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VOCALOID マスター×KAITO 「オレたち専用」

某化炉意戸 マスター×海人
どうしてもマスターがオリキャラになってしまうので苦手な人は注意
実体化してません。海人がマスター好きすぎかも。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

永遠にも思える程に長い暗闇が、終わる。
外から促されて、全ての機械達が熱を帯びる。動き出し、『主』を歓迎する。
世界は明るくなって、はっきり見えるのは、ずっと待ち望んでいたもの。

「帰ったぞ、カイト」

この時間が、たった一つの、何よりの、俺の“幸せ”。

カタカタとキーを叩く音が、ずっと続いていた。
すぐ目の前には、大量の情報を書き込まれた譜面が広げられている。
ぼんやりと見ている前で、音符や記号が生まれては消え、移動し、
譜面の長さはどんどん伸びていく。

その譜面の向こう側には、すっかり眉間にしわの寄った、険しい顔がある。
いつものように真剣になりすぎて、作業に没頭している顔。
思うように書けなくて、ほんの少し苛立って、焦っている顔。
もっと力を抜けばいいのに。そんなに怖い顔でやらなくてもいいのに。
その顔になる度に思うけれど、あえて口には出さない。
真剣になるのは、“曲”を完璧にしようと思ってくれているからだし、
そんな顔のマスターを見ているのも、好きだから。

「…よっし、修正終わり」
待ち望んでいた言葉を聞いて、俺は思わずマスターを見上げた。
「待たせて悪かったな、カイト」
「そんなことないです。お疲れ様です、マスター」
俺が言うと、マスターは久しぶりに笑顔を見せて思いきり体を伸ばす。
「微妙なズレを全部直したから、これでお前も歌いやすくなるはずだ」
「だいぶ疲れてますね。少し休憩したらどうですか?」

俺が提案すると、突然マスターは呆れた顔でおいおい、と俺を覗き込んだ。

「なんの為にこんな集中して直したと思ってんだよ」
「?それは、ズレが思ったより酷いからって――」

「お前に早く歌わせたいから、だろうが」
マスターの言葉に、俺は一瞬だけ、驚いた。
そんな言葉、マスターの性格上、めったに聞かないから。

「ましてやお前、オレがパソコン立ち上げてからずっと待ってたろ?
 これ以上待たせたら、オレのプライドが許さん」
「プライドって……何のプライドですか?」
「そういうのはツッこむことじゃねえ」
そう言ってわざとらしくふんぞり返るマスターを見て、俺は吹き出す。
こら笑うな、とマスターがモニターを軽くつついてきた。
それが嬉しくて、また可笑しくなって、俺は笑いを必死にこらえる。

「ほら、こんなコントで時間使ってるヒマはねーぞ、準備しろ準備」
「分かりました。マスター」

なんとか笑いを抑えて、俺は短く答え、歌う用意をする。
マスターの手が、譜面を一番初めに戻す。
目線が合って、それを合図に前奏が始まる。

歌う。マスターが書き上げた詞を。マスターが造った曲調を。
歌う。マスターが真剣な顔で直した部分を。
マスターがここがポイントだ、と自信たっぷりに教えてくれた箇所を。

歌う。歌う。
それが俺の“在る”意味。それが俺の命そのもの。
少しだけ視線を向けてみると、マスターが満足そうな顔で聞き入る姿があった。

俺が歌えば、大好きな人が、喜んでくれる。
それが俺の“幸せ”。

歌い終わって、演奏が終わって、俺も満足だった。
歌詞と曲が好きで、この前よりもずっと歌いやすくなっていて、
何よりもマスターが俺のために作ってくれた曲を歌えたことが、嬉しかった。

「やっぱ、すごいなぁお前は」

ふいに、マスターの呟きが耳に届く。

「マスターがあんなに真剣に曲を作ってくれたから、俺は最高の状態で
歌えたんです。すごいのはマスターです」
俺が心からの感想を伝えると、マスターは、んなことねーよ、と
いつものように照れてしまう。

「自在に歌えるわ、しかもいい声だわ、こうやってオレと喋れるわ、
 どう考えてもお前“が”すごいだろ。オレなんかと比べんな」
そうやって、マスターはふてくされたようにそっぽを向いてしまう。

それを見るたび、俺は、いつものように同じことを思う。

「マスター」
俺が呼ぶと、マスターはじとっとした視線を向けてくる。

「俺、マスターのところに来られて、幸せです」
俺が言うと、マスターは少し間を空けて、こっちへ向き直る。

「こうしてマスターと話せるのが、マスターの為に歌えるのが、俺は幸せです。
 俺は歌うことしかできないけれど、歌うことでマスターの力になれるのなら、
マスターが喜んでくれるなら、俺はいつでも歌います」

本当に心の奥底から出てくる思いを、俺は伝え続ける。
マスターがどんな顔で聞いているのか、そのときの俺からは見えない。

「大好きです。マスター」
最後に、いつものように、一番言いたい言葉を伝えて、俺はマスターを見上げた。

マスターの顔は下を向いてしまって、見えない。
自分勝手に喋りすぎただろうか、と不安がこみ上げて来て、俺は黙り込む。
でも、マスターが不愉快に思ってしまったとしても、
それは俺の、本当にマスターへ伝えたい気持ちだったから、
訂正しようとは思わない。

「……あー、今日は宅配便はこねーな。よし、他に誰も来ませんよーに」
突然、マスターは天を仰ぎ、大げさに祈りを捧げるポーズをとる。
意味が分からずにそれを見る俺に、マスターは赤くなった顔を向けた。

「だから……もし見られたら、完全に変人だろ、オレ」
耳打ちするような微かな声がして、マスターの顔が近づいてきた。

意味を理解して、俺は少し気恥ずかしくなりながら、目を閉じる。
モニター越しに、マスターの温もりを求める。

マスターと、俺のいる世界を隔てている壁。
永久に消えることはない壁。
これがなくなってしまえばいいと、何度思ったことだろう。
そうすれば、もっとマスターの近くにいけるのに。
もっとマスターの温もりを感じられるのに。

叶うはずのない我侭は、自分の中にしまい込んで
俺はただ、マスターを欲する。

透明な壁を挟んで、しばらくの間、同じように赤くなった顔があって、
それはまるで、全く同じものを映さない、出来損ないの鏡だった。

「……決めた」
長い沈黙の後、マスターが、まだ赤いままの顔で呟いた。

「今回の歌、ネットに上げんのやめる」

予想外の言葉に、俺は驚いてモニターギリギリまで近寄る。

「どうしてですか?『これがオレの過去最高傑作になる!』って
ずっと言ってたのに。完成するのも楽しみにしてたのに」
混乱してまくし立てる俺をまてまて、と両手で制し、
マスターは何度か言葉を濁してから、頬をぽりぽりと掻く。

「…いっこくらい、俺たちだけの曲があったって、いいだろ?」
そう言って、マスターはモニター越しに、開いたままの譜面をなぞる。

俺は、何も言葉が出てこなかった。
代わりに何度か頷いて、嬉しさとか、驚きとか、恥ずかしさとかが
全部混じったものが溢れてくるのを隠すのに必死だった。

「だから、次はちゃんと聞かせる曲を作らないとな!
 まだまだ歌ってもらうぞ、カイト」
それだけ言って、マスターはいつものように照れ隠しでそっぽを向いて
たった今完成した曲を、ひとつのフォルダに入れる。

「はい、マスター」

さりげなくフォルダに付けられた名前を横目で確認して、
俺は、笑いながらマスターに頷いてみせた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
今更某化路にハマって書いたものなので乱文失礼


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