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庭球皇子 水漬き×双子弟←双子兄

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
庭球皇子で、亜科沢×水漬きベースの水漬き×双子弟←双子兄。
当該スレでチラッと妄想したのを、3時間ほどで形にしてみました。

 絶対に、いつまでも、変わることなく同じだと思っていた。

 夏休みに入った頃、久しぶりに篤に電話をした。
 声がかすれていて、嗚咽をこらえるみたいな音が、何度も混じった。
 篤は「大丈夫」といったけれど、どうしても気にかかって──
おれたちは双子なんだから、お前のがおれに感染ったらどうするんだなんて言って──
尋ねていった寮の部屋。
 今が夏休みでよかったなんて思ったよ。かあさんも、とうさんも、お前のところに行くんなら
安心だって、快く送り出してくれたから。
 風邪だからきっと退屈してるだろう。東京じゃ、駅の改札を入った中にもいろんな店があるんだな。
おれは途中、そこで本屋に寄って、お前の好きそうな小説一冊買ったよ。
 カップの豚汁じゃ、お前きっと、怒るだろ?
 …勿論、出資はかあさんだけどさ。

 聖ノレドルフ学院中学校。
 “ノレドルフ”って、聖なる狼って意味らしいけど、転校する時お前は笑ってた。
 赤鼻のトナカイも同じ名前なんだよね、天根(その頃はまだダビデじゃなかった。背もちいさかった)
が知ったら駄洒落考えるんじゃない? …って。
 おれと同じ声、同じ顔で、同じ調子で、クスクス笑いながら。
 正直あの時は釈然としなかった。だってそうだろう? わざわざ、転校する必要なんかないじゃないか。
 千葉には皆がいる。家族が居て、六角テニス部の皆が居て、オジイが居て、潮干狩りの出来る海もある。
 お前は何かの理由でそれが嫌になっちゃって(サエの幼馴染、いただろ? あの幼馴染の弟みたいに)
東京にいくのかと考えてた。最初は。
 でも時間がたつにつれて、しょうがないかって気持ちも浮かんできた。
 千葉は狭い。海はあるし、スポーツショップも困らない程度の品揃えだし、六角は全国大会の常連校だけど、
その世界はとても狭い。
 お前は、おれたちより先に、外を見たいって言う気持ちが芽生えて、その始めが転校という
手段になったのかもしれないね。
 だから。
 おれは、篤の帰る場所になっていればいいんだって思うようにした。

 それにしても、新しいし、広い学校だ。
 植え込みはどれも角をまっすぐに整えられているし、花壇には雑草もない。
 あ、奉仕活動があるって言ってたから、こういうのは生徒がやったりするのかな。
 でもお約束どおり、芝生には立ち入らないでくださいの小さな立て札。
 正門を入って直ぐのところには、差し招くように両手を広げた聖母像。
 白亜のマリア様も、東京の陽気に炙られて、表情を翳らせているように思える。
 夏休みだからか、おれ以外に人の姿は見えない。
 ただ寮へ向かう途中、フェンスで区切られたコートのほうから、気持ちのいい打球音が
聞こえてきたから、テニス部の練習はまだまだ続くんだろう。
 それから、お前とダブルス組んでるヤツ、柳沢くんって言ったっけ。
おれ、フェンス越しに練習風景を見てただけなんだけど、気付いたらしくって手を振ってきた。
篤は部屋に居るから、面会ノートだけ付ければ入れる大丈夫って教えてくれた。
 ……あいつ、本当にだーねだーね言うんだ。

 寮の中の空気は、何ていうか、密度が違う。
 帰省が始まるときっとこんなもんなんだろうな。
 階段を昇る足音って、嫌に響く。寮母さんにスリッパを借りたけど、
爪先が落ちるとペタン、足を上げると踵が落ちてパタン、一度で二度足音がする。
 そのせいで、もうひとりすぐ後ろにいるような気持ちになった。
……怖くないけどね。篤が一緒に歩いてると思えば。
 篤の部屋は、さっきの柳沢ってヤツと一緒なんだね。木更津・柳沢の連名のネームプレート、
柳沢の名前のほうに、フエルトのアヒルワッペンが貼ってあった。
 扉は細く開いていた。
 外から比べると、寮の廊下は薄暗く感じる。
 そこにすぅっと切込みを入れる、室内からの陽光。
 家に居るときはノックなんてしたこともなかったけど、でも一応と思って、軽く叩こうとした。
 叩こうとした。
 お前の声が聞こえてきたから、止めたんだ。

 …んぅ、……ぁう、あ、──。

 その息の音だけで、おれは、心臓がギュッと縮まった。
 ドアの隙間から見えた光景に、頭をがーんと殴られたような感じがした。
 二段ベッドと勉強机で、それでもういっぱいになってしまう部屋。
 篤はその机に突っ伏していた。
 手首に絡みついた制服のネクタイ。身につけているものといったら、白いワイシャツとそのネクタイぐらい。
 そして。
 後ろから覆いかぶさった、乱れの無い制服姿。

 みづき。
 みづき。
 ……みづき。

 篤は、泣いているように見えた。苦しがっているように見えた。
 でもその声は、脳の一番奥で響いて腰に落ちて、じりじり電流を流されるような、
温めた砂糖水じみた甘ったるさがあった。
 決定打は、聞きたくなくても耳に飛び込んでくる水音。生々しい匂い。
折れるんじゃないかと危惧するほど逸らされて硬直する、篤の背中。
 その一瞬、“みづき”が、サディスティックに曇った瞳で、扉のほうを見た。
 おれは間違いなく眼を合わせてしまった。そして、ようやく思い出した。
 あいつは確か、篤が電話で言っていたことがある。
 みづきは、僕と亮を間違えてスカウトしたんだって……亮がテニスをやってる姿を見て、
ランニングしてる僕に声をかけてきたんだよ……普段は冷静なのにさ、おかしいよね。

 世界がぐるぐる回って、止められない。
 痺れた頭のまま、おれは扉から離れた。摺り足で歩けば案外、スリッパも足音を立てない。
 階段のところまで来て、鞄から携帯電話を取り出す。
 短縮ゼロ番。発信。
 右耳には、ただ延々と鳴り響くコール音。
 左耳には、無機質に静寂をかき乱す着信音。
 篤は電話に出なかった。おれの見た全てが、夢でなかったことの証明に。

 ──そのあとどうしていたのか、具体的に覚えていない。
 ただ途中、ルドルフ男子テニス部の面々に捕まって、どういうわけか練習を見ていくことになり、
そこでふと我に返った。
 小憎らしいほど乱れの無い、さっきと同じ──篤の上に覆いかぶさっていた時と
少しも変わりの無い姿で、みづきがいた。部長の亜科沢くんに、何事か言っていた。
 笑ってみたり、虚を突かれたり、怒ったり、良く動く表情。
 まったくぼくがいないと、あなたというひとは──叱声の一枚皮下、はにかむような響きが
確かにあった。
 そしてもう一度、今度は数秒間、目が合った。

 さっきと全く同じ表情で、あいつは、笑った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
と、コレにて終了。
書き終わってから昼ドラ風味になっていることに気付いた。

皆様の今年一年が、いい年でありますように。アデュ!!


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