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F1 + 眉黄身

※ナマモノ注意!エフ壱 眉黄身 モ/ナ/コGP後 薄味です。
ではー
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 苛立っていた。この結果にも、自分のミスにも。全て全てが裏目に出て、空回った。むしゃくしゃする。
 今頃になって晴れ間の覗いてきたモ/ナ/コの夜空の雲陰に星が小さく瞬いていた。
 くそっ、と呟いて見たところで虚しい。もう終わってしまったことだ。
 黄身はウォッカの瓶を煽った。咽喉を一瞬カッと燃やして流れ込んだウォッカはこれが最後の一口だった。瓶をデッキに投げ出す。瓶はすでに何本かデッキに転がっていたが、それは黄身の気にするところではなかった。
 今年こそはといきり立っていた分、失望は思いのほか大きかった。メットも特製のカラーリングに塗り上げた。先日のテストでもマシンは悪くなかったし、フリーもうまく行った。予選では思わぬ番狂わせはあったが行けるはずだとリラックスしていた。
 それなのにこの体たらく、と黄身は自嘲し、新しいウォッカを取りにクルーザーの船室へと向かった。とにかく飲んで飲んで飲みまくって、今日のミスを忘れて次のレースに気持ちを切り替えたかった。
 新しいウォッカを手にデッキに戻ると、クルーザーを係留した防波堤に人影があった。見覚えのある陰が黄身のいるデッキを見上げている。
 黄身はデッキの端に近づいた。やはり見覚えのある、それどころかよく見知った人間が黄身の姿を見て少し躊躇うように「よう」と手を上げた。
 黄身は思いがけないそいつの姿に少しばかりいぶかしんで眉をひそめた。何でこんなところにこいつがいるのか。

「……何してんだ、こんなとこで」
 問いを投げるとそいつはもぞもぞと声を詰まらせた。おかしなこともあるものだ、と黄身は背を向け、登ってくるなら来ればいい、と無言でクルーザーへ挙がる桟橋を親指で指し示した。
 慌てるような戸惑うようなそんな足取りで男がデッキへと登ってくる。「Hi」などと親しげに言ってやれるような気分では到底ない黄身は、男の姿を見据えるとゆっくりと瞬きし、肩をすくめて、新しいウォッカの封を切った。
「……やっぱりここで飲んでたのか」
 と、気まずげに男は言い、作り笑いのような笑みを浮かべた。男の特徴深い太い眉毛がハの字型になっていた。
「いいクルーザーだな。報道されてた写真見たからすぐに分かったよ」
 スパニッシュな訛りで早口に言う。何でこいつがここにいるのか、なんて疑問はどうでも良かった。それよりも、黄身はこの苛立ちを沈めることに全てを捧げたかった。デッキの椅子に体を投げ出すように腰掛けて、ウォッカを口に流し込んだ。
「……今日はお互い散々なレースだったな」
 男が苦笑する。ああ、そうだ。散々なレースだった。今年こそ勝ってやると意気込んでいた。だが、結果は散々だった。レース内容はそれ以上に最悪だ。黄身は自嘲気味に男の苦笑に乗せて笑った。
「……まぁ、こういうレースもある」
「まぁな。でも、俺にとっちゃ大きくポイントを稼げるチャンスでもあった。こういう荒れたレース展開でもなきゃ表彰台なんて今年の俺のマシンじゃ不可能だからな」
 男の言葉に、そうだな、と口元で呟いた。毎年毎年、表彰台で顔を合わせていたこいつと、今年はまだ一度もシャンパンファイトをしていない。

 ああ、今日シャンパンが飲みたかった、と思いながら、ウォッカを口に含む。こんなときに限って、酔いはなかなか回ってこない。頭がいやに冴えている。
 立ったまま黄身の姿を気まずそうに見ている男に、座れば?と横のデッキチェアに顎をしゃくった。そわそわと男はチェアに腰をかけた。
「……飲むか?」
 手に持ったウォッカの瓶を男に掲げてみせる。
「いや……ああ、ええと、いや、うん」
「何だよ、変な奴だな」
 妙に落ち着かないふうに視線を彷徨わせ口ごもる男に何だか笑いが込み上げた。黄身はニヤリと口の端を持ち上げ、レースが終わってから一度も笑っていなかったことに気づいた。ほんの少しだけ苛立ちが薄れた。
「酒、持ってくる。何がいい、フェノレナンド」
 立ち上がり、落ち着かない男フェノレナンドに尋ねる。フェノレナンドは顔を上げたが、黄身と目が合うとそっと目を伏せた。
「ええと、そうだな……何がある?」
「何でも」
 黄身は手を広げてみせる。不本意ではあるが伊達に酒がらみのゴシップを書き立てられているわけではない。クルーザーの棚には来客用にも自分用にも沢山の酒が並べられている。
「ウォッカにジン、ウィスキーにコニャック、ビール、ワイン、シャンパン」
「それなら、じゃぁシャンパンだ」
 黄身の仕草と言葉に緊張が解れたのか、フェノレナンドははにかむように微笑んだ。シャンパン、今日飲みたくて飲めなかったものだ。黄身も釣られて笑みを浮かべた。

「お互いろくなレースじゃなかったのにシャンパンか?」
「いや、だってさ……今年お前とシャンパン飲むことなんてない気がするからさ」
 フェノレナンドは少しだけ眉をひそめ、自嘲めいた表情を作った。黄身も思わず笑みを消した。
「……弱気だな」
 ポツリと呟いて、まぁあのマシンじゃその気持ちも分からないではない、と思った。勝ちたいのに勝てない。ほんの少しの差なのにその差が大きくて届かない。その悔しさや苛立ちはよく分かった。そういう経験を黄身も幾度もしてきた。
「でも、当然飲めるように努力はするさ。このままただ手をこまねいているつもりはない」
 黄身の胸のうちを酌んだのか、フェノレナンドはつとめて明るいふうに言った。そうだな、と黄身は微笑んだ。
「飲むか、シャンパン」
 取って来るよ、と言い置いて船室に入ると、黄身は棚にある中で一番極上のシャンパンを選び出した。いつも表彰台で飲むのとは違うがまぁいい。
 グラスを2つ持ってデッキに戻り、シャンパンの封を切った。小気味よい音を立てて蓋が飛び、泡が少しばかり吹き出した。グラスに注いで、互いに手に取る。
「シャンパンファイトはできないな」
 フェノレナンドは笑い、黄身に顔を向けて聞いた。
「何に乾杯しようか」
「それじゃ……ろくでもないレースと自分の体たらくに」
 黄身はニヤリと口角を上げ、グラスを傾けた。「乾杯」とグラスを合わせた。

* * * * * * * * * * * * * *

 それから、愚痴を吐いたり、冗談を言い合ったりしながら、好き勝手に飲み続けた。
 フェノレナンドとこんなふうに語り合うのは初めてのことだった。
 2人きりの空間で会話をして酒を飲み交わすこと自体がそもそも意外すぎることだ。サ/ー/キ/ッ/トやイベントで顔を合わせれば多少話はするが、お互い同じ年数のキャリアの中でそれ以上に関わりを持つことはなかった。
 けれど、不思議と今のこの状況に違和感はなかった。黄身は自分の気分がどんどん良くなっていくのを感じていた。
「そういや、黄身、オークションでコノレベット落札してただろ」
 フェルナンドがグラスを煽りながら言う。黄身は笑って応じる。
「ああ、落札したよ。でも、このレース内容じゃ嫌な思い出のコノレベットになりそうだ」
「確かに」
「でもまぁ、一目惚れしたクルマに罪はない。楽しく乗り回すよ」
「いいな」
「ああ。ヘ/イ/キが俺も乗せてくれって言うんだ。クルマが届いたらドライブでもして気持ちを切り替えるさ」
「……ヘ/イ/キと一緒に?」
「そう。あいつもあんまりいいレースじゃなかったしな」
 フェノレナンドの表情が少し強張り、わずかな沈黙があった。しかし、黄身の気にするところではなかった。コノレベット楽しみだな、と黄身は酒で咽喉を潤した。

「……なぁ」
「ん?」
「俺も一緒に乗せてくれよ」
「でもあれ、二人乗りだぜ?」
 黄身は笑ったが、フェノレナンドはいやに真剣な調子で、そうか、と呟いて溜息を吐き、ハハッと乾いたような笑い声を立てた。
 そのまま沈黙が訪れた。耳を澄ますと、クルーザーと防波堤を叩く波の音がよく聞こえた。昼間は雨が降っていたというのに波はすっかり穏やかなようだった。暖かい海風が頬を優しく撫でていく。賑やかだったモ/ナ/コの町も灯りが一つ一つと落ち始めていた。
「そういやさ」
 ふと、男の姿を見つけて最初に投げかけ、そのままどうでもいいと思って捨ててしまった疑問がまた頭に浮かんできた。
「お前、何でこんなとこに来たんだ?」
 横のフェノレナンドを見やると、フェノレナンドは気まずげに目をそらし、眉を曇らせた。
「別に何ってこともないんだけど……散歩に。そう、散歩に出てたまたまさ、お前のクルーザーがあってさ、それで……ああ、それだけ」
 まごつくフェノレナンドの横顔を少しばかり窺って、ふぅん、と黄身は夜空を仰ぎ、瓶を煽った。

 気持ちのいい酔いが少しずつ回ってきている。体が芯から熱くなって、力が抜けてくる感じだ。
 今日の情けないレース、思い返せば思い返すだけ自分に腹が立つ。けれど、単純に腹の底からむしゃくしゃしていた苛立ちは、はっきりと薄れていた。
 これがレースだ。また次のレースがやってくる。何があるかは最後まで分からない。そういうものだ。俺はそれをよく知っている。
 黄身は勢いよくデッキチェアから立ち上がった。そして、着ていたポロシャツを一気に脱ぎ捨てる。ジーンズも脱ぎ捨てる。
「えっちょ……え?何してんだよ」
 フェノレナンドが目を丸くして半裸になった黄身を見ていた。黄身はニヤリと笑った。
「泳いでくる」
 背中に飛んできた、は?というフェノレナンドの挙げた間抜けた声に笑い、黄身は肩を解しながらデッキの端に寄った。そして、そのまま海に飛び込んだ。
 シュンッと空気が体を鋭く撫でて、ザバンと海面が裂けた。水が全身を包みこんだ。熱くなった体に冷えた海水が心地良い。そのまま、海中に体を潜らせ、何とも言えぬ開放感を黄身は全身で味わった。
「おい、大丈夫か!」
 数十秒して海面に顔を出すと、泡を食ったフェノレナンドがデッキの手摺に寄って叫んでいた。雨が降ったわりにやはり波は思いのほか穏やかだ。黄身は少しだけ円を描くように泳いで海水を楽しみ、海面に体を浮かせた。良い気分だ。

「なぁ!来いよ、フェノレナンド」
 黄身はデッキに向かって声を上げた。手振りをつけて来いと促す。
「……信じらんねぇ」
 フェノレナンドの呟きが微かに聞こえた。そして、浮かんだ黄身の横にザバンと水飛沫が立った。
 浮かんできたフェノレナンドはしかめっ面だった。黄身は肩をすくめる。
「本当信じらんねぇ」
 先ほど上から聞こえた呟きが今度は目の前で吐き出された。黄身は笑った。
「……普通いきなり脱ぐか」
「泳ぎたいって急に思ったんだ」
 あっけらかんとした黄身にフェノレナンドが溜息を吐く。
「泥酔すると脱ぐ癖があるってゴシップ、本当なのかと思って焦った」
 黄身は声を立てて笑った。ゴシップは嘘だらけだが、その記事はあながち間違ってもいない。酒を飲んで脱いだ覚えはなくもなかった。
 黄身はフェノレナンドに向かって海面を腕で薙いだ。盛大な水飛沫がフェノレナンドの顔を目掛けて飛んでいった。
「って何すんだよ!」
 海水が目に入ったのかフェノレナンドが目を瞬いた。笑って今度は軽くかけた。フェノレナンドも黄身に水を飛ばした。2人の笑い声が夜の海に響いた。
 黄身はふと、胸に湧き上がってくる何かを感じた。
 目の前にいるのは数年越しのライバル。近くて遠い2人の間にあった独特の距離感が何か少し変わったような気がしたのだ。こんなふうに普通の友達のような時間を過ごしたのが初めてだからか。でも、一番のライバルで、ライバルであることには変わりなくて……
 妙な感じだった。ただ、この感じは楽しい。心底悪くない。それは確かだった。

「なぁ」
 黄身はフェノレナンドに声を投げる。
「ん?」
「ス/イ/スに帰ったらコノレベット乗りに来いよ。ドライブしようぜ」
 黄身は微笑んだ。まだ悔しさはほのかに胸のうちに疼いている。けれど、どうにもしがたい苛立ちはすっかり消え失せていた。この楽しさは悪くない。こいつとバトルしているときと同じくらい楽しかった。
 なぁ?と笑みを湛えたまま、返事を待つように黄身は首を傾げた。
 と、黄身の頬に柔らかく触れたものがあった。それがフェノレナンドの指先だと気づくのに、黄身は少々時間がかかった。
 気がつけば、フェノレナンドの顔が自分のすぐ側にあった。その目に宿った真剣な眼差しに黄身は一瞬戸惑った。黄身の唇に何かが触れた。掠めるように撫でたのは、フェノレナンドの唇だった。
 黄身は笑みを消し、目を細める。瞬きするほどの出来事だったが、今、確かに彼の唇が触れて離れていった。
 黄身はフェノレナンドの目をじっと見つめた。真剣な色を湛えた瞳がそこにあった。また、胸に何かが湧き上がってきた。
 どこにもなくなってしまった苛立ちに取って代わった曖昧模糊とした“何か”。黄身は微かに触れられた唇を指先でそっと撫でた。海水の匂いがした。
「なぁ」
 黄身はゆっくりと瞬き、先ほどした質問をもう一度繰り返す。
「何でここに来たんだ」
 フェノレナンドの瞳が揺れた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
途中番号1箇所振り間違えた orz
初投稿&初めて書いたエフ壱SSだったで緊張しましたノシ


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