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ワンダーフォーゲル

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ナマです。某愛$グループ暴風雨の末ズでーす。

きっかけは何だった、とか明確には言えない。気付いた時には壁はできていて、背中合わせ。
いつの間にか触れ合ってしまって、自分から積極的に離れようとは思わないから、相手が離れていったら追うでもなく、悔やむでもなく、声を掛けるでもなく、ただその事実だけを受け止めるんだろうとぼんやり感じていた。多分、2人とも。
「純くん」
「あー…弐野?」
……と考えていたのは自分だけなんだと知る。自分を射る眼の鋭さにに身が竦んだ。
…少しドキッとしてしまった。荷野宮のこういう眼は嫌いじゃない。
この眼で睨まれると身が竦むのと同時にゾクリと快感に近いものが身体中を舐める。
荷野宮の手には週刊誌が握られていた。ああ、写真撮られてたなぁ、ご飯食べに行っただけなのになぁ。マネージャーには事情を説明して、事務所の少し偉い人にも謝って事実無根である旨を伝えてある。
知り合いの知り合いで、この写真では見えないけど、この部分にあと一人います。そしてこの影にもう一人。
手を握ったなんて事実はない。もちろん食事を取り分けたりはしたけど、そんなの常識の範囲内だ。
見つめあっていた?そりゃあもちろん人と話す時くらいは目を見て話すよ。こんな職業ですから。イメージ大切でしょう?
週刊誌の内容は、一枚の写真と状況から想像を膨らませて膨らませて誇張したような要領を得ない、下世話なものだった。
よくもこんなに確証のない物を書けるもんだね、と笑ったらマネージャーに怒られてしまった。すみません、気をつけます。
荷野宮はこの記事を見たんだろうか。馬っ鹿でー、写真撮られてやんの、くらいの罵声は覚悟していた。
むしろ無反応かなぁ、興味なさそうだもんなぁ、こんな写真の存在さえ知らないで新作ゲームの情報でも気にしてんじゃないかなぁ。と、思っていたのに。
「ちょ、来て」
荷野宮が俺の腕を掴んで歩き出した。引きずられるように2、3歩。だけど、ここは、とグッと踏ん張って、手を振り払った。
振り返って怒って、またあの眼で睨む彼を想像して、少し期待したけど彼は振り払われた腕をぷらぷらと投げ出したまま立ち止まって動かない。

―――背中に哀愁が漂っていて良いとは、良く言ったものだ。
彼の背中には何らかのメッセージが載せられている。猫背ってだけじゃない。
俺なんかの場合は顔が濃いせいか、感情を顔からそのまま読み取られやすい。
荷野宮は、背中。あ、ほら、怒ってる。気付いてしまってまたぞくりとした感覚が駆け巡った。
ドSだドSだと言われるけど、本当はMなのかなあと思ってしまう。
怒られてるのに、喜んでるなんて、変態だよ、なぁ。
一寸して、荷野宮の諦めを含んだ溜め息が聞こえた。
「なに、これ」
これって何?聞いてしまえばもっと荷野宮は怒るんだろうな、と思ったけど、そんなことになってしまえば多分ものすごくない面倒臭いことになるんだろう。そこまで底意地の悪いことをする気にはなれなかったし、隠すようなことでもない。
「…知り合いとご飯に行ったら、知り合いの知り合いがその子とご飯に来てて、知り合いと知り合いの知り合いが一緒に食べないかって言って、んで知り合いが」
「ちょ、知り合いばっかで意味分かんない」
「だから、俺と、その子は無関係。事実無根だよ、その記事」
振り向いた荷野宮の表情が気に入ってしまって、簡潔に事の顛末を言いながら笑ってしまう。荷野宮はまたム、と眉をひそめた。
「何笑ってんの」
噛み殺しきれなかった笑みが気に食わないらしい。ぱっと口許を隠そうとする手のひらを寸でのところで止められた。
「笑ってない」
「なにこんなの撮られてんの?」
荷野宮の怒りが本筋に戻る。右の手に握られた週刊誌を胸に押しつけられた。
「何でって、だから知り合いが…」
「うるさい、言い訳すんな」
怒った荷野宮は理不尽だ。こんなに一方的に怒られると流石にこちらも腹が立つ。
「何、信じたの?こんな記事。で、何で荷野がそんな怒るの。」
もう一度手を振り払おうと試みたけど、今度はがっちりとロックされていて動かなかった。

「凖くんが、言っておいてくれれば怒んなかったよ。」
「何で言わなきゃなんないわけ?お前に謝る事なんてない。」
「そういうこと言うわけ?」
不機嫌ここに極まれり、だ。荷野宮が掴んでいる手首の関節部分を目一杯ぐっと握られると、関節が噛み合わなくなってしまいそうで、痛い。
「痛い……痛、」
抵抗すれば抵抗するだけ荷野宮の機嫌は下降していく。振り払うのを諦めて腕から力を抜いた。
途端に荷野宮がグ、と腕を引いた。驚いてしまった俺は、わ!と、情けない声をあげた。荷野宮の唇に自分の唇が乱暴にぶつかってそれに付属して歯が当たって口元で鈍い音がした。
「いっ……ぅ」
思わず抗議の声をあげようとした唇の間からするりと荷野宮の舌が侵入してくる。
こんなシーンを人に見られる趣味はない(仕事は仕事だし、仕事の相手は可愛くって綺麗な女優さんばっかりだから良い)ので引き剥がそうと試みたけど、
こんな細い腕のどこにこんな力を隠しているのか、頭を抱く右手も、体に巻き付いた左腕も、この体との距離を離さないようにと頑なになるばかりだ。
「んっ、んー…、っぅあ」
「…凖くんの馬鹿」
「何すんだよ!馬鹿」
「キスだよ」
荷野宮は少し怒りが殺がれたのか、怒りを含んだ眼のままではあるが、にやりと笑った。ハンバーグみたいで可愛いと称される彼の手が離れていく。
「ほら行くよ。何ぼーっとしてんの」
基本自分勝手な奴はポケットに手をつっこんですたすたと廊下を歩き出す。ハッとして小走りに荷野宮に追い付いた。
「おま、馬鹿じゃね?んな誰に見られるか分かんないとこで…」
「あー、良いじゃないですか」
「はぁ?」
「凖くんがホモですよーって知れ渡ってしまえばもうお姉様方も凖くんには近付かないでしょ?」
「は?俺ホモじゃないしね!女の子大好き」
「なんでアンタはそう…」
呆れも怒りも通り越えて荷野宮が笑った。
いつもは人畜無害ですよって顔をしているくせに、こんなときだけこんな顔。分類するならば完全に“悪い男”だ。心臓が躍る。悔しい。
「今度はカメラの前でしましょうか?」
丸い背中が前を歩いて行く。振り向かない荷野宮が、またあの眼をしているのかと思うと、また身体が痺れる様な心地だった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)イジョウ、ジサクジエンデシタ!
愛しさ爆発したが故の暴走です。KYでしたら申し訳ない。


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