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軍医&候補生

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                   |  映画「マス夕一・了ソ卜゛・コマソ夕゛一」
                   |  軍医&候補生の話モナ
                   |  
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  DVD見て萌えが再燃したらしいよ
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※勝手に軍医を隠居させてしまいました……すいません。
 設定は映画より5年後です。

「……ブレイ勹二ー卿?」
 自宅を訪ねてきた思いもよらない『客』に、ドク夕ー・ス〒ィーヴン・マ千ュリンは
玄関の扉を開け放ったまま、面食らった顔で目の前の馬車を見つめた。
元々人通りが少なく、発情期に猫が騒ぐ以外は閑静なこの路地において、紋章の入った
その馬車は場違いなほどに浮いている。ブレイ勹二ー卿と呼ばれた客は馬車から降りる
と、帽子のつばに手を当ててス〒ィーヴンに向かって敬礼した。
「ドク夕ー・マ千ュリン、お久し振りです。お変わりないようですね」
「何だい、ぼくが病気だとでも吹き込まれてきたのか? 残念だがこの通り、ぴんぴん
してるよ。先週は熱を出して寝込んでいたがね。あれはただの風邪さ」
「お元気そうで安心しました」と言って、ブレイ勹二ー卿はにっこり笑った。
 ガ口ン伯爵の一人息子、ウィリ了厶・ブレイ勹二ー卿は五年前の1805年にジャッ勹・
才ーブリー艦長──『幸運の』ジャッ勹とも呼ばれる男──の指揮するフリゲー卜艦
サ一フ゜ライズ号で共に生活し、フランスの私掠船了ケ口ン号の太平洋侵出を阻むべく
戦った仲である。声変わりもしていなかった当時十三歳の彼は、士官候補生としてあの
とき初めて英国海軍艦に乗艦したのだ。航海の途中で了ケ口ン号に出し抜かれ、砲撃を
食らった際に負傷し、右腕の肘から先を切り落とす羽目になった──その手術を行った
のがス〒ィーヴンだ。ブレイ勹二ー卿は、はじめのうちは隻腕であることに不便を
感じていたし、幻痛(ファントムペイン)に悩まされることもあったようだが、持ち前
の強い精神力でこれらを克服し、艦が任務を果たして祖国に帰る頃には、剣もペンも
左手で器用に操れるまでになっていた。港で馬車に荷物を積み込むのを待っている時、
かのネノレソン提督のように右の袖を胸元に留めて堂々と立っていた彼の姿を、ス〒ィー
ヴンは今でも覚えている。家に戻った息子の姿を見て、母親は卒倒したらしい。

 人一倍長身のス〒ィーヴンには追い付かなくとも、多くを見下ろせるほどに成長した
ブレイ勹二ー卿を家の中へ招き入れ、彼を伴って二階の仕事部屋に戻るとス〒ィーヴン
は湯を沸かしはじめた。彼は紅茶を飲まないので、この家にはコーヒーしかない。
「お一人では大変なのではありませんか? その、料理とか掃除とか」
「子供の頃からこうして生活してきたから、まったく問題ない。──ふん、おおかた
ジャッ勹かバレッ卜・ボン〒゛ン辺りが余計なことでも言ったんだろう。ちょうど熱が
一番高かった頃に訪ねてきたからな。立ったり座ったり、大の大人がおろおろして、
みっともないったらありゃしない。だからぼくは言ってやったんだ、『人の家で象の
行進よろしく歩き回らないでくれ』ってね。あの二人が部屋の中をうろつくと埃が舞う
んだ。分かるだろ? それにジャッ勹ときたらご丁寧に、椅子に座った途端、机の上の
大事な資料を床へばらまいてくれたのさ」
「ああ、これですね」脇の机に堆く積まれた紙や本の山に視線を向けると、今にも崩れ
落ちそうである。「以前、来た時よりも更に山が高くなっている気がしますが」
「そりゃあそうだよ。捨てられない資料ばかりだからね。しまう場所もないんで、ああ
やって積み上げるしかないのさ。大体、君が訪ねてきたのは何ヶ月振りだ? ぼくが
ここに越してきたばかりの頃は三日と空かずに訪ねてきていたのに、近ごろは音沙汰が
なかったから、てっきり海に出ているのかと──ブレイ勹二ー卿?」
 部屋じゅうに散らかった衣類の山の間からようやくコーヒーポッドを探し当て、今度
はコーヒー豆を探そうと振り向いたス〒ィーヴンの鼻先に、蝋加工の施された小さな
包みが差し出されていた。うろんな目で見上げると、ブレイ勹二ー卿がいたずらっ子の
ような顔でこちらを見下ろしている。
「実は、今年の二月から半年ほど航海に出ていたんです。ブラジル行きの輸送船の護送
任務がありまして、それで、物凄い倍率のところを船長に無理言って乗せていただいた
んです。ミスタ・フ゜リン勹゛ズが、その護送船──口ーズ号の船長だったので」
 だから日に焼けているのか。この子に会うなり感じていた違和感の正体はおそらく
それだ。ス〒ィーヴンは合点がいった様子でブレイ勹二ー卿の顔を見た。

 英国海軍の仕事は、1805年の卜ラファルガーの海戦以降、目に見えて減っていった。
ネノレソン提督の艦隊がナポレ才ン・ボナパノレ卜率いるフランス・スペイン連合艦隊を
打ち破ったのだ。この戦いにより海の覇権争いは決着が付き、ヨーロッパの諸港は英国
の支配する所となった。その代償に、英国はネノレソン提督を失った──大きな犠牲だ。
それで、当時は町には職を失った士官や水兵が溢れたものだった。運が良いか、有力な
コネでもない限りは海に出ることも叶わなかった。今や彼らの多くが別の職業(あるい
は元の職業)に就いているだろう。そこそこの運と強力なコネに恵まれているブレイ勹
二ー卿ですら、この一年は暇を持て余していたようだ。そういう時は、ス〒ィーヴンの
影響で始めた医学の勉強に勤しんでいると思っていたのだが……護送任務に飛びつく
辺りは、やはり海の魅力は大きいとみえる。父親の伯爵も海軍の人間なのだし、これは
もう生まれついてのものだろう。ブレイ勹二ー卿が師と崇めるジャッ勹もまた同類だ。
「ミスタ・フ゜リン勹゛ズか。彼は健在かね?」懐かしい名前を聞いて目を細める。
「すこぶる元気です。ドク夕ーに、近々こちらを訪ねても構わないかと伝えて欲しいと
言付かってきました」
「それは構わないけど……まったく、君たちはいつまで経ってもぼくを静かに放って
おいてくれないんだな。サ一フ゜ライズ号で一緒だった連中は特にそうだ。ぼくが陸に
上がった後でも、きっと何かやらかすだろうと思い込んでいるに違いないよ」
「皆、心配なんですよ。海の上だろうと陸の上だろうと。大切なドク夕ーですから」
 その『サ一フ゜ライズ号の連中』に該当する一人であるブレイ勹二ー卿が、くすくす
笑いながら言うと、ス〒ィーヴンはむっとした表情で視線を逸らした。十八も年下の
子供に笑われるとは。

「……それで、ブレイ勹二ー卿、その包みはブラジルと関係があるのかね?」
「ええ。ドク夕ーに喜んでいただけるかと思って買い付けてきたんです。コーヒーに
うるさい掌帆長(ボースン)が口ーズ号に乗っていましてね──リオ・デ・ジャネイロ
で下船した時に、彼に同行して店まで行って来ました。世界一のコーヒー豆ですよ」
 少々呆気に取られながら包みを受け取り、十字に縛った紐をナイフで切って蝋加工の
紙を広げると、香ばしい匂いが広がった。既に焙煎された豆だ。コーヒーは生豆のまま
数年もつが、一度煎ってしまうとその味・香りともに焙煎後三日目を頂上として、あと
は落ちるだけである。ス〒ィーヴンが何か言おうと口を開ける前に、
「一昨日、煎ったばかりですよ」
「君が焙煎したのか?」と、ス〒ィーヴンは複雑な顔でブレイ勹二ー卿を見つめた。
「驚いたな。最近の子爵は自分でコーヒーも淹れるのか」
「船に乗るようになってからは、自分の世話は自分でした方が気が楽なんです。ああ、
豆の焙煎法もその掌帆長に教わったんですよ。あの人、色々な機械を持っていて、船に
戻って焙煎からコーヒーを淹れるところまで実践して下さったんですが、ぼくが気付か
なければ、もう少しでこの豆まで煎られて粉に挽かれるところでした」
「死守してくれたわけだな」
「イェス・サー。ご自分で淹れられた方がきっとご満足いただけるのではないかと」
「うんうん、その通りだ。ぼくもコーヒーにはうるさいからね。おそらく、その掌帆長
にも負けないくらいだ。よくやった、ミスタ・ブレイ勹二ー」
 満足そうに頷いて、ス〒ィーヴンは豆を挽くためのミルを衣装箱(チェスト)から
取り出すと、早速ミルの中に豆を放り込んだ。上部のハンドルを回すと、ごりごりと
豆が粉砕される音がする。上機嫌で鼻歌まで歌っているス〒ィーヴンを横目に、ブレイ
勹二ー卿はひそかに嘆息した。

 呼び名が昔のものに戻ったことなど、本人は気付いていないのだろう。陸に上がって
からというもの、ス〒ィーヴンに会える場所といったら提督が主催するパーティー会場
だったり、彼が博物学者として時折執筆する論文の発表会だったり、およそ士官候補生
としての自分が必要とされない場ばかりなのだ。海軍が大いに活躍している時期ならば
候補生の制服で出席しても構わないのだろうが、あいにく今はそういう時代ではない。
必要なのは、伯爵の嫡子であるウィリ了厶・ブレイ勹二ーなのだ。
 ス〒ィーヴンも、(研究対象になりうる生き物を見つけた時以外では)公私混同する
ような男ではないので、そういった場で出会えば「ブレイ勹二ー卿」と呼んだ。初めて
その称号を付けて呼ばれた時には、あまりによそよそしく感じられたのでショックで動
けなかったくらいだ。サ一フ゜ライズ号に乗っていた時とは違うのだ──そう考えると
何故か胸の奥がちくりと痛んだ。特別扱いをして欲しいわけではない。規律や階級も
結構だが、この人との間には垣根を作りたくない。だからこうして家に押し掛けている。
医学の勉強をしているのは本当だった。これからは武力ではなく、人を癒す力が必要に
なる。それがブレイ勹二ー卿とス〒ィーヴンの共通した考えだった。最初は博物学に
惹かれていたのだが、その後の航海で乗組員を襲う疫病や、衛生状態の悪いロンドンで
今なお残る黒死病(ペスト)などの感染症の噂を聞くうちに、その原因となるものが
必ずあるはずだと考えるようになった。感染した者を隔離し家を焼き払う以外に、患者
を治してやる手立てはあるはずだ。そう言うと、ス〒ィーヴンは「君のその考え方は、
今の時代では受け入れられにくいだろうが、確かにそうだろう」と頷いて、最新顕微鏡
で様々なものを見せてくれた。レンズの向こうで、うようよとうごめく得体の知れない
ものに血の気が引いたが、敢えて言わなかった。

 軍務から離れて既に二年、ロンドンで静かに暮らすス〒ィーヴン──キリッ勹の言葉
を借りれば「隠居先生」だ──には迷惑極まりないだろうと分かっていても、一週間も
会わないと気持ちが落ち着かなくなる。ドク夕ーに会って、色々な話がしたい。パーテ
ィー会場で慣れない酒を飲むより、足の踏み場がないほど散らかったこの部屋でス〒ィ
ーヴンの淹れたコーヒーを飲む方が、自分にとっては心地良いのだ。
「さあ、はいったぞ。ミス夕・ブレイ勹二ー、そこのカップを取ってくれたまえ」
 いつの間にかス〒ィーヴンは二人分のコーヒー豆を挽き終え、さらにドリップまで
済ませていたらしい。部屋いっぱいに広がったコーヒーの芳しい香りに、ブレイ勹二ー
卿は我に返ると、ス〒ィーヴンの机の上に置いてあった二つのカップを覗き込んだ。
 汚れている。それも二つともだ。
 何も言わずにカップをキッチンへと持って行こうとするブレイ勹二ー卿の背中に向か
って、ス〒ィーヴンが「わざわざ洗わなくても平気だよ。そこにはさっきまでコーヒー
が入っていたんだ。何日も放置していたわけじゃない。ミス夕・ブレイ勹二ー、ねえ、
聞いているのかい?」
 ブレイ勹二ー卿が片手で器用に洗ったカップを持って戻ると、ス〒ィーヴンは琥珀色
の液体の入ったポットを手に持って憮然と立っていた。彼は、何かと世話を焼かれる
のが嫌いなのだ。「洗わなくても平気だと言ったのに」
「ぼくが差し上げたカップを使って下さるのは嬉しいんですが、たまには洗わないと」
「君は人にあげたものにまで口を挟むのか」
「ノー・サー。でも、何日洗ってないんです?」
「……三日かな」
「ドク夕ー、それではせっかくのコーヒーの味が台無しになってしまいます」
 苦笑するブレイ勹二ー卿の言葉に、それもそうかと呟いてス〒ィーヴンは空いた手で
顎をさすった。ブレイ勹二ー卿が机の上に置いたカップにコーヒーを注ぎ、相手に椅子
を勧めるとス〒ィーヴン自身も傍の椅子に腰を下ろした。

「うん、いい色だ。香りも申し分ない」
「お気に召されるようでしたら、生豆の状態でお届けしますよ。まだ沢山あるので」
「それは有難いな。ロンドンで手に入る豆はろくなものじゃない」
 渋い顔でそう言うと、ス〒ィーヴンはカップの中身を口に含み、それを飲み込んだ後
で幸せそうに顔を緩めた。どうやらお眼鏡に適ったようだ。味わいながら「美味い」だ
とか「酸味と甘みのバランス」がどうだとか言っている。
 今度はコーヒーに合う菓子も持ってこようか。ブレイ勹二ー卿は締まりのなくなった
ス〒ィーヴンの顔を伺いながら、本当は苦手なコーヒーを喉の奥へと流し込んだ。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ スレヨゴシスマソ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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※軍医←候補生にするつもりが、ただの軍医アイドル話になってますた。
※候補生の気持ちは、恋というより「人気者を一人占めしたい」という
 ワガママなものです。まだ若いんで。


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