変わらないもの 後編
更新日: 2011-05-03 (火) 13:52:40
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
222の続きです
引き続きナマ注意。>>222ほどではないけど冒頭にエロがあるので要注意。
果てた後は、ぐったりとした体をベッドに横たえた。
「満足?」
子どもをあやすように俺の頭を撫でながら、多村は言う。俺は黙ってうなずく。
部屋に入ったときにはさまざまな欲望が頭をよぎっていたはずなのに、実際やってみると終わるのは案外早かった。
一回だけで十分だと思ってしまうのは、認めたくないけどいい年になった証拠なんだろうか。
多村は俺を抱きかかえ、腕の中にすっぽり収めた。かすかに汗のにおいがする。
彼の中にくるまっていると、何ともいえない心地よさを覚えた。
何か言おうと思っていたのに、その内容も忘れてしまった。
多村は俺の顔中に塗りつけるようなキスをした。
まぶたに唇が降ってきて、されるがままに目を閉じた。
彼の感触を肌いっぱいに感じながら、俺はとろとろと眠りが迎えに来るのを待った。
いつになっても変わらないものがあるとすれば、それはこうして一緒に眠る人がいる温かさなのかもしれない。
眠りに落ちる直前、俺は多村の体を抱き枕みたいにぎゅっと抱きしめた。
**** †
人体には、受け入れられるものと受け入れられざるものがある。
受け入れられざるものに対しては、人の体は自然に外に追い返すようにできているらしい。
果たして、『これ』はどちらなのだろうか。
多村のアパートの壁は薄い。平日の昼間とは言え、大きな声を出したら誰に聞かれるか分からない。
もっとも、声だけなら度を超えたプロレスごっこにとられるかもしれないが。
「句差野、まだ、痛い?」
まつげの先まで汗で濡らしながら多村が訊く。
はい、痛いですよ、多村君。
もう何処と言わず、俺の体そのものが痛みの塊みたいになってますよ。
返答をするのはもちろん、頭の中でだけ。今の状態では息をするだけでいっぱいいっぱいだ。
全身が得体の知れない異物感に襲われる。不適切な場所に不適切なものをねじ込んだとしか思えない。
体温を奪われていくような、気味の悪い汗がジワジワ噴き出す。
息が震え、視界がかすんだ。
背中が痛い。ポキポキ骨がきしむ。布団を敷けばよかったな、と今更ながら思う。
多村は首を伸ばし、俺の顔や胸に唇を置いた。時々舌を伸ばして舐めまわした。
快感で痛みを逃そうという多村なりの思いやりなんだろう。
しかし残念ながら、彼の不器用な愛撫は虫の這うようなむず痒さしかもたらさなかった。
(もう、これじゃ)
多村に抱かれ、揺さぶられながら思う。
(独りでやる方がよっぽどマシだよ)
独りでなら痛みも無いし、変な気遣いもいらないし、好きなだけ出来る。もちろん今よりずっと気持ちいい。
脂汗をにじませ、叫び出しそうになるのを必死で堪えなければならないこの行為より遥かに有意義だ。
だけど。
息を切らして、切羽詰まった表情で憑かれたように俺の名を呼ぶ多村を見ていると、違った気持ちも湧いて来るんだ。
こうして肌をきつく密着させ、相手の温度を体の内外に感じる行為。
それにはきっと、独りでするのでは得られない不可思議で原始的な魅力が隠されているのだ、と。
行為が終わった後は、ボロボロになった体を畳に横たえた。
自分の中が空っぽになったような気がした。
焦点の定まらない目で狭い部屋を見渡した。
置いてある家具は数時間前までとなんら変わりないはずなのに、妙にそらぞらしく見えた。
きっと、俺が変わってしまったせいなんだろう。
溶けそうな頭で、ぼんやりとそう思った。
俺の横で転がっていた多村がふいに起き上がった。机まで膝で歩き、缶ビールと並んでいる電話器を手に取った。
「どこに電話するの」
「バイト先」
「……」
「そんな顔すんなよ」 受話器を耳に当て、多村は言った。
「代わってもらうんだよ。今日は友人の看病するから、って」
「看病……ね」
畳の上でうつ伏せに寝そべり、低い声で笑った。
素直には言えないけど、彼の優しさが今は嬉しかった。
目を覚ますと、多村は丁度バスルームから出てきたところだった。
新しいシャツに着替えて、タオルを頭に載せている。
「おはよ」
「……おはよ」
布団の中でウトウトまどろんでいると、多村が近づいてきた。
「早くシャワー浴びてこい」
「んー、多村と一緒にはいるー……」
「ばーか」 犬にするみたいにクシャクシャ頭を掻きまわされる。
「ちゃんと待っててやるから」
そう言って多村は、俺のくるまっていた布団を引き剥がした。
欠伸をしながらよろよろと起き上がると、自分が素裸であることを思い出した。
ベッドの下に手を伸ばし、隠しておいた着替えの服を取り出す。
「お前、着替え持ってきてたの?」
「うん」
「俺の部屋で泊まる気満々だったんだな……」
多村が呆れ顔で言う。ハタチの子供と違って、大人は用意周到なのだ。
その夜、多村はずっと俺の傍にいた。
布団を敷き、毛布をかぶせ、俺の肩を抱いた。
テレビをつけていても、騒がしい笑い声も淡々としたニュースの声も全部この場にそぐわないような気がして、結局電源を消してしまった。
虫の声が遠くから聴こえた。いくつもの命が、静かに、絶え間なく鳴いていた。
ゲームばかりしていた頃には気にも留めなかったたくさんの声が、この部屋に流れ込んできていた。
「ねえ、多村」
「ん?」
「なんで多村は最後までしたの?」 彼を見つめた。俺は続けた。
「いやじゃなかったの? やめようと思わなかったの?」
多村は、俺を気遣ってやめようとは言った。でも、彼自身の都合で拒否したことは最後まで無かった。
「それは、――やっぱり、句差野だったから、かなぁ」
「『かなぁ』じゃない。ハッキリ言って」
そう言うと、目を伏せて照れたようにしていた多村の顔が急に引き締まった。俺はどきりとした。
「句差野だったからだ」
眼鏡の奥の瞳は、とても真剣だった。
「句差野だから、最後までしたんだよ」
多村はそう言い、毛布ごと俺を抱きしめた。温かかった。
夏で、夜でも暑くて、寝るときは寄ってくるなとあれほど言っていたのに。
こいつの温かさが、今、俺にとって情けないくらい必要なのだと知った。
多村は俺の耳元に口を寄せ、囁くように告白をした。
少しどもりながら、恥ずかしそうに、それでも真面目に。
俺は何度もうなずき、泣き笑いのような、嬉し泣きのような表情を浮かべた。
シャワーを浴びながら自分の体を眺める。
明るいバスルームの中では、昨日の痕跡がそこかしこに残っているのがすぐに見て取れる。
腕や胸、腹、脚。
温かいお湯を頭から受けていると、記憶が波のように蘇ってくる。
どこをどんな風に撫でられ、舐められ、引っかかれたか。
どんな言葉で求められ、煽られたか。
胸元の吸い痕にそっと触れて、円を描くように輪郭をなぞってみる。
体の奥に、じんわりと熱がこもってくるのを感じた。
右手を、ゆるゆると胸から下に移動させた。
そのときバスルームのドアが叩かれた。
「句差野ー」 慌てて手を引っ込めた。
「な、なに?」
「早く出ろよ。メシに間に合わなくなるぞ」
「う、うん」
がっかりした反面、ちょっとホッとした。
多村が呼びかけてくれなかったら、絶対俺、独りでアヤシイ事してた。
浅い眠りから目を覚ます。
真っ暗な部屋。
窓の外はまだ深い青色に包まれていて、夜明けが遠い。
虫の声さえ聴こえない。
とても、静かだ。
俺の体は多村の両腕で抱えられている。
顔を近づけまじまじ見つめると、暗闇の中に多村の輪郭が淡く浮かび上がる。
熟睡中の彼の顔が、目の前にあった。
薄く開いた唇からかすかに呼吸の音がする。
手を伸ばし、指先を載せてみた。柔らかくて温かい。
まだまだ夢の世界に浸っているのだろう彼に、触れるだけのキスをした。
この先、俺達はいつまで一緒にいられるだろう。
来週のことさえ分からない俺達だ。遠い未来のことなど、想像もつかない。
だけど、とりあえず、こいつの目が覚めたら俺は真っ先に伝えたい事があるんだ。
どんな時代が来ても変わらない、シンプルだけど大切な言葉。
窓辺から弱く朝陽が射し込み、鳥のさえずりが聞こえ出した頃、多村は目を覚ました。
寝ぼけ眼の彼に向かって、俺はぎこちなく微笑み、頭の中で何度も練習したセリフを言った。
「――おはよう。多村」
バスルームから出ると、多村は既に身支度を終えていた。
「行くよ」 彼はドアノブに手をかけた。
「2人で出て行ったら、鉄哉に怪しまれない?」
「大丈夫だろ。普通にしてたらバレないって」
妙に含み笑いをする多村が怪しかったが、まあ信用することにした。
「句差野」
「なに」
「俺から言うのもなんだけどさ」
「なんだよ」 多村が俯く。生乾きの髪が、糸のようにうなじに絡みついている。
「今日もまた、俺の部屋来ていいから」
ぶっきらぼうな口調だった。後姿は、耳の先から首筋まで真っ赤に染まっていた。
俺は思いっきり後ろから多村に飛びついた。
「な、何すんだよっ」
「多村ぁー、大好き」
俺の腕を振り払おうと彼はジタバタともがいた。赤い顔をごまかすかのように、精一杯のしかめっ面を見せながら。
幼かったあの頃の俺達が、今の俺達を見たらどう思うだろう。
おっさんになったな、なんて笑うだろうか。
それでも、俺はあいつらに向かって胸張って言ってやりたいんだ。
大事な人がいてくれてるおかげで、俺の『今』は幸せだぞ、って。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
現在はツンデレ×ツンデレ、過去は超初心者×初心者って感じが出せてたら嬉しいです
四弦はムッツリと男らしさが混在してるのがたまらんです
唄は今後も小悪魔として色々突き進んでもらいたいものです
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