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平安

この流れの中申し訳ないが、誕生日だけは祝いたいので強引に投下。
 流石兄弟 リバ 平安8 
※地雷注意!過去の従兄者×兄者について言及あり

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガオオクリシマ~ス!

 真昼の熱気は既に失せたが、夕暮れの寂莫が迫っている。
 ただし闇が全てを鎖すにはまだ間がある。
 兄者はこの時の空を眺めるのが好きだ。
 まだ弟は帰らない。だから簀子(すのこ)にいざり出て、高欄にもたれて眺めている。
 弟者は外を眺める彼を見かけると不安がる。出かける自由を奪ったことの罪が胸を責めるらしい。
 ――出たいんじゃないのだがな
 ただ、少しずつ暮れゆく空が好きなだけだ。

 権門の子弟である。父は内大臣の位にあり、母は皇太后付きの女官だ。
自らも右近衛府の少将にして蔵人の職を兼ねている。
 けれど彼には秘め事があった。
 この時代、忌むべき存在である双つ子の弟がいる。その彼と、元服の頃から入れ替わり始め、
今ではそれまでの弟の立場でこの東北の対で暮らしている。
 そして、その弟と情を通じている。他の家族や正室には持ち得ない強い愛情と執着に捕らわれている。

 夕闇を背に部屋に戻った。
 燭台や吊燈籠の灯を点しに来た雑仕に軽くうなづき、唐櫃(からびつ)から草子を取り出して、
それを読みながら弟を待った。

 渡殿を通る足音が苛ついているように聞こえる。それでも待ちかねたその音が嬉しくて、
立ち上がって彼を迎えた。
 暗い顔で入ってきた弟者は、その兄を強く抱きしめた。
明日も彼が部屋に籠ることを見越して、唇ではなくうなじに痕が残るほどくちづけた。
 されるがままにそれを受け入れていた兄は、弟者の指先が単衣の胸もとに滑り込んだときに
初めてそれを止めた。
 「何かあったのか?」
 指先に自分の指を絡ませる。人の温もり。
 陰のある微笑いをどうにか浮かべ、その指をつかむ。
 「いや、大したことじゃない。今度の観月の宴だが、舞も組むことになった」
 「ほう。おまえが踊るのか」
 「ああ……青海波(せいがいは)だ」
 「二人舞だな。相手は?」
 弟者は苦虫を噛み潰すように答えた。
 「………アイツだ」
 その表情で兄者は悟る。従兄弟者と踊ることになったらしい。

 「最初は頭中将の予定だったが主上がな」
 似た顔の方が面白い、とそう決めた。
 「やはり、嫌か」
 「当たり前だろ!あんなやつ、むしろ亀羽目波でもぶつけてやればいい」
 「それは何だ」
 「知らないのか。古くからある伝承で、甲羅を背負った仙人から伝えられる必殺技だ。こう」
 弟者は両手で形を作った。
 「こうか」
 兄者も真似をしてみる。
 「そう。で、叫ぶ」
 二人してしばらく練習するが、ふと我に返る。
 「…むしろ、舞の練習をした方が良くはないか」
 「まあな」
 しかしその気にはなれないらしく、円座に腰を下ろして考え込む。その表情がかなり暗い。

 その宴は舞よりも管弦の遊びが主体となる。
 大半の楽器は雅楽寮(うたづかさ)で楽人たちが管理しているが、
一部の御物は校書殿にしまわれてある。
 プログラムを作り終えた頃、上司にそこに行かされた。舞手の片割れとともに。

 塗籠(ぬりごめ)の中は昼なお暗く、灯を点しても薄ぼんやりとしている。
そこに、世の中で最も嫌いな人物の人をくったような嘲笑いが浮かぶ。
 「……楽器といえば、オマエの兄貴もいい声出したな」
 体がこわばる。微かに黴臭い塗籠の空気が凍る。
 「お前が仕込んだのか?すがりついてイく時が特によかった。並の楽器じゃあの音は出せねェ」
 自分の表情を意地悪く観察している。反応したら負けだと思う。
相手はニヤニヤとこちらの動揺を楽しんでいる。

 この男と兄者には過去がある。それが、自分を思い過ぎての行動であることを知っているが、
トラウマになりつつある。
 それなのに、躯は疼く。

 「勃ってるんじゃないのか」
 指貫(さしぬき)の上はゆるやかな袍で覆われているため、わかるわけがない。
それでも図星を指され、そっぽを向いた。
 紺地錦に包まれた漆塗りの七弦琴を取り上げ、中身を確認してそこを出る。
唐渡りの琵琶を抱えた従兄弟者は、灯を吹き消す前に「アイツに慰めてもらえ」
と馬鹿にしたように言った。

 身体が灼け焦げそうなほどのジェラシー。
 怒りと悲しみ、それに蔦のように絡みつく昏い感情。
 そしてその深淵に潜む淫靡な影。
 傷は自分を蝕み、新たな贄を欲しがる。
 ――彼を傷つけたい
 闇から生まれる自虐と同じ色の加虐心。
 ――泣かせたい。傷つけたい。そして……癒してやりたい
 自分の言葉や行動で生まれる涙をこの手でぬぐい、それを唇で味わいたい。
抱きしめて、全ての願いを聞いてやりたい。
 その想いは棘として心の奥に沈む。
 けれど横にいる彼はそれを溶かすような笑顔だ。

 「少し遅いから心配だった」
 弟者は不思議そうに見返す。
 「最近は治安もそう悪くない」
 「違う。誰かに『おまえは宮中の柱になれ』とか『俺がオマエを本当の関白にしてやる』とか
1/3ほどくどかれてるんじゃないかと」
 「ねーよw」
 気分が軽くなる。肩に手をやり引き寄せる。先ほど口づけた痕に触れてみる。
 くすぐったそうにしている様子が年より幼く見えた。
そのくせ腕の中に閉じ込めようとすると薄く微笑い、逆に床に倒された。
 下から見上げていると今度は大人の表情で、唇を近づけてくる。
 目を閉じると触れられた部分が熱い。
 日中は夏の名残りを留めるこの季節、日が落ちてからは急に秋の涼しさを取り戻す。
 冷えた空気の中、躯だけが熱を帯びていく。

 「舞のほかは何を奏するのか」
 「オレは竜笛と催馬楽(さいばら)だ」
 「子育てに忙しそうな人?」
 「いや。歌の方だ。四、五人で歌うのだが合唱パートが合わなくてな」
 遅く取った夕食の後、厚畳に転がっている。
 「へえ……まさか主上も歌うのか」
 「そのせいもあるがな」
 歌うこと自体はお好きでいらっしゃるようではあるが、なかなかに個性的な歌唱法をおとりになる。
 「持っていけ 最後に笑っちゃうのは吾のはず 衣冠束帯だからです←結論 のとこが特にひどい。
笏(しゃく)投げは揃うが」
 「声は悪くもないのに、何故あのような歌になるのだろうか」
 「さあ」
 「おまえのソロパートは」
 「君のくれた阿弥陀信仰 億千万っ 億千万っ、のとこ」
 「あそこか。聞かせ所だな」
 「ああ」

 ちょっと得意そうな弟者は床に目をやり、投げ出されたままの草子に気づいた。
軽い問いかけの視線に兄者が答える。
 「――愛のたゆたい 多武峯(とうのみね)少将の真実――メロドラマだ」
 
 原典の『多武峯少将物語』は、文武に優れ将来を嘱望された実在の人物藤原高光が、
突然の出家をとげたことについての話である。

 「兼家の異母兄弟だよな」
 「うむ。彼はテンプレ攻めで、さっき『おれが全てを忘れさせてやる!』とか叫んでいた」
 「はあ?」
 「えーと、長男の伊尹(これまさ)が紳士攻めで、次男の兼通(かねみち)が鬼畜攻め、
三男兼家が今言ったやつで実弟の為光がヘタレ攻めだ。ちなみに正妻は天然…攻めとは言わんな」
 「総受けものか」
 「その体裁だが分類マニアものって感じだ。実妹がいいんだ。一見乙女系に見えるが実は女王系で
『しょせんお兄様は私の足元にひざまづくしかないのよ』と輝くような白い足を……ハアハア」
 そういえばこいつ妹萌えだった、と幾分むくれながら思う。
 「そいつが本命か」
 「いや」
 体を半分起こし、弟の耳もとに唇を近づける。
 「最後は素直クールなもう一人の実弟のもとで出家」
 「坊主なのか、それ」
 「ああ。お山のな。南無阿弥陀 南無阿弥陀 それが坊主の口癖」
 「比叡(ひえい)山はそんなことを言わない」
 「天罰!天罰!天罰!天罰!」
 楽しそうに歌いながら、弟に片目をつぶって見せた。

 自邸に戻るとすぐに気持ちは鎮められるのに、九重(ここのえ。宮中のこと)の中ではそうもいかない。
 舞や催馬楽の練習のせいで、何かと苦手な相手との接触が多い。
しかも、隙さえあれば感情を揺らすその男の人の悪さに、弟者はいつも苛ついている。
 蔵人になったとき彼はもう一人前で、自分で何でも出来ると思った。
泣いたり、笑ったり、怒ったり。世の中のことはほとんど知った気になっていた。
でも本当は家族や社会に守られているただの若人だった。
 本当の怒りや悲しみはそんな日常の中にはない。
それを知ったのは、あの過去の一日で未だに弟者はその日に縛られている。

 宴の当日だ。
 まだ日も暮れぬうちから弟者は支度に忙しい。
 楽人や舞人を適切に配置したり、計画を状況にあわせて微調整したり、様々な仕事がある。
 正式な行事なので殿上人が主体だが、主上の御もとの幾人かの女御が、
御簾の内から手練れの女房に楽の音を添わせたりする。
その楽器の弦を整えるためにもやたらに呼ばれる。
付き合いのある相手は無碍にも出来ない。
 あの男も同じように忙しいので、構われない事だけが救いだ。

 やがて満月が昇り始める。
 敷かれた白砂がその光を受けて、銀の珠かと見まごうばかりの艶を見せる。
 篝火はわざと控えめにさせた。今宵の主役の月の面輪をかすませぬように。
 抜かりなく全ての確認をしているとき、ふと見慣れぬ舞人を見つけた。
 面でその貌を覆っている。人数とプログラムを脳裏で確かめ、下位の蔵人を呼んで聞いてみる。
 「舞の補いの者らしいですよ。楽人の人長が念のために連れてきたそうです」
 その頃には確信していた。兄者だ。間違いない。
 何とか声をかけたいが、一足ごとに呼ばれて近づけない。

 謎の舞人は一人そこに佇んで、弟者を見ていた。
 その肩を叩く者がある。
 よりにもよって従兄弟者が彼をふり向かせる。
 ――そいつに触れるな!
 全てを蹴散らして走り寄ろうとした瞬間、なんと主上からの直々のお召しがある。流石に断れない。
 用を果たして駆け戻ったが、既に舞人の姿は消えていた。

 妙なる調べがあたりに響く。
 それにそつなく笛の音を合わせているが、胸のうちは嵐と変している。
 いつのまにかに戻ったあの男は、こちらを見てにやり、と笑った。
 瞋恚の焔。限界まで高ぶる悋気。
 隈なく冴え渡る望月のもとにありながら、心は闇に満ちている。
 笛を置いてその場を下がり、舞装束に改める。

 盤渉調(ばんしきちょう)の曲が流れる。
 清涼殿の東庭に設えた舞台に二人が上がる。
 使徒の一体ぐらい倒せそうに同調して、二人の袂が翻る。
 弟者は挑むように、試楽のときとはわずかに違えたタイミングで相手のミスを狙うが、
従兄弟者は少しも外さない。
 むしろその緊張感が舞を引き締め、恐ろしいまでの美が生み出されている。

 「鬼神にでもさらわれるのではないかと不安になるほどでしたわ」
 終了した後、女房たちの下馬評が耳に入った。弟者は微かに口の端を上げた。
 ――オレ自身が鬼神だと気づいていないのか
 舞の最中、心をよぎった一つの思念。
 ――問題は兄者だ
 どんな甘言に惑わされたのか知らないが、アイツについて行くなんてひどすぎる。
 再び心は毒に占められる。
 ――どうすれば彼を傷つけられる?
 答えはすぐに返る。
 ――オレを汚せば彼は傷つく。
 そのくらいの自信はある。
 ――それに最も効果的なのは……
 催馬楽の用意が整い、呼ばれた。目の前をその男が大股に歩いていった。

 月は西に傾きつつあるが、それでも有明と呼ぶにはまだ早い。
宴はいまだ果てなく続く。けれども弟者はそれに背を向け、いつもの道を牛車で下った。
 秋の夜の月の冴えは、春の朧のゆかしさとは違う。
 渡殿に落ちる影はその際さえ鋭く見える。
 弟者は荒くそこを踏み渡って、音を立てて妻戸を開いた。

 灯火は消えている。深い闇がそこに広がる。
 ――いないのか
 目を慣らして見渡すと、部屋の柱のもとに人影がある。座り込んだまま身動き一つしない。
 灯りを一つだけ点してみると、舞人の姿のまま面さえ外していない。
 紐を解いてやり、面を取ろうとすると片手で押さえたまま首を横に振った。
 それでもその手を捕らえ、無理に外すと水に似たものが滴った。
 火影に涙が水晶のように光る。

 「アイツに何かされたのか!」
 勢い込んで尋ねると、再び否定のしぐさをする。
 「………違う」
 両肩をつかむと顔を伏せ、小さな声で答えた。
 「妬いている」
 驚いて見つめると涙ぐんだまま赤くなった。

 憎しみで人が殺せたら。そんな思いで踊りきったのに、端から見ると息の合った二人舞に見えたらしい。
 こちらも夕暮れのことを尋ねてみる。
 「肩を叩かれていただろう」
 「目立たず見えやすい場所を教えてくれただけだ」
 体の力が抜け、目眩がする。自分の一人芝居があまりに馬鹿らしくて、その場に倒れ伏したくなる。

 愛しくて、憎くて、傷つけたくて。
 催馬楽を歌っているときに、横の従兄弟者に薄く視線を流したら、早速、見返してきた。
 総毛立つほどの不快。しかし泣きそうな兄者の顔を思うと別の意味でぞくりとした。
どん底の関係性が、別の軸を加えてそこからみるといやに誘惑的だった。
 もっと気を惹こうとした自分を止めたのは、彼のいつもの笑顔だった。

 舌をそっと当てると、涙は塩の味がする。
 なのに、甘美い。
 それは蜜のように弟者を絡めとる。
 自分しか持たない感情ではなく、彼の心にもあると知るだけで、世界はその色を完全に変える。
 秋は己のみのものではない。

 月の光と琴の音が、体のどこかに残っている。
 それを相手に分け与えるように口づけて、彼の躯も月に蕩かす。
 比翼の鳥にも連理の枝にもなりたくない。
 このままの自分で、そのままの姿で愛しあいたい。
 舞装束を脱がし、自分の衣を脱ぎ捨てて二人だけの海に沈む。
 ゆっくりと、深く。

 戸の外から、虫の声が聞こえる。
 泳ぎ疲れて、身を寄せ合って、それを聞く。
 そういえば生まれ月だったと思い出して、腕の力を強くする。
 何も恨まない。そして望まない。抱きあうこの、相手以外は。
 暁の気配が忍び寄る。
 二人は黙って互いを見つめ合った。
                               了
 

途中から後夜祭になってしまった。
8/13後半はもちろんネタです。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • これは良い双子 -- 2011-05-31 (火) 17:15:32
  • 面白いよー -- 2011-06-16 (木) 21:42:25

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