Top/28-16

社長×キラ星

部屋のドアを開けると、鈴/井/さんは顔を窓に向けたまま、早かったねと言った。
「市内そんなに混んでなかったから」
窓際まで行って肩を並べると、鈴/井/さんはようやく俺の方を向いた。顔が少し赤い。ビールの匂いを少し漂わせながらゆっくり俺を抱き締める。
「飲んでたの社長……」
不意に首筋を舐められて、独りで寂しいっすね、という悪態が息を飲む間に消えてしまう。

髪の毛を優しく捕まれて、舌を差し込まれる。久々のキスはビールと煙草の味がして、苦い。
カーテン閉めなきゃ、と思うのに手が動かない。ぞくぞく粟立つ背中に、鈴/井/さんの指が背筋を這うように撫でてきて、思わず眩暈がしそうになる。
「カー、テン、閉め、ないと」
首に巻き付いていたもう片方の手をどけようとするけど、鈴/井/さんは離してくれない。
「どう、久々に帰ってきた札幌は」

出し抜けに聞かれて、俺は思わず鈴/井/さんの顔をまじまじと見つめる。からかっているのかと思いきや、その目は意外に真剣で、俺は言葉に詰まった。
大きな黒い瞳から目をそらすように窓を見る。札幌の夜空はどこまでも濃紺で澄んでいて、テレビ塔の明かりがチカチカ眩しい。明るいけど、すべてのものを混ぜあわせてどこか濁ったような東京の夜空を思い浮かべて、やっぱり俺は北海道の人間なんだと感じた。

「夜空が、綺麗だから」
そこでもう一度鈴/井/さんの目を見る。漆黒の瞳に俺の顔が写る。現実だけを写すその目は、後ろに広がる札幌の夜空にそっくりで、俺はまた泣きたくなる。
不意にさっき思い浮かんだ安い台詞を言ってみようかと思ったけれど、この目に見つめられながら、どんな残酷な返事を聞く事になるんだろうと考えると、それこそ、背筋が粟立つなんて比にならないからやめておいた。

 それきり黙った俺に、鈴/井/さんは質問の続きを聞こうとはしなかった。気が付いたらベッドに身体が沈んでいて、はだけた胸元にいくつもの痕が残されていく。愛撫を受けながら回らない頭で鈴/井/さんの目と、札幌の空を重ねて、まるで同じだと俺は笑った。
所詮はそこに縛り付けられて動かれないままの生涯なんだと。

不意に熱くなったものが外に晒されて、喉が鳴った。先走りを塗り付けるように握られて、鼻にかかったような声が抑えられない。
声を聞かれたくなくて噛んだ左手をやんわりと押さえ付けられる。声我慢しなくていいからと鈴/井/さんが囁く。そのまま耳を甘噛みされながらゆるゆると手を動かされる度に、ずくずくどろどろした快感がせり上がってくる。

「……っ……あ……!」
いつの間にか後ろにも指が差し込まれていた。ぐちぐちと音をたてて、中の指と前の動きがシンクロする錯覚に陥る。いや、錯覚じゃないのかもしれない。
何度となく鈴/井/さんを受け入れたそこは柔らかく鈴/井/さんの指を飲み込んで、もう俺はこの快感が前からか後ろからなのかも分からくなっていた。

挿れるよ、という声が遠くで聞こえたような気がした瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの圧迫感が下腹部を襲う。
この瞬間、身体的な快楽よりもずっと大きい何かが胸につかえて、俺はいつもその感覚に押し潰されそうになる。
それはいつも俺の中を全部飲み込んでしまいそうになるから、それを誤魔化したくて、俺はひたすら身体の快感に集中する。鈴/井/さんのピストンに合わせて腰を振る。
行き場を失った両手が、とっさに鈴/井/さんの背中に爪を立てそうになって、慌てて俺はそれを制止する。鈴/井/さんを抱き締めたい俺の手は、そのままシーツを掴んで堪える。
「……ごめんな」
その言葉を反芻する暇もないまま、ずん、と奥まで貫かれて俺は果てた。
鈴/井/さんの白濁が俺の中を満たす。その吐き出された感触とさっきの言葉を重ねながら、はぁ、と息をついた。ぼんやりしたままの視界が少し暗くなって、二回目のキスは、さっきよりも少し甘い気がした。

そのまましばらく寝てしまっていたらしく、目が覚めると鈴/井/さんは俺の足元に座って煙草をふかしていた。今は眼鏡をかけているその目に、今だけでも俺だけを写してほしくて、俺は鈴/井/さんに尋ねる。

「……さっきの『ごめんね』って、どういう意味なんですか」
寝そべったままの俺に振り返ると、鈴/井/さんは眼鏡を取って微笑む。

「君が一番良く分かってるはずでしょ」

その黒い大きな瞳には、もう俺は写っていなかった。

「……もうそろそろ帰ります。明日は早いから。」
気だるい身体を起こして、床に散らばった服を集める。鈴/井/さんはふかしていた煙草を灰皿に押し付けて、静かに頷いた。

やっぱり、どうしようもなく残酷なこの人に、俺は一体何を求めているんだろう。
タクシーを捕まえようとして上げかけた手に、シーツを握り締めた痕が残っている。俺は手を下ろして自分で歩き出す。

濃紺の空を見上げても、星が滲んで、東京の濁った空と同じに見えた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

なぜ淡白なエロしか書けないんだろう……エロ描写がうまい姐さんウラヤマシス


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