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三味線屋×錺職人

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                   |  新スレ一作目モナ。
                   |  20数年前の時代劇「新/必/殺/仕/事/人」
                   |  三味線屋×錺職人モナ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  初っ端からマイナーだよねー
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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※本編#33の脳内アナザーストーリーです。
  本来は、風邪気味の錺職人が橋から落っこち、母親ほどの年齢の女性に助けられる話です。

※レス頂いた>25>28>34さん有り難う。>23です。
  お待たせした上ドマイナーですみません

「買ってくれなきゃ、死んでやるから!」
その夜鷹の言葉を本気にしたわけじゃなかったが、体が勝手に動いていた。
いや、むしろ熱で制御が利いていなかったのかもしれない。ふらついた体勢を
立て直す間もなく、ヒデの身体は真っ暗な水へ放り出された。

日もすっかり落ち、川縁の涼やかな風が心地よい。
有事は振舞われた酒の余韻を楽しみつつ、帰途についていた。
今夜の稽古の相手は商家の年若い妻。いまだ瑞々しい肢体を上質の着物に包み、
念入りに、しかし過剰にならぬよう施された化粧の香りを纏わせていた。
年の離れた亭主より、この師匠のほうによほど気持ちを向けているようで、
盛んに艶やかな視線を送ってくる。
しかし他人の持ち物に手を出すほど馬鹿ではないし、何よりそこまで女に不自由もしていない。
いつものごとく障りのない範囲で受け流し、家を後にしたのだった。
そんなつれない態度でありながら女の数は減るどころか増すばかり。
色男とは得なものである。それを充分に心得ているほうも始末が悪いが。

  橋を渡りかけて、有事はふと足を止めた。耳慣れた水音がいつもと違う。
何かにぶつかって流れが乱れている。石ころの類いではなく、もっと大きなもののようだ。
土佐ヱ門かと橋から見下ろせば、果たして川岸に打ち上げられた人影が目に飛び込んだ。
しかも、細身の体躯には不吉な見覚えがある。
「おい、お前ェ…」
一瞬で駆け下りた砂利の上に横たわるのは、間違いなく下谷の錺職人だ。
氷のような身体を抱え起こすと僅かに呻きが漏れる。息のあることを確認し
素早く検分するが、どこにも傷はない。
「ヒデ、おいヒデ!」
頬を軽く叩き名を呼んでも、苦しげな呻きが上がるばかり。
ここからヒデの長屋まででは距離がありすぎる。有事は迷いなく自分の家へ足を向けた。
大の男を片手で吊り上げる有事に、ヒデの痩身を抱えるなど造作もない。

 ぐっしょり濡れた身体は激しく震え、歯がかちかちと鳴る音が耳につく。
不規則に吐き出される息は熱く、触れた額は皮膚一枚の下に猛烈な熱を孕んでいた。
素早く絣を脱がせ腹掛と股引を剥ぎ取る。布団でしっかりとくるみ寝かしつけると、
買い置きしてあった薬を取りに部屋を出た。
 お互い裏稼業に身を置く者、死んでいるかのようなヒデを見た時は背中に冷たいものが走った。
しかし川の周囲にも、ここまで運ぶ道程にも尾行らしき気配はなく、ヒデ自身にも攻撃された痕跡はない。
ひとまず安心すると同時に、世話の焼ける奴だとため息が漏れた。
 よく効くという謳い文句の粉薬は、一見しただけで苦味を覚えそうな色をしている。
湯に溶かした状態を見ても、おとなしく飲もうとは思えない代物を手に、
有事は取り合えずヒデの身を起こさせる。荒い息遣いに眉をひそめながら口許へ運んでやるが、
一口含んだものの激しく咳込んで受け付けようとしない。
「おいヒデ、これ飲まねえと楽にゃなれねえんだ、ほれ」
辛抱強く促して少しばかりの薬を嚥下したのを見届けると、再びヒデを横たわらせた。

 その後しばらくの間、ヒデの身体は盛んに寝返りを打ち、背中を折り曲げて苦しげに
咳を繰り返していた。有事には背中を擦ってやるくらいしか出来なかったが、
細身ゆえにひどく痛々しく映り、結局丑三つ時を過ぎても眠る気になれないままでいた。
今はようやく咳もやみ、落ち着きを取り戻している。明日の店の仕事も考え、
有事はもういちど具合を見ておこうと立ち上がった。
  しんと静まった空気の中に規則正しい呼吸が聞こえる。よく眠っているようだ。
熱の具合を確認しようとして、ふと寝顔に目が止まる。
(前から思ってたが、良く出来たツラだぜ)
むっつりした表情のことが多いものの、こうしていれば見事に整った顔立ちをしている。
年のわりにあどけなく見えるのは、あの大きな目のせいだろう。
まだまだ手ぇ焼かせやがる、と何時だったか主水が苦笑まじりに呟いたことがあった。
裏の世界を知り尽くしているだろうあの男が、穏やかな、いっそ愛しげな表情を覗かせた。
意外でもあり、どこか頷ける部分もあった。

そして、今は閉じられているその目が、この上なく冷たい炎を宿す夜があることを
自分を含め数人だけが知っている。

「…ぅ…」
「ヒデ?」
かすかな声に顔を寄せようとしたとき、突然ヒデの半身がばねじかけのように跳ね上がり、
有事の胸に飛び込んだ。
「おぉ!? おい、ヒデ!」
背中にがっちりと腕をまわしてしがみ付く身体から、未だわずかな震えが伝わってくる。
「ヒデ、おい寝惚けてんじゃねえ。離さねえか、こら」
病人に手荒くするわけにもいかず、肩をはたいて宥めてみるが離そうとしない。
有事の声が聞こえている様子もなく、幼子のように齧りついている。
「おーい、ヒデよぉ…」
何かを手繰り寄せたいのか、両手が背中の布を何度も握りしめる。
いま自分が捕らえている相手が誰なのかもわかってはいまい。
「参ったな…」
冷えた身体を温めるには人肌を合わせるのが一番というが、女の身体ならともかく
男など御免こうむりたい。しかし、峠を越したのは素人目にも明らかだ。
後はとにかく休養させるべきであって───
「…勘弁してくれ」
おりくの不在がこんなに有り難く思えたことはない。有事は腹を決め、ヒデを抱えたまま
布団を被った。長身の男二人には狭くて当然だが、なるたけ冷気が入らぬよう
気遣いながらヒデを抱き寄せる。ごく自然に擦り寄ってくる身体に苦笑しつつ、枕に頭を乗せた。

 雀が鳴いている。柔らかい光が差し込むのを感じる。
うとうとまどろんでいた有事は、胸元で身じろぎする気配に目を開けた。
とうとう一晩添い寝してしまった。こうなったらネタにして笑ってやるしかない。
「ん……」
有事はどうやら目覚めそうなヒデをじっと見つめた。相変わらずしっかり抱きついたままのヒデが
どんな反応を返すか。それこそ飛び上がって自分から離れるだろう光景が想像できる。
元からでかい目をいっぱいに見開いて、回らない口で罵詈雑言を並べるか、それも出来ずに
ただ呆然と自分を見つめるか。
「…う…」
ゆっくりと癖っ毛の頭がこちらを向いた。瞼が半分ほど開いて自分を映している。
有事はことさらにニヤニヤ笑いを浮かべ、ヒデの表情を観察した。
しかし、思ったような反応はいつまで経っても返らず、ぼんやりと焦点の合わない目で見上げている。
「…ヒデ?」
拍子抜けした有事が少々間抜けな声で呼んだとき、ヒデの乾いた唇がわずかに動いた。
「………」
蚊の鳴くようなちいさな言葉に、今度こそ有事は硬直した。ヒデは目を伏せ、再びもそもそと
有事の懐に収まる。ほどなく穏やかな寝息が上がった。

「馬鹿野郎。こんなでけぇガキがいるほど老けこんじゃいねえよ」
らしくなく上擦った呟きに、有事は小さく舌打ちをした。

それからヒデが完全に目を覚ましたときには、日はすっかり昇っていた。見慣れない部屋を
きょろきょろ見渡しながら、だるい頭を振ってみる。
主/水と釣りをしてて釣果を譲って、日が落ちて帰り道に夜鷹に囲まれて…
「おう、目ぇ覚めたかい」
掛けられた声にぽかんと目を見開く。それを面白そうに眺めながら、有事はひょいと額に触れた。
「まあだ熱あるな。きっちり下がるまで出歩かねえほうがいい」
一足遅れて事態を飲み込んだらしいヒデは、ばつが悪そうにぼそりと尋ねた。
「俺… 落ちたんだよな」
「だろうな。俺が見つけなきゃお前ェさん、いまごろ本物の土佐ヱ門だったぜ」
おそらく有事のものであろう寝巻きを着ていることに気付き、ヒデはますます小さくなりながら
見上げてくる。
「あんた、ずっと…」
「おうよ」
大変だったぜと大仰に言われ、困ったように眉を寄せる。
「すまねえ…世話かけたみてえだ」
「猫でも助けようとして落ちたか?それとも女に引っぱたかれたか」
わざとからかうような口調にムキになるかと思えば、ヒデはまだもじもじと襟元をいじっている。
初めて目にする様子が微笑ましく、有事はつつくのをやめた。すぐに帰ると言い張るヒデを宥め、
食事を取っていけと引き止めた。
「うちへ帰ぇっても飯作れるわけじゃねえだろ。加/代に頼むか?」
「御免だ。恩を売られて金取られる」
「…だな」
大したものはできねえぞと言いながらも、有事は楽しげに土間に降りた。

小さな騒動から二日後、開店前の張替え処にヒデの姿があった。
「おう、もういいのかい」
「ああ」
照れくさそうに頷く。差し出す包みの中には、洗濯して返すと言って持ち帰った寝巻きと、
小さく畳まれた懐紙。
「これ、この間の礼」
「あ?」
開いてみれば、細かな彫りの施された玉簪がひとつ。
「お弟子の姉さんか誰か、あんたなら相手いくらでもいるだろ」
よく聞けば随分な言い草だが、本人に他意はない。
「俺ぁ、それしか出来ねえからよ」
「何言ってやがる、誰にもやれることじゃねえだろう」
江戸一番と謳われる腕は伊達ではない。確かに欲しがる女は両手の数を超えそうだ。
「ほう、流石だな。こいつぁ見事だ」
じっくり眺めながら素直な感想を述べると、ヒデははにかむような笑顔を見せた。
(いつもそうしてりゃいいのによ)
それが出来ない事情を充分に知りながら、有事は知らずそんなことを考えた。
因果な稼業になど縁がなければ、こいつはこうして美しいものを作って人を喜ばせられる。
「ありがたく受け取っとくが、これのために夜なべしたんじゃあるめえな。
 まだ幾らも日は経ってねえぞ?」
「いや、もう何ともねえから。取っといてくれよ」
もう一度「すまなかったな」と言い置き、ヒデは小走りに店から去っていった。
それを見送り、もう一度手の中の簪に目を落とす。
「あのご新造さんに似合うかもしれねえな」
あの晩、あの時間に橋を通ったのは、あの商家の妻の持て成しを受けていたがためだ。
本人にそんなつもりはないだろうが、一応の恩人ではあるかもしれない。
くるくると簪を指先で回しながら、ふと有事は呟いた。
「あいつにいつか、酒飲ませてみるか」
子供ではないのだからそれなりに飲むだろうが、許容量を超えたらどうなるだろう。
泣き上戸か、愚痴を並べるか、それとも、先程のようなはにかんだ顔がもう少し見られるだろうか。
「犬っころみてえな奴だぜ、まったく」
有事は悪戯を仕掛ける計画を密かに練りながら、いつものように涼しげな表情で仕事に取り掛かった。

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                    |  エロもなくヌルいモナ。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  もっと修行を積めって感じだね。
 | |                | |            \
 | | |> STOP.      | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
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書き込んでから気付きました。
ハ丁堀の名前を一部伏せ忘れました…_| ̄|○ ゴカンベンヲ


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