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ケータイ捜査官7 先輩×後輩

しゃべるケータイが出てくる話です。先輩×後輩

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ゴーサイン  1/6

 仕事を素人に引っ掻き回されるのは真っ平御免だ。別にアンカーの仕事だけではない。
昔から自分の仕事を他人と合わせて行うのは苦手だった。
ペースを崩されるのも足を引っ張られるのもイライラするからだ。
いつも与えられた仕事は一人でこなしてきた。
それで不都合を感じたことはない。誰にも文句など言わせたことはない。
だからこれからも自分のペースさえ保てれば誰が何をしていようとどうでもいい。邪魔さえしなければ。
 桐原大貴はそう思っていた。……ついこの間までは。

「クソッ、あと何階だ、サード!!」
「推定位置でしかでございませんが、まだ半分も上がっておりません」
 鍛えているはずなのに汗に塗れた身体にシャツが張り付くのが猛烈に不快だった。
最初はただの愉快犯だったものが犯行をエスカレートさせていくのはよくある話だ。
だからカラフルな花火で満足させていた犯人が、次に爆弾を仕掛けたのも予想範囲内だった。
だが、あの素人に爆弾処理に任せるとは。素人に全部押し付けて己を退去させようなどとは。
「美作さんはどうかしている!」
 胸の内に押し込められた苦い塊を吐き出すように桐原は言い捨てた。
「恐れながらバディ、貴重な戦力を二人失うのは得策ではございません」
「あいつは使い捨てか!!」
 桐原が滅多に見せない鋭い怒りにサードは押し黙る。分かっている。こいつは機械だ。
AIは情に惑わされることはない。感情があるように見えても、それはそう見えるだけの計算の結果なのだ。
俺はこいつの常に合理的な判断を気に入っていたはずではなかったか。桐原は少し立ち止まって息を整える。

「すまん。冷静さを欠いた。網島のいる位置まではまだ遠いか」
「……3階上でございます」
 あと一息だ。
「時間は?」
「残り、18秒」
「……畜生が」
 戻れば助かるかもしれない。昇っても間に合うか分からない。
網島が自力で爆弾を解除できるか。賭けるしかないのか。どっちだ。
「……俺もヤキが回ったもんだ」
 桐原は階段の上方を睨み付けた。もう一度大きく息を吸い込むと、一気に駆け上がって行った。

「悪運強いな、お前」

 桐原が辿り着く前に轟音がとどろいた。ビルを揺るがす振動に桐原は足を取られ、手すりにかろうじて掴まる。
爆発したのか?! 血の気が一気に失せた桐原が一瞬動きを止めると、不気味な振動を伴ったその爆発音は
ビル全体を小刻みに揺らし、やがて消えた。それきり、ビルの崩壊などは感じられない。
「網島!!」
 残りの階段を一足飛びで駆け上がると、セブンを握り締めて小刻みに震えている網島の姿が目に入った。
怪我などはしていないようだ。足が萎えそうになるのを堪えて桐原はやっと辺りを見渡した。
グラインダーを使ったのだろう、エレベータの扉が丸くくりぬかれ、開口部から煙が噴出している。
どうやらエレベータを処理容器の代わりにして爆破処理したようだ。
「悪運強いな、お前」
 片膝を立てて座り込み、網島の顔を覗き込んだ。青ざめているが、やはり怪我はない。
どれほど安堵したかは表情には出さず、皮肉気に笑って見せた。予想通り網島は半分泣きそうな顔で桐原を見返した。

「桐原さん」
「申し訳ございません網島様、これでも桐原様はお二人を心配して、退避命令を無視したのでございますよ」
 おしゃべりな携帯を片手で握り締めると、かすかにぐえ、と声が上がってサードはおとなしくなった。
「サード、一言余計だ」
「恐れ入ります」
 ふんと鼻を鳴らし横目で網島を見る。
 やっと少年の表情が明るさを取り戻した。自分のバディにサムズアップをして
事の成就をささやかに祝うのを横目に桐原は口を開いた。
「本部に報告の後、一応メディカルチェックを受けろ。セブンもメンテナンスだ」
「怪我してないです、別に」
「形式だ。やっておけ」
 不満気な網島をあとに桐原は踵を返す。慌てたようにサードが口を開いた。
「網島様たちはどうするのですか」
「子供じゃないんだ、自分で降りりゃいい」
「あんなに心配されていたのに、無事を確認されたらとたんに、」
 またしても、ぐえ、と声が上がって携帯は大人しくなる。階段を踏みしめる直前、桐原は網島を振り返った。
何気なく振り返っただけだったのに、幼げな顔に似合わない、陰鬱な横顔に足が止まる。
小声ではあったが、その声は桐原までまっすぐに届いた。
「……滝本さんは誉めてくれるかな」
 その瞬間膨れ上がった感情は、何に例えればいいのだろう。怒りとも憎しみとも呼べない暗雲のようなどす黒いもの。
ほんの刹那、殺意さえ込めて、桐原は網島を睨み付けた。だがそれも一瞬だった。
桐原はすぐに網島から視線を引き剥がし、足早にその場を後にする。

 入り口から出るとすぐに瞳子が駆け寄ってきた。
「ケイタ君は?!」
「無事だ。爆弾も処理した。ビル自体の損傷は激しいがやむを得ないだろう」
 そこまで言って桐原は瞳子の奇妙な視線に気がついた。
「何だ」
「何かあったの?」
「何がだ」
「人を睨み殺しそうな顔してる」
「……余計な世話だ」
 まだ何か言いたそうな瞳子をあえて無視して歩き出す。後方で瞳子が大声を上げた。
網島が出てきたのだろう。桐原は振り向きもせずに歩き続ける。道路の反対側に止めてあった車の前で足を止めた。
そのまま運転席側のドアを開ける。
「網島についていなくていいのか」
 いつ自分を追い抜いたのだろうか。携帯電話が車のダッシュボードに置かれていた。
声をかけると蓋が開き、手足が伸びる。網島の相棒であるところの、フォンブレイバー、セブンが桐原を見上げていた。
「……ケイタの心の支えは、滝本の遺したたった一つの言葉なのだ」
「意味が分からん」
「それだけを胸に抱いて、ケイタはありったけの勇気を振り絞っているのだ」
 収まっていたはずの胸苦しさが急激に喉元までせり上がってきたような気がした。
「ケイタは家にも学校にも自分の居場所はないと漠然と思っていた。どこにも所属できない自分を
半端な人間だとみなし投げやりに生きていた。そのケイタを認め笑いかけてくれた人間が滝本だった。だからケイタは」
「だから俺に言ってどうする」
 苛々と桐原は遮る。
「俺に滝本の代わりに子守でもしろっていうのか」
「君が、そんなケイタを見て苛立つのは分かる。若さゆえの脆弱な精神だと唾棄していることも知っている。
しかし、ケイタはほんの少しずつだが自分の意思で歩き始めている。どうか見守ってやってほしい」

 つまり、このAIは先ほどの自分の行動を、弱々しさを見せる後輩への苛立ちだと判断したのだろう。
そして己の判断でバディのフォローにまわったわけだ。まったくこの機械はよく出来ている。嫌気が差すほどに。
「……誰にでも心の拠り所の一つくらいはある。そんなことで態度が変わったりはしない。
あの素人がそろそろお前を探し始めるんじゃないか。もう行けよ」
 それでもしばらくセブンは佇んでいたが、やがて車から降りて姿を消した。
道路の反対側で瞳子に捉まっている網島の元に向かったのだろう。
 桐原はしばらく運転席で宙を見上げていた。機械にも分かるほど自分は感情がぶれたのだ。
その事実を噛みしめるように目を閉じた。
 弱々しさを見せる後輩への苛立ち。
 さっきまでは自分だってそう思っていたのだ。だが。

 滝本さんは誉めてくれるかな。

 その呟きを聴いた瞬間の感情を、もうごまかす事は出来なかった。
「……嫉妬していたのか」
 誰に?
 
 滝本に。

 認めることが耐え難いほど苦痛だった。しかしもう、後戻りもできない。認めるしかない。
苛立ちも怒りも焦燥も、全て一つの感情から出ていたことだということを。
 桐原は目をつぶったまま仰向いた。いつの間にあの素人はこれほど自分の心を侵食していたのだろう。
やっと自分の名前を呼んでくれたと笑った顔がいつまでも脳裏をちらついて離れなかった時からか。
いや、もっと以前から、あるいは、出会った時から? いくら考えても、きっと答えは出ない。
 死んだ人間にどうやって勝てというのだろう。言葉一つで、笑顔一つで絶対の存在となった男に。
ああそうだ。気付いた今となっては、どうして気付かずに今までいられたのかと思うほどに焼け付くような嫉妬が身を焦がす。
「ずっと、欲しかったんだな」
 だから苛付いていたんだ、俺は。ガキか。いや、ガキ以下だ。
 目を開けて、道路の向こう側を見た。瞳子に説教されて辟易している網島の姿があった。
じっと見つめ続ける。やがて、桐原の唇が皮肉気に歪められた。
「……セブン。見守ってやってもいいが、そのうちそれだけじゃすまなくなるかもな」

 桐原は、静かに言い切った。
 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • 萌えました~♥続き読みたいです♡ -- 2013-07-07 (日) 00:28:42

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