Top/36-199

真夜中の、調金

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

スギモトさんはカッコイイ。
そんなスギモトさんに良く似た男が居た。

埃一つ無いコートにスーツ
プレスの利いたスラックス
糊の利いたYシャツ。
もう一枚の皮膚のようにそれを着こなす男。
ばねを仕込んだような細身で、しなやかな身体。
隙を与えず、常に優位に立って、うそ臭い笑顔の向こうの頭ン中はいつも物凄い勢いで回転している。
多分、--絶対オレとは違う世界を見ている。
ディスプレーに飾ってあるみたいで、隣にいても時々現実感が無くなる。
本当はオレが触ったりなんかしちゃいけない存在なのかもしれない。

もう直ぐ真夜中の時間が来る。
この、小さなスペースを除いてフロアーは明かりが消えている。
大きな窓の外のビル群も、かなり明かりがまばらになって、暗い夜を映し出している。

こんな時間までグダグダ会議やらなんやらしてるってゆーのもご苦労さんな話。
特に用がある訳じゃないのにその会議の終わりを待っている自分もご苦労さん。

暗闇の中からスギモトさんが帰ってきた。
そのコートを受け取ると、わずかに煙草の香りがした。

知ってるのは、きっとオレだけろうな。
この人が一仕事終えた時に、自分に許すたった一本の煙草のことを。
結果を話すこの人は、この程度じゃ俺の経歴に傷なんてつかない、と笑う。
目を通しておけよ、と嫌になるほどの資料を机の上にぶちまける。

「ええ~~!一仕事終わったら、って・・・」
「うるせぇ!次の仕事始まってるだろうが!」
ビシィッと定規でこちらを指す。どっから出してきたんっすか、それ。

しぶしぶ目の前の新たな資料に手を伸ばす。
適当なのを取って見ても意味なんて分からない。
読んで置かないと、また殴られるし、仕方ない。
なんて可愛そうなオレ。
今回の仕事はマジで割に合わなかった。
スギモトさんだけならともかく、他のヤツにまで殴られるなんて・・・

と、今回のことを思い返してしまう。
目の前でいわゆる逮捕劇があったり、今日はとっくに頭パンクしてんのに。

がりがり頭を掻きながら、もう一人の男を思い出す。
手触りの悪い金髪が指に絡む。
「あいつ、何がしたかったんでしょうね。」
目の前で逮捕されたのに、なんだかイマイチ納得できない。

「ん?モリワキか? そりゃーおまえ、勿論・・・」
「・・・?」
「どっちだろうな?」
「・・・」
うかつな事言うとまた殴られるからな。
「会社か?ミズホか?」
「両方っすか?」
「・・・おまえ、馬鹿だけど時々、稀に良いこと言うな。馬鹿だけど。」
二回言った、馬鹿って二回言った。ヒデェ。

でも、もしココに居るのがオレじゃなくてあいつだったら?
説明されても意味の分からなかったトリックを、暴いたのがスギモトさん。
立てたのが、モリワキ。
もしこの二人が組んでいたら? オレとじゃなくてスギモトさんと。
そしたら、スギモトさんはもっともっとスゲー事になっちゃうんじゃない?
オレ、むしろ足、ひっぱってねえの?
こんな馬鹿なオレじゃなくて…

「まあ、ミズホって事は無いなー。」
「???」
何の話っすか?
「Sだもんなあの二人。手に入れたところで上手くいくわきゃー無い。」
そういう問題っすか?
「俺もSだからな、モリワキみたいなタイプじゃダメだ。」
「何でダメなんすか?似てるからですか?」

ばちん

的確に傷を打たれた。

傷を抑えて床に蹲ってると、頭上から冷静な声が聞こえてくる。
「ま、似てるとダメってのはあるかもな。 自分と同じタイプのヤツとだと楽すぎて怠けちまうしな。
理解しがたいくらいの方が、発想が広がっていいもんだ。なあ?」
分かりません。スギモトさんが何考えてるんだかイッコも分かんないっす。

「あと、それからなその頭、いい加減直してこい。」
「あたま??」
「おうよ、その金髪。悪目立ちしてんぞ。」
ええ~~!ヒデェ! むしろ、いかにもチンピラっぽくて逆に警戒されないからって、人のこと無理やり金髪に染めさせたあんたがいうか?
「あんたってなんだ?こら!」
束になった書類が飛んでくる。

「大体『チンピラっぽくて逆に警戒されない』なんつー与太話信じる方がアホだろうが!
おまえも理解しがたい馬鹿だな?!」
じゃあなんでさせたんですか!
「金髪美女とヤんのが男の夢だからにきまっとろーが!馬鹿!」

デスクに座ると、スギモトさんは椅子を回転させて後ろを向く。
いまなら、何をしてもそんなに怒られないような気がして、そっと、後ろから近づいてみる。
馬鹿だから、夜景を映している窓がそのまま鏡がわりに自分を映してるなんて気が付かなかった。

「仕事しろ!」

ばちーん

「何でですか?一仕事終わったら、って言ってたじゃないですか!」
「次の仕事始まってるだろうが!」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

夜中のオフィスにSMカポーの声がいつまでも響いていましたとさ。
お馬鹿さんはノロケとかいちゃこらとか自覚してないのがいい!


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP