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大56×小3103

白色巨大建築物、肉食獣系偉丈夫56×マウス系ちんまい3103。
新作の逆配役イメージですが、科白を少し脳内で弄って民矢版で上映してもいいかも。

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大学病院の朝8時半。外来待合室は既に大勢の患者で埋まり、一日が始まる
慌ただしい時間を迎えている。
一方教員たちの個室が並ぶこのフロアは、ほとんどの者が出払っているため
ひっそりとしていた。その静けさの中をパタパタと、ほとんど小走りに
廊下を辿る足音が響く。
急いでいるのは第一内科の聡観医師だった。彼は目的のドアに到達すると
「在室」の表示にちらりと目を遣っただけでノックもせずに引き開け、
くたびれた白衣の裾を大きく翻しながら中に飛び込んだ。
「剤全!」

部屋の主は広い背中をこちらに向け、中央の空間に仁王立ちしていた。
オーケストラを指揮するごとく上げた手を空で止めたまま、塑像のように
動かない。
その意味を瞬時に察した聡観は己の失態を呪った。
「イメージトレーニング中だったか、すまん」

ゆっくりと振り返った眼差しの冷たさに、闖入者は申し訳なさそうに首を竦める。
「邪魔して悪かったよ。どうしてもK村さんの事が気になって、もちろん後で
見にも行くが、その前に術式について君に説明してもらおうかと――」
「オペの前は部屋に入らないよう、部下には徹底しているんだが。どうやら
他科にまで通達を出さなくてはならないようだな」
いかにも苛立たしげな声音と共に第一外科の助教授はずい、と聡観に近付いた。
華奢な内科医は気圧されて一歩後ずさる。
「……すまなかった、退散するよ。続けてくれ」
「最初からやり直すにはもう時間が足りない」
剤全はちらりと壁の時計を見上げる。

「そうか……、本当に悪かった。もっと早くに来るつもりだったんだが、未明から
ずっと救急の手伝いに呼ばれていたものだから。慌ててしまって考え無しだった。
もうこんな真似は決してしないよ、約束する。僕が邪魔してやりにくくなって
しまっただろうか。本当に申し訳ない事をしたが、頼むよ剤全、K村さんの手術、
頑張ってくれたまえね」
気遣わしげな瞳で熱心に訴える聡観。自分が引き起こした外科医の不機嫌を
何とか宥めようと必死だ。そんな彼を見下ろして、剤全は傲慢に言い放つ。
「もちろんだ。俺が切るのに失敗などあり得ない。それに――」
「相変わらず頼もしい事だな! 君が引き受けてくれて良かったよ。――あ、
ごめん、何だい?」
曇っていた表情をぱっと一転信頼の笑みに変えた聡観だが、相手の言葉を遮って
しまった事に気付いて先を促す。
「――集中力を上げる方法は他にも有るさ」
え、と思う間もなく聡観は長い腕にすくわれて壁に標本のように止められた。
そして抗議しようと開きかけた唇の意図は完全に無視される。
「ん、……っ」
噛み付くようなキス。下唇を貪り喰われてしまいそうだ。
剤全のこんな狼藉は今に始まった事ではないけれど、このやり口には腹が立った。
大事な時間の邪魔をした自分が悪いのは認める。だがここは病院、そして彼は
この後難しい手術を控えているのに、あまりにも悪ふざけが過ぎるというものだ。

身をもぎ離そうとした聡観だが、憤りを覚えたのと同じ理由が抵抗を躊躇わせた。
自分をがっちり捉えている剤全の手。それはこれから人ひとりの命を左右する
緻密な手技を行なうのだ。下手に払いのける事はできない。胸を押し戻して
やりたいところだが、相手の体重ごとぴったりと押し付けられていて無理だった。
体格で大きく劣る上に反撃も出来ないのであれば、せいぜい平手で肩を叩いて
放せという意思表示をするくらいだが、こちらの希望など汲んでくれる相手ではない。
なす術が無くなった聡観は、小さく頭を振ってせめて唇だけでも逸らそうとした。

聡観が抵抗を控えている事は剤全にも伝わっていた。鼻先でフフンと笑った相手が
唇を離したので、これで解放されると聡観はほっと息を吐く。しかし、
「聡観先生はいつも思慮深くていらっしゃる」
そんな言葉と共に今度は直接頭を掴まれた。
顎関節を押されて開いた前歯の間から、剤全の舌が侵入してくる。それは中で
暴れ回り、吸い上げ、絡み付く。

こちらの気遣いにまで乗じる相手に本気で怒り始めた聡観は、外科医の舌を
押し戻して口を閉じようと躍起になる。
それに気を取られているうちに、いつの間にか膝が割られ、剤全の大腿が聡観の
内股から前を嬲っていた。
驚いて身じろぐと、中心を下からとん、と軽く突き上げられた。
剤全が居なければ知るはずのなかった感覚が、容赦なく背骨を這い上がってくる。
さらに顎を掴んでいた手が壁と聡観の背中の僅かな隙間をこじ開け、尻の肉を
揉みしだき始めた。
これはもう戯れや悪ふざけの域を超えて、直接その先に繋がる行為だ。
そう気付いて聡観はパニックを起こしそうになる。
(いやだ、止めてくれ。ここは病院だぞ。おまけに今は朝で、……僕は外来に
行かなくちゃ。君だってこれから、そうだ、K村さんの手術――!)

しかしその時には既に、改めて抵抗を始めるどころか力が抜けてまともに
立ってさえいられなくなっていた。下から自分を嬲る膝の上にくずおれていきそうな
身体を剤全がぐいっと引き上げ、今度は顎に軽く歯を立てる。
唇がやっと解放されたものの、それまで奪われていた呼吸を貪る方が先だった。
続いて首を舐め下ろしていく生温かい濡れた舌が、酸素を求めて慌ただしく動く
喉仏をまさぐるようにひと回りする。舌の新たな進路を確保しようと、無遠慮な
指がネクタイを緩めにかかるに至って、聡観はようやく小さい声を上げた。

「剤全、もう、っ……時間が――」
「判ってる」
次の瞬間、いきなりぽいと捨てるように総ての圧力が解かれた。

その場にくたくたとへたり込んだ聡観を、一歩下がった剤全が満足そうに
見下ろしている。
「ごくろうさん、聡観。君のおかげでテンションを上げられた」

――彼は何を言ってる? ……ああそうか、剤全はこれからK村さんの手術を
するんだったっけ――

聡観の混乱する頭の上に、彼が最も信頼する外科医の力強い言葉が降って来る。
「任せておけよ。君のたっての依頼だ。完璧に処置してみせる」
「そうか……ありがとう、頼むよ。」
礼を言いたい気分ではなかったが、それとこれとは別なのだ。――たぶん。
聡観は胸に手を当てて、弾む息を落ち着かせようとする。落ち着かせたいものは
もうひとつ有った。十代の少年じゃあるまいし、どうして彼に触れられると
こんな事が起こってしまうのだろう。

つかつかとデスクの前に戻った剤全は立ったままメモに何かを書いて破り取り、
聡観の鼻先に突き出した。
「……後でここへ」
紙に目を落とした聡観の頬がさっと紅潮する。その場所へ赴く目的はひとつしか無い。
「な、ん――」
「手術の前は集中力を高める必要が有るのと同じように、術後は興奮を治めなくちゃ
ならん。付き合え」
「……どうして僕が。君には、」そういう相手がちゃんと居るんだろう。
言いさして口ごもる。剤全の女性関係は半ば公然となっていたが、それを面と
向かって指摘するには、聡観には良識が有りすぎた。

剤全は相手のそんな心中の機微などまるで意に介さない様子で言葉を継いだ。
「『医者は神様じゃない、人間だ』と君は言ったな」
「……ああ。」
唐突な物言いに、頷きながらも聡観は戸惑う。
確かに言った。2・3日前だったろうか、だから医師も謙虚であるべきだ、と
訴えたつもりなのだが、何故今ここでそれを――
「そして、俺の手技が神の技だ、とも」
「あ? ああ言ったよ。……そうとも、君の技術は超一流だ。だから安心して
任せられる。頼むよ剤全、K村さんは早期発見と呼べるかぎりぎりのラインだと
思うが全身状態は悪くないし――」

聡観はぺたりと座り込んだまま、それでもいつもの生真面目な、患者第一主義の
医師の顔に戻りかけた。そんな内科医に、剤全は次の言葉を投げ付ける。
「さて、俺は神ならぬ身で神の技を振るうんだ。どこかでバランスを取る必要が
有るのさ」
目の前に勢い良く膝をつかれて、聡観はびくっと身を震わせた。その振動だけで
まざまざと蘇ってきた感覚を悟られまいと、白衣の前を不自然にかき合わせる。
剤全はそれには素知らぬ顔で話し続けた。
「神の手を振るったら、俺の中では悪魔が暴れ出す。君は俺の中の神を利用する
んだ。なら、悪魔の部分の面倒も見てくれなくちゃな。君にはその責任が有ると
思わないか?」
「きみが何を言っているのか分からない――」聡観は弱々しく呟いた。
「平たく言えば、オペの後はひどく興奮するって事さ。難しいものであれば
あるだけな。K村さんは、君も承知の通り、実に困難な症例だ。君がそれを
持ち込んだんだから、責任を取ってくれって言ってるんだ」

精密な手技をこなす神の右手ががしりと聡観の肩を掴み、熱を宿した悪魔の瞳が
聡観の顔を覗き込む。
「――それに、君だって」
剤全の左手も既に悪魔の領域であるらしい。未だ宥め切れていなかった聡観の
部分を残酷に辿る。
聡観は息を詰めて蠢く指を受ける。剤全の要求が神の技術の代償だと言うなら、
自分がむしろ自らそれを望んでしまうのは、いったい――

「じゃあ行ってくるよ聡観」
剤全は右手で聡観の肩をひとつ叩くと立ち上がった。
「オペはきっかり35分後に始める。君は外来で何人か診てから来るつもりか? 
また遅れるといい所を見逃すぞ。
でも、まず先に服を直して――それともシャワーでも浴びてきた方がいいかな、
聡観センセイ。」

床の聡観に高笑いを残し、長身の天才外科医は大股で扉を抜けて行く。

聡観はその日、担当の外来患者たちをひどく待たせる事になってしまった。

□ STOP.

  • (・∀・)イイ! -- 2012-12-18 (火) 22:41:18

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