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禿高 柴野×和紙津

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  └──────│禿高 柴野×和紙津
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「それでは、この件につきましては成立ということで宜しいですね」
 広いローテーブル一杯に広げた書類を纏めながら、和紙津は眼前の男に問いかけた。
質問の形式をとった言葉は、しかしただの形式でしかない。
数時間に及んだ交渉の行き着く先として、もはや決裂はあり得ない場所に商談は行き着いていた。
紙片を集めると美しく磨かれた木目が顔を出す。
一本の木から切り出された一枚の板で作られた、それも高級品だろう。
これほどの面積をもつ一枚板とあれば、相当の樹齢を持つ幹から、相応の経験を持つ職人でなければ作れない。
調度品にかける金があれば事業に回せと言いたくなるが、応接室は会社の顔だ。
安物を置いては品位に関るという、日本人の性質は理解できないでもなかった。
外資系企業に身を置き、アングロサクソンの資本主義を骨身にたたき込んだ和紙津である。
それでも個の中心を支える柱が日本で生み出されたのは事実で、否定することも否定するつもりもなかった。
「最後に一つだけ、条件が」
 書類をファイルに閉じると、和紙津の所作を眺めながら男は言った。資料も仕舞い終わってから、条件など。
また書類を広げなければならない煩雑に内心溜息をつく。
だがそれを無表情の下に押し殺していると、男は革張りのソファを立ち、和紙津の隣に腰を下ろした。
資料に添えられた和紙津の手に、指を匐わせる。皮下の肉を確かめるような所作は、背に寒気を走らせた。

 なるほど、条件とはそういった種類の代物か。
自分が資料を片付けるのを待っていた男の意図を理解して、和紙津は吐きそうなほどの嫌悪感に見舞われた。
唾液を飲み下すことで耐えていると、勘違いをしたのだろう。
男の指先は調子付いて、和紙津のスーツに伸びてきた。
一心不乱に働いて、その代償として獲た巨額の給与。
家族もない和紙津には使う当てもなく、増え続ける預金額が何となく嫌になって買った仕立てのよいスーツとシャツ。
ブランドに拘りはなく、執着もしていなかったが、そのボタンを目の前の男に外されるのは我慢ならなかった。
ネクタイを解く、太い指を叩いた。過分な贅肉に指まで犯されているのか、妙に鈍い音がした。

「何をする」
「それはこちらの台詞です」

 睨め付ける男に一瞥さえくれず、和紙津はファイルを抱えて立ち上がった。
それを鞄に仕舞いこんでから、顔は動かさず視線だけを下ろす。
横にばかり立派に育った男が、怖気付いたように身を引く様が見えた。

「もしセックスを絶対条件とするのなら、今回の取引は無かったことにしていただいて構いません。
公私を混同して欲望を発散なさろうとする方は、信用に値しません」

 あからさまな侮蔑を吐き捨てると、男の目は憎悪で煮えた。
だが腫れぼったい瞼に囲まれた憎しみなど、少しも恐ろしくはない。
資本主義社会で恐ろしいのはただ金。金だけなのだ。

「それに私が条件を受け入れるメリットなど、一つもないでしょう。
我が社との取引は、御社の資本金確保・事業拡大において重要な位置を占めています。
突然破談にしたなどとあれば、監査役は黙っていないでしょう。
取締役会で議題に上るかもしれませんね。あなた、そこでどのようにお答えになるおつもりですか。
セックスを断わられたから?」

 全く、馬鹿げている。
確かに今回の件に関しては、和紙津の属する洞イズン・インベストメント・ワークスは表向き立場が弱い。
何せ洞イズンは会社債権・および株式を買って貰う立場にある。
もちろん、洞イズンの株ではない。洞イズン社が買い叩いた、別会社の株である。
 IT事業の拡大を求める大企業は多い。だが一から構築するには、莫大な費用がかかる。
そこですでにノウハウも顧客名簿も持つ会社の株式を買い取り、子会社かして事業を広げるのが一般だった。
 和紙津が売ろうとしているのは、そうした有望企業なのである。
ここで破断したとしても、売る先は他に幾らでもある。
実質面まで話を進めると、優位に立つのは洞イズンなのだ。
「次回までに仔細な契約書を作成して送付いたしますので、目を通しておいてください。それでは、本日はこれにて」

 愚鈍な男をいつまでも視界に収めているのが、我慢ならなかった。
だから鞄だけを手にし、乱された服のまま応接室を後にした。
どうせ廊下には誰もいないだろう。
そこで一つ一つ、自分の手でボタンを留めればいい。

「和紙津……?」

 だが予測がはずれてしまったことは、和紙津を呼ぶ声で確定した。
耳慣れた声に思わず振り返ると、そこにはかつての上司が呆然と立ちつくしている。
視線は一点と虚空を、ひたすら往復して和紙津の顔を見ようともしない。
その点が己の乱れたスーツだと気付くと、柴野の挙動に納得がいった。
 鞄を床に置き、ボタンを一つずつとめる。
ネクタイまでしめおえると、ようやく安心する。ブランドには拘らない。
だがスーツを着ることにだけは拘った。
スーツは和紙津を守る鎧か、あるいは砦だ。

「和紙津」

 和紙津が再び鞄を手にすると、柴野は弱々しい声で呼びかけてきた。

「お前のやり方に口を挟むつもりはないが――そういうことは」
「ご安心を。商談に肉体を持ち込むのは、私の最も嫌悪するところですから」
 弁明じみた台詞だと、和紙津は思った。
だが言わずにいれなかったし、それによって柴野が安堵の息をついたことが、少なからず嬉しかった。

 自分は、嬉しかったのだ。

 それに気付くと、和紙津が柴野が堪らなく憎くなった。
自分を変えた男を、人を変えた癖にそのことを、
会うまで忘れていた男にまだ拘泥する己が憎らしくてたまらなかった。

「商談に、肉体を持ち込むのは私の主義じゃない」

 先程の台詞を、抑揚を変えて繰り返す。柴野は怪訝そうに眉を寄せる。

「だから、柴野さんが仰るなら、寝て差し上げても構いませんよ」

 柴野の怪訝が狼狽へとすり替わる。目尻には皺まである癖に、顔を赤くした。
口をぱくぱくと開き、でも濫れるのは言葉に績がれる前の無意味な音だ。
それは柴野の混乱を知らしめて、和紙津を愉快にさせた。
 もっと混乱すればいい。
そうして自分が他人に与えた変質を目の当たりにして、
夜毎に頭を掻きむしればいい。
微昏い部屋で錯乱する柴野を想像すると、
愉快とも不快ともつかない、斑な感情が吹き出した。
ただどこまでも濃く澱む感情に、和紙津は名を付けることが出来無い。
それが不愉快でたまらなくて、和紙津は鞄を握りなおした。
そうして柴野に一瞥をくれると、彼一人を残しさっさと歩き出してしまった。

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