願い事は三度、星が消える、その前に
更新日: 2011-05-03 (火) 13:45:43
33でノレド、34では獅子と鳥、カプ節操無しの庭球者です。
当該スレで予告した代物。@滝@。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
連日、気温は摂氏35度を超え、毎日のように「今年一番の暑さ」が更新されている。
日中は全てを燃やし尽くすような陽射しがぎらぎらと降り注ぎ、
日が落ちれば落ちたで、煮凝りとなった熱が地上にわだかまり、
不快指数は青天井式に上昇する。
蝉の鳴き声も、時雨と呼べる可愛いものではない。
縊り殺されるような必死の鳴き声は、まるで台風だ。番を求める愛の歌にはとても聞こえない。
──それなのに不思議と、この家は静かなのだった。
邸の庭は、季節の木々が思い思いの格好で、のんびりと枝を伸ばし、
幾重にも重なって濃い陰を作り上げている。門柱をくぐるだけで、空気の温度は違う。
薄く割れる石を敷き詰めた順路の途中から、飛び石が伸びている。
俺は迷わず、そちらへと方向を変えた。勝手知ったるなんとやら、
いつも薄暗く奥行きの知れないこの邸にも、もう慣れたものだ。
飛び石の先に、沓脱。磨き上げられて飴色に光る縁台。夕間暮れの強い日差しで、
開け放たれている障子の中は見えない。
だが探さずとも、相手は其処に居た。軒端の釣忍へ手と背をいっぱいに伸ばし、
鉄器の風鈴を吊り下げようとしていた。
吊り下げ終えると、離れた手で風鈴が揺れて、韻、と鳴った。
「──いらっしゃい跡部。今日は、ひとりなの」
それからようやく、彼は俺のほうを半分だけ見た。
身体はきっちり正面を向いてこちらを捉えている。だが切り揃えられたまっすぐな髪は、
その表情を半分覆い隠している。俺を見ているのはその右側の瞳だけだ。
「ああ。置いてきた」
「樺地、ついて来たがったでしょう」
「……餓鬼じゃねえんだ、あいつも俺も」
答えて、俺は皮肉に唇の片端をゆがめた。
──滝萩之介。
彼には、謎が多い。
氷帝学園に程近い閑静な住宅街の一角の、庭が殆どを占めたような邸に、
いつも独りで居る。
家僕のひとりかふたりは居るらしいが、彼に忠実らしいその者たちは、
俺が訪れても姿を見せたためしがない。
萩之介は俺を縁台に待たせ、お茶を出すからと長い廊下を裸足で歩いていき、
5分ほどでちいさな盆を掲げて戻ってきた。
「……このくそ暑いのに、干菓子に緑茶もねぇだろ」
「だって俺、麦茶嫌いだもん。それに、水羊羹はきのう、宍戸が来て食べちゃった」
花を象った、風雅なかたちを口へと放り込み、噛み締める。きしきしと砂糖が砕けて、
口の中の水分が奪われていく。緑茶で流し込んでもしばらく、歯の奥がだだ甘い。
三つほど立て続けに菓子を噛み砕く俺を見て、唇を緩めるでもなく、
喉の奥だけで、鳩に似た音で、萩之介は笑っていた。
「萩之介、お前、中等部卒業したら実家に帰るとか言ってたな」
「さすが跡部、もう聞いてたの? やるねー」
すっかり緑茶が冷める頃、俺はそう切り出し、萩之介はこともなげに言った。
茶器の白磁を透かした若苗色を、ゆっくりゆっくり、酒のように舐めながら。
切りそろえられた髪は、岳斗より長く、忍足より長い。覗いた項は、
つくりものじみた骨が浮かんでいた。
萩之介の実家は、此処ではない。京都だか奈良だか、ともかく西のほうにあって、
公家華族のような旧い家柄だということも聞いている。
押しなべてそういう家が、血筋を重んじ伝統を守りたて、直系の跡継ぎを必要とすることも。
家柄で言うなら、氷帝で随一だ。俺に対するあてつけか何か知らないが、
まことしやかに囁かれているのも承知の上だ。
前歯だけで、干菓子を割らずに器用に表面だけを削り取って食しながら、
萩之介は夏の夕暮れに言葉を浮かべていった。
「俺の家、色々面倒くさくてさ、氷帝に入学するのも物凄く反対されてたんだよね。
粘って粘って、中学校終えるまでは、高校まではって約束取り付けてたんだけど…
なんか、粘るの疲れちゃって」
夏の大気の中でも、はたりと落ちていきそうな、内面の露を含んだ言葉。
「それにね」
眼差しにかかる髪を、ふと跳ね除ける。萩之介は今度こそ、まっすぐに俺を見た。
「跡部に出会えただけで、俺、幸せだったかなって」
──…こいつは今、何て言った?
「萩之介」
「別に──…もう会えない訳じゃないけどさ。
ちゃんと、面と向かって、改めて伝えておいたほうがいいかと思って。
──好きだよ跡部」
そして萩之介は、茶器を置くが早いか、その両腕で俺を捕まえた。
引き寄せられて額が触れ鼻梁がぶつかり唇が重なる。干菓子の粉が残っていたそこは、
お互いに甘かった。
頬に濡れたものを感じて、俺は萩之介を引き剥がす。
「……馬ァー鹿。これから死ぬヤツみてえな言い方、するんじゃねえよ。
そんな遺言願い下げだ。判ったか、あん?」
「うん。……じゃあ、跡部的には、どうしたらいいと思う?」
「……三年だ。三年待ってやる。必ず帰って来い。いいな?」
「東京へ? ──それとも、氷帝に?」
「いや。──俺様の所に決まってるだろう」
間近で見た萩之介の頬に、涙の痕は無かった。
くちづけと同時に、俺の頬がハンカチ代わりになったらしい。
彼は一瞬その眼を見開いて、次にまだ湿り気の残っている声で笑った。
「判った。じゃあ、俺、帰って来たら──跡部。
跡部ん所のお嫁に来てあげるよ。金襴緞子に、紅、鉄漿(かね)着けて」
「…馬ぁ鹿」
──夏の、融解した硝子のような太陽はようやく、沈もうとしていた。
もう一度、あと一度、最後に一度と、俺たちは際限もなく唇を重ねた。
子供の頃は約束事を、指きりで交わした。その、代償行為のように。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
個人的にこのふたりもやはりチューどまりのほのぼのが大好きです。
当該スレで待っていてくださった方、どうか御覧ください。
ではまたネタが浮かんだら… アデュ!!
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