより、忘れられている方が恐かった。記憶力の良いジ.ー.ヴ.スが
忘れる物事なんて無いと思うが、忘れた振りという可能性もある。僕とジ.ー.ヴ.スであの褒美の重さが違ったら少しショックだ。
ジ.ー.ヴ.スの気持ちや意図が気になるということは、認めたくないが、そういうことなんだろう。
だけど僕のこの気持ちだって、正真正銘本物とは限らない。別にそういう仲になりたい訳でもない。多分。
ただ、ジ.ー.ヴ.スの気持ちを知りたい。その後は状況と雰囲気によりけりだ。
どうすれば、スマートに尋ねられるだろうか。その後の生活に支障をきたすようでは駄目だ。彼に去られては困る。
やり取りを想像しては溜息を吐く、それが僕の仕事になっていた。

「そうだ!」
名案を思いついた僕は、ベルを勢い良く鳴らした。
僕の案はこうだ。「褒美をやろう」と言って、前と同じ答えだったら、その時、ジ.ー.ヴ.スに理由を聞けば良い。
例えば「そういえば前もそんな褒美をやったな。どうして触るんだ?」と気軽なノリで。
もし違う答えだったら、ジ.ー.ヴ.スにとって僕に触れた事は過去の事で、特に意味なんてない事の筈だ。
要求を適当に飲むなり断るなりして、ジ.ー.ヴ.スの本心を聞く事を諦めれば良い。
血迷った僕の想いも無かった事にする。僕の負けは無い賭けだ。

「ジ.ー.ヴ.ス、褒美をやろう」
「ご主人様?」
何の脈略も無く、そんな事を言い出す主人を不審がっている。
僕はジ.ー.ヴ.スの目を見て、僕の作戦が名案でも無ければ、そんなに大した案でも無い事に気付いた。
せめて、詩や恋文のように一晩寝かせてからにするんだった。いや、一晩では駄目だ。
何か一悶着あった後にでも言えば良かった。しかし、後悔してももう遅い。
「君が言いたい事はよく分かる。ただ、その……そうだ!身の回りの世話を良くやってくれているだろう」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「うんうん」
「しかしながら、それがわたくしの誇りでもあり仕事なのです。お気持ちだけで十分でございます」
「そうか、そうだよな。じゃあ」
この話はお終いだ、と僕が続けようとしたそのとき、ジ.ー.ヴ.スは被せるように
「ですが……どうしても、と仰るのでしたら」と言い出した。
「何故、そのようなご発想に至ったのか、存じ上げたいと思います」
僕は耳を疑った。
「な、何故って、さっき説明しただろう?」
「では、質問を変えさせて頂きます」
表情を変えることなく、ジ.ー.ヴ.スは言った。
「ご主人様はわたくしの事をどのようにお思いなのでしょうか?」
何故僕が聞かれる立場になっているんだ!
「参考までに、君の意見から先に聞こうじゃないか」
「ご主人様」
ジ.ー.ヴ.スは恭しく僕の手を取って、甲に口付けた。
僕の気持ちを知っていて、ここまで期待させておいて、その癖、僕の口から言わせる気か。
これが単なる勘違いだったら、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
しかし、こうなったジ.ー.ヴ.スは梃子でも折れないのは、主人の僕が一番よく知っている。
そして結局先に折れるのは、いつも僕だということも。

「すまない、ジ.ー.ヴ.ス。褒美なんて嘘だ。冗談だ」
先を促すジ.ー.ヴ.スの瞳。これでは駄目なのか。
「僕は君の意図を知りたかった。何でこの前、触れたのかを。そのときの気持ちを。意味は分かるな?」
「申し訳ございません。心の機微には疎いもので」
こんなに説得力の無いジ.ー.ヴ.スの言葉を、聞いた事がある奴はいるだろうか。
可憐な少女が知らない振りをするならまだしも、お前が言うのか!やけになって僕は言った。
「僕は、執事としても人としても君の事が好きだ!だから君の気持ちを知りたいと思う!」
いっそ「命令だからさっさと答えろ。気持ち悪いと思うなら出て行け!」と怒鳴りたかったが
口の中がカラカラで、心臓は緊急時のベルのように鳴り響き、顔は熱いのに体は冷えていて
思うように声も言葉も出なかった。

「順序立てて、申し上げさせて頂きます」
ジ.ー.ヴ.スの右手が僕の頬に触れた。命令でもなく。褒美でもなく。
だったら、これは何なんだろうか。嫌なら嫌で我慢して従うのでなく、さっさと答えを言って欲しい。
誤解し、期待したまま浮かれるのは御免だ。
「褒美というお言葉を聞いたとき、悪い事ばかり考えつきました。
その為、失礼ながらわたくしは色々と知りたいと思料致しました」
「触る事でか?」
ジ.ー.ヴ.スの考える悪い事にも興味はあったし、色々に何が含まれるのかも気になったが、
それよりもその知りたかった結果とやらを、早く知りたかった。僕は先を促した。
「その時はよく分かりませんでした。ただ、ご主人様が物思いに耽る回数が増えたことに、喜びを感じました」
「人が悩むことが嬉しいのか!」
「この件に限らず、ご主人様の苦悩に満ちたお姿は、常日頃から大変好ましいと感じております」
「ジ.ー.ヴ.ス!」
ふざけるなと、僕の気があともう少し短かったら彼を殴っていただろう。
「いえ、今回の件に関しましては悩まれるお姿だけについてではありません。
ご主人様が一日中、わたくしめについてお考えになっているのかと思うと、不思議と心が満たされていったのです」
ふっとジ.ー.ヴ.スが微笑んだ。
「わたくしも、ご主人様をお慕い申しております」

これは反則技だ。長い付き合いの中で、ジ.ー.ヴ.スの笑顔のようなものは何度か見た事はある。
けれども僕に、しかもこんな柔らかい笑顔なんて。初めて見たかもしれない。
僕は驚きのあまり、怒りや喜びどころか全ての感情を持って行かれてしまった。
「ご主人様」
ジーヴスの右手が肩にゆっくりと滑り落ち、そっと僕の背中に回った。
「ジ.ー.ヴ.ス?」
今までの割れ物に触れるような力が一変して、強く僕を抱き寄せる。ソファから床へ崩れ落ちた僕は、
危うく膝を痛めるところだったが、そこは流石ジーヴスと言った所か。思った程の衝撃は無かった。
抗議の声をあげる前に、僕はジ.ー.ヴ.スに口を塞がれた。ちょっと待て、リードするのは主人である僕の役目だろう!
角度を変えて、ジ.ー.ヴ.スは僕の舌を執拗に追い掛けてくる。
くすぐったさと息苦しさに思わず身を捩るが、ジ.ー.ヴ.スは手加減しないどころか、
わざと音を立て僕を煽った。背中をさすられると、声にならない呻き声が出てしまうのが恥ずかしい。
ようやく開放されたときには、既に僕の体は息を吸う事しか出来なくなっていた。
ジ.ー.ヴ.スは仕上げと言わんばかりに僕の唇を舐め、耳朶を噛み、甘い囁きを耳に流し込む。
「君は愛を囁くときも、表情を変えないのか」
ジ.ー.ヴ.スの余裕が憎たらしくて、僕は息絶え絶えになりながらも皮肉を言った。
「ご命令とあらば如何様にでも」
「……君の好きなようにするといい」
「かしこまりました、ご主人様。ありがとうございます」

あの褒美を持ち掛けられた時から、ジ.ー.ヴ.スにはこうなる事が
分かっていたんじゃないだろうか。それとも彼なりに悩んでいたんだろうか。
悩んでいれば良い。もしそうでないなら、今からでも遅くは無い。僕と同じくらい悩め。
恋煩いで夜も眠れないジ.ー.ヴ.スを想像して、僕は笑った。

連続投稿規制に引っ掛かったので、最後携帯からになりますが
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • やってくれてありがとうございます!しかも好きなCP! -- 2009-08-29 (土) 14:03:43
  • たまには逆襲もいいですね!ご主人様! -- 2009-09-06 (日) 13:58:34
  • はじめまして!か、完璧!続編希望です! -- 2009-09-12 (土) 21:50:22
  • 好きなCPでなんというステキSS!続編希望です!! -- 2011-03-31 (木) 19:21:20
  • まさかこのカプが読めるなんて!!執事可愛いよ執事! -- 2011-07-28 (木) 01:33:46
  • 身悶えする程に続編が読みたいです!主従最高! -- 2012-03-06 (火) 17:49:00
  • か、神がここにいた・・・ついに見つけたyoooooooo!!! -- 2016-09-23 (金) 01:23:28

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