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アベレージ 刈×安

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                     |  341姐さんに便乗してお邪魔します。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  初めての棚で緊張…。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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季節は春。ただ、連日の暖かい陽気とうって変わって、底冷えする寒さのそんな夜。
コート姿のビジネスマンが大多数を占める中、礼司だけはコートも羽織らず、
鞄を胸の前で抱えることで寒風に対抗しながら、目的地に向かって早足で歩いていた。

いつものコンビニに立ち寄り、店内で冷えた体をゆっくり温めながら、
今日発売された雑誌を開きかけて、ハタとその動きを止める。

(まてよ。今日は寒いからこのままさっさと帰って、おでんと発泡酒で一杯。
うん。それいいな。折角だからこの雑誌も立ち読みしないで、
部屋に帰ってからゆっくり読もうかな)

礼司は開いていた雑誌を小脇に挟むと、頭の中で組み立てた予定を実行するべく、
ドリンクストッカーの前に移動した。

いつもの発泡酒に手を伸ばそうとして、隣に並べられた商品が目に飛び込む。
そこには春らしく桜がデザインされた発泡酒。

「春季限定…か。でも、いつものより20円高いんだよなぁ…うーん…」

桜色の発泡酒を手に取り、ストッカーの見慣れた発泡酒と見比べながら、
どちらにしようかと頭を悩ませていると、ひょいと後ろから伸びた手によって、
桜色の発泡酒は礼司の手の中から元あった位置へ返される。
驚いて後ろを振り返ると、そこには礼司がよく知る長身の男が立っていた。

「あ~はっはっはっはぁ~!ねぇ、安部きゅ~ん、安部礼司きゅう~ん、
 そんな安っぽいのなんかやめて~、今日はこっちにしよおよぉ~」
「かっ、刈谷っ!!もぉ、黙って人の後ろに立つなよー、びっくりするじゃないかぁ」
「ぎょめんねぇ~。たった20円の差で真剣に悩んでる安部きゅんが可哀想でさぁ~。
 つい、声かけそびれちゃったわけ~」
「…それで?今日は何?」

刈谷の挑発的な発言にムッとしつつ、さっきの行動に何の意味があるのか尋ねる。

「だ~か~らぁ~、今日はこれ飲もうよぉ~」

刈谷が手にしているのは、ゴールドのパッケージデザインが施されたプレミアムビール。

「何で俺がそれにしなくちゃいけないんだよ?」

深まる疑問に礼司が眉を顰めると、刈谷は不思議そうな顔で首を傾げた。

「安部クンは、これ嫌いなの?」
「好きとか嫌い以前に、まだ飲んだことないよ」

しまったと思うも後悔先に立たず。
もう、刈谷の表情は、おもちゃを見つけた子供そのものだ。

(あぁ…また始まるぞ…)

そんな礼司の予想を彼は裏切らない。
店内に流れる有線を打ち消す大音量で、あの独特の笑い声が響いた。

「あ~はっはっはっはぁ~!!そうかぁ~、安部きゅんは飲んだことないんだぁ~!」
「…悪いかよ」
「うぃ~んだよぉ、うぃ~んだよぉ~。
 僕が勝ち組なだけなんだからねぇ~。ぎょめんねぇ~」
「はいはい」

刈谷はこれみよがしに、プレミアムビールを買い物カゴへと放り込んでいく。

「じゃあ俺は…」

礼司は予定を狂わされないうちに、いつもの発泡酒を手にしてその場を離れた。

おでん鍋の中にある具材を吟味してからレジに並ぶと、
刈谷はいつの間にかレジを済ませて、ニコニコと礼司を見ている。
礼司がその笑顔を不審げに思いながらも、レジ台に雑誌と発泡酒と置くと、
発泡酒は再び刈谷の手によって、スキャンされることなく棚へと返された。

その一瞬の出来事に、あっけにとられてしまった礼司は、
当初の予定だったおでんを注文し損ね、
礼司の後ろから『早くしろ』と言わんばかりに睨むオニイチャンに気圧されて、
雑誌のみ購入する羽目になった。

礼司の予定は完全に狂わされた。それでも、再度レジに並ぶのは癪だと思い、
店員の「ありがとうございました」を背にそのまま店を出ると、
後ろを歩く刈谷に対して、ハッキリと文句を言うべく振り返った。

「…安部クン、あの安い発泡酒そんなに気に入ってたの?
 こっちが飲みたいかな?と思って、安部クンの分ももう買っちゃったよぉ?」
「……へ?何で?」
「だってぇ~、これからぁ~安部きゅんの家でぇ~鍋するからぁ~」
「はぁ?なべ?」

はしゃいでいる刈谷とは対照的に、展開についていけない礼司がポカンとしていると、
やれやれというジェスチャー付きで、刈谷は鍋についての説明を始めた。

「今日は寒いよねぇ~?寒い日は当然、鍋だよねぇ~?だからぁ安部クンの家で鍋。
 あ、材料はボクがネットで頼んでおいたから心配しなくていいよぉ~」
「そんな…」

コロコロと変化する礼司の反応を楽しむように笑いながら、
刈谷はコートの袖を捲って腕時計をチラリと見た。

「ちょうど安部クンの家に着く頃に届くよう、頼んであるから~」
「なんで俺の…」
「まぁまぁ。おでんと発泡酒なんてセレクト、安部クンらしくていいけど、
 そんなのひとりで食べても美味しくないでしょ~?さ、帰ろ~」

嬉々として歩き出す刈谷の後ろ姿を眺めながら、礼司はため息混じりに小さく呟いた。

「…まぁ、今日は寒いから鍋でもいいか」

大通りからわき道に入り、街灯が少ない住宅街に差し掛かると、
礼司の後ろで刈谷のちょっと心配そうな声が聞こえた。
「…安部ク~ン、そんな格好で寒くないのぉ?」
「ははっ、実はさ、ここんとこずっと暖かかっただろ?もう大丈夫だろうと思って
冬物を全部クリーニングに出しちゃったんだよね。
…それにしても、ほんと今日は寒いよなぁ…」
会話をしている間は寒さを感じる暇などなく、会話が途切れた今頃になって
コンビニで温めた体が、夜風ですっかり冷えているのに気付いた。
さらに、会話の中で「寒い」という単語を使ってしまったせいで、
さっきまで気にならなかった程度の風に、ブルッと身震いをした。
「うわあっ!急に何するんだよ、重いだろ。某妖怪じゃないんだからさぁ」
「いやぁ、安部きゅんがあんまり寒そうにしてるからさぁ~」
後ろから礼司を抱くように覆いかぶさってきた刈谷に抗議の声をあげる。
続けて「こんな所でじゃれるな」と言おうとして、
いつも喧しい刈谷が妙に静かなのと、冷えていた背中が温かいことに気付いて、それ以上の文句を飲み込んだ。

「ひゃっ…」

偶然ではない。意図的に刈谷の唇が、礼司の冷えた首筋に触れている。

「なっ、な……」

「安部クンの体、すごく冷えてるね」

刈谷は低く優しい声で礼司の耳朶に囁くと、密着していた体を離し、
空いている片手で自分のマフラーを外して、そのまま礼司の首にふわりと巻いた。
柔らかなカシミヤのマフラーからは、
さっき鼻腔をくすぐったのと同じ、刈谷が使っている香水の匂いがした。

先程まで礼司が感じていた寒さはいつの間にか消えている。
ただ、それと引き換えによく知った「何か」を今は感じているのも確かだが。
礼司は俯いたままその「何か」が「何」なのか想いを巡らせていた。

「安部クン、顔赤いよ?」
礼司の左頬に刈谷の皮手袋が触れた。しっとり冷たいはずの皮の感触も、
余計に頬を火照らすマイナス要因にしかならなかった。
体温が手袋越しに刈谷に伝わってしまうことを恐れて、礼司は慌てて顔を背けた。

「あ、赤くなんかないよっ、…それより材料が届くんだろ?早く帰るぞ!」

(「何か」が「何」なのか分かりそうだけど、
それが解ちゃうと、俺の「何か」が大きく変わるんじゃないのか?
…やっぱりこのことは深く考えるのはやめとこう。そうしよう)

全ての疑問を頭の隅に押しやると、礼司は寒い春の夜道を足早に歩き始めた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )連投規制に手こずってしまった。


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