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10文字×桐山をよろしくお願いします

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 俺の名は10文字早手。
 恐ろしくトレンチの似合う、創部警察署刑事課きっての若手エースだと言え
ば聞こえが早いだろう。その日俺は、創部商店街内にある駄菓子屋、
『ミス・ユニバース』で起きた謎の「うまい棒大量強奪事件」の捜査をした
帰りだった。
 ……フッ、事件はいつでも男10文字を解放してはくれない。難事件に
もてたって、刑事としてはともかく、男としては嬉しくないってのによォ!

「10文字君、なんかお腹空かない? なんか固形物的なもの食いてぇな~、
うまい棒はもうやだよ~」
 隣を行く先輩の8さんはのんきなものだ。……まァ、それも仕方あるまい。
優秀な後輩(言わずもがな俺だ)に任せていれば、おのずと事件が解決して
しまうのだから、このゆるゆる加減も頷ける。
 そう、ゆるゆると言えば。
 俺はもののついでに創部署きってのゆるゆるな部署、「事項管理課」へと
向かった。ここの奴らを適度にからかいつつ励ましてやるのが俺の日々の勤め
なのだ。彼らは一見迷惑そうにしながらも、その実俺の来訪を今か今かと
待ち構えている。股来さんにいたっては、俺がここに来た回数を、律儀に
黒板に「正」の字で記録しているほどで……
 おおっと、こいつは言わぬが花という奴さ。
 脳内で噂をすれば、早速事項課メンバーのふ抜けた会話が聞こえてきた。

「あ、なんかそろそろ10文字さんが来そうな予感」
 この声は警察官として、一人の女性としても曲がり角なミカヅキ君か。
「あー、分かる分かる。あいついつもこれぐらいの時間にくんだよねー」
 これは股来さんか。……フッ、不在中も常に噂の中心になっているとは
……さすが俺だぜ。 
「私、あの人嫌いなんですよね。ていうか、あの人のまとう空気が
嫌いなんですよね」
 これは能面顔のサネ家君。分かってるって、素直に好きと言えない
ひねくれやさん。俺は全てお見通しさ。
「そうですかぁ? 10文字さんって内面はともかく、外見は結構かっこ
よくないですかぁ?」
 新人のムカデ君! いやはや若さとは恐ろしいものだぜ……俺がかっこいい
なんていう本当のことを、なんの衒いもなく言えるこの大胆さ。
それを受けて、不惑を迎えてなおいい加減なクマ本さんがハハハと笑う。
「言いにくいことをあっさりと言うねぇマカデくん。彼も、悪い奴じゃ
ないんだけどねぇ」
「悪い人じゃないけど、人生の中でぜーッたい関わり合いになりたくない
タイプですよね!」
「はっきり言うなミカヅキおぉい! ついでにコーヒー淹れろおぉい!」
「何でですの?」

 やれやれ、散々な言われようだぜ。しかし真のヒーローというものはただ
崇め奉られているものでは無い。何やかやと言われながらも、
その実みんなから頼りにされている……それが男ってモンだろ?
 そんな中、柿の種とピーナツを夢中でより分けているうだつの上がらない
桐山に向かって、ミカヅキ君は言った。

「ねー、桐山君だって10文字さんのこと嫌いでしょ? なんだかんだ言って
いつも絡まれてるし」
「お、確かに彼の被害を一番被っているのは、桐山君だねぇ」
「あの人、絶対巨大掲示板に『全てを桐山のせいにするスレ』とか立てて
ますよ」
「ねちっこいから、いまだに三浪のこと根に持ってんだよ」
「えええー、10文字さんって三浪なんですかぁ!?」
 おおっと、こいつはまずいぜ。話が事実と逸れてきてやがる。そろそろ
俺が華麗に登場し、この場を収集しなければ……。そして、男10文字早手が
事項管理課に踏み入ろうとした、まさにその時。

「え、僕10文字さんのこと嫌いじゃないですよ? むしろ、結構好きですよ」
 柿の種より分け作業を中断し、顔を上げた桐山ののほほんとした声が、
俺の鼓膜を貫いた――。
 続いて、ええええええッという大ブーイングが響き渡る。
不覚にも、俺はしばらく固まったまま反応できずにいた。意気揚々と
飛び出していこうとした8さんが、俺が立ち止まったせいでタイミングを逸し、
盛大にこけるのが視界の片隅で見えたが、そんなことはどうでもいい。

 桐山は今、なんと言った?

「……桐山君、それ本気で言ってるの?」
「はっきり言いますけど、あの人は短所はあっても長所はない人ですよ」

 信じられないと言いたげな女性陣に向かい、桐山はその人格をあらわすよう
なふにゃけた返答を返す。
「いやぁ。だって、あの人悪い人じゃないし。それにたまににゅうめんとか
あんぱんとかミルメークとか奢ってくれるし、不用品も貰ってくれる
じゃないですかー」
「食いモンでつられてんのかおぉい! 目ェ覚ませおぉい!」
「い、痛い! 痛いですって股来さん!」

 ――桐山、桐山秀一郎。
 時効になった事件を個人で捜査するのが趣味の、うだつの上がらない
ポテチン。同 期 の 中で自他共に認める俺のライバル。
俺達は血で血を洗い凌ぎあう、殺伐とした関係なのだと思い込んでいた。
たった今、桐山の告白を聞くまでは。
 そんな奴が――俺を嫌いじゃないと、いやむしろ、――好きだ、と。
 その時、はたと気がついた。ヒントはずっとそばにあった。しかしあまりに
近すぎて見えなかったのだ。
時効を迎えた犯人へ桐山が渡す「誰にも言いませんよカード」。
あれは桐山から俺に対するメッセージだったのだ。あいつはいつの日か俺に
「今夜空いてますよカード」を渡す、その練習をするために、時効になった
事件を捜査するなんていう、回りくどい真似をしていたんじゃないのか。
 当たり前だ! あんなことを本気で趣味にしていたとしたらただの
可哀想な人だろうが! それを俺は、ライバル同士というフィルターに囚われて、あいつの本当の
気持ちに気づくこともなく……。

「くそッたれ……ッ!」

 思わず、壁に張られたそぉぶくんのポスターを殴りつける。創部署の
アイドルが、俺の今の心情を表すかのように歪んだ顔になった。
 馬鹿か俺は! 桐山の、ポテチンなりの不器用なアプローチに今まで気付き
もしないで……!! もしここに俺が二人居たら、鈍感な、それでいて
憎めないハードボイルドトレンチ野郎を思い切り殴りつけてやるところだ!

「ゲッ! 10文字来ちゃったよ!」
 壁を殴る音で気が付いたのだろう。股来さんが顔をしかめる。俺はそれに
構わず、ずかずかと事項管理課に足を踏み入れた。

「き・り・や・まァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「え、えッ!? アレ、え、何、え、え? 」
 ずっと心に秘めていた想いを、知られてしまったことに動揺したのだろう。
桐山は慌しくイスから立ち上がる。俺は俺達の間にいた股来さんを優しく
どかし、桐山の前に立ちはだかった。
 後ろの方で「ぎゃあッ!」という悲鳴が聞こえたのは気のせいだろう。
 パニックになったのか、猫ちゃっちゃ先生のように奇怪な動きをしている
桐山を、俺は――しっかりと抱きしめた。
俺の腕の中で、桐山がびくっと震える。ああ――こいつが、こんなにいい
抱き心地がするとは知らなかった。
 しん、と辺りが静かになる。

「桐山、馬鹿野郎だった俺を許してくれ」
「あ、あのー、10文字さん……?」
「皆まで言うな! 男10文字早手、お前の思い、しっかりと受け止めた!」

 俺はいったん身体を離し、桐山の目を真正面から見つめた。
ポテチンとした、しかし澄んだ瞳が恥ずかしげに俺を見た。――何も言わなく
とも、その目がラヴと言っている。

「自分の気持ちってやつに、ようやく気付くことができたぜ。
ヘッ、ポテチンに先に告白されちまうとは、な」
「あのー……?」
「安心しろ桐山、――必ずお前を幸せにしてやる!」

 こそこそするのは器の大きな俺には似あわねぇ……そうだろ? 桐山。
 俺は二人が結ばれたことを周囲に知らしめるべく、桐山の唇を奪った。
 無論、ディープにだ。
 感激のあまり銅鐸のように固まる桐山。その後ろにいたミカヅキ君が、
息を呑む。フッ、お嬢ちゃんには刺激が強すぎたか……。

「いッ……やああああああああああああああああああああ―――ッッ!!」
「なにやってんだおぉぉぉぉいッ!! ホモかおぉい!!」
「これはもう犯罪の域ですよ!!」
「えええっ、お二人はそういう関係だったんですかぁ!?」
「み、見てないよ、私はなーんにも見てないからね。ほんとほんと」
「うるせーぞ! 誰だ今ホモかって言った奴ァ!! またお前か桐山ァ!!」
「ん? あれ、一瞬寝てた? 10文字君、みんな何騒いでるの?」

 俺達二人を包む周囲の暖かな祝福の声。
 やわらか地蔵のように脱力している桐山を抱きかかえ、俺はトレンチの女神
に桐山への不変の愛を誓ったのだった――。
 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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