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シラスの法悦 Ecstasy of Silas

あんまり変わり映えせんけど、姉妹編なんでまあ、置いとく。

小説&映画 ダ・○ィンチ・コー○

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シラスの法悦 Ecstasy of Silas

 シーツの上で握り合わせた手から、神父さまの温もりと生命の息吹が伝わって来る。
 神父さまは顔を上げ、慈愛の籠った目で私を見つめる。照れくさくて、私は目を閉じてしまう。神父さまは私の髪をやさしく指で梳きながら、囁く。
 「きれいだよ、シラス・・・・」
 神父さまはそっと、私の鎖骨の辺りから胸へ、腹へと指を滑らせる。くすぐったさと気持ちよさに、私は身を捩って笑い声を立てた。
 「美しい・・・・。なんと美しい・・・・清らかな白い肌だ。まるで天使のようだ」
 神父さまはそう、呟くように仰る。
 曾て父から疎まれ、退けられる原因となった私の肌。私のせいで母は死に、私は父を殺して家を出た。マルセイユ・・・・トゥーロン・・・・流浪に流浪を重ねた少年時代。どこの路上でも「幽霊」と呼ばれ、蔑まれるか恐れられるかのいずれかだった。
 アンドラの監獄に至ってはそれだけに留まらなかった。まだ十八歳だったある晩、寄ってたかって押さえつけられ、着ているものを全部脱がされた。抵抗虚しく、真っ白な体の隅々までを好奇の視線に晒され、何本もの手でまさぐられた。それからというもの、私は夜な夜な、飢狼の如き欲望の贄となった。あの運命の大地震が牢獄を崩壊せしめた、その日まで。
 思い出すのもおぞましい、口に出せないような恥ずかしいことを幾つもされた後、湿った土の匂いの立ち籠める暗い牢獄の隅で死んだように横たわっていた。素裸のまま、全身囚人たちの汗と唾液と精液に塗れて。悔し涙が止め処なく頬を伝い、剥き出しの土の床に吸いこまれては消えていった。ただひたすら、自分の白い肌と、この世に生まれてきたことを呪い続けた。
 全ての災厄と不幸の源となった、忌まわしき我が雪白の肌。
 それをこの世でただ一人、神父さまだけが、美しいと愛でて下さった。天使のようだと、目も眩むような言葉で褒め称えて下さった。
 そんな神父さまの為ならば―神父さまが喜んで下さるならどんなことでもする。自らを鞭打つ行も、シリスを身に着ける行も厭わない。人を殺すことも、自分のいのちを投げ出すことだって、躊躇わずにやってみせる。
 そして――神の掟に背き、人の世の理を超えて、神父さまの愛にこの身を捧げることも。

 初めて神父さまに求められた夜のことを、私は忘れることがない。
 燭台に灯された仄かな蝋燭の明かりが、寝台の上の壁に掲げられた磔刑像を浮かび上がらせていた。寝台に掛けた私を、いや、私たちを見下ろしている。初めてここで目覚め、神父さまを強盗から救った、あの日のように。
 「神よ、お許し下さい」
 神父さまは壁に向かって頭を垂れ、懺悔の言葉を述べた。そして、徐に私を抱き寄せ、そっと顔を上げさせると、ぎこちなく唇に口づけた。マヌエル・アリンガローサ司祭が初めて神の戒めを破った、その瞬間だった。
 神父さまの手が私の腰紐を解き、法衣を肩から滑り落とす。その日つけたばかりの背中の傷が少し痛んだが、これほどやさしく服を脱がされたのは初めてのことだった。監獄ではいつも、こちらの意思などお構いなく、引き千切るような勢いで無理やり剥ぎ取られた。
 寝台の上に仰向けに横たえられる。再び、背中や太腿の傷がシーツに擦れて痛む。私は心の中で、神父さまと同じ言葉を呟いた。
 静かに燃える炎に照らされて、私の白すぎる肌が神父さまの目に入る。恥ずかしい。神父さまは自分の法衣を脱ぎ捨てると、私に覆い被さるように抱きしめた。ツンと天を向いた乳首を、神父さまの舌先が代わる代わる掬うように舐める。全身を貫くような歓びに、私は思わず声を洩らす。
 神父さまの固くなった所が私の体に当たった。
 その瞬間、辱めを受けた記憶が一挙に蘇り、激しい恐慌に陥った。どす黒い欲望に満ちた彼らの顔が、嘲り笑う声が、過ぎ去った時の彼方から押し寄せて来る。
 私は拒否の声を上げ、よく整えられた柔らかな御手に噛みついた。曾て、行き場のない私に差し伸べて下さった、あの手に。
 「シラス・・・・」
 神父さまは呆然と私をご覧になる。私自身、今自分がしたことを信じることができない。私の魂は、こんなにも神父さまを求めているのに。
 だが、口の中に広がる血の味はごまかしようもない。ただ寝台から飛び降り、床に這いつくばって、泣きながら許しを乞うだけだ。
 「神父さま、申し訳ありません。私は何ということを・・・・」
 震える肩の上に、神父さまの傷ついた手がそっと置かれた。
 「シラス、謝ることはない。私が性急に過ぎたのが悪かった」
 いつでも、おまえの心と体の準備ができた時で構わないよ。再び私を寝台に寝かせ、指で涙を拭い、毛布を被せて下さりながら、神父さまはそう仰った。
 そして、その晩はもうそれ以上のことは何もせず、ただ朝まで抱きあい、手を繋いで眠った。

 あの日から今日まで、数えきれない夜を重ねた。長い、長い道のりだった。神父さまは辛抱強く待って下さった。少しずつ少しずつ、私の体は神父さまに対して開かれてゆき、幾度も幾度も、互いの体に愛の、そして恐るべき罪の焼き印を刻み続けてきた。
 今、神父さまと私は心も体も一つになった。私は神父さまの体にこれ以上ないほどしっかりと四肢を絡みつけ、永遠とも思える時の中を、この広大な銀河にたった二人だけしかいなくなったかのような感覚の中を漂っている。それでもまだ足りない。もっと繋がりたい。もっと奥まで。もっと中まで。このまま死んでも構わない。
 何度となく突き上げられる度に、私は宇宙の深淵を、万物の根源を垣間見たような気になる。そして畏れ多くもこんなことを思う。私たちは、神から最も遠い場所に来てしまったと思っていたが、実はそれは逆で、今この至福の時、神に最も近づいたのではないか。
 「ヨハネの手紙」は云う。神は愛だと。
 「・・・・っ!シラス!!私の天使!!」
 神父さまの両手が痛いくらいに脇腹を掴む。歓喜の瞬間が近いことを知って、私もありったけの力を込めて神父さまにしがみつく。
 神父さまの愛の奔流が怒涛の勢いで私の中に迸り、殆ど同時に、私も果てた。
 私たちは、濡れそぼつ体を重ね、息を切らして、暫くの間口も利けず、身動きもせずに、ただじっと抱きあっていた。
 わずかに開いた窓の隙間から、オビエドの風がカーテンを揺らして吹きこんで来る。火照った体から、心地よく熱を奪ってゆく。
 夜明けは近い。

Fin.

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

唯一の公式設定(?)、ちょっとヘビーなアンドラ編もいつかまた。


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