場皿松永×慶次
更新日: 2011-05-03 (火) 14:33:19
何かムラムラ来て書いた
KGそんなに弱くないよーとか突っ込みは無しでお願いします
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「ハアハア……」
今何故自分は走っているのだろう?あいつがどうなろうと知ったじゃないのに。
慶次は人取り橋の氷穴を走っていた。既に突破された後なのだろう。破壊された氷塊の欠片と共に松永軍の兵士達が倒れている。
気を失っているのか死んでいるのか確認する余裕は今の慶次には無かった。
転ばないように足元の氷に注意しながら真っ直ぐに氷穴の奥へと進んでいく。
氷穴の奥の奥、その出口を目指しながら慶次は同じように走ったあの日の事を思い出していた。
何時もつるんでいた仲間が掴まったと聞いて此処に駆けつけた時、氷穴の入り口に居る兵の姿に背筋が凍った。
……松永久秀の兵だ。
幸せだったあの頃。何でも出来ると信じていたあの頃。それを打ち砕いたのが松永だった。
もしあの事が無ければ秀吉とあそこまでこじれる事は無かっただろう。道が分かれる日が早いか遅いか、他だそれだけの違いであったとしても。
出来ればもう二度と会いたくないと思っていたが、世の中はそれほど甘くも無かったらしい。
相手が誰か分っても仲間を見捨てる訳にはいかない。氷穴を抜け、久しぶりに見たその顔は相変わらず『悪人らしい』笑みを浮かべていた。
「やあ、少年。久しぶり……とでも言うべきかな?」
低く丁寧で威圧的なあの声が今でも慶次の耳に焼きついている。人質の命を握られ手出し出来ない慶次に松永は言った。
「そうだな……交換条件というのはどうだね。」
「交換条件?」
「そう卿の熱意に免じて人質を無事に帰しても良い。その代わり、卿は私の物になる……というのはどうだね?」
冷たい笑みを浮かべた唾を吐き掛けたかった。その衝動をぐっと堪える。
「慶ちゃん!俺らのことは良い!逃げろ!」
仲間が口にする言葉が痛かった。人は殺したくない。殺せない。だけれどもあの日松永を逃がしたのは自分なのだ。
そして、松永の部下の刀が仲間の命をつなぐ綱にかけられている。慶次にはその条件を飲む以外の方法が分らなかった。
初めの頃、慶次は何度も逃亡を企て、牢を改造したという強固な扉をした部屋を宛がわれた。
松永はただ慶次が苦しんでいる姿を見るのが楽しいようだった。気まぐれに慶次を犯し、何処からか連れてきた遊び女の相手をさせた事もあった。
何故こんな事をするのかと聞いたこともあった。何が楽しいのかと。
「卿が壊れていく様を見たいのだよ。友に裏切られ、それでもまだ人を信じようとする、その頑なな心が砕け散るのがね。」
「悪趣味だな」
「卿にも何れ分る。人も物も失われる瞬間が一番美しいのだと。」
慶次には松永の考えも言っている事も何もかにもが理解できなかった。いや、理解したくなかった。理解してしまえば松永の望む瞬間が来てしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
そのせいだろうか、不思議と慶次の心は折れなかった。どれほど陵辱されても、どれほど殴られても心の何処かにある光が堕ちる事を阻んでいた。
そして松永も慶次が堕ちず睨み返すたびに満足そうに笑みを浮かべた。
転機が来たのは松永に捉えられて暫く経った頃だった。偶然謀を知ってしまったのだ。
その頃の慶次は着たばかりの頃とは違い、随分大人しくなっていた。と、言うのも何度も連れ戻されるので、コレはしっかり計画を立ててからの方が良いと漸く思い至ったせいだった。
慶次は謀を知り当然のように妨害しようと思った。都合の良いことに最近の素行のおかげで随分監視は手薄になっている。
妨害が成功したらそれに乗じて逃げれば良い。それまで立てていた計画に加えてそれを実行した。
結果から言えば慶次の計画は失敗に終わった。被害を抑えることは出来たが結局松永は欲しい物を手に入れ慶次もまた逃げられなかった。
そんな事が何度か続いた。失敗するのが普通だが時折成功することもあった。
松永は松永で慶次のその行動を楽しんでいる節さえあった。たとえ謀に失敗しても慶次を捕らえることは止めなかった。
「卿は私の物だ。そう約束しただろう。少年。」
「あんたに言わせりゃ『約束は破る為にある』そうだろ?」
「はははは、流石に学習したようだな。だが残念な事に私はまだ卿を遊びつくしては居ないのだよ。そして卿が従わなければ……分るね。」
「分ってるよ。見張りの奴らを殺すって言うんだろ?帰るよ帰ってやるよ。」
「随分、素直になったものだ。いや関心。」
松永は悪人だ。人を信じていないし、人にある善意でさえ信じては居ない。思いのままに奪い、愛で、壊す。それは疑いようの無い事実だ。
それなのに気付けば松永の元へ戻っている自分が分らなかった。自分を見失った見張りを殺すという事でさえ嘘かも知れないのに。
「……あんたなんで俺を此処に置いておくんだい?」
自分が逃げ出さないのと同じくらい疑問に思っていることを聞く。
「以前も話した筈だが。ならば逆に問おう。卿は何故逃げ出さない。私の部下の生死など卿には関係ないことだろう?」
「俺は……あんたを止めたい。」
思わず口に出した言葉にはっとする。そうなんだ俺は―――
「あんたが酷い事をやらずには居られないっていうのなら。俺はあんたが酷い事を出来無いようにしたい。それが俺が此処にいる理由だよ。」
松永は呆れた様に眉を片方上げると小さく息を着いた。
「それをする事に一体何の得があるというのかね?それともお得意の偽善か?それとも只の自己満足か?」
「知らないよ。俺は只あんたが誰かに酷い事を……何も感じずに酷い事をしているのを見たくないんだ。」
それを聞いた松永は何時ものように蔑むような試すような笑みを浮かべた。
分っていた。その微笑の本当の意味を。以前の慶次なら『誰かが酷い目に会うのを見たくない』と言ったはずだった。その変化を松永は笑ったのだ。
「卿にそれが出来るとでも?」
「やってみなくちゃわからない。そうだろ?」
「今、この場で私を殺すのが手っ取り早いと思わんかね。」
松永はきっと正しい。分っている。松永は変わらない。俺には変えられない。思いのままに人を傷つけ搾取するだけの存在でしか居られないのなら、多分殺してしまうのが一番良い。
自分が傍に居ても、どれだけ長くの時間その瞳に映されていたとしても何の影響も与えられないのだから。そう思うと慶次の胸の奥は少し軋んだ。
「―――っ!」
不意に躓く、慶次は氷塊の欠片に脚をとられ氷の地面に倒れこんだ。
「くそっ!」
急いで立ち上がると口の中から血の味がした。冷たさと痛みと鉄の味に何故か泣きたいような気持ちが押し寄せてくる。
嫌な予感がする。不安で叫びだしそうだった。
どうしてあいつの為にこんな気持ちにならなきゃいけない。
どうして、どうして、どうして!
出口から光が差し込んでいるのが見える。もうすぐだ。
駆け足のまま出口へ向かう。
―――――――ドン!
視界が開け、着いたと思った瞬間何かが爆発したような音が聞こえた。
視界の端に黒煙が昇っている。それを見て心臓の鼓動が早くなる。
焼け焦げた地面の脇に見覚えのある甲冑の欠片が転がっていた。
「――あ……。」
咽が声にならない声を上げる。
「おいお前、前田の風来坊じゃねえか。なんで此処に。」
背後から誰かの声がした。慶次は振り向く事が出来ず、ただ呆然と焦げ跡へ歩いていく。
「おい!返事くらいしたらどうなんだ!」
「お待ち下さい。政宗様。何か様子がおかしい。」
特徴のある黄色い欠片を見て体の力が抜けていくのが分った。気が付くと慶次はその場に座り込んでいた。
「なんで……」
どうして、今日に限って間に合わなかった。見抜けなかった。
ここに居たのか?さっきまで、此処に?この焦げ跡があんたなのか?
「……松永、なんで」
なんで、どうして、それ以外の言葉が浮かんでこない。
「おい、お前。こいつと……この松永久秀とどういう関係だ?」
低いドスの聞いた声に朦朧としたまま振り向く。視界には奥州筆頭伊達政宗とその片腕片倉小十郎の姿が入った。
そこで漸く自分にかけられていた声が彼らのものだと理解する事が出来た。
「黙って無いで答えな。その内容によっちゃ容赦はしねえ。」
「関係?」
俺と松永の?
そう思うと笑いがこみ上げてくる。
「わかんないよ。そんなの俺にだって。」
ブスリと音がして握りしめていた甲冑の欠片が手に刺さったのが分った。
痛かった。それ以上に胸が苦しかった。
目の前にあるのは黒い焦げ跡。
何も、何も語ってはくれない。
「止めようとしたんだ。こいつがもう手を汚さないように。」
そうだ、何時からか俺は怖かった。
松永がこんな風に居なくなってしまうのが。
松永は何も求めない。何も信じない。決して振り返らない。人の命に執着しない。ならば、いつかこんな風に簡単に自分の命さえ消してしまうのだろうと。
「止めようと?なら松永の仲間って訳じゃあなさそうだな。」
「……仲間などと言われてはこちらも迷惑だな。」
聞き覚えのある声に思わず慶次も顔を上げた。氷結の入り口に松永軍の兵が一人立っていた。何時も慶次の見張りを任されていた男だった。
「あんた……」
「その男は過去の因縁から常々松永様を付けねらっていたのだ。今回の件も嗅ぎ付けていたとはな。」
慶次の言葉を遮るように男は声を発した。
「庇っているようにも聞こえなくもねえなあ?小十郎。」
「は、しかしこの男が私の知る前田慶次という男で間違いないのなら、ありえない話でもありますまい。」
「信用するもしないも、あんた達しだいさ。じゃあ、俺は引き上げるとするよ。松永様の事を報告せねばならんのでね。」
「ちょ……おい!『じゃあ』じゃねーだろ!追うぞ!小十郎!」
「は!」
頭の上で自分の処遇をどうするかのやり取りが行われているという事が何となく理解できた。
だが、それも全て人事のようでどうでもよかった。
ふと顔をあげると居なくなったと思っていた小十郎が目の前に立っていた。
「今回は見逃してやる。だが、次に怪しいまねしやがったら洗いざらい話してもらうぜ。」
小十郎はそれだけ言うと先に行った政宗の後を追った。
何を話すというのか。話す事など何も無かった。
松永にとって自分は暇つぶしの一つにしか過ぎなかったのだろう。気まぐれに手に入れた骨董と同じようにいらなければ壊すだけの。
そう思うと悔しいような悲しいような、どうしようもない憤りが胸を襲ってくる。
「……ちくしょう。なんでだよ。」
どんなに見つめてもそこにあるのは黒い焦げ跡だけ。
こんな風に何もかも消して、体さえ消して、何もなかった事にしようというのか?
「……あんた、やっぱり酷いよ。」
こんなに俺を苦しめて
こんなに俺をかき乱して
散々好き放題したくせに俺なんか傍に居なかったみたいに簡単に居なくなりやがって。
涙は出なかった。
心臓が握りつぶされたみたいに苦しくて体中に力が入らない。
正体の分らない喪失感だけが頭の中を支配していく。
「俺はあんたの物なんだろ?置いて行くなよ。」
カシャリと音がして握りしめていた甲冑の欠片が地面に落ちる。
刺さっていた場所の傷口が開き、指を伝って先決が地面に滲みを作った。
終わり
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
勢いだけが命です。なんかもうすみません
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