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谷 & 丘

収録の合間、時間があいたので楽屋に戻って雑誌をめくりつつ横になっていた谷部。
すると、ノックもせずにドアが開き、小さいおっさんが入ってきた。
「さぶ、この部屋さぶっ」
言いながら、丘村さんは勝手に上がり込んで畳の上に胡座をかいた。
谷部は気にせず、雑誌をめくり続ける。丘村さんのくしゃみが突然爆発した。
「夏風邪やねん。俺、昨日からくしゃみと鼻水」
「…」
「熱はないねんけどな」
「……そう」
「クーラー、つけとるよね?…寒いねん、この部屋」
谷部は面倒臭そうに振り向いた。
「だったら自分の部屋戻ればえーやんか」
「まー、そやけど…な。っくしょん!」
丘村さんはティッシュの箱を手繰り寄せると盛大に鼻をかんだ。
「せやけどなー、部屋に戻るのがもうめんどくさいやんか」
「アホか。ちょっと歩いたりーな、何が面倒臭いねん」
またも、くしゃみが2連発。谷部はため息をつくと、クーラーのリモコンを握り、スイッチを切った。
ピッという電子音のあと、また無音になる室内。谷部は寝返りをうって丘村さんに背中を向けた。
「何、怒っとんねん」いきなり丘村さんはティッシュの箱を背中に投げ付けた。
「はい?」谷部がムッとして振り向いた。
「朝から何を怒ってんねや」
「なにも怒ってへんよー」
「怒ってるって」
そういうと急に谷部の上に馬乗りになった。
「何すんねん。雑誌読んでるの、俺は」
谷部が丘村さんの顔を睨みあげると、丘村さんは口にツバをためてニヤっと笑った。
「ツバ爆弾や。風邪うつりたなかったら白状しいや」
「なに子供みたいなこと。うっわ、やめろって、まじで!!」
ツツーっとツバは谷部の耳元を掠めて床におちた。

「あ、あほや、この人…」
「白状するか」
「ツバしまってから喋れ!あー…もう垂れたやんか」
ため息をしながら谷部は目の辺りを拭いた。
「……俺はあんたに怒ってるワケやないんやけど」
「そうなん?…ってごめん」今度は口に命中した。
「ツバしまえって、言うたやんか…」
谷部はまたため息をついて、体を捻ると、逆に丘村さんを組み敷いた。丘村さんは逆に爆弾がくると思ってぎゅーっと体を固くした。そんな様をみてクスっと笑うとふわっと丘村さんを抱きしめてみた。
「なんやねんな、いきなり」マジ声で尋ねる丘村さん。
「や、なんか寒いいうとったからさ」
「こんなんで誤魔化されんよ」
「なんやねん、それ。だからー怒ってたんは自分に対して」
「…」
「俺が未熟やなと。こんなんじゃダメやと。それでイライラしとったんです」
「昨日の絡みの撮りのことか?」丘村さんは静かな声できいた。
「ま、平たくいうとヤキモチやね」
耳元で聞く谷部の声は意外に低くて心地よかった。
「俺が一番丘村さんのおもろいとこ引き出すはずやったのにってね」
「なんや、くすぐったいヤツやな自分」
丘村さんは照れ隠しをするようにわざとぶっきらぼうに言った。
「うん、まぁ、くすぐったい男やよ、俺は…」
谷部は手持ち無沙汰になって丘村さんのえりあしを撫でてみた。しばしの無言。
冷静になってみると、急に気恥ずかしくなった二人。しかし、なかなかキッカケがつかめずしばらく阿呆みたいに動かなくなっていた、が。
「丘村さん…」谷部のため息。
「なに?」
「半勃ちしてますよ…」不憫や…と悲しそうな谷部の声。
「抱き締められんの久しぶりやねん!!誰かに!生理現象やからしようがないやろが!!」
丘村さんは火がついたように暴れ出した。

「なにやってんの?」
いきなり現れた浜口の間抜け顔。
畳の上には息をきらしてうずくまる男が二人。
「丘ちゃん、顔真っ赤だけど……」
「夏風邪やねん!」必死の丘村さんの切り返しと迫力に。
「そうかー。なんか物凄い、暑いしなー、この部屋」
クーラーつけといたほうがいいんちゃう?と言い残してそそくさと去っていった。

「クーラーつけていいか?」谷部のお願いに
「はい」と答えるしかない汗だくの丘村さんであった。


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