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薬売りの卵・その二・完結編

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                     | 物のけ ハイパー×薬の>>54-76の続きの再会編の後編・完結です。
                     | 親子・出産・家族の捏造設定ですので、苦手な人は御注意。
                     | ハイパー(父)×薬(母)=子供(オリ)・たいまの剣
                     | 前にも増して、ものっそ、長くなってしまったので、前・中・後と
                     | 三回に分けますが、それでも一回が長めです。 中編は>>186-196に。
                     | 前回とは趣きも違ってしまいましたが、それでもよければ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ひっぱった割りにはぬるいエチーですみません。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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 | |                | |     ピッ   (´∀` )(;∀; )(゚Д゚ )
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男も薬売りも、他者と肌を合わせることが、これまで無かった訳では、もちろんない。
男は主に同属との単なる戯れで、
薬売りは、孤独の憂さを晴らすため、人の世を円滑に渡るための術として、数は重ねた。
だが、共に、想い合う相手とは初めてだった。

男の青い舌が、薬売りのを目の周りを這い始めた、そして鼻梁へと移る。
青の通った跡に、かつての紅色が刷かれてゆく。
青はそのまま唇におり、なぞる。
唇が、小さな吐息とともに開かれると、入り込み、内をさぐり、
犬歯を撫で、己とは違う血色の舌を捕え、からめ、吸う。
そうやって口内を存分に味わうと、
次に、既に頭の芯がしびれ始めたらしい薬売りの耳を同じく唇と舌でなぶり、
甘やかな息とともに反り返って晒された白い首筋に移った。
反って倒された頭の後ろに手をやり、その髪をすきつつ支えると、
空いている手で薬売りの肩から、赤襦袢を落として、敷物の代わりにし、
その上に薬売りを組み伏せて、覆いかぶさった。

男の青色の舌と唇は、今ここで全てを貪り尽くさねば気が済まぬとばかりに
移動しながら、段々と激しさを増し、薬売りの体を攻め立てた。
それが胸に下りる頃には、男によって、かもされる感覚が、
薬売りの体中に広がり、喘ぎは、口を閉じる間もないほどになっていた。
薬売りは、男の頭を、肩を、背中に、必死にしがみつき、足を絡めた。
この、与えられる悦楽の凄まじさは、どういうことだ、
男が上位の者だからなのか、焦がれてやまない相手だからなのか、
これ以上のことをされたら、自分は死んでしまうのでは無いかと、さえ思った。

そんな薬売りの幸福な惧れにおののいていると、
男は、薬売りの中心を手の中に、おさめて愛おしむ。
既に男によって触れられるまでもなく、充分に高ぶったそれは、簡単にはじけた。

半分、気を飛ばし、脱力して荒い息をする薬売りに
己が印を打ち込むべく、男が身を進めると、気も引き戻され、
さすがに痛みに呻いたが、それで動きを止めようとした男を薬売りは先に促した。
今、男から与えられるものなら、快楽だけでなく、
苦痛であっても何ひとつ逃したくはないと薬売りは望んだ。

白と暮色、青と赤、交じり合うことの無いはずのない色彩が、
それでもひとつになろうと絡み、まさぐり、打ちつけあった。

下に敷かれた赤だけが体の交感の徴に染められて行き、
想いの交感の気は、領域の向こう、眠る子供に流れていった。

朝の光の眩しさに子供は目覚めた。良く眠れたらしくスッキリしていた。
が、何やらいつもと違う感覚がして、それが何かを知ろうとムクッと起き上がった。
目に入ったのは、いつも布団代わりに掛けている自分の袷(あわせ)、
これに始めの異変を見る。
昨日まで鮮やかだった蛾の文様が、随分と色薄くなっていた、驚いた。
まさかと思って、慌てて鏡を手に取り、覗く。やはり。
昨日までクッキリとした茜色だった顔の隈取、こちらも薄い桃色になっていた。
何とか落ち着いて考えて事を整理しようとするが、混乱して収まらない、
父に聞こうと、いつもするように気を内に溜めて澄ます。
すると、こちらの感覚もいつもと違うことに気が付いた。
父の気は感じるが、昨日までと違う、
袷や隈取の色のように薄くなったわけでは無いが違っている。
益々訳が判らなくなって子供は泣きたくなった。

「おや…起きていた」
声のする方を向くと、光を背に戸口に立って居たのは、
昨日までの自分の袷の色より濃い袷を羽織り、
昨日までの自分のより濃い紅色の隈取を顔に刷いていた、薬売りだった。
急に夕べの記憶が甦った。
自分がここに連れ帰った時とは別人のようだ。
この異変の原因が、薬売りだと直感した子供は
自分に向けられた晴れ晴れとした笑顔と、元通りになったらしい様を見て、
嬉しいやら腹立たしいやらの複雑な気分になった。
何と言っていいのかも判らず、返事も挨拶もせずに押し黙っていると
薬売りは隣に座って、その為に外へ出て調達してきたのであろう、
食べ物と水を差し出してきた。
子供は、それを受け取らず「…どうして?…」とだけ呟いた。
片手に袷、もう一方の手に鏡を握り締めたまま俯いてしまった子供に、
何を問うているのか察した薬売りは、話し始めた。

「夕べ…坊が眠った後に、父様と会ってね…これからのことを色々決めた。」
「父様は…封印解放の拠り代は…これから先、生涯ワタシだけだとおっしゃった。」
「そんなっ!」子供は泣きそうな顔をして叫んだ。
「そんなら俺はどうなるの!もう…俺はいらないの?」
とうとう泣き出してしまった子供の頭を優しく撫で慰めながら薬売りは続けた。
「まさか…そんなことあるはずないさ」
「大事な…大事な坊」
「夕べね…父様とワタシの縁を探って…明かして…誓って…確かめたんだ」
「それで…父様の拠り代はワタシに定まっちまったけど」
「坊が居てれたからこそ…そう出来た。坊が縁の何よりの証しなんだ」

子供は、まだ納得できずに、ぐずる。
「でも、やっぱり、モノノケ斬るのに俺がいらなくなったんじゃないか」
拠り代としての力はともかく、
実年齢としても、まだ大人で無い、経験不足な子供には
形・真・理を掴むことは、今だ容易なことではなく不首尾に終わることもあるのは確かだが、
一生懸命に努めてきたお役目を、こんなにイキナリ、何の前触れも無く
一方的に取り上げられるなんて納得のいくはずも無かった。

薬売りは子供を撫で、涙を拭りながら続ける。
「手伝っておくれ」
「坊が大きくなって、坊に…新しい縁が見つかるまで」
聞きなれない言葉を耳にして、それに興味が引かれたせいか、やっと子供の涙が止まりかける。
「新しい縁?」

薬売りは、どっちにしろ子は、
いずれは親から離れて巣立っていかねばならないものだから、
…などとは今は言わずに、今の事態から推量できることだけを話す。
「坊の…拠り代の印は薄くはなったが消え去っては、いないだろう?」
「ワタシに…父様が居るように、坊にもそんな縁があるってことだよ」
「坊にとっての御身様が現れたら…また印が戻る。
あるいは坊は父様の子だから…坊がいつかは父様の様になるのかも知れない」

何の先も見えず、ただモノノケ斬りの旅をしていた、かつての薬売りとは違って、
今までの子供には、時々に先の標(しるべ)とするものが有った。
まずは父の拠り代としての力をつける事で有り、
次に父と、その力を以って、モノノケと化した母を滅することで有り、
それを成した後は、その母が本性を取り戻して帰ってくるのを待つことだった。

それは今、叶った。
それで薬売りと一緒に旅が出来るようになるだろうと、
ただ楽しみにしていただけで、こんなことに成るとは思いもしなかったが、
考えて見れば、男が居て、薬売りと自分の拠り代ふたりでは、ひとり余るのは当たり前のことで、
何で、そのことに思い至らなかったのだろうと自分の迂闊さを悔やみ、
判っていただろうに、黙っていた退魔と父の、意地の悪さを呪った。

境遇の急変を、すんなりとは受け入れられず、母にも父にも退魔にも自分にも憤った子供だが
心の中で一通り、毒づいて、段々と気が鎮まってくると、
そこは子供ならではの前向きな柔軟さで、薬売りが言ったことは
そう悪いことでも無いかも知れないと思えるようになった。
薬売りの言い様からして、まだ大分、先のことになるのだろうが、
「新しい縁」とやらが、何やら楽しみになってくる。
何よりも、自分は、もう、ひとりじゃなかった。
父と退魔はモノノケに関すること以外では、側に在っても碌に接触や交流を持ってはくれなかったが、母は違うだろう。
自分と同じで、不必要に気安い気質では無いのだろうが、
母は知る限り自分と唯一、この世で同じ立ち位置の存在なのだ。
少なくとも昨日の様な孤独に苛まれて、ひとり膝を抱えるようことには、ならなくて済む気がした。

そう得心できると、腹が空いているのに気が付いた。
夕べの騒ぎから何も食べていない。
話し終えてから、子供が、ひとり押し黙って葛藤しているのを、
隣で黙って見守っていた薬売りが、改めて食べ物と水を差し出してきた。
子供は今度はそれを、少し照れながら受け取って、
いかにも言い馴れない風で、それでも嬉しそうに「いただきます…」と言って食べ始めた。
薬売りは、優しく微笑み返した。

朝餉と身支度が終わると、薬売りは子供と一緒に
子供が、商いに使っていた連尺の中身を検めていた。

薬売りの通行手形は、まだ有効のまま取ってあり、
天秤や刀箱は、薬売りが使っていた頃と変わりは無いとしても、
商品の中身は、子供の年齢もあって、それなりに変わっていた。
薬売りが扱っていた大人向けの商品や、調合や見立ての難しい薬は無く、
それらの入っていた所には、もっと一般用の、潰しの利く商品や子供の私物が入っていた。

これから、ふたり一緒に行商したからといって、倍売れるようになるわけでなく、
逆に生活費は二人分になってしまうのだ。
子供が商っていたものは、このまま子供に持たせて一緒に商うことにして
子供の連尺は別に誂えなければならないだろう。
かつて薬売りが扱っていたものも、新たに仕入れないことには始まらない。
春本や、遊具、既成薬や調合に必要な薬種、色々と物入りになる。
頭の中で、それらの費用の概算をすると、
薬売りは、後で洗わなくてはと思って除けておいた赤襦袢を手繰り寄せた。
子供が何やら興味津々で見ているので、昨夜の残滓が子供の目に触れないように折り重ねながら、
裾の返しの上の方をを指で探り、膨らみを感じると、糸を藤色の爪先でツイっと引き切った。

「あっ」隙間から、コロコロと金の粒が出てくるの見て、子供が驚く。
「もしもの時の秘密の蓄え、これで色々揃えよう」
だから、この赤襦袢が入っていたのか、と子供は納得すると、
あることを思い出して、連尺に目をやる。
コレを使っているときに、良く見ると外幅と寸や厚みが合っていないのではないかと思うような部分や、
当てると、違う音を出す所があることを子供は気が付いていた。
もしや、と思って薬売りを見ると、人の悪そうな笑みを浮かべていた。

退魔は、朝から自分の下でゴソゴソと騒がしいと思いながら、
昨夜のことに、まだ苦りきっていた。

万事目出たく収まったのは、まことに結構なことだが、
ワザワザ領域を違え、干渉が遮断されているにも関わらず、
向うから洩れて出て来るほどの、ふたりの交感気の質量にヘキヘキした。
これでもし、領域の違いも認知の遮断もない状態で始められたら
どんなにか、そのへ気へ気が溢れ返ることになるのかと思うだけで
剣の身ながら、足を生やして逃げ出したくなる程だ。

ただ、眠る子供に、早速その想い合いの気が注がれ始めたのは何よりだと思う。
そして、その子供に薬売りが告げていた「新しい縁」についても退魔は思うところがある。
子供は、それを男と薬売りのような他人との縁だと理解したようだが、
昨夜のことを鑑みるに、どうもそうは成らないのではないかと退魔は考えた。
頭の痛いことに当分の間は新婚よろしく、ふたりの濃密な交感は続くだろうし、
それが過ぎても「縁の誓約」まで、やらかしたらしい、ふたりのことだ、
程度問題で濃密なことには代わりはあるまい。
今のところの交感の気は自動的に子供に注がれるだろうが、
子供に必要なだけ満ちた後は、どうなるかと思えば、
碌な交感も無く、子供が生まれた卵を成したふたりが、
身も心も、凄まじく交感するのだから、次の子が成らないわけが無いのだ。
そして、その子は、その薄い交感状態で卵が生じたことが奇跡的な故に
縁の深さの証しとなった子供のように、母と同じ位に留まると思えず、
理想的に満ちて生じるが故に、父と並ぶ位に立って生まれる可能性が高いのではないかと。

ここまで思って退魔は、これでは自分は、
取り澄まして人との付き合いに距離を置いているようで
実は周りのことに首を突っ込まずにいられない古後家のようでないかと、忌々しく思った。

先のことを、薬売りは子供と簡単に話し合った。
仕入れの関係で、早めに大きな町に行かざるをえないが、
その前に金の粒も両替しなければならないし、
取りあえず、薬売りが例の出現をした近くの宿場町に出て
そこで揃えられるものは揃えることにしたことにした。
その時のことを、憶えていないと言ったため、
子供から、ひととおりの顛末を聞かされる羽目になったが、
礼と労いを子供の喜ぶように伝えたあとは、空惚けた。

そうこうしている内に廃寺から出る段になり、連尺を背負おうとした薬売りだが、
何やらそのさまを寂しげに見ている子供に気付いて
「坊の連尺を誂えたら、カラクリの仕方を教てあげるよ」と告げると
子供の気は、それに釣られたらしく、顔を輝かせた。
まだ、かろうじて用をなしている古びた戸を薬売りが開け、
その後から出た子供が少し苦労して閉めて前に向き直ると、
薬売りが見返りながら、子供の方に手を差し出していた。
手を繋いでもらわなければならないほど子供ではない、と
聡い子供に有り勝ちな意地が頭をもたげたが、したい気持ちの方が勝り、
薬売りの手を掴むと、強く握り返してくれたのが嬉しかった。

そのまま、ゆるい山道をふたりで下りて、街道に出ると、
子供は、薬売りが憶えていないと言った昨日の出来事から
あることを思い出し「ねぇ、」と薬売りに声を掛ける。
何かと思って薬売りが子供を見ると、
いたって真顔で
「何て呼べばいいの?」と聞いてきた。

一瞬、思案の外であったことを問われ驚いた薬売りだったが、
すぐに何やらイタズラっぽい笑みを浮かべ、
「そうだね…『兄ちゃん』とでも呼んでもらおうか」と機嫌良く答えた。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧これで終わりです。ここまで、お付き合いくださり、ありがとうございました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )再会編も、そう言ってくれた方がいなければありませんでした。多謝です。
 | |                | |       ◇⊂    ) 
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