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トライアングル side A

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
※ナマモノ注意。ぷろやきう北の球団です。三篇構成になる予定。

耳馴染みの着信音が流れたのは、ほんの数秒前のことだった。
――またか。
半ば呆れながらも携帯を手に取ってしまうのは、条件反射みたいなものか。
携帯を操作してメールの受信BOXを開くと、これまたお馴染みの文面が顔を覗かせる。
『今日は何やってるんだ?』
休日ともなれば決まって送られてくるメール。
毎回用件も同じなら、送り主も決まって同じ。さみしがりな二人のどちらかだ。
まぁ着信音の時点でどちらが犯人かなんて丸わかりなわけだけど。
どうやら今日は大酒のみの先輩の番らしい。
――さて、何て返そうか。
携帯の画面と睨めっこをしていると、突然、画面が切り替わった。
「?」
手紙が飛んでくるアニメーションが流れたと思ったら、これまた耳馴染みの着信音が響き渡る。
――ちょっと待て。あの人たちタイミング良すぎだろ。
いや、この場合は悪いと言った方がいいんだろうか。
続けざまに届いたメールは、先ほど届いたものと一字一句同じで――
違うのは二点。差出人と絵文字が使われていることだけだ。
狙ったかのような偶然に俺はつい笑ってしまう。
こんな所でまで気が合うなんて、どれだけ仲が良いんですか先輩達。

「――――」
これで返す手間も二倍に増えたわけだが、どうしようか。
実際の所、特に用事があるわけでもなかったので、「家でゴロゴロしてます」と返す他無い。
しかしあれだけ見事なシンクロを見せられてしまっては、こちらとしても何か面白みのある返信をすべきだろう。
じゃないと、何だかちょっと悔しいし。
「――あ」
良い方法を思いついた。
俺はいつもよりも速いテンポで親指を動かして二通のメールを完成させた。
『今、○○さんとメールをしているところです』
大酒呑みの先輩に対しては、○○には爽やかな先輩の名を。
爽やかな先輩に対しては、○○には大酒のみの先輩の名を。
「送信っと」
送信ボタンを続けざまに押す。
あの人たちはいったいどんな反応を見せるのだろうか。

やがて、再びメールの着信を知らせる音が鳴った。
今度もまた順番は同じ。メールの届いた誤差も同じ。
そう、狙い済ましたかのように同じで。
「?」
若干の気味の悪さを感じつつ、俺はメールを開いた。

「…………」
予感的中とはこの事か。
どうしてこうも悪い予感って言うのは当たるものなのだろう。
どうせなら試合中にこういった運は使いたいものだ。

『じゃあ、お前はどっちの相手をしたいの?』
返ってきたメールに書かれていた内容は、差出人と絵文字の有無以外はやっぱり同じで。
先ほどよりもさらに返答し辛い問いかけに、俺は頭を抱えた。
「……何も、こんな返し方しなくっても」
迂闊。先輩方の方が一枚も二枚も上手だった。
あの人たちは裏で手を結んだに違いない。その上で俺をからかっているのだ。
「どっちの、って言われてもなぁ」
その問いの真の意味を、俺は嫌と言うほど理解していた。
単刀直入に言うならば「どちらに抱かれたいのか」と問われていると同じなのだ。
俺たち三人の関係はと言うと、某先輩の言葉を借りるならば「最強トライアングル」とでも称するようなもので。
傍目からも一目瞭然な俺たちの仲の良さは、チーム内にも、ファンの間にも広まっている。
そりゃ、一緒にビアガーデンに乱入したり、TVやラジオであれだけ互いの話題を出し合っていたらそれも当然だろう。
――だが、それはあくまで表の関係だ。
もちろん、表が主ではあるのだが、俺たちには秘密裏な関係があるのだった。
始まりが何時だったのか、きっかけが何だったのか、今となっては思い出せやしない。
けれど、いつの間にかそういう流れが出来ていた。
三人で食事に行くまでは、何らおかしな点は無い、普通の関係。
関係が変わるのは、終わり際。俺はどちらかに連れられて、そのまま一夜を共にする。
まぁその先に行うことは……げふん、ごふん、とりあえず俺が相手を「癒してあげている」のは確かである。
その詳細はこれまでの発言から察していただきたい。
えぇい、そんな目で見るな。哀れむような目で見るな。俺らは好きでやってるんだ。
脳内にいる何者かと激しい口論を繰り広げると、俺は改めてそもそもの論点に立ち返った。

「どちら、か」
そう考えてみれば、自分から相手を選んだことなんて、一度たりともなかった。
どちらにお持ち帰りされるかは、いつもランダムで。言わば、先輩方の気まぐれだったからだ。
何となくで付いていって、そのまま落ちていく。俺は、流されるまま、溺れれば良かった。
だから、こんなこと考えたこともなかった。
「――――」
二通りの未来を思い描いてみる。
何度も経験したはずの光景なのに、何故か胸がグッと詰まって、息苦しさに襲われた。
快楽も、安心も、その未来には見出せなかった。
「…………そんなの」
携帯を額に当てて、そっと呟く。
「……選べるわけ、無いじゃないですか」
それが、本心だった。
そう、選べるわけが無い。だって、俺は、二人のことが――

「――――?」
けたたましく鳴り響く着信音が、俺を現実に引き戻す。
『本気にしたか?』
新たに届いたメールには、そう書かれていた。
再び、選択肢は先輩方の手に委ねられた。やっぱり俺はからかわれていただけなのだった。
「何だ、やっぱり冗談――」
ホッとして気が緩んだせいだろう。
直ぐそこまで出掛かっていた言葉が思い出されて、俺は、自滅した。

「――――――!!!!!」
声に鳴らない叫び声が部屋中に木霊する。
明らかに不審がられる奇声だったが、隣部屋の奴が熱唱中なのが幸いした。今日ばかりは感謝しておく。
顔は既に真っ赤だった。確認しては居ないが、これだけ熱を帯びているのだから真っ赤に違いない。
ゴロゴロゴロゴロと床の上を転がりまわっても、そう思ってしまったのは事実だ。隠蔽できやしない。
「…………」
心臓はバクバクと早い脈を打っていて、現実逃避を許さなかった。
一旦、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
そして、段々と冷静になってきた頭をフル回転させていく。
分析対象は、胸に生じたままの、未知の感情だ。

俺は、あの二人のことをどう思っているのだろう――
「……まぁ、嫌いっていうわけでは無いよなぁ」
そう、嫌いではない。
嫌いだったら、あんな行為に溺れたりはしない。
でも、この感情を、全て肯定するわけにはいかない。
あんなのは擬似恋愛だ。いや、恋愛にすら到達していない。ただの戯れだ。
あの人たちが俺を求めるのも、手軽だからという、ただそれだけの理由だ。
絶対、そうに決まってる。
「――嫌いじゃ、ない」
だからと言って、全て否定するわけにもいかないから、結局、そうとしか言えない。
必死で自らに言い聞かせる言葉は「好き」と同意語で。
好意は好意に違いないのだから、たちが悪い。

三度、携帯が着信を伝える。
交互にメールを送ってくるのは何か意図があるからなのか、それとも単なる偶然なのか。
綴られた言葉の端端には、俺の機嫌を窺う旨が感じられた。
俺が全然返事を返さないものだから、先輩たちの方が不安になったようだ。
心の中で、文句が浮かんでは、直ぐに消える。
あれだけ沸騰したはずの熱も、引いていく。
伝えたいことは、山ほどあった。ぶつけたい不満も、少なからずあった。
それなのに――
「馬鹿」
呟いたのは、ただ、それだけ。
画面に目を落とすと半ば無意識に打っていた言葉が目に飛び込んでくる。
『まさか、そんなわけないじゃないですか』
差しさわりの無い返事に、我ながら苦笑いを浮かべる。
でも、直ぐに同じ先輩から、
『良かった』
と返信が来て、まぁこれで良かったのだと本気で思えた。
文字だけじゃわからないけど、きっと、あの人は本気で「良かった」と思ってくれているのだろう。
あの人の嫌味なまでに爽やかな笑顔が頭に浮かぶ。
何もかもがどうでも良くなるくらい、爽やかな笑顔だった。
何と言うか、どうにも考えすぎてしまう自分が、バカらしく思えるくらいに。

そうこうしている内に、もう一方の先輩からメールが届く。
その内容――というより字面に俺は笑うしかなかった。
『暇なら一緒に食事にでも行くか』
その下には無駄な改行が二行ばかり挿入された後に、”三人で”と付け加えられていた。
本当素直じゃないんだから、この天邪鬼め。さそり座B型め――って、それについては人のこと言えないか。
――さて、何て返そうか。
厳密に言うならば、今の俺は暇なんかではなかった。
休日の貴重な時間は、先輩たちの手によって現在進行形で削られているのだ。
刻一刻、刻一刻と――そしてそれは、この分だと夜遅くまで終わりそうに無いだろう。

一通りのやり取りを終えた頃には、満タンだったはずの携帯の充電も一つ減っていた。
「えーっと、充電器は、と」
見回すと、机の上に目当ての品はあった。
携帯をセットすると、赤いランプが灯る。俺は「お疲れ様」とその働きを労った。
集合時間までにはまだ余裕がある。その頃にはこいつの腹もいっぱいになっていることだろう。
そして俺はと言うと、いつものように大酒呑みで大食いの先輩の長話に付き合わされて、お酒が呑めない先輩と一緒にそれを聴いてあげて

、そしてその後には「癒し」と称したあれやこれやが待っていて――
ため息のち、晴れ。
あの人たちのことを思うと自然と笑みが零れてしまう時点で、この状況が嫌いでは無いことを自覚させられる。
「……いや、こういうのはむしろ――好き、っていうのかな」
悔しいけれど、俺はそう認めざるを得なかったのだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
side Bに続きます。後日投下します。


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